魔法少女の包囲網(孤立無援)
「久しぶりねイニー」
タラゴンさんに捕まった時点で予想出来ていたが、ついにマリンと出会ってしまった。
後ろに居るスターネイルへ視線を向けると、機嫌が悪いのか、プイッとそっぽを向かれてしまう。
結局約束を果たせず、出ていく事になってしまったからな。
仕方なかったとはいえ、申し訳ない事をしたと思っている。
マリンはニコニコと笑顔だが、威圧感が凄い。
小さかった頃に、門限を破って家に帰った時の事を思い出すな。
家に入ると、こんな感じで母親が待っていた。
その後は尻を叩かれたな……。
懐かしい思い出に現実逃避してしまったが、どうしたものか……。
「ブルーコレットの件以来ですね。元気でしたか?」
「とっても元気よ。魔物を倒しまわる位にはね」
「そうですが。それではこれで」
「待ちなさい」
マリンが居る方とは反対に進もうと振り返ると、近づいてきたマリンに肩を力強く掴まれた。
転移で逃げられない事もないが、ここは腹を括るしかないか……。
一応悪いのは俺だし。
「逃げたのは悪いと思っていますが、仕方なかったんです」
「そうね。あの時はまだ手配されている最中だもんね。けど、一言位あっても良かったんじゃないかしら?」
一言で済まなさそうだから逃げたんだよな……。
まだ振り返ってないが、後ろから感じる圧が凄い。
言い訳……言い訳か……どうしよう?
「あの時は少々予定が詰まってまして」
「嘘だと思うな」
スターネイルがすかさず茶々をいれてくる。
……そう言えばあの日は戦いが終わった後に、帰ってココア飲んでたな。
既にスターネイルには俺の事がバレているので、俺の言ったことが嘘だと分かるのだろう。
「思う」と言ってるのは、一応ごまかかしているのだろうな。
スターネイルも、俺と一緒に住んでいたことがマリンにバレるのは危険だと考えたのだろう。
「私もそう思うわ。見た感じ、暇そうなら少し付き合ってくれない?」
肩を掴む手に、更に力が入る。
普通に痛いので、一旦離してくれませんかね?
「――分かりました」
そう言うと肩から手が離れたので、振り返る。
「良かったわ。断るようなら……ね?」
女性とは怖いものだな。
若干チビリそうになったが、これは少女になった弊害だろう。
「それで、何かするんですか?」
「買い物とかも良いけど、折角だし模擬戦をしましょう。それ位なら構わないでしょう?」
買い物に付き合うよりは、模擬戦の方が確かに良いな。
「良いですが、今すぐにですか?」
「時間があるならお茶とかどうかな?」
「良いわね。確か食堂の他に喫茶店もあったはずだから、そこに行きましょう」
そう言えば地図にも描かれていたな。
こんな所に喫茶店があっても意味がないと思っていたが、まさかこんな早く利用する事なるなんて……。
スターネイルとマリンに挟まれて、喫茶店に向かう。
喫茶店に入ると、店員と思われる妖精が近寄ってきた。
「いらっしゃいませ。3名様ですか」
「はい。個室が空いてたらお願いします」
「空いていますよ。ご案内します」
個室へ向かう途中に店内を見渡すと、少ないが客は居るみたいだ。
――どこかで見た記憶がある翼が見えたな。
教師であるはずなのに何故ここに居るのか分からないが、後で確認してみよう。
「こちらになります」
ドアを開けて6人位入れそうな部屋に入る。
スターネイルとマリンが左右に分かれて入るので、俺は迷わずスターネイルの方に座る。
マリンの近くに居るのは身の危険があるので、スターネイル側に座るしかない。
一瞬マリンの目が、細くなった様な気がするが見なかった事にする。
「ご注文はパネルからお願いします」
一礼して、店員が去って行った。
「先ずは頼みましょうか。どうする?」
メニューを見ると正に喫茶店と言った感じだ。
そこまで腹は空いてないが、軽く何か食べておこう。
「珈琲とホットケーキのセットでお願いします」
「私はパンケーキプレートとココアかな」
マリンが纏めて注文をして、後は待つだけとなる。
「イニーってブルーコレットと知り合いだったの?」
ブルーコレットの最後の言葉か……。
あれのせいで多摩恵に身バレしたが、マリンに話す必要はないだろう。
「知らないですよ。M・D・Wの時に少しだけ会いましたが、話してはないですからね」
「ふーん。まあ良いわ。それより、新魔大戦の後はどこで暮らしてたの?」
隣に居るスターネイルがビクンと少しだけ反応したが、マリンには気付かれなかったようだ。
素直にこいつの家でお世話になってたと言えば、血の雨が降る可能性がある。
「知り合いの家で世話になっていました」
「――嘘の匂いがするわね」
なんで分かるんですかね?
いや、一応多摩恵は知り合いになるはずだ。
M・D・Wの時に少しとはいえ一緒に行動してたからな。
通常なら他人と呼ぶが、ギリギリ知り合いと言っても嘘ではないだろう。
あるいは被害者と加害者。殺人犯と死体だが、これも知り合いと捉えられるだろう。
「本当ですよ。私がマリンに嘘を言った事が……ありましたね」
マリンは大きなため息を吐き、俺のフードを捲ってから頬を両手で引っ張る。
痛いから止めてくれませんかね?
「もう。心配したんだからね。私は何があってもあなたの味方だから、何かあったら頼って良いのよ?」
大人が子供を頼るのはね~?
「
「イニーはいつもそればっかりね」
「マリンちゃんもそれぐらいにしてあげなよ。赤くなってきてるよ」
やっと引っ張るのを止めてくれたが、少々痛む。
何も言わないで逃げたのは事実だし、今回の痛みは甘んじて受けよう。
マリンの尋問らしきものが終わると、タイミング良く頼んだものが運ばれてくる。
本当は見ていたのではないかと疑いたくもなるが、たまたまなのだろうな。
「そう言えば先程プリーアイズ先生見たのですが、どうしたんですか?」
「破滅主義派の騒ぎが収まるまで、学園は封鎖することになったの。それで暇をもて余したプリーアイズ先生をアロンガンテさんが誘ったみたいよ」
確かにあの人は抜けてるところもあるが、基本的に有能だからな。
新人研修の時に顔を合わせてるし、その時に繋ぎを作っておいたのだろう。
「そうなんですね。他に知り合いが居たりしますか?」
「先生以外はここには居ないはずよ。他のクラスメイトは各支部で頑張ってる感じね」
マリンがおかしいだけで、他のクラスメイトは普通の魔法少女だからな。
しかし北関東支部所属だったのに、なぜこんな所に居るんだ?
「2人はどうして此処に? 北関東支部所属だったと思うのですが?」
「辞めたわ」
マリンがとても不機嫌そうなので、スターネイルの方を見る。
「うーん。ちょっといざこざがあって、白橿さんと一緒に3人で辞めたんだ。そのままの流れで此処に所属してるの」
「完全に向こうが悪いのよ。大人なんて身勝手で傲慢で、虚言を重ねるクソ野郎よ」
やさぐれているが、一体何があったんだ?
(知ってるか?)
『現在留守にしています。緊急の場合は解放をして下さい。緊急ではない場合は戻るまで今しばらくお待ちください』
やけに静かだと思ったらいつの間にか居なくなっていたのか……使えない相棒だ。
戻ってきたら聞いてみるかな。
「深くは聞きませんが、大変だったみたいですね」
「大変と言えば大変だったね。支部に大穴開いちゃってたし、所属している魔法少女も居なくなちゃったし」
魔法少女が居なくなるなんて事は普通起こらないが、そうなった場合は本部から人を送るはずだ。
今はアロンガンテさんがトップなので、何かしらの手は打っているのだろう。
それにしても、ここまでマリンが感情を露わにするとは一体何があったんだ?
「マリンの事は何となく分かりましたが、スターネイルの方は元気にしていましたか?」
「私は大丈夫だよ。少し落ち込んだりはしたけど、この通りだからね。ただ……ね?」
その「ね?」は止めてくれませんかね? 悪いのは約束を守れなかった俺だけど、タラゴンさんが俺を拉致するとは思わなかったんだよ……。
「そ、そうですか。元気なら良かったです。それじゃあ冷めない内に食べましょうか」
「それもそうね」
多少強引な気がするが、何とか誤魔化せたな。
見回ろうとせず、素直に帰ってればここまで疲れる事はなかっただろう。
毎度ながら運がない……。
まあ、ホットケーキが思った以上に美味しいからそれだけが救いだ。
甘い物を食べた後の珈琲はまた違った味わいがある。
いつも通り俺が最後に食べ終わり、少しだけ休んでから移動する事となった。
当初の予定通り、シミュレーターで模擬戦をするのだ。
マリンだけかと思ったがスターネイルも付いて来て、何故か1対2で戦う感じの流れとなった。
別に構わないのだが、俺の知っているスターネイルでは居ても居なくても変わらない。
それに、戦いにそこまで積極的な性格ではなかったと思うが、何か心境の変化でもあったのかな?
『ただいまー。それで、一体何がどうしてこうなってるの?』
シミュレーターに向かう途中で、やっとアクマが帰ってきた。
(ふらふらしてたらマリンに捕まった)
『あーなるほど。そう言えば北関東支部の事件について教えてなかったね。まあ、どんまい!』
どんまいじゃないんだよ……マリンが此処に居ると分かってたらバレない内にさっさと帰っていたんだよ……。
『状況は分かったけど、体調は大丈夫?』
(実際に戦うならともかく、シミュレーションなら大丈夫だろう)
『そうだろうけど、無理はしないようにね』
(分かってるさ)
「ここね。使うのは初めてだけど、使い方は変わらないはずよ」
パンフレットではシミュレーション室は3つあると書いてあり、最新のものが配備されてるとか。
間取りはランカー用の施設にあるやつと同じみたいだ。
最初に待機室があり、その先にポッドがある。
見た感じ繭型みたいだな。
「設定は学園でやってた時と同じで良いかしら?」
「任せます」
タラゴンさんみたいなアホな設定しにしなければ何でも構わない。
「そう。じゃあ負けた方が罰ゲームって事でよろしくね。行くわよ。ネイル」
「はいはい。それじゃあ、よろしくね」
俺の返事を聞く前に、2人は先にポッドへ向かう。
なんでまた罰ゲームとか馬鹿な事言ってるんですかね?
流石に負ける気はないが、負けられない理由が出来たな。
『それじゃあ、こっちも無理しない程度に頑張ろー』
(はいはい)
ポッドに入り、目を閉じる。
流石に瞬殺するのも悪いし、少し揉んでやろう。
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