魔法少女と捕らわれた2人

『良い感じの時間だよー』


 朝か。良い感じって何時だよ……。


(今何時だ?)


『6時だよ。少し早めに起こしました』


 冬の6時はまだ日が昇ってないから暗いな。


 そして、多摩恵はなんで俺に抱き着いてるんだ?

 抱き枕か何かと勘違いしてないか?

 多摩恵の腕の中から抜け出して、布団から出る。


 体感で8割程回復した気がするな。


(体調も問題無さそうだな。多摩恵が出かけたら、俺たちも出よう)


『了解』


「うん? もう朝?」

「はい。6時になります」

「6時? ……少し早いけど、起きるかな」


 多摩恵は起き上がり、着替え始めたので部屋から出てリビングに行く。

 俺が居るのに当たり前の様に着替えるの止めてくれませんかね?


 あたたかい飲み物でも作って待つとしよう。


 それにしても、ほうじ茶があるなら、珈琲もあっていい気がするんだがな……。

 無いものは仕方ないし、ココアで良いか。

 朝のニュースはどうなってるかな?

 

 テレビを点けて少しすると、多摩恵が2階から降りて来た。

 

 まだ眠いらしく、目を擦っている。

 

「あっ、ココア淹れてくれたんだ。ありがとう、直ぐに朝ごはん作っちゃうね」

「構いませんよ」

 

 ニュースは魔物の被害と俺の事ばかりだな。


 しかし、このままだと一般人や魔法少女に被害が出る一方だな。


 個人的に気にならないが、フールに助けてもらった借りとして、多少は正義らしい行動をとってやるか。

 

 G~B級位なら瞬殺できるので手間ではない。


 そして、移動と索敵はアクマが肩代わりしてくれるので、やろうとすれば1日で大量の魔物を倒す事が出来る。


 B級以上は結界に侵入する関係で、俺の存在が見つかってしまうので倒せないが、それ以下なら通常の魔法少女数十人分の働きを俺1人で出来るだろう。


 何なら魔力をアクマが供給出来るみたいなので、俺の体力が続く限り戦う事も出来る。

 

(今日は雑魚狩りと言った所かな?)


『了解。それと、解放中は常に魔力が供給されるけど、通常時は供給に少し時間が掛かるから注意してね』


 魔力量自体は元々多いから、無くなる事は早々ないだろう。

 これまで魔力が足りなくなったのは強敵ばかりだ。

 通常時で待つくらいなら、一瞬だけ解放してしまった方が良い場合もありそうだ。


「お待たせ。うどんにしようと思ったけど、夕飯がうどんになるから雑炊にしたわ」


 そう言えば夕飯はきつねうどんの予定だったな。

 別に同じ物でも良いのだがな。


「それじゃあ食べよっか」

「はい。いただきます」


 鍋は一日置いたことにより、味に深みが出ていてとても美味かった。


 雑炊を食べ終えて、多摩恵はお弁当を作った後に出かける準備を始める。

 

「それじゃあ行ってくるね。お昼には一旦帰ってくるから」

「私も出かけるので、お昼は帰ってこなくて大丈夫です。夜には帰ります」


 多摩恵はすこしだけ悲しそうな顔をする。


「うん、分かった。えーっと、これ合鍵ね。出かける時はちゃんと鍵を掛けてから出かけてね」

「わかりました」

「それじゃあ、行ってきます」

 

 多摩恵は簡易テレポーターを使わず、そのまま出かけて行った。


 雪は止んでいるが、大分積もっているな。


(それじゃあ、俺も出るとするか)


『ほいほい。一応注意点だけど、魔法を使えば流石に捕捉される可能性があるから、なるべく一撃で魔物を倒して、直ぐに離脱できるように注意してね』


 倒し方は、最初の頃と同じようにやれば良いって訳だな。


 念の為に、更に早く倒す様、心掛けた方が良いだろうな。


 ついでに、どこかで珈琲を飲んでおきたい。


 仕事前は一杯の珈琲を飲んでからの方がやる気が出る。


「変身」


 髪が白から青に変わり、可愛らしいパジャマから白いローブ姿に変わる。


(さあ、戦いの時間だ)

 





1





 家から出た多摩恵は北関東支部に向かい、朝の打ち合わせを天城や白橿、マリンと行う。


 昨日はこれと言った痕跡を見つける事が出来ず、情報らしい情報も集まらなかった。


 天城も白橿とは違う伝手を使って情報を集めようとしたが、有名でもない魔法少女では情報らしい情報は集まらなかった。


 有名ではなく悪名ならあるのだが、ここ最近の騒ぎに呑まれ、ブルーコレットについて報道していた者たちは、イニーや魔女に掛かりきりとなっている。


「此方も各方面に当たってみたが、それらしい情報はなかったよ。それに、魔物による被害も増えてるため、魔法少女による被害か、魔物による被害かを気にしてられないらしい」


 天城は昨日話せなかった事を話すが、白橿と同じく何も情報を得られなかったことを話す。


「闇雲に探すしかないって事かしらね……」


 スターネイルとマリンを帰した後、白橿は夜遅くまで情報収集を続けたが、天城と同じ結果となった。

 

 分かっているのは、ブルーコレットが最後に魔物と戦った場所位だった。


「昨日は群馬の東部と茨城全域を探してみたので、群馬の西部から栃木に掛けて探してみようと思います」

「そうか。何か手助け出来れば良いのだが、すまない」


 時間もなく、情報もない。

 

 その事を、天城は謝る事しか出来なかった。


 打ち合わせも終わり、スターネイルとマリンが部屋から退出しようとすると、天城の端末が鳴る。


「どうした? ――それは本当か! マリン、ちょっと待ってくれ」

 

 天城は通話相手から伝わった情報に驚きながら、マリンを呼び止める。


「どうかしたんですか?」


 急に大声をだした天城に、マリンは少し驚く。


「イニーフリューリングが活動を再開したみたいだ。それも、途轍もない速さで魔物を倒しているそうだ」


 新魔大戦の日から行方を晦ましていたイニーの活動の再開。


 これには天城は勿論、他の3人も声を出して驚く。


「どこですか! イニーはどこに居るんですか!」

「落ち着いてくれ」


 マリンは天城に詰め寄り、机を両手で叩く。


 その表情には鬼気迫るものがあり、天城はたじろいてしまった。


「ごほん。今聞いた話では、イニーフリューリングの反応は日本だけではなく、世界中で観測されているらしい。しかし、反応は一瞬だけで、直ぐに消えているそうだ」


 イニーが転移――空間系の魔法を使える事は知られている。


 見つかったからと言って、常にその場所に居るなんて事は、有り得ない。

 その事にマリンは思い至り、苦々しい表情をする。

 通常の手段では、イニーを捕まえるのは不可能に近いのだ。


 そして、結界すら意味を成さない事を、マリンは身をもって知っている。

 

「そうですか……。教えて頂きありがとうございます。それでは、ブルーコレットを探しに行ってきます」

「ああ。ブルーコレットの件が済めば、何か方法がないかこちらでも考えてみよう」


 マリンは天城に軽く頭を下げ、スターネイルと共に局長室を後にする。


「ねえマリンちゃん」

「何ですか?」

「マリンちゃんから見てイニーフリューリングって、どんな子なのかな?」


 どんな子か……。


 命の恩人であり、学園でのパートナーであり、目標である。


 そして、大好きな人である。


「なぜ急にそんな事を聞いたんですか?」

「今更だけどM・D・Wの時に少し思う事があってね。マリンちゃんって親しいらしいから気になって」


 先程のこともあるが、何より、風瑠に言われたことが、スターネイルは引っかかっていた。


 スターネイルは自分でも分かっているのだが、M・D・Wの時に、イニーにかなり迷惑を掛けていた。


 あの時のスターネイルは一般人を巻き込んだ事件の事をかなり気にしていたり、味方であるブルーコレットたちと別れたせいで、まともな状態とは言えなかった。


 通常なら動けなくなるような怪我を、イニーにさせてしまうミスや、その後のM・D・Wの本戦でも役に立たず、マリンやタラゴンに助けて貰う形になった。

 

「そうですね。小さくて感情を表すのが下手なのに妙に強くてカッコ良くて、見ていて放っておけなくて、顔が綺麗なのに、その顔に似付かわしくない眼をしているの。多分、昔酷い事があったんだと思うんだけど、何も話してくれないんですよ。それに、いつも身体を張って皆を守ったり、前にあった集団新人研修の時も……」


 それから5分程、スターネイルはマリンによるイニーへの誉め言葉の様な愚痴を聞くこととなった。


 最後の方は惚気の様な話になっていき、スターネイルは苦笑いしか出来なかった。


(もしかして、マリンちゃんって女の子が好きなのかな?)


 マリンの表情はどちらかと言えば不機嫌寄りだ。

 しかし、内容が内容なので、スターネイルはそう思った。


「――それでですね、このまえ沼沼というお店に行った時も……」

「あのー、マリンちゃん? もうそろそろ……」


 このままではずっと続きそうだと思ったスターネイルは、流石に止める事にした。

 

「ああ、すみません。つい熱が入ってしまいました」


 まさかこんな事になるとは思わなかったスターネイルは、二度とイニーの事をマリンに聞かないと、心に誓った。


 しかし、話を聞いたことで、スターネイルが思っているよりも、イニーが心優しい少女らしいことが分かった。


 マリンを2度助け、他の魔法少女たちも助けている。


 他にも新魔大戦ではランカーが苦戦して倒すような魔物を、他の魔法少女を庇って戦ったり、武勇には事欠かない。


 風瑠が言っていた事が、あながち嘘ではないと、スターネイルは思うようになった。


「とりあえず、妙義辺りから探す?」

「そうですね。あそこら辺は何もないですが、念のため探しておきますか」


 2人はテレポーターに入り、妙義神社の近くにテレポートする。


「真っ白だね」

「はい。昨日は雪が凄かったですからね。止んだとはいえ、足元には注意しましょう」


 木の上や、建物の上を跳ぶようにして移動する。


 妙義山周辺は魔物の被害が酷く、人が住まなくなったため、静かなものとなっている。


 昔は神社に参拝する人や、温泉でそこそこ賑わっていたのだが、今は見る影もない。


 2人がブルーコレットを探している間に、他の魔法少女が魔物と戦っている現場に遭遇する事があった。

 

 基本的に手助けをすることは無いが、助けを求められた場合は助けたりもした。


 通常なら助けた側と助けられた側で報酬を分けるのだが、あまり時間をロスしたくないマリンたちは報酬を辞退した。


 そして時間だけが悪戯に過ぎ、午後になった。


 一度休憩ために別れた2人は再び北関東支部に集まり、どこから捜索するかを相談する。


「赤城の方から南下して、栃木の方に行く感じで良いですか?」

「うん。それらしい情報や痕跡もないもんね」


 再びテレポーターでテレポートした……はずだった。


 テレポートの座標は赤城神社の筈だったのだが、2人は見た事もない場所にテレポートしていた。


 積もっているはずの雪は無く、晴れているはずなのに、太陽がない。


 人工的に作られた様な風景――そうここは……。

 

「――結界の……中?」

「端末も圏外ですね。これでは、あの時と同じ――」


 あまりにも突然の事態に、驚き固まってしまう2人。


 その時、何かが素早く近づいて来て、マリンに何かを振るう。


「くっ!」

 

 ギリギリで気づいたマリンは鞘に入ったままの刀で防ぐが、大きく吹き飛ばされてしまった。


 その時の衝撃で、スターネイルも少し吹き飛ばされるが、転ぶ事無く着地する。

 

 衝撃によって舞った土煙が晴れ、そこから1人の”魔法少女”だったものが現れる。

 

 禍々しい角に、片翼だけの黒い翼。


 まるで、魔物の様な少女が槍を持っていた。


 

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