魔法少女たちのお茶会(アクマを乗っけて)

 ジャンヌさんが扉を開け、一緒にお茶会会場へ入る。

 ここに来るのも久々だが、楓さんは居ないか……。


「イニーは前回と同じ場所に座って」

「分かりました」


 居るのは3位5位6位9位か。

 ついでに、一緒に入った8位のジャンヌさん。

 

 6位……フルールさんとは初対面だな。

 シミュレーションで一度戦っているが、あれはデータ上なのでノーカウントだ。

 3位の桃童子さんは初対面ってわけではないが、ほとんど初対面と変わらない。


 9位のアロンガンテさんは予想通りまた隈が出来ていた。

 何をしているか知らないが、この人が倒れたら日本はヤバいのではないだろうか?


 前回と同じくゲスト席に座るとアクマが俺の中から出てきて、フードを脱がして頭の上に座る。

 

 ……わりと重いな。


「それじゃあ始めるけど、先ずは自己紹介をお願いしようかしら?」

「そうだね。私が一方的に知っているだけなのも悪いしね。私の名前はアクマ。魔女の敵対者であり、この子を魔法少女にしたものだよ」


 これといった反応は返ってこず、タラゴンさんが無言で頷く。


「それで、あなたは何者で何ができるの?」

「私たちはアルカナと呼ばれているよ。分かりやすく言えば、タロットになぞらえた存在だ。とは言っても、タロットの枚数とは違い、残ってるのは私を含めて4人だけだけどね」

 

 女教皇。太陽。恋人。悪魔。


 詳細は何も知らないが、確かこの4人だったかな? アクマは自分たちの事をあまり話さないので、忘れてしまう所だった。


「そのアルカナは、どの様な存在なのかしら?」

「魔女と戦える者を探し、魔法少女の了承の下で契約して戦ってもらう感じかな。情報収集や結界と呼ばれているもののハッキング。後は一時的に強化フォーム以上の力を引き出す事もできるよ」


 話を聞いていたアロンガンテ手を上げて、話を遮る。

 

「……私の思い違いであれば良いのですが、もしかして魔女は複数人。あるいは、複数の世界があるのですか?」


 今の会話でおかしな点に気付くか。

 流石は事務処理担当のアロンガンテさんだな。

 

「正確には1つの世界に1人魔女が居るよ。私たちは様々な世界で魔女と戦ってきたんだ」

「私たちの世界以外にのも世界がある事に驚きですが、残っているとはどういう意味ですか?」

「平たく言えば敗北して死んだって事だよ。今回は特別な状況だから話すけど、私たちは一度も魔女に勝てていない。それは数回や数十回ではなく、数百から数千の話だよ。イニーが新魔大戦の時に見せた力を持った魔法少女が10人居ても負けたんだ」


 絶望して死んだり、契約者に情が湧いた結果一緒に死んだり。

 心を折られたり逃げ出したりした結果の人数が4人。


 なんとも絶望的な数字だ。


 更に、その中で契約してるのは俺1人だけだ。

 

「それを言ってどうするつもりじゃ? 勝てないから皆で死にましょうとでも言うつもりかのう?」


 桃童子さんがテーブルに肘をつき、鼻で笑う。


 アクマは余裕の態度を崩さないが、もうそろそろ降りてくれないだろうか?

 

「私はともかく、このイニーは魔女に勝つつもりだから、協力して欲しいのさ。このままだと、勝ったとしてもそのまま死んでしまいそうだからね」

「それは言えてるわね」


 別に死ぬつもりはないが、下手な事を言わない方が良いだろう。

 そもそも、この世界の魔女を倒した所で、魔女は他の世界にもいる。

 それを倒す契約を、偽史郎としているのだ。


 この戦いは始まりでしかない。


 だから、俺の額をペシペシと叩くな!

 

「先ず知っておいて欲しいのは、従来の魔法少女たちでは魔女には勝てない事と、破滅主義派の魔法少女たちは、特殊な薬で強くなる事が出来る2点だよ」

「その薬を使ったら、どれ位強くなるのかしら?」


 今まで黙って聞いていたフルールさんが、初めて反応した。

 ゆるふわ系の見た目だが、声もなんとなくふわっとしている。

 戦いに向いてなさそうな雰囲気だが、この人はとても強いんだよな……。


 シミュレーションの時の植物は本当に苦労した。

 

「魔物ならB級からSS級。魔法少女なら100位からランカーって所かな。今の破滅主義派は魔女を除いて9人居るけど、8人は通常でランカークラスだよ」

「そうですか。ランカークラスの人が飲んだら、手が付けられなさそうですね」

「副作用があるから奴らも基本は飲まないけど、飲まれたら戦わないで逃げるのが理想かな。まあ、薬を飲まれるような状況だと逃げる事は出来ないだろうけどね」

 

 ブルーコレットが飲んだ場合でも、S級が倒せるマリンでは歯が立たなかった。

 オルネアスも、通常状態の俺ではどう足掻いても勝てない。

 副作用が無ければ、俺も欲しいくらいだ。


「今更ファンタジーな世界観とは言わないけど、勝算はあるの? まさかイニーを生贄にするとか言わないわよね?」


 タラゴンさんはアクマを睨む。


 これまで勝率0%の敵にそんなものがあるわけない。

 勝とうとするどころか、逃げようとしてたんだぞ?

 

 アクマはなんて答えるんだろうな?


「勝算があるかないかと問われれば、正直無いに等しいね。だけど、これまで数々の世界を巡って来たけど、今回の契約者たるイニーは最も特別な存在なんだ。イニーが居れば、勝てる可能性はあると思っているよ」

「ふーん。それで、私たちに何を求めるの?」

「破滅主義派のナンバー持ちを倒してもらいたい。1人では確かに無理でも、2人なら勝てる可能性もあるからね。それが無理ならSS級の魔物だけでもかな」


 妥当だろうな。

 魔女本人はどうしようもないが、幹部――ナンバー持ちと呼んだ方が良いのかな? ナンバー持ちなら勝てる可能性はあるのか?

 薬を飲まれなければ間違いなく勝てるだろうが、薬を飲んだ後はただの化け物だからな。


「2人でならね。因みにその薬を飲まれなかった場合はどうなんだい?」

「余裕とはいかないけど、君たちなら問題なく勝てるだろうね」

「あくまでも薬が脅威って事か」


 ジャンヌさんの言う通り、薬さえなければ勝つ事は出来る。

 なんなら、2人相手でもなんとかなったしな。

 

「それと、魔女の目的は人類の殲滅だけど、その方法は北極に封印されている魔物を解き放つ事だよ」


 アクマに向かって殺気が放たれる。俺も余波を受けるが、これのためにアクマは俺の頭に座って居るのか?

 そう言えば、殺気ってどうやって出すのだろうか? 少し気になる。

 

「ジャンヌには少し話したけど、大体の世界で魔女はあの魔物を世に解き放ち、人類を滅ぼしているんだ。最終的に地球や妖精界は魔力に汚染され、誰も住めなくなるって感じかな」

「誰もって事は魔女自身も?」

「そうだよ。厄介な事にただ滅ぼそうとしているから、話し合いも何もしようがないんだ。殺すか、殺されるか。魔女と私たちはそういう関係だね」


 今の所一方的に殺されているだけだが、本来ならそういう関係だったんだろうな。

 

「ふむ。纏めると、わらわたちに破滅主義派を任せ、おんしたちは魔女を倒すと言ったところかのう? それと、北極の事はどれ位知ってるんじゃ?」

「そっちよりは詳しく知っているよ。まあ、あれについては無視して良いよ。魔女さえ倒せれば問題無いからな」


 北極ね……何やらきな臭いが、後でアクマに聞けば良いだろう。


「それと、直ぐには無理だけど、直接私と連絡を取れるように端末を改造しておくよ。今のままだと、魔女の結界に捕らわれたら連絡も取れないからね」

「分かったわ。他に私たちに言っておく事とかあるかしら?」

「こちらとしては魔女と敵対している事と、破滅主義派のメンバーをお願いしたいだけだから大丈夫だよ。他の世界の事や私の上司的な存在とかも気になるかも知れないけど、規制があって話せない事を理解しておいてくれるかな?」


 アクマは魔女の正体を知っているらしいが、前回聞いた時は規制って事で教えてくれなかったな。

 他の世界とこの世界でどれ位差があるかも気になるが、何も教えてくれない。

 全くの異世界だったり、人や歴が同じだったりの並行世界などもあるのだろうが、それらについては魔女を倒してからのお楽しみといこう。

 

「あっ」


 これで終わりかと思いきや、アクマは手の平を叩き、何かを思い出した様な声を出した。

 

「私の事は日本のランカー内の話に留めて置いてね。私という存在が世界に認識されるのは、あまり良くないからね」

「未出席者への周知については私がやっておきます。話が終わりなら、私からイニーにお願いがあるのですが、良いでしょうか?」

「アロンガンテが進めている組織の事でしょ? 形式上は属しても良いけど、こっちは勝手に動くからね」


 そう言えば仮眠室で、アロンガンテさんが魔法局を乗っ取る為の組織を作ってるとか言ってたな。

 俺自身はほとんど魔法局と絡んでないが、相当腐敗してたみたいだな。

 

 一番酷かった上層部はほとんど死んだらしいが、場所によってはオペレーターでも、汚職に手を染めてるからな。


 大変だが、アロンガンテさんには頑張ってもらいたいところだ。


「話を聞いた限り、此方からお願いする予定の内容だったので大丈夫です。ですが、後で拠点に一度来ていただければ幸いです」

 

 アクマが俺の頭を軽く叩く。

 ああ、俺に答えろってことね。


「分かりました。後で場所を教えて下さい」

「ふむ。これで終いなら、1つ提案があるのじゃが?」


 終わりかと思ったら、最後の最後で桃童子さんが声を上げる。

 何故か笑っており、なんとなく初めて会った時のタラゴンさんを思い出させる。


「お主が強いのは話から分かるが、やはり一度は拳を交えんといかんじゃろう?」


 何と言うか、日本の方々って血の気の多い人が多すぎませんかね?

 

 職業柄というか、立場的に強くなければいけないのは分かるが、日本勢は他の国のランカーに比べて噂に事欠かない。

 

 暇な魔法少女を見つけては訓練をするブレードさんや、幾人もの魔法少女を引退に追いやったタラゴンさん。

 

 戦闘以外だと回復魔法が使える魔法少女をノイローゼ寸前に追いやってるジャンヌさんや、本人が有能すぎて事務仕事から逃げられないアロンガンテさん。


 更に言えばトップである楓さんは理不尽の権化だろう。


 ……亡命……本気で考えた方が良かったかもな。


「それについては構わないけど、それは通常のイニーとかな? それとも解放状態のイニー?」

「勿論最強状態で頼むのじゃ。武人として弱き者と戦っても面白くもなかろう」


 対魔法少女としてなら向こう 闇落ちだが、やるとアクマに怒られるので、通常状態での愚者か悪魔の力を解放した形態だろう。


 個人的には構わないが、頭をたたかれない辺り、アクマが答えるのかな?


「良いけど、此処に居る全員が相手って事で構わないかな?」

「それは私たちを舐めてると捉えて良いのかしら?」

「そういう訳じゃないさ。ただ、私たちアルカナの力はそれほど強大なものなんだ。イニーだけの場合、どうなるのかはタラゴンがよく分かってるでしょ?」


 タラゴンさんとの戦いは今のところ2戦2敗だからな。

 アルカナの能力無しの場合ではランカーに勝つのはまだ無理だ。

 だが、アルカナの能力有りなら、逆に過剰戦力となってしまう。

 

 ジャンヌさんは戦闘要員ではないので4人となるが、4人なら時間制限以内に倒すことも夢ではないだろう。


 楓さんとブレードさんがいたら話は変わるが、居なくて良かった。


「わらわとしては1対1でも4対1でも一向に構わぬが、どうするのじゃ?」

「折角のお言葉ですし、挑発に乗るのも良いと思いますが?」

「日程の調整が出来るなら、私も参戦しましょう」


 フルールさんとアロンガンテさんは賛成か。

 アロンガンテさんの隈の事を考えれば、今日直ぐにとはいかないが、それは俺も同じだ。


 最低でも3日から1週間は休まないと、まともに戦うことはできないだろう。


 タラゴンさんは全員を……主にアロンガンテさんを見て、やれやれと言ったようにため息を吐く。

 

「分かったわ。調整次第だけど、1週間後を目途にで良いかしら?」

「その様に調整しておきます」

「何故か完全にハブられているが、戦闘はからっきしだからね。観戦でもしてるとするさ」


 最後にタラゴンさんが解散の声を上げ、今度こそ会議が終わりとなる。


 桃童子さんとジャンヌさんは直ぐに出て行くが、まだ仕事があるのだろう。

 俺も一緒に出て行こうとしたが、タラゴンさんに残っていろと言わんばかりの視線を向けて来たので、仕方なく残っている。

 

 

 黙って待っているのもいいが、今の内にアロンガンテさんの隈を治しておくか。

 タラゴンさんとアロンガンテさんの会話に入るのは少々億劫だが、当初の目的を済ませてしまおう。


「アロンガンテさん」

「ん? どうかしましたか?」

「良かったら回復魔法を使いましょうか?」

「――お願いします。正直なところ、結構ぎりぎりでして」

「悪いとは思ってるけど、アロンガンテ位にしか頼めないのよね」


 学園の廊下の時と同じく、アロンガンテさんに回復魔法を掛ける。

 隈は消えるが、流石に疲労の全てを回復するのは無理そうだ。


 やれない事もないが、後は寝て休んでもらった方が良い。

 過激な回復は身体に毒だからな。


「ふう。ありがとうございます。かなり楽になりました」

「流石に全快は無理でしたので、たまには休んで下さいね」

「善処します。あなたの様な妹が、私にも居れば良かったのですが……」

 

 僅かだが、アロンガンテさんの眼が潤んだ様に見えたが、見なかった事にする。

 どれだけの仕事をしてるかは知らないが、寝る時間が取れない位には大変なのだろう。

 

「残念ながらイニーは私の妹よ。それはともかく、魔物の対処は予定通りでよろしく」

「分かっていますよ。あなたも単独行動をしないで下さいね。私はこれで失礼します」


 一礼して、アロンガンテさんは去って行った。

 魔法少女の過労死とか聞いた事はないが、もしも過労死するとすればアロンガンテさんが最初になりそうだな……。

 

「それじゃあ終わったし帰るとしましょうか……アクマって何か食べたりするの?」

「私の事は気にしないで良いよ。欲しくなったらイニーが用意してくれるからね。私も失礼するとするよ」


 ふと、アクマの重みが消える。

 どうやら俺に同化したようだ。


『やることやったし、少し集中して作業に入るから、緊急の用事以外は呼ばないでね』


(了解)

 

 色々と聞きたいことはあるが、急ぎではないので後で良いか。

 

「もしかして、これまでずっと同化してたの?」

「1人で部屋に居るとき以外は同化してましたね。後は……いえ、何でもないです」


 おっと、風呂に一緒に入っていたことは言わない方が良いな。

 もしも話せば、一緒に入ると言いかねない。

 言わぬが吉といったところだ。


「そうなの。続きの話は帰ってからしましょう」


 ガシっと効果音が出そうな程、力強く手を握られる。


 そのまま、タラゴンに連れられて部屋を後にした。

 部屋を出る時に振り返ると、ニコニコ顔のフル-ルさんがまだ座っていた。

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