魔法少女は……イニーフリューリングは過去を清算する

「来て……くれたの?」


 間に合った……とは言えんな。


 だが、最悪の事態だけは避けられたみたいだ。


慈悲なる回復をハイヒール


 スターネイルの両腕を元通りにし、少し離れているマリンの傷も治しておく。


 腕は元通りに出来たが、失った血は元に戻せない。

 そのためスターネイルの顔は青白くなっている。


 まあ、戦わせないで安静にさせとけば大丈夫だろう。


『少し時間が掛かったけど、無事に侵入が出来たね。フールに感謝って所かな』


 アクマ1人分のリソースでは結界の位置を割り出せても、侵入するには力が足りなかった。

 だが、フールの分のリソースもあり、多少時間が掛かったが、何とか侵入する事が出来た。


 やはり、力とは良いものだ。

 

(そうだな。あいつには感謝しておこう。それはそうと肩慣らしも兼ねて折角だし、アクマの能力を使ってみようと思が、大丈夫か?)


『大丈夫だよ。第二形態になるわけにもいかないし、一度は試しといた方が良いだろうからね』


 それは上々だ。


 さて、邪魔になるスターネイルとマリンには早く離れてもらおう。


「ありがとう。でも……」

「良いんですよ。あなたには借りがありますからね。なるべく離れていて下さい」

「借り?」


 おっと、口が少し滑ってしまったな。

 正直な所、バラしても良いのだが、今夜の夕飯を食べる為にまだ黙っておこう。


「イニー!」

「久しぶりですが、まずはあれを倒すとしましょう」


 魔法によって吹き飛ばし、氷塊によって押しつぶしたはずだが、氷塊は割られ、魔物と人が融合したような者が姿を現す。


 あれがあのブルーコレットね~。


『……あれは魔女の薬だね。使用者に圧倒的な力を与えるけど、最後は魔物にしてしまう、恐ろしい薬だよ』


 (何とも恐ろしい薬だな。他には何かあるか?)


『能力の上昇幅はバラバラだけど、最低でもSS級程度はあると思った方が良いよ』


 最低って事は、大体それ以上は強いってわけだな。


 魔物の力と魔法少女の魔法。少々面倒な敵だ。


(最後に確認だが、助ける方法はあるのか?)


 元とは言え、仲間だった者が死ぬのを見せるのは酷だろう。


『私たちは、誰1人として助けられなかったよ。それに、あの薬は自らが望まないと意味を成さないんだ』


 自業自得の結果ってことか……。


 そして、助けられなかったってことは、助ける方法が無い事を意味する。


 まあ、なんだ。向こうは一度俺を殺しているんだ。


 殺されても、文句はないだろう。


「今のは少し痛かったわね。久しぶりね。イニーフリューリング」

「私に魔物の知り合いは居ませんよ」

「ハッ! 言ってな! あんたはずっと気に食わなかったのよ!」


『攻撃には当たらない方が良いよ。あれは私たちに直接ダメージを与えてくるからね』


 捨て駒の突撃兵と言った所か。面倒な奴だな。


(了解)


「先輩」

「分かってるわ!」


 ブルーコレットは俺に突撃してくるが、間にマリンが入って、槍を受け止める。


 俺はその場から飛び、空中から魔法を放つ。


 俺が結界に侵入した時、マリンは結構危ない状態だった。

 マリンが本当に殺す気なら勝てる気もするが、この歳で殺しは流石に無理だったのだろうな。

 

 それに、相手は知らない仲ではない。


 どうせ、殺さずに倒そうとしたのだろう。

 

 甘ったるい奴だが、そういう優しさも魔法少女には必要だろう。


 ついでだし、この先ブルーコレットの様な魔法少女を相手にしなければならないなら、この状態でどれ位戦えるかを確認しておこう。


 アルカナの力を使えば簡単に殺せるだろうが、この先も常に力が使えるとは限らないからな。


 ブルーコレットは苛立っているのか、顔を歪ませて、俺の魔法やマリンの攻撃を避ける。

 

「本当に面倒ね。イライラするわ……お前らが……オマエがいなければ……」

 

 ブルーコレットの背中に新たな翼が生えて両翼になり、角も増える。

 手足に見える紋様が禍々しく光り、人の姿からかけ離れていく。


『もう、魔物とほとんど一緒だよ。下手に知性がある分、魔物より厄介かもね』

 

 これは、様子見をしない方が良さそうだな……。


 全く、どうして予定通りに事が運ばないんだ……。


「マリン。スターネイルを連れて離れて下さい」

「嫌よ! 私も戦うわ」

「彼女が普通ではないのが分るでしょう? あれは私の獲物です」


 魔物で例えればイレギュラー測定不能と言った所だろう。


 まともに相手すれば、あっという間に殺されてしまう。


 マリンは一瞬俯くが、すぐに顔を上げる。


「分かったわ。ただし、終わったら何でいなくなったか、ちゃんと話してよね」

「善処します」


 善処はするさ――逃げるけど。

 

 マリンは2本の刀を掲げ、1本の光輝く大きな刀に変化させる。

 

「終ノ太刀・滅光!」


 刀をブルーコレットに振り下ろすと土煙が舞い、地面に大きな傷跡を残す。


 大技を使った反動でマリンの強化フォームが解け、通常形態に戻る。

 

 そして、マリンはスターネイルを連れて離れていく。


 一瞬だけスターネイルと、視線が合った気がするが、気のせいだろう。


 それにしても、今のマリンとは戦いたくないな……。


『ほぼノーダメージっぽいね』


 世間ではああ言うのをチートとかって言うらしいが、正にその通りだな。


 だが、安易に手に入る力には代償も付き物だ。


(ぶっつけ本番だが、頼んだぜ)


『任せてよ! ある意味、初めての共同作業だね!』


 それはちょいと違うと思うんだがな……。


「ナンバー15フィフティーン悪魔アクマ解放リリース


 杖が光輝き、ガラスの様に砕け、中から歪んだ形をした、長い棒が現れる。


 それを掴むと、先から曲がった刃が現れ、大鎌になる。


 白いローブは赤と黒に染まり、ボロボロと崩れていき、所々に鎧のようなものが生成される。


 ……愚者の時もだが、これは悪魔と言うよりは、死神だな。


 だが、救いの無い魔法少女を殺すにはちょうど良い。


「来なさい。私の嫌いな魔法少女」

「殺シテやる!」


 ブルーコレットは背中の翼を羽ばたかせて空を飛び、槍を振るう。


 一撃振るわれる度に空間が歪み、紫電の様なものが奔る。


 それを鎌を使って全て防ぐ。

 いつもなら筋力の関係で接近戦など無理だが、このフォームでは可能みたいだ。


 だが、武器をもっているとは言え、俺の本領は魔法だ。


戯れの嘘フォールアウト


 ブルーコレットの頭上に魔法陣を展開し、黒い弾を発射する。


 何発は弾かれるが、当たった弾は、ブルーコレットの体内に入っていく。


「うぐっ……。なにヲした!」

「さて、何でしょうね?」


 ブルーコレットはがむしゃらに槍を振るうが、徐々に動きが悪くなっていく。


 使ってみて分かったが、悪魔の能力は燃費が悪いが、強力だな。

 魔力の供給がなければ数回魔法を使うだけで、ガス欠になりそうだ。


 戯れの嘘フォールアウトは対象の魔力を奪い取り、ついでにかき乱す魔法だ。


 そして、奪い取る魔力は魔法に込められた魔力によって決まる。


 通常の魔法少女なら、1発当たっただけで魔力が無くなり、変身が解ける程だ。


 更に魔力の流れも阻害する。


 ブルーコレットは、さぞかし辛いはすだ。


(解析は出来てるか?)

 

『一応してるけど、やっぱり駄目だね。この薬は人を根底から魔物に作り変えてるみたいだよ。今のハルナでも、元に戻すのは不可能だ』


 ――やはりか。


 悪魔の能力なら或いはと思ったが、無理か。


「なぜ、ナゼ邪魔をする! わたしがナニヲした!」

「なにを……ですか」

 

 忘れているのか、それとも気にしていないのか。

 まあ、俺の感傷などどうでもいい。既に榛名史郎は死んでいるのだからな。

 

 そんな姿になってまで力を求めて、一体何を望んだのか分からないが――そろそろ、お別れといこう。


 今の俺にとって、この程度の相手は敵ではない。


 折角だ。冥土の土産をやろう。


を殺しておいて、その言いぐさですか」

「エッ?」


 ブルーコレットが一瞬驚き、隙が出来る。


悪魔の笑いはインカネーション滅びを誘う・アライズ


 2本の槍を弾き飛ばし、ブルーコレットを鎌で斬り裂く。


 ブルーコレットの四肢から力が抜けていき、地面に墜落していく。

 土煙が舞い、ブルーコレットの翼や角が砕け、元の姿に戻る。

 

 回復してやることは出来ない。

 

 いや、回復しても無駄なのだ。


 魂を浄化して殺す技。それが、悪魔の笑いはインカネーション滅びを誘う・アライズだ。


 俺がやれるのは、魔物としての死ではなく、人として死ねるようにしてやることだけだ。


 魔法も、万能ではないのだ。


 ブルーコレットの横に降り立つと、顔をこちらに向ける。


 驚いた表情をした後に、僅かに笑った。

 

「ねぇ。あんたって、あの時公園にいた人?」


 ほう。まさかその可能性を。その事をちゃんと覚えていたのか。

 

「ええ。訳あって男からこんな姿に変わりましたけどね」

「そう……」


 ブルーコレットは咳き込んで、血を吐き出す。後数分位で死ぬだろう。

 

 初めて人を殺したが、思いの外何も感じないな。

 相手がブルーコレットだからなのか、もしくは魔法少女だからなのか……まあ、どちらでも構わない。


 これからの事を考えれば、良い事かもしれないが、やはり俺は壊れているのだろうな。

 

「言い残すことはありますか?」

「わたしは……謝らないわよ……あんたがあそこに……居なければ……」

「そうですか。それでは、さようなら」


 スターネイルとマリンがこちらに向かってかるのが見える。


 時間が経てば、この結界も消えるだろう。


 アルカナの力を解いて、俺は先に結界から逃げ出した。


 微かにマリンの声が聞こえたが、ここは逃げておく。


 結界から抜け出して時間を確認すると、16時となっていた。


 止んでいた雪が、また降り始めている。


 良い頃合いだし、もうそろそろ帰っておくか。

 

『大丈夫?』


(大丈夫って何がだ?)


『初めて人を殺したからさ。気持ち悪くなったりしてない?』


(大丈夫だよ。それより、あの薬って他の世界でも使われてたのか?)


 アルカナの力を使えば余裕だが、あんな化け物が大量に現れれば、流石に勝てない。


『それなりの数が使われていたね。特に、幹部連中は全員持ってるよ。ブルーコレットは元が強くなかったからあの程度だったけど、ランカークラスがあの薬を使うと、とんでもなく強くなるよ。諸刃の剣だから、死ぬ間際でしか使わないけどね』


 なるほど。これだけの力があっても勝てなかったのは、それが原因の1つなのか。


 本当に魔女は多彩だな。


 ランカー並みの部下が居て、そこら辺の魔法少女すら、SS級以上の魔物に変異させる事が出来る。

 魔物の召喚も制限はあるだろうが、やりたい放題だ。


 これに勝てって言うのだから、そりゃ諦めたくもなるだろうな。


 大晦日なのに、無駄な時間を過ごしてしまったな。


 多摩恵の家に転移して、変身を解く。


 アクマのアルカナとしての力を使ったのは、大体4分程度だったが、少し身体が軋むな。


 1日寝れば大丈夫だろうが、アクマの言っていた5分を越えて戦うのは得策ではなさそうだ。


 合鍵を使い、家の中に入る。暖房を入れてその内帰ってくる多摩恵の為に、ココアを淹れる準備をする。


(2人の反応は?)


『魔法局っぽいね。無事に帰れたみたいだよ』


 それは良かった。


 自分用にココアを淹れ、リビングのソファーに座る。


 少し甘めにしたココアを飲み、今日の疲れを癒やす。


 そっと目を閉じると、意識が遠のいていく。

 

『もう。意地なんて張っちゃって……私だけは、いつまでも味方だからね。ハルナ』

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