魔法少女は逃げ出した
「しゃー! 勝ったわー!」
魔物が塵となり、ナイトメアの雄たけびが聞こえてきた。
何度が危ない場面もあったが、最終的にマリンが大技を決めて、魔物を倒せたようだ。
大技を使うと同時に強化フォームが解けていたので、何かしらの制約があるのだろうか?
終わったしアルカナを解放……する前に地上へ降りないとな。
2人に装備? させといた玉を回収しアルカナを解除する。
『あれれ?』
(おや?)
アルカナ使用時の体調不良は無く、特に怠さも感じない。
だが……。
(エルメース!)
『叫ぶなです。馬鹿な事をやった罰とアルカナの同時開放の副作用とでも思っとけです。2日位ちゃんと飯食って寝てれば元に戻るです』
馬鹿な事と言われればすまんと謝るしかないが、いやはやまさかこんな事になるとは思わなかった。
(因みにこの状態で戦闘は出来るのか?)
『まともに杖も持てないのに戦えると思うですか? 因みにアルカナの開放も不可能です。それではさよならです』
うーん。まあ2日なら仕方ないか。
『さっきのってやっぱりエルメスだよね? 一体どうなってるの?』
(話せば長くなるけど、その前に今をどうにかしよう)
ローブはだぼだぼとなり、ただでさえ長かった杖は持つのも難しい。
まさか身長が縮むとは思わなかったな……。
アニメ風で言うなら幼児化と言うのか?
元々チビだか、今は更に小さくなっている。
ついでにフードを被ってると前が見えなくなる。
フードの縁が目元まで下がってくるのは仕方ないか。
「えっ? イニー?」
「あれ? なんか小さくなってない?」
どうやら2人とも俺に気付いたようだが、今の俺には何も見えていない。
嫌だが、フードを取るか……。
ついでに、中に着ている下着が少々危ないことになっているので注意しなければ。
「私ですよ。力の副作用で小さくなっているだけなので、気にしないで下さい」
やれやれとため息を吐くとマリンがすたすたと近づいてくる。
これはアカンやつだと思うも、今の状態だと足も遅いので逃げるに逃げれない。
ここは大人らしく堂々と構えよう。
「どうかしましたか?」
マリンは俺を撫でまわしその後に頬を摘まむ。
そして俺を持ち上げて……。
「用が出来たので私は帰ります。それでは」
「待ちなさい!」
俺を連れてどこかに行こうとするマリンをナイトメアが呼び止める。
そうだね。待とうね。
わりと目がマジだったからちょっと怖かったよ。
「何ですか! 私からこの子を奪おうと言うの!? 私はこの子と一緒に暮らすの!」
「そもそもイニーってタラゴンさんの妹でしょう。それに、アロンガンテさんに報告もしないと駄目でしょう……が!」
ナイトメアは俺を抱えて放そうとしないマリンから俺を引きはがそうと頑張る。
因みに何故俺が無言なのかと言うと、火に油となる可能性があるからだ。
大人の処世術として、流れに任せると言うものがある。
激流に身を任せることにより、傷を最小限に抑えるのだ。
「そいや! 全く。なんでイニーの関係者には変なのが多いのよ……とりあえず、戻って報告が終わったら好きにして良いから、戻るわよ」
「――分かりました」
ナイトメアは何とか俺をマリンから奪い、名残惜しそうにしているマリンを叱る。
そして、俺の意見は聞かないんですかね?
「転移ってその状態で出来るの?」
(出来るのか?)
『問題ないよ』
「大丈夫です。適当に私に掴まって下さい」
マリンが右手を取り、ナイトメアが左手を取る。
必然的に俺は両手を上に伸ばされるような構図になるが、ブランコみたいに動いてやろうか?
(頼んだ)
『了解。アロンガンテが居る場所に直接送るよ』
3人で転移すると、拠点の会議室とは違う場所に転移した。
「戻り……」
俺たちに気付いたアロンガンテさんが固まった。
「戦いの副作用です。2日もあれば元に戻るので気にしないで下さい」
「そう……ですか。体調に問題はないのですか?」
「これまでに比べれば問題ないですね」
激戦の後は大体寝込むことになっていたが、そう考えれば今回は幾分かマシだろう。
「分かりましたが、一応後でジャンヌに診てもらってください。報告は個別に聞きますので、イニー以外の2人は休んでいてください」
2人共残ろうとするが、アロンガンテさんに一度出て行くように言われて、会議室を出て行く。
残されたのは俺とアロンガンテさん。それと白橿さんと数名の妖精だ。
「さて、先ずは今回の事件――正式にはテロと発表される予定ですが、協力していただきありがとうございました。今回のテロで魔女の脅威は世界的に知れ渡ったことでしょう」
音声がカットされているとは言え、映像は何処でも見ることが出来たからな。
あれだけ魔物を使役出来ると分かれば、魔法局……は実質アロンガンテさんの管理だが、魔法少女たちだけに任せるなんて悠長なことを言っていられないだろう。
世界各国で団結し、魔女に抗わなければいけないのだが、そんな簡単にはいかないのが世の常だ。
「後ほど世界会議が開かれる予定です。イニーには私と共に出てもらうことになるでしょう。私たちはイニーには自由に動いて欲しいのですが……」
アロンガンテさんは一度ため息を吐き、思いつめたような表情をする。
凝り固まった御偉いさん方と話すのは面倒だからな。
「失礼。正直大人の汚い世界にイニーを連れて行きたくないのですが、あれだけの成果を無視は出来ず、魔女という脅威がある状況ではそうもいきません。この件については後程通達するので、もうそろそろ本題に入りましょう」
前置きがかなり長かった気もするが、この件はアクマに任せよう。
やることは変わらないとは言え、変なちょっかいを出されるのも面倒だ。
弱みがあれば馬鹿を黙らせることも出来るだろう。
(情報収集は頼んだぞ)
『了解』
「魔女の指定した時間になると、イニーを移すモニターだけノイズが入り見えなくなったのですが、何か思い当たる事はありますか?」
(晨曦の事は話して良いのか?)
『戦って倒した程度の事は話しても大丈夫だね。何なら私だってどうなったか分からないんだし。ノイズについては晨曦のせいにしておけば?』
そう言えば途中から暴走というか、本気モードになってアクマの意識を塗りつぶしてたんだったな。
今振り返ると、あの時はどちらも人と呼べるような状態じゃなかったな。
戦う事しか考えない獣と表現するのが妥当だろう。
晨曦が作り出した結界がなければ、オーストラリアを滅ぼしていたのは俺たちだっただろう。
結果的に相打ちだったが、あれほどの強敵とまた戦いたいものだ。
「ノイズの件は知りませんが、晨曦が現れたのでおそらくそれが原因だと思います」
「なるほど。やはり晨曦でしたか。確認ですが彼女はどうなりましたか?」
下手に噓を言わなくて正解だったな。
アクマが映像を遮断する前に晨曦の姿を見られているとは思わなかった。
「殺しました」
「そう……ですか。本来なら我々大人がやらなければいけない事ですが、2回もイニーのような幼い子に任せることになってすみません……」
唯の11歳の子供が人を殺して平然としていれば、誰だって何か思うだろう。
不気味に思うか、不甲斐なく思うか。
俺がもう少し感情を表に出せれば変わるのだろうが、どう思われたとしても何も変わらない。
どうせ最後は消えてしまうのだ。
それに、壊れている俺にとっては殺人程度問題ない。
「構いませんよ。これが私の仕事であり、やらなければならないことですから」
アロンガンテさんは白橿さんの方を見て、白橿さんは首を横に振る。
そしてアロンガンテさんがため息を吐いた。
「言っても聞かないと思いますが、身体は勿論、精神もしっかりと労わって下さい。本来なら縛ってでも入院させなければいけない精神状態ですが……あなたが居なくなればこの窮地を脱する事は出来ないでしょう。色々と他にも言いたい事はありますが、ゆっくりと休んでください。そして、明日朝一でジャンヌの所に行きなさい。これは命令です」
精神的に普通ではない自覚はあるが、そこまで言われるほどかねぇ?
殺しについても既に3度目だし、相手も純粋な人間とは言い難い。
最低限、善悪の判断も出来ているし、法を破る……まあ、転移の悪用や一部の魔法少女に天誅を下したりしているが、これはアクマも知っている。
(どう思います?)
『悪い事をしなければ何をしてもいい訳じゃないからね?』
どうやらアクマもアロンガンテさんと同意見らしい。
報告と言うよりは八割お説教な感じだが、今回は俺にも悪い点があったのを自覚している。
素直に頷いておくのが吉だろう。
「分かりました」
「その無表情のまま答えられると本当に分かっているのか疑問が残りますが、絶対に休んでくださいね。2人が来るとまた大変だと思うので、先に転移で帰って構いません。最後にですが、今回は本当にありがとうございました。人類を代表してお礼申し上げます」
個人的にお礼を言われる位なら罵倒された方が幾分マシなんだがな。
これだからどこかに属するのは嫌なんだ。
(頼んだ)
『はいはい』
アロンガンテさんに向かって軽く頭を下げ、その後アクマに転移してもらう。
今回も色々とあったが、これまでで一番の予想外だろう。
大体身体が無くなったのと戸籍が無くなった時と同じくらいの予想外だ。
それに、帰ったからといって直ぐに休むことは出来ない。
何せ今度はアクマへの言い訳をしなければならないからな。
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