魔法少女は王座にて待つ
設定はデスマッチで場所は草原か。
そこそこ離れた場所に2人が見え、間には大きく10と表示され、数字が減っていっている。
このカウントが終わったら始まりだ。
杖を取り出し、軽く柔軟運動をする。
さて、どう戦ったものかな……。
互いの強さを考えれば、先手を譲るのが普通なのかもしれないが、後衛の俺が先手を譲った場合そのまま負ける可能性がある。
なので、そんなナメプはしない。
「
カウントが終わると同時に炎の蝶を大量に召喚する。
流石にランカー相手なら意味がないが、マリンやスターネイルになら効果がある。
まあ、マリンが強化フォームにならない限りはだがな。
「いつもそればかりね。たまには違うのを使ったらどうなのよ!」
学園に居た時の模擬戦ではほぼ毎回使ってたからな。
何ならこれだけで倒したりもしていた。
杖の補助があるとはいえ、魔法を考えるのは中々難しい。
しっかりとイメージしなければ威力は下がるし、消費魔力も増えてしまう。
そして何度も使ってイメージが固まれば、消費魔力は減り、威力が増す。
熟練度とでも言ったところか?
昔は適当に飛ばす事しかできなかったが、今は多少コントロールが出来る。
まあ使い勝手は良いが、弱点もある。
「クラスターバレット!」
スターネイルによってバラまかれた銃弾により、炎の蝶は爆発して消えていく。
この魔法は何かに当ると爆発するので、面での攻撃に弱いのだ。
蝶の爆発によって土煙が巻き起こり、その中をマリンが走り抜けてくる。
空を飛べば時間が稼げるだろうが、それではつまらない。
「
氷の矢を降らし、地面を空高く押し上げる。
大きな崖のようになり、2人の姿が小さくなる。
念のため駆け上がれるように、所々に段差をつけておく。
上から見下ろす俺と、挑みかかって来る2人。さながら魔王と勇者みたいな構図だな。
大技で決めるのも良いが、ここはもう少し楽しむとしよう。
「
マリンに向けて指向性を持った竜巻を放つ。
これ単体での傷能力は低いが、土や氷の破片などを巻き込めばそれなりの物になるだろう。
崖を駆け上がっていたマリンを吹き飛ばし、地面に刺さっている氷の矢や土を巻き込んで凶悪になっていく。
ゆっくりとマリンとスターネイルを追尾するように命令をしてあるので、この魔法にこれ以上意識を割く必要はない。
吹き飛ばされたマリンと入れ替わるようにスターネイルが駆けてくる。
更に追加で氷の矢を放ち様子を見る。
スターネイルは両手の銃で氷の矢を撃ち落し、崖を駆け上がる。
氷の矢だけで倒せると思ったが流石に舐め過ぎたかな。
次はなんの魔法を使うか考えていると、視界の端に光るものが映る。
おそらくマリンが放った矢だろう。
「
頭上から氷の矢を放つと、矢と衝突してバラバラに砕け散る。
砕けた氷を操り、スターネイルへ雨の様に降らせる。
ついでとばかりにトルネードドラゴンがスターネイルに向かって行く。
流石にそのまま駆け上がる事を諦めたスターネイルは、銃から衝撃波の様なものを出して離脱して行った。
『なんだが悪役みたいだねー』
(たまにはこんな戦い方も面白いだろう)
向かってくる相手を倒さない程度に押し返す。
いたぶる様な戦い方はまさに悪役と言ったところだろう。
ついでに、意味有り気に笑えば格好も相まって黒幕的な雰囲気を出せるだろう。
まあ、フードを被ってれば相手からは見えないので、意味はないのだがな。
落ちて行ったスターネイルはマリンと合流したみたいだな。
次はどう攻めてくるだろうか?
空中に氷の矢を待機させて様子をうかがう。
おや? マリンが刀を水平に構えたな。
その上にスターネイルが乗り……マリンが刀を振った。
乗っていたスターネイルが飛ばされ、弾丸の様に此方に向かってくる。
良い手であるが、それなら撃墜するだけだ。
待機させていた魔法をスターネイルに発射する。
しかし、スターネイルの銃とマリンの弓によって次々と砕かれていく。
氷の魔法だからこその弱点だろう。
既にマリンも走り始めているし、スターネイルもすぐそこに迫っている。
トルネードドラゴンもこちらに向かっているが、そこまで速くはない。
次はどう遊ぶとするかな?
後数秒でスターネイルが到着するので、先にこちらをどうにかするか。
「
当っても死なない程度の電撃を放つ。
氷と違って壊すことができないので、スターネイルは案の定魔法が直撃し、変な悲鳴を上げながら落ちていった。
運良くマリンがキャッチしたが、そこにタイミング良くトルネードドラゴンが襲来する。
2人はトルネードドラゴンを倒そうと頑張っているが、刀や銃で倒すのは少々難しいだろうな。
対魔法少女で考えれば白魔導師形態の俺は弱いが、対魔法だけで考えれば俺の方が有利だ。
このままではトルネードドラゴンだけで勝ててしまいそうだが、マリンにはまだ強化フォームが残っている。
準備無しで強化フォームのマリンを倒すのはほぼ不可能であり、あの程度の魔法はあっという間に壊されてしまう。
なので、今の内に準備を進めておく。
生半可な魔法では簡単に防がれてしまうので、それ相応の魔法でなければならない。
スターネイルを巻き込まず、マリンだけを倒せれば最上だろう。
スターネイルはもう少し実力を見ておきたい。
個人的な感想だが、ここまでいい動きが出来るとは思わなかった。
マリン程劇的ではないが、かなり強くなっているように思える。
折角なので、どれ位強くなったのか見ておきたい。
準備をしていると、案の定マリンは強化フォームとなり、トルネードドラゴンを一太刀で切り伏せる。
「
トルネードドラゴンを倒して気が抜けた瞬間を狙い魔法を使う。
この魔法は奇襲に向いているだけではなく、周りへの被害がほとんどない。
氷槍が瞬時にマリンを囲んで魔方陣を描く。
マリンが逃げようとするよりも先に魔法が発動する。
光の後に残されたのは電気を帯びた氷だけだった。
マリンは死亡判定となり、残りはスターネイルだけとなる。
強化フォームに正面から挑めるほど俺は強くない。
隙をついて倒すのが一番だ。
この魔法を使うのは3度目だが、それなりの成果を出している。
強いて言うなら眩しいのが玉に瑕だろう。
あまりの事態に固まっていたスターネイルだが、すぐに気を取り直して此方に向かってくる。
登ってこれないように追撃してもいいが、ここは待つとしよう。
ついでなのでいい感じの椅子も作っておこう。
魔力を少々多めに消費するが、誤差の範囲内だ。
アクマにアドバイスをもらいながらいい感じの椅子――玉座的なもの作り、丁度座ったところでスターネイルが登ってきた。
「待っていましたよ」
「……なによそれ」
「気分的なものですよ。ラスボスが玉座に座って待っている話は多いですからね」
スターネイルは微妙な顔をして銃を撃ってくるが、玉座に搭載した結界が弾く。
「私がただ座っているわけないでしょう」
「そんな変なことして、何のつもり?」
「少し気になったことがあったので、聞いておこうと思いましてね」
ただの思い付きだが、マリンのいない今が丁度いい。
「……なに?」
「短時間で随分と強くなっているので、どうしてかと思いましてね。何かありましたか?」
スターネイルはきょとん首を傾げた。
「うーん。前と違って覚悟を決めたけど、そんなに違うかな?」
「最低でもM・D・Wの時に比べればかなり動きが良くなってますね。マリンに付いていけてるのがその証拠でしょう」
通常状態のマリンも弱い強いでは強い部類に入る。
俺の知っているスターネイルなら間違いなく足を引っ張るはずだが、今戦った感じでは問題無さそうだった。
覚悟1つでここまで変わるもんなんかね?
「さて、無駄話はここまでにしておきましょう。どこからでもかかってきなさい」
「むっ。マリンちゃんの仇を必ず取るんだから!」
意気込みはいいが、数度の攻防の末、勝ったのは俺だった。
多少強くなった程度では、玉座に搭載した結界を壊すことが出来なかったのだ。
適当に弄んだ後に雷を落として終わりとなった。
『流石にこの勝ち方はないんじゃないかな?』
(正直俺もどうかと思うが、気にするな)
最後の方は若干涙目だった様な気がするが、戦いに慈悲は無い。
一応抜け穴も用意しといたのだが、気付く様子もなかったからな。
玉座に付与した結界は魔法は防げても物理は防げない状態だった。
俺の魔法を避けながら接近して、蹴りでもいれられたら俺の負けだったろう。
まあ、近寄らせるつもりは毛頭なかったけどな。
(アクマから見てスターネイルはどうだった?)
『動きや魔法は一端の魔法少女と言ったところだね。ここから化ける可能性もあるし、終わる可能性もあるって感じかな』
なるほど、大体俺と同じ感想だな。
――まあ魔法少女歴数ヵ月の俺が言うのもおかしいが、将来が楽しみといったところだ。
(そうか。マリンの方は?)
『経験以外は高水準だね。1年もあればランカー一歩手前にまでなるんじゃないかな?』
やはりマリンについては常識に当てはめるだけ無駄だろう。
魔法少女について詳しいわけではないが、マリンほど急激に伸びた魔法少女を聞いたことがない。
長期戦や連戦が苦手であるが、火力面では十分と言って良かった。
俺と会った当初からB級を倒すことができたのだから、新人としては破格の強さだった。
それが数か月で覚醒に至り、S級すら倒せるようになっているのだから人生分らないものだ。
アクマの評価通り経験だけがネックだが、それ以外は高水準だ。
今回もトルネードドラゴンを大技で仕留めたせいで隙が出来たが、スターネイルと連携して倒していれば隙が出来ず、俺の魔法も避けるか防ぐことも出来ただろう。
仮に防がれたとしても手札は残っていたので、強化フォームになった時点でマリンは詰みだったがな。
さて、勝ちは勝ちだし、もうそろそろ戻るとするかな。
(約束は果たしたし、戻るとするか)
『そうだね。ちょっと大人げないと思うけど、今のハルナは少女だからノーカンかな?』
大人げないとか言わないでくれるかな? 俺だって少しは傷つくぞ?
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