魔法少女と不死身のオルネアス

「全く。毎度毎度困ったものですね」


 M・D・Wか……あの時より威圧感があるな。


 だが、前回と違い前哨戦や距離を詰める必要がないのは、楽が出来て良かった。

 一般人が紛れ込んでもいないし、倒して爆発を耐えるだけでいい。

 

 ナイトメアの顔色が、若干悪いのが気になるが、ランカーなのだから大丈夫だろう。

 

「さあ、殺し合おうじゃないか! 逃げれば、こいつを爆発させるわよ。もちろん、結界を解除してね」


 オルネアスは後方に聳え立つM・D・Wを親指で指して、不敵に笑う。

 

(結界の解析はどうだ?)


『この結界は特注品みたいだね。今までみたいに数分程度じゃあどうしようもないよ』


(了解。結界が解かれないようにだけ注意してくれ)


 毎度毎度、こちらが強くなると相手も厄介になっていくのは、どうにかしてほしいものだ……。


「ナイトメアさん。あれの相手をお願いしますね。私はオルネアスを殺します」

「む、無理だって! あんなのに勝てるわけないじゃない!」


 おや? ランカーなら大丈夫だと思うんだが、どういうことだ?


『調べてみて分かったんだけど、どうやらコネっぽい感じだね。一応それなりに魔法少女としては強いけど、S級はともかくSS級の単独撃破は無理かも』


 ……使えん奴だな。

 

「なら敵が来ないように牽制だけでもして下さい。でなければ、死ぬのはあなたです」


 残念ながら、俺がナイトメアを助ける義理はない。

 魔法少女としての責務を果たせないなら、それでしまいだ。


 俺が本気だという事が分かったのか、ナイトメアは涙目になりながらも頷く。

 

「分かったわ。だから、直ぐに助けに来てよね!」


『S級上位から準SS級までより取り見取りだね。数えるのが面倒なくらい沢山いるよ』


 M・D・W本体は魔法や砲撃をする程度だが、召喚してくる魔物が厄介だ。


 俺が戦った奴よりも高ランクの魔物を召喚しているが、ナイトメアが頑張ってくれるだろう。

 

「さて、やりますか」

 

 オルネアスは既に強化フォームになっている。

 前回よりも展開されてる矢の数が多くなっており、本気具合がうかがえる。

 

 やる気があって良い事だが、どれくらい楽しませてくれるかな?


「ステラシステム起動」


 オルネアスの周りだけではなく、俺を囲むようにドーム状に矢が展開される。

 

 全方位から狙ってますってか……面白い。


 俺が身構えると、死角から矢が飛んでくるのをアクマが教えてくれる。


 オルネアスも、あからさまに殺意を込めた矢を飛ばしてくる。


 死角の方は障壁を出し、他は前方に跳んで回避する。

 しかし、オルネアスは俺が空中に逃げるのを狙っていたのだろう。

 オルネアスの周りに浮いている矢と、ドーム状に展開されている矢が、一気に押し寄せてくる。


 嫌らしいことに、微妙にタイミングがズレてたり、死角からも大量に飛んでくる。

 障壁で。剣で弾きながらオルネアスと距離を詰めようとすると、本人の弓から大技を射たれて、避けるために距離を取るしかなくなる。

 魔物や普通の魔法少女相手にこの戦法は微妙だが、長期戦が出来ない俺には良い手段だろう。

 

 ならば、ちょいと俺も本気を出すとしよう。


「裂剣・ハリケーンスラッシュ」


 無数の斬撃を周りに飛ばし、周りの矢を吹き飛ばす。


 溜めをするだけのじかんを作り、オルネアスに突っ込む。


「チッ。オールアロー! メテオシュート!」


 弾き、避け、打ち砕く。


「――アルティメットアロー!」


 ビームの様な矢が放たれ、視界を塞ぐ。


 いつもなら避けるが、今回はそんな事はしない。


 剣を矢の様にして構え、空中に出した障壁を踏み込む。

 溜めていた魔力を一気に解放して、刀身を伸ばす。


 俺自体を矢にして、オルネアスに突っ込む。

 

 全てを貫く矢と言った所だろう。そうだな……。

 

「刹牙・ナイトメアアロー」

 

 オルネアスのアルティメットアローを散らしながら突き進む。


『魔力が3割を切ったから注意してね!』


 本当に、魔力だけがネックだな!

 

 光の中を突き抜け、驚愕しているオルネアスと目が合う。


 弓を構えるのを諦めたのか、周りに浮いている矢を壁の様に展開して、俺の視界を塞ぐ。


 そして……。


「――殺れませんでしたか」

「本当に嫌になるわね……力の差って奴には」


 オルネアスの左腕を斬り落としたが、俺は脇腹を斬られてしまった。内臓までは到達してないが、結構深いな。

 

 片腕の射手など怖くないと言いたいが、魔法とは常に理不尽なものだ。注意して損はない。


 オルネアスの口から僅かに血が流れ、雰囲気が変わる。

 無くなった腕の代わりに、異形の腕が生え、禍々しいバトルアーマーの様な格好に変わる。

 背中から弓のようなものが2つ生えてきたが、ブルーコレットの時よりも魔物感があるな。


 持っていた弓も2つに分かれ双剣の様になっている。


『あいつ、薬を口の中に仕込んでいたみたいだね……』

 

 使われる前に倒したかったが、こうなったら仕方ないか……。


 ナイトメアにも素性バレてしまうが、殺さなければ、俺が殺される。


 白魔導師に戻り、傷を癒す。

 

「これで、後戻りはできないわ。あなたを殺した後は、暴れ回ってから死んでやろうかしらね」

「残念ながら、ここであなたには死んでもらいます。それが、私の役目なので……ナンバーゼロ。愚者解放リリース

 

 杖が玉に変わり、空に浮かぶ。

 俺自身も軽く飛び、いつでも動けるように身構える。


 体調的には問題ないから制限時間一杯戦えるが、M・D・Wの事もあるんだよな……。


 最後の自爆の事を考えると、多少は余裕をみといた方がいい。

 今回のボスは連戦か。そうだな、ブルーコレットは中ボスって奴かな。


 毎回インフレが激しいな……。


 オルネアスの背中の弓から矢が放たれる。

 既に矢と呼ぶにはあまりにも大きいが、片方の玉を払うようにして防ぐ。


 双剣による斬撃を飛んで避けて、合間を見て魔法を放つ。

 

燃えないものはないエクスプロード


 矢から回収した魔力を上乗せして、大きな炎球を撃ち出す。

 オマケとばかりに両方の玉から、無数の魔法を撃ち出して牽制する。


 炎球は避けられたが、そのまま飛んで行ってM・D・Wが召喚した魔物の一部を消し飛ばす。


 牽制用の魔法は全てアーマーに弾かれてるな……。


「その程度か! ホローシュート」


 無数の魔法陣が現れ、レーザーが飛んでくる。

 当たれば真っ二つになりそうだ。

 レーザーの隙間を縫うように飛び、詠唱する。


「愚者の涙」


 無数の光線でなぎ払う。光線に当たった魔法陣は凍りついて粉々に砕け散る。


 オルネアスは光線を避けようとして跳ぶが、生えている弓の片方に光線が掠り、氷漬けになる。


 片方の弓を潰したと思ったら、オルネアスは凍りついた弓を切り離し、放り投げてきた。


(ちっ、小癪な真似を)


 玉を使って防ぐには流石に無理そうだ。

 オルネアスの斬撃と背中の矢を防ぐだけで精一杯で、こちらに呼び戻すには距離がある。


 仕方なく避けようとして、体制を崩したところにレーザーが飛んでくる。


 身体を捻り、直撃コースからは逃げれたものの、片足を吹き飛ばされてしまった。


 幸い痛みはほとんどないが、痛み分けと呼ぶには向こうが一枚上手だったな。


 直ぐに足を再生させ、体勢を整えるついでに残りの魔法陣を破壊しておく。


 オルネアスの方を見ると、切り飛ばしたはずの弓が再生しており、互いにノーダメージだ。


 だが、そろそろ良い感じに魔力も溜まってきたしきたし、大技といこうか。


 それにしても、あの薬は本当に凄いものだな。

 魔法少女で言うなら、100位程度から10位まで強くなる様なものだ。


 まあ、副作用的に使いたくはないが、最終手段として考えたら破格の効能だ。

 

「ふ。ふふふ。どうした? 私を殺すんじゃなかったのか?」


 もはや人とは呼べぬ顔を歪ませて、オルネアスは笑う。

 

 俺に一撃を入れられたことが、そんなに嬉しいのかね?

 

「ええ。もうそろそろ終わりにしましょう」


 2つの玉から円形の魔法陣を形成する。


 オルネアスから集めた魔力と、配給されている魔力をフルに使い、オルネアスの手足を魔法の鎖で拘束する。


 抵抗されて鎖が壊されるが、直ぐに補充する。

 魔力が使い放題だからできる、力技だろう。


 絶対に壊されない鎖を使っても良いのだが、1秒程度耐えてくれる鎖を大量に召喚した方が、コスパが良い。


 それに、下手な概念を詰めると、魔法は弱体化してしまうからな。

 この鎖も補助魔法使いなので、魔力が無制限に使えなければ、使う気にはならない。

 

 そして、この前の模擬戦の時のように、空中に魔法陣の層を作り出す。


「理を破りし罪なる者。道を外れし愚かなる者。積み重ねを捨てた悲しき者」


 オルネアスも流石にまずいと思ったのか、更に抵抗が激しくなり、背中の弓から矢が飛んでくる。


愚者フールの名の下に選定しよう」


 オルネアスを中心にして、結界を張る。その上には魔法陣が何重にも連なっており、詠唱が終わるのを待ちわびている。


輪廻の放浪者エンダーワンダラー


 魔法陣が眩く光り、1本の氷槍を打ち出し結界を貫く。


 そのままオルネアスを貫き、結界内を尖った氷が咲き乱れる。


 最後は結界と共に爆発して、氷槍に貫かれて肉片となったオルネアスだけが残った。


 念のために近づかず、様子をうかがう。

 魔物となったなら、塵となって消えるはずだが、消えずに残っている。


 まだ完全に魔物になりきっていなかったのか?

 

(反応はどうだ?)


『まだあるよ。だけど、どうしてこんな状態で生きていられるんだろう?』


(なら、燃やしてしまうか)


 玉を呼び戻し、辺り一面を燃やそうとすると、肉片が集まりだして、オルネアスが再生していく。


 ……気持ち悪いな。思わず詠唱が止まってしまった。


 ここまでやって死なないとなると、塵も残さず燃やすか、核となる部分を壊すか。


 そのどちらかだろうな。

 

 こんな面倒な相手ばかりなら、アルカナの力があったとしても、負ける可能性があるな。


 こちらは時間制限があるが、向こうは無制限だ。


 恐ろしいったらありゃしない。

 

「殺すんじゃなかったのかしら?」

「人なら確実に殺せたんですけどね」


(時間は?)


『2分半だよ』


 被害を度外視して炎系の魔法を使っても良いが、その場合ナイトメアにも被害が及ぶ。


 オルネアスは常に自分の背後にM・D・Wが居るように立ち回っている。


 上空から魔法を撃つのは問題ないが、下手に強力な魔法でM・D・W本体にダメージを与えようものなら、大変な事になる。


 今はナイトメアが頑張って魔物やM・D・W本体からの魔法や砲撃を捌いているが、こちらに来られたら少々面倒だ。


 1人なら全て吹き飛ばして終わりだが……。


 仕方ないが、あれをやるか。


(アクマ)


『――本当にやるの? そんなことをする位なら……』


 魔物に殺されるならともかく、俺の手で罪のない魔法少女を殺すのは忍びない。

 自ら進んで罪を重ねるほど、落ちぶれる気は今のところない。


 今はな。


(プランBの方だから安心しとけ)


 プランAは2人分のアルカナを開放する。

 使用後は反動で、間違いなく動けなくなるだろう。


 そして、プランBは解放状態で第二形態になる。

 どうなるかは全くの未知数だが、俺の勘がと言っている。


 魔法ではなくて、剣を使うから周りへの被害もほとんどない。

 

 それに2人分解放するよりは、マシな結果になるだろう。


『……無理はしないでよ』


 残念ながら、俺の感情は相当高ぶっている。

 この戦いに喜びを感じている。


 強者との死合い。圧倒的な理不尽。不利な状況。


 アクマに悟られないように押し殺すのは苦労する。


(善処するさ)


 2つの玉から炎の壁を出し、目くらましをする。


変身闇還


 高ぶっていた感情が引いていき、波1つない水面のように静かになる。


 そして、闇が俺を包み込んだ。

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