魔法少女ナイトメアは激辛派
昨日は多摩恵が暴走して大変だった……いっその事このまま逃げ出したいが、
ナイトメアと約束した時間より、少し早めに約束した場所で待機する。
宮殿と言うだけありかなり広いが、ここなら間違いなく分かるだろう。
「あっ、そこに居たのね」
「ここなら見晴らしが良いですし、簡単に見つけられるでしょう?」
思った通り、出会う事が出来たな。
ナイトメアがジャンプして、俺の隣に着地する。昨日の怪我は全て治っているみたいだな。
考えてみれば分かったことだが、この時期に観光客はほとんど居ない。
シーズン……夏だもんな。こんな冬で、寒い日に来る人間は居ない。
雪の積もり具合的にも、一般人では来る気にならないだろう。
まあ、人が居なかったのはそれはそれで良かった。
初めて来たが、確か20年程前に、ここも一度更地になったんだよな。
運悪くS級の魔物に魔法少女が負け、結界外に魔物が現れたのだ。
そして応援が駆けつけるまで魔物は暴れまわり、宮殿は瓦礫も残さず消し飛んだとか。
外観は元に戻せたが、中にあった美術品はどうしようもなかったみたいだ。
「でも、来てくれて良かったわ。あんな強い魔法少女に勝てるだもの。心強いわ」
あれだけの戦い様を見ればそう思うかもしれないが、この姿だと倒せてもB級までだ。
更に魔力の消費も激しいので連戦にも向いていない。
何もしていなければ魔力はアクマのおかげで自動的に回復するが、変身を解かない場合は回復速度が下がってしまう。
「残念ながら、私は魔法少女専門になるので、魔物との戦闘は期待しないで下さいね」
ナイトメアは一度驚く素振りをするが、直ぐににこやかに笑う。
「またまた冗談が上手いわね。あれだけ凄い動きが出来るのに、魔物と戦えないなんて、そんな訳ないじゃない」
「事実ですよ。実際に戦い様を見れば分かると思いますが、今日はどうするんですか?」
日本とロシアでは結構の時差があると思われるが、妖精の魔法。いわゆる謎技術によって、世界中の時差はほとんどなくなっている。
これについては科学で解明のしようがない為、そういうものだと思うしかない。
まあ、それを言ってしまうと妖精界やテレポーターとかどうなってるんだと言いたいが、魔法とはそういうものなのだろうな。
「後5分程すると、直ぐ近くにS級の魔物が出るから、先ずはそれを倒して、その後は来た順に倒していく予定よ。アヤメの事は助っ人とだけ説明してあるわ」
「そうですか。私はバックアップをしますので、メインはお願いします」
S級に負けることはないが、勝つことは不可能だ。
剣で斬ろうとしても斬れず、斬撃を飛ばしてもあまり意味がない。
感情が高ぶれば話は別だが、何もない状態ならそこら辺の魔法少女とあまり変わらない。
「むう、仕方ないわね。とりあえず行きましょう……おっと!」
ナイトメアは再びジャンプして飛び降りようとするが、足を滑らせて下に落ちていく。
滑った時の雪が、こちらにも飛んでくるが、障壁を出して防いでおく。
そそっかしい奴だな。
飛び降りても良いが、障壁で歩いて降りるか。
障壁を階段みたいにして出して、ナイトメアが落ちた場所まで歩いて行く。
「……何よそれ、ズルいわね」
「私の能力ですよ、それよりも、あまり時間が無いのではないですか?」
ナイトメアは立ち上がり、服に付いた雪を叩いて落とす。
頭にも雪が残っているが、戦っていれば落ちるだろうし、教えなくてもいいだろう。
「それもそうね。それじゃあ移動するから手を掴んでちょうだい」
スッと手を差し出されるか、どういう事だ?
『ナイトメアは闇の魔法で転移みたいな事が出来るんだよ。視界の範囲内にか移動できないけど、連続使用も出来て、複数人でもいっしょに使えるみたいだよ』
そういう事か。
他人に自分から触れるってのは、あまり好きではないが、仕方ないな。
仕方なく、ナイトメアの手を握る。
寒さや、さっき雪の上に落ちた事もあって、結構冷たい感じがする。
「よし、それじゃあ行くわよ!」
何度か視界が白くなったり黒くなったりと入れ替わると、広い雪原に出る。
「もしもし? 現場着いたから、結界をお願いね。魔力反応? ああ、私が言ってた助っ人よ、気にしなくて良いわ。それじゃあね」
ナイトメアはオペレーターに連絡を入れ、通話を切ると、景色が変わる。
見渡す限りの雪景色から草原に変わる。
「魔物はS級予定で、ドラゴン型みたいよ」
ドラゴン型か。ジャンヌさんと一緒にロックヴェルトの結界に取り込まれた時の事を思い出すな。
あの時グリントさんが助けに来なければ、丸焦げになっていただろう。
あの時は動画が取られてなくて良かった。あたふたしながら、走って逃げる様を見られるのは恥ずかしい。
「私が遊撃するので、メインはナイトメアさんで良いですか?」
「……分かったわ。誤射はしないでよ」
嫌々ながらもナイトメアは頷き、前に出る。
そして、大きな影が急に出来て、空から大きな何かが降りてくる。
そう、ドラゴンだ。
周りにはワイバーンと呼ばれる魔物も12体程飛んでいる。
『グリントに助けて貰った時のよりは小さいけど、眷属持ちみたいだね』
(眷属程度なら問題無いが、魔力の消費だけは注意しておこう)
ナイトメアに攻撃しようとするワイバーンに向かって斬撃を飛ばす。
斬撃の威力と魔物へのダメージが釣り合っていないな。
まあ、倒さなくても良いし、気楽に戦おう。
この程度なら倒すにしても、逃げるにしても問題無いしな。
双剣を構えたナイトメアがドラゴンの魔法を避けながら接近して行く。
前足の一撃を跳んで避け、翼を斬り裂く。
空中を跳んでドラゴンの反対側に跳び、反対側の翼も斬り落とす。
そして、暴れ回るドラゴンの目元に魔法で黒い靄を出して、目くらましをした。
ナイトメアにヘイトが集中しているが、攻撃しようとするワイバーンは俺が怯ませているので、ナイトメアは無傷だ。
(こっちの消費は結構あるな)
特に大技や消費の激しい行動をしていないのに、2割程度消費している。
回復する量を含めれば1割消費程度だな。
まずまずと言った所だろう。
一度着地したナイトメアは、暴れ回るドラゴンの攻撃を踊る様に避け、隙を見ては斬っていく。
最後は大振りの前足を避けて空に跳び上がり、交差させた双剣で首を斬り落とした。
綺麗に一回転しながら、ドラゴンに背を向けて着地する。
そう言えば、これって動画を撮られてるんだよな。
販売まで多少時間が掛かるし、仮にミカちゃんに見られてもその頃にはもういない。
だが、あまり派手な事はしない様に心掛けておこう。
「アヤメ! どうよ! 凄いでしょ!」
ナイトメアはドヤ顔でこちらにピースしてくる。
確かに魔法少女とすれば凄いが、ランカーとして考えると何とも言えないな。
双剣を投げてそのまま首でも落としてくれれば、驚いただろう。
「凄いですね。ついでにワイバーンの方もお願いします」
12体居たワイバーンの内で俺が倒したのは2体だけだ。
他は傷を与えられたものの、ピンピンしている。
「しょうがないわね~。デモンズワルツ!」
空中に4本の黒い剣を浮かべ、踊るようにワイバーンを斬り裂いていく。
中々様になっているな。見ていて飽きないし、俺としては楽が出来て良い。
全てのワイバーンが塵になり、結界が解除されて雪原に戻る。
そうだ、ナイトメアに行っておく事があったんだった。
「ああ。忘れてましたが、私の報酬はいらないので、全てそちらで受け取って下さい」
「えっ? いや、ちゃんと報酬は分けないと駄目でしょ! 何言ってるのよ!」
「私は未登録なので、口座が無いんですよ。確かめてもいいですよ」
そう言えば、ランカーも個人行動を控えるように言われてると、アクマが言っていたが、どうしてこいつは1人で居るんだ?
端末を操作したり、どこかに電話を掛けたりした後にこちらを見る。
「ほ、本当に未登録なのね。でも、悪さをしている魔法少女を倒したりしているみたいだけど、どうして?」
「そういう契約なだけです。私の事はいいので、次に行きましょう」
なぜだか悲しげにしているナイトメアを急かして、次に向かわせる。
A級を3回。S級を4回追加で倒すと、昼時になる。
A級はナイトメア1人に任せ、S級は手伝って倒す。
最終的に7割程度の魔力を残して午前の戦いが終わった。
「しかし、本当にこの前とは違って微妙ね」
「だから言ったでしょう。魔物にはあまり役に立たないと」
魔力を節約しているのもあるが、消費魔力と威力が釣り合わない。
ついでに、魔物相手だとやる気も出ない。
ナイトメアが持っているランカー用のテレポーターで妖精界にテレポートして、適当な店で昼食を済ませる。
ロシア人と日本人という事で、お互いに食べたいものが異なるが、間を取ってカレーを食べる事にした。
因みに俺は甘口でナイトメアは激辛を頼んだ。
別に中辛や辛口を頼んでも良いのだが、この後も討伐があるので、甘口を頼んだ。
決して子供舌だからではない。
「午後も討伐の続きですか?」
「そうよ。本当ならもっと楽が出来ると思ったんだけど……」
今の俺は一般の魔法少女と変わらないからな。日本のランキングで言えば50位だろうか?
「なら食べ終わったんですし、早く連絡をして、次の討伐を回してもらって下さい」
「分かってるわよ。――もしもし? 休憩終わったから、次をよろしくね えっ?」
オペレーターと通話を始めたナイトメアが嫌そうな顔をする。
何か問題でも起きたか?
「うーん、分かったわ。後で行くって伝えといてね」
「何かあったんですか?」
「勝手に外部の力を借りたから、トップがお怒りみたいなの。後で顔を出せって怒ってるみたい」
何だ、自業自得なら気にしなくて良いな。
ロシアの1位は俺と同じ魔法系だった記憶があるな。
時代の関係もあると思うが、ランカーの1位や2位には魔法系の魔法少女が、多い気がする。
ブレードさんみたいなチートな奴も居るが、武器系の魔法少女だと殲滅力が下がってしまう。
相手が1体の場合は武器の方が良いが、俺が前戦ったM・D・Wなんかだと、魔法系の方が良いだろう。
まあ、日本のランカーはロボットに乗ってたりレールガンを装備してたりと、他の国に比べると癖が強いが、1位と2位は魔法系だ。
正直、魔法系と一括りにして良いのか微妙だが、どうせ俺が適当に呼んでいるだけだ。
「そうですか。それじゃあ、次の討伐に行きましょうか」
「……少しくらい慰めてくれても良いのに」
再びロシアに戻り、討伐を再開する。
本来なら妖精界で待機して、要請があったら出動するのだが、魔女のせいで魔物が増えた結果、そんな悠長な事を言ってられなくなった。
日本と違い、他国はS級以上も結構出ているため、ランカーが走り回らなければいけない程出現している。
更に破滅主義派によってランカーが殺されており、1人当たりの討伐量も増やさなければならなくなっている。
だが、ナイトメアは本当にランカーなのか?
そんな疑問が浮かんできた。
A級は瞬殺出来るし、S級も問題なく倒せているが、強者の様な圧がない。
強化フォームになったとしても、SS級以上を倒す事は出来るのだろうか?
どうせ今回限りの付き合いだから構わないが、後で少し調べてみるか。
「あれ? こんな所に誰か居るわよ?」
ナイトメアと共に数度討伐をし、結界が解けると誰かが……いや、オルネアスが居た。
結界を解けるのを待っていたのか……。
(反応は?)
『オルネアスだけみたいだね。他の反応はないけど、妙だね』
あれだけ一方的に負けておいて、次の日に再戦なんては普通しないだろう。
オルネアスはこちらにゆっくりと歩いてくる。
相手がオルネアスだと分かると、ナイトメアも双剣を構えて、目を細める。
「昨日ぶりだね。ナイトメアとイニーフリューリング」
「私はそんな名前ではないですよ。それで、殺されに来てくれたんですか?」
オルネアスは鼻で笑い、結晶のような物を砕くと結界が張られる。
雲に覆われた空と、荒廃した廃墟が広がる風景。
まさか……。
「今回は全てが特別製よ。逃げるつもりも逃がすつもりもないわ」
オルネアスの後方に、超大型の魔物が姿を現す。
それは、俺が始めて倒した
いや、この感覚だと、あの時より更に階級が上のように感じる。
「マザー・ディザスター・ウォール……」
ナイトメアが顔を蒼白とさせて、呟いた。
そう。M・D・Wが再び俺の前に姿を現したのだ。
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