魔法少女はまわり込まれた!

 形状的に叩く様な扉ではないが、扉の横にインターホンと思われる物が付いている。

 とりあえず押してみるか。


『こちらアロンガンテです』


「イニーフリューリングです」


『ああ、お待ちしていました。今開けますのでどうぞ』


 扉が開いたので中に入ると、書類に埋もれたアロンガンテさんが居た。


 恐らくだが、別れてからずっと仕事をしていたのだろうな。

 薄っすらだが隈が出来始めていた。


「アロンガンテさん」

「違うんです。後ちょっとで終わりそうだったのですが、なぜか増えてしまって……」

 

 気持ちは分からなくもないが、どこかで区切りをつけないと、休むことが出来ないぞ?


「気持ちは分かりますが、休まないと倒れてしまいますよ?」

「分かってはいるんですがね……」


 社会人だった頃に書類仕事は経験済みなので、出来ないこともないが、今さら書類仕事などしたくない。


 大変だと思うが、アロンガンテさんには頑張ってもらうしかないのだろう。


「私の事は置いといて、まずはこちらを渡しておきます」


 アロンガンテさんは、引き出しから光沢のあるカードを取り出して渡してきた。


「これは?」

「当施設のアクセスキーです。それがあれば設備などを無料で使うことができます。必要ないかもしれませんが、一応渡しておきます」


 確かに使うことはないと思うが、一応受け取っておこう。

 社会人の性か、無料と言われるとついつい欲しくなってしまう。

 

「それと、施設についても説明しておきます」


 説明が始まる前に一旦椅子へ座り、ついでに飲み物を貰う。


 数分くらいで終わると思った説明だが、結構長かった。

 

 先ず拠点名については正式稼働まで伏せておくみたいだ。

 名前を伏せておくことで隠蔽性を高める狙いがあるらしい。


 続いてこの拠点の設備は魔法局の支部や本部と同等らしい。

 問題は秘匿しているため、職員や魔法少女が全く足りていないことだろう。

 一応一部のランカーには話が通してあるので、有事の際は協力してくれるらしい。


 アロンガンテさんはここの司令兼日本の魔法局の代理局長。それと壊れた魔法局総本部の代わりをしているらしい。

 流石にこの量の業務を1人でこなす事は出来ないので、この拠点についてはアロンガンテさんの姉が音頭を取っているみたいだ。


 この後会わせてくれるとの事なので、この話は一旦終わりとなった。

 

 続いて拠点を作った目的だが、第一に魔女たち破滅主義派を倒す事を目標としている。


 第二に魔法局の後継となる事だ。

 本来ならゆっくりと侵食する予定だったが、魔法局の上層部がごっそりと消し飛んだので、アロンガンテさんが後釜についた。


 反発や他の人を推す声もあったが、上層部が残した負債をどうにか出来るのかと問いただした所、全員黙ったらしい。

 仕事は勿論の事、各方面に対する慰謝料やこれまでピンハネしてきた、魔法少女の討伐料等、お金方面もちょっと考えたくもない額の負債があった。


 魔法少女ですら払う事の出来ない額を、一般人がどうこうすることは不可能だ。


 支払いについては日本のランカー、特に楓さんが出してくれたそうだ。

 そして、暫定的にアロンガンテさんがトップに立つ事となった。


 魔女との決着が着き、魔法局の代わりとして動き出した後の事だが、落ち着き次第アロンガンテさんはトップから降りるつもりだ。

 降りるついでに魔法少女辞めてゆっくりと過ごしたいそうだ。


 予想だが、人の良いアロンガンテさんはなんやかんや魔法少女を続けてそうな気がする。


 因みにアクセスキーには5段階のクラスがあり、俺が貰ったのは一番上位の物だ。

 クラスによって無料だったり割引等の特典が付く。


 どうせ使う事はほとんどないから構わないが、なぜ一番上位の奴を渡してきたんだ?


 俺の扱いについてだが、建前上所属となるものの、自由に動いて良いそうだ。

 俺のやるべきことと、この組織の理念は一致している。


 ただ、たまに顔を出してくれると嬉しいとの事だ。

 

「こんな所ですね。何か質問はありますか?」

「大丈夫です」


 もしも俺が忘れたとしても、アクマが覚えているだろうからな。


「最後にですが、ここには第1から第5指令室があり、対魔女関係は第1指令室になります。私の姉も一応此処に居ます。まあ、居ない事の方が多いですが、今日は出歩かないように言ってあるので居るはずです。それでは付いて来て下さい」


 説明が終わり、アロンガンテさんの後を付いて行く。


(アロンガンテさんの姉がどういう人か知ってるか?)


『性格とかは知らないけど、魔法局北関東支部所属の元職員だね。最近辞めたらしいけど、此処所属になっているね。表向きはアロンガンテさんの秘書になってるよ』


 ふむふむ。あそこの所属と聞くと少々嫌な予感がするが、アロンガンテさんの姉らしいし、大丈夫だと信じたい。


(他に情報はあるか?)


『重要そうな情報はないけど、魔法少女時代は最高で12位だったりとか、妹使いが荒いとか位かな?』

 

 兄や姉と言われる者は総じて弟や妹の使いが荒いからな。

 アロンガンテさんはそっち方面でも苦労してるんだな……。


 しみじみとしていると、第1指令室と書かれた扉の前に着いた。


 初めて入るが、アニメとかで見たのに似ているな。

 複数の大きなモニターに、数人のオペレーター。


 空席もあるが、忙しそうに手を動かしている。


 奥に向かうにつれて段差となっている。

 入って直ぐの司令官などが座っている場所には女性が座っており、誰かと通話しているみたいだ。


「……とにかく、私は既に辞めた人間なので、後の事は知りません。それでは失礼します」


 女性は面倒臭そうにため息を吐き、栄養ドリンクらしきものを一気飲みした。


「姉さん」

「あら? 来たのね。その白フードの子が例のイニーフリューリングかしら?」


 変身しているから当たり前だが、パッと見だとアロンガンテさんとは似てないな。

 姉なだけあって身長はアロンガンテさんより高く、疲れているのか煤けた雰囲気がある。


 とりあえず軽く頭を下げておく。

 

「私はそれの姉である、白橿ミナトよ。聞いてた通りフードは被ったままなのね。理由とかあるのかしら?」

 

 フードを被っていた方が落ち着くのもあるが、アクマが顔を隠せと言ったのが始まりだったな。


 新魔大戦で晒しているので有耶無耶になっているが、余程のことがない限り自分からフードを取る気はない。


(どうする?)


『構わないけど、オペレーターの方には見えないようにね』

  

 フードを脱ぐと、ミナトさんが目を見開くが、直ぐに元に戻る。


「実際に見ると中々のものね。こんな子が頑張らないといけないなんて、世も末だわ」

「私も同意ですが、選んだのはイニー本人ですので、私は応援したいと思います」


 なんだか悲壮感が漂っているが、どうしたんだ?

 姉妹で共感できる何かがあるのだろうか?

 

 ミナトさんは俺に近づき、まじまじと見た後に、なぜか撫でたり、頬を揉んだりし始めた。

 

「ふむ……ふむふむ。素材は良いのに、これのせいで全てが台無しね」

「姉さん……」


 どう反応したものか悩むところだな……。


「さて、お遊びはここまでにときましょうか。聞いてると思うけど、妹の代わりにここの指揮をしているわ。もしかしたら連絡するかもしれないからその時はよろしく頼むわ」

「分かりました」


 アロンガンテさんは真面目を絵に描いたような人だが、姉のミナトさんはユーモアもあるって感じか。


「此方からの連絡は反応を見失った魔法少女についてが主になると思います。破滅主義派の動きを考えれば、遭遇する可能性があると思いますので」


 確かにアクマといえ全ての魔法少女を追うことは無理だ。

 ナイトメアの時も運良く当たりを引けたに過ぎない。

 それに追跡に使っているリソースがなくなれば、アクマも他の事が出来るようになるだろう。


「分かりました」

「良い返事ね。最後にだけど、マリンの事をお願いね。あの子はまだ不安定な所があるの。あなたに夢中みたいだから、それとなく様子を見て上げて」

「……はい」

 

 ノーと答えたいが、流石にこの空気の中で言う気にはなれない。

 マリンは今の新人と呼ばれる魔法少女の中ではずば抜けて強いが、色々とあったからな。

 

 もう少し成熟すれば、ランカーになることも夢ではないだろう。

 ただ、どうして俺の事を好いてるのかが理解でない。


「私からは以上だけど、何か聞いておきたい事とかあるかしら?」

「一応1週間程は安静にしてないといけないので、連絡はそれ以降でお願いします」

「分かったわ。何かあったらこの妹を頼って頂戴。これでもランカーだから役に立つはずよ」

 

 アロンガンテさんも苦労しているな……。

 今は何もないが、一度くらいは差し入れでもしてやるかな。

 

「用事はこれで終わりですか?」

「そうですね。出来れば拠点内の案内もしたいのですが、まだ仕事が残っているものでして。次に会うのはシミュレーションの時になると思いますが、その時はよろしくお願いします」

「あら、何かするの?」

「後で説明するので、姉さんも仕事をお願いします」


 フードを被り直してから適当に頭を下げて指令室を出る。

 姉妹漫才はほっといてさっさと帰るとしよう。


 ……いや、折角だし軽く見てから帰るとするか。


 来た道とは逆方向に歩き出す。


 所々にある窓から見える風景はどこかのビル街の様に見えるが、人や妖精は見えない。

 適当なホログラムでも映してるのだろうか?


 ゆっくりと歩いていると、前の方から足音が聞こえた。

 丁度曲がり角になっているので、気づかなかったらぶつかっていたかもしれないな。


 歩く速度を緩めて相手が来るのを……。

 待たずに、俺は逃げ出した。


 微かに話し声が聞こえたが、その声はマリンのものだった。

 もしも見つかれば何を言われるか分かったものではない。


 走り出してすぐに、後ろから「あっ」と声がした。

 

 そして、あっという間にマリンにまわり込まれてしまった。


 とても爽やかな笑みを浮かべてるが、その裏に隠れている怒気が滲み出ている。

 こんな事ならアクマに聞いておけばよかった……。

 

 少しするとスターネイルが歩いてきて、マリンの後ろに控える。

 

 さて、どうしたものか……。


 

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