魔法少女アロンガンテの奮闘(郷愁)
妖精界に在る、魔法局総本部。
アロンガンテは複数の妖精や、魔法少女たちを連れて訪れていた。
アロンガンテは起きた後に、ゼアーに仕事を任せ、その間に全ての証拠の精査と、各種関係に連絡をしていた。
そして、やっと全ての準備が整い逮捕に乗り出したのだ。
「全職員に告げます。5分以内に出て来なければ、建物ごと吹き飛ばします」
アロンガンテはレールガンを構えて、魔法局総本部に向ける。
妖精の1人が名前と罪状を読み上げていく。
殺人以外の犯罪は全てやったと言わんばかりの罪名が連なっており、やじ馬で集まった者や、ニュースキャスター等が顔を顰めたりする。
ここまで堂々とやられてしまえば、魔法局幹部たちが取れる手段は限られてしまう。
逃げるか、投降するか。
このどちらしかないだろう。
「どうするんだ! このままでは捕まってしまうぞ!」
アロンガンテが来た時に、丁度幹部たちは会議の為に集まっていた。
いや、会議をしているのを知っていたから、この時間にアロンガンテは来たのだ。
「もはやこれまでか……」
「くっ、たかが魔法少女の癖に。我々が居なければ魔法局が潰れると分かっていないのか!」
ここに集まっているのは、各国にある魔法局本部の局長や、この総本部の幹部たちだ。
組織として、上層部がごっそりといなくなれば、混乱してしまうだろう。
「残り3分です!」
一部の無関係の職員たちは既に外に出て、妖精や魔法少女に保護されている。
アロンガンテは空に向かって威嚇射撃を行い、残ってる人を威圧する。
一般人ではどう足掻いても、魔法少女には勝てない。
魔法少女を倒すには、同じ魔法少女をぶつけるか、魔物を使うしかない。
しかし、今の人類には魔物を作ったり、制御する方法がない。
だが、1人だけそれが可能な人物が居る。
「止むを得ないか……だが、ただでは終わらせない」
捕まったら最後、再び表に出る事は出来ないだろう。
それほどまでに、重ねた不正が多いのだ。
だから、最後の手段に出る事にした。
魔女と取引をした男は、懐から魔石を加工した物を取り出す。
「おい、それは何だ?」
「捕まったら最後、我々は死刑になるか終身刑のどちらかだ。ならば、こうしてやる!」
男が魔石を砕くと煙が立ち込め、大きな黒い影が建物を壊しながら現れる。
「なっ! お前一体!」
「逃げろ! 巻き込まれるぞ!」
直ぐに逃げ出そうと建物の外に向かうが、魔物の出現する速度の方が早く、瓦礫に押し潰されてしまう。
「馬鹿な! なぜ妖精界に魔物が! 総員退避! 20位以上の魔法少女は 避難誘導をお願いします」
指示を出したアロンガンテは武装を展開し、魔物目掛けて飛んでいく。
その時のブースターの余波で、アロンガンテの近くにいた妖精は吹き飛び、そのまま逃げて行った。
(他の建物のまで距離はありますが、私だとどうしても被害が出てしまいそうですね……)
現れた魔物は20メートル程の大きさがあり、ロボットの様な見た目をしている。
これ程の大きさになれば、高周波ブレードだけで戦うのは無理があり、レールガンを使わなければならない。
そうなれば、どうしても周りに被害が出てしまう。
『こちら妖精局オペレーター。ただいま結界の準備をしてるので、3分ほど耐えてください。また、魔物の階級はSS級以上だと思われますので、注意してください』
耐えるだけなら簡単だろう。
だが、早く倒さなければ被害は広がり、今回矢面に立っているアロンガンテの仕事が増える。
そして、倒すためにレールガンを使えば、それはそれで被害が出て、仕事が増えてしまう。
ある意味では詰んでいる状態だった。
だからと言って手をこまねいて見ているわけにもいかない。
(仕方ありませんが、一気に片付けてしまいましょう)
アロンガンテはチャージしたレールガンを魔物に向かって撃つ。
威力としては最大の2割ほどだが、どれ位の威力なら被害を出さないで倒せるかを、確認する意味も込めた攻撃だ。
魔物を貫くと思われた弾は、魔物の出した半透明の障壁に弾かれる。
アロンガンテに攻撃された事で、魔物はアロンガンテを敵とみなし、咆哮を上げる。
無数の魔法陣が魔物の周りに現れ、そこからミサイルがアロンガンテに向けて発射される。
アロンガンテは空を駆けながらミサイルを迎撃するが、追加でビットの様な小型の魔物も召喚され、周りの被害が増えていく。
ほんの数十秒で魔法局総本部があった所は跡形もなく消し飛んでしまった。
「セット! エクステンドショット! ミラージュショット!」
範囲攻撃に特化した弾を撃ち出し、なるべく被害が出ない様に、ビットとミサイルを落とす。
(――諦めて最大出力で倒すしかなさそうですね)
どの方向から魔物に攻撃しても、障壁に拒まれてしまい、ダメージを与える事が出来ない。
アロンガンテは被害を抑える事を諦める事にした。
アロンガンテは強化フォームに変身し、一気に周りのミサイルやビットを破壊して体勢を整える。
そして、レールガンのチャージを開始し、発射しようとしたその時だった。
魔物の頭部から股下に掛けて一本の線が入り、左右に分断される。
そして、ミサイルやビットが消え去った。
「おう。助けに来てやったぜ」
「ブレードでしたか。助かりました」
たまたま救援に駆け付けたブレードが、一太刀で魔物を倒してしまったのだ。
ブレードは強化フォームになっており、いつもは剣と刀の二刀流だが、今は幾何学的な模様が描かれた、1本の長剣を携えていた。
被害の事を考えてナイーブになっていたアロンガンテは、ブレードのおかげで予想よりも被害を出さずに魔物を倒せたことで、胸を撫でおろす。
(ブレードが来なかったら、また徹夜する事になりましたね……)
「しかし、今の魔物はどうやって現れたんだ?」
「恐らくですが、魔女と繋がりがあった魔法局の幹部が召喚したと思われます。ただ、全員死んでしまいましたので、詳細は不明ですけどね」
瓦礫の山の大半は消し飛び、クレーターの跡が広がっている。
魔物が現れた時に、建物の中に居た人間は生きていないだろう。
今回集まっていた人間をアロンガンテは全員把握しているのだが、数人は罪の無い人間も居た。
そして、その中には政府関係者も数名居たため、一部の国では混乱が起こるだろうと危惧する。
「一気に上層部が居なくなったが、魔法局は大丈夫なんかね? 私たちには関係ないけど、困る奴も居るんじゃないか?」
「既に手は打ってあります。勿論魔女の方もです。ですが、各国の政府については私ではどうしようもないですね」
マリンやスターネイル。その他にも数名の魔法少女と魔法局の関係者を引き抜いて作った、対魔女用組織。
完璧に準備は出来ていないが、既に軌道には乗り始めていた。
後はイニーを捕獲して、組織名を決めれば正式に活動を開始する事が出来る。
それまでは、いなくなった魔法局の幹部達の代わりに、妖精局と連携して代わりを務める予定だ。
指揮はアロンガンテの姉である白橿ミナトがとり、アロンガンテは新組織の指揮を執る予定だが、当面の間、魔法局関係はアロンガンテが纏める予定である。
「そうか。とりあえず問題無いなら構わないさ。それじゃあ私は行くから、後は宜しく」
「分かりました。それとですが、報告書を後で出して下さいね」
ブレードはアロンガンテに背中を向け、ひらひらと手を振りながら去って行った。
アロンガンテが辺りを見渡し、被害状況を確認していると、端末が鳴る。
『此方妖精局オペレーター。魔物の消滅を確認しました。魔物が出現した原因は分かりますか?』
「破滅主義派に加担していた、魔法局幹部が召喚したものと思われます」
『分かりました。詳細は後で報告書を上げて下さい』
通信を切り、直ぐに姉に電話を掛ける。
『珍しいわね。どうかしたの?』
「使う予定だった人物を含め、魔法局幹部が全員死にました」
アロンガンテは今起こった事を話し、これからの事を相談する。
白橿は話を聞いていく内に機嫌を悪くしていった。
『チッ、運が悪いわね。分かったわ。そっちは引き続き頼むわね。こっちは魔法局と組織を纏めておくわ』
「分かりました。それと、イニーの件はなるべく早くお願いしますね」
『イニーについては運次第でしょ? 先ずは会わない事には始まらないわ。頑張りはするけど、期待はしないでね』
通話を切り、アロンガンテは自分の執務室に向かう。
先日ゼアーが手伝ってくれたとはいえ、まだまだ書類の山は残っている。
それを片付けながら、組織にも指示を出さなければならない。
(はぁ、イニーの回復魔法が欲しいですね)
アロンガンテはふと、イニーに掛けて貰った回復魔法事を思い出す。
集団新人研修の日の前日に、徹夜で仕事をしてたため、目元にくっきりと浮かび上がる程の隈を携えて、アロンガンテは学園に行った。
万全ではなかったがS級程度なら負ける事は無い。
負ける事は無いが眠くて体は重く、残っている仕事についてや次の仕事について考えを巡らせていると、イニーに話しかけられた。
イニーの事はタラゴンから聞いていたが、アロンガンテが最初に受けたイニーの印象は、とても不気味な少女だった。
暗く濁った眼はまるで全てを諦めているように見えた。
そして、見た目は幼いのに、まるで社会人の様な言葉使いや所作。
あまりにもちぐはぐしていたのを、今も覚えている。
そんな事を思っていたアロンガンテを、イニーは回復してくれた。
回復魔法を使える魔法少女は、魔法少女1人1人、出来る事が違う。
基本的には全員が外傷を治せるが、病気を治すのが得意な者や外傷を治すのが得意な者に分かれる。
そして、精神系の疾患――疲れなどを癒せる魔法少女はこれまで現れなかった。
回復魔法を使える魔法少女自体が少ないのもあるが、回復魔法は消耗が激しいと知れ渡っている。
その為、前線で戦う魔法少女を優先して回復する。
仮にその中に、精神を癒せる魔法少女が居たとしても、傷ついた身体を癒す方が先決だ。
優先度の問題もあるが、多少精神に異常があっても、肉体が問題無ければ戦える。
一時期はもっと過酷だったが、楓が台頭してからは徐々に良くなってきていた。
しかし、回復魔法の素養がリンネから知らされてからは、魔法少女たちの間に微妙な空気が漂うようになった。
潜在的に、回復魔法を魔法少女を使える魔法少女は、敵になる可能性がある。そう思ってしまうのは、仕方ない事だろう。
そう思ってしまったとしても、回復魔法はなくてはならない。
もしも回復魔法を使える魔法少女を迫害し、破滅主義派に所属でもされてしまえば、それだけで不利になってしまう。
回復魔法の使い手で、もっとも有名であるジャンヌが寝返る事は無いと断言をしたが、それは楓が居る間だけだ。
運悪く楓が戦死でもしようものなら、人類は魔女に敗北する確率が大幅に上がる。
――いや、楓が死んだ時点で、終わりとなるだろう。
テレポーターを経由して、アロンガンテは自分の執務室に帰って来た。
「さて、やりますか」
アロンガンテは椅子に座り、買って置いた栄養ドリンクを片手に、再び仕事を始めるのであった。
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