魔法少女の自演
目が覚めるとは違った感覚で意識が覚醒する。
――またか。
幾何学模様の書かれた円形の床。
周りも前と同じく、先の見通せない暗闇が広がっている。
今度は一体誰だ……って、考えるのは野暮か。
ふと、後ろから気配を感じた。
「おめでとう。そして、ありがとう」
「フール……の残滓と言った所でしょうか?」
声を掛けてきたフールは透けており、既に生きていない事が分かる。
アクマもフールは死んだとか言ってたしな。
残滓――せめて思念と言った方が良かったかな?
「そんな所だよ。僕の能力はちゃんと使えるみたいだね。こんなことするのは僕が初めてだろうから、少し不安だったんだ」
「そうですか。能力については礼を言いますが、一体なぜ?」
なぜ、こんな馬鹿な真似をしたのか?
おかげでアクマは自分の能力を取り戻し、フールの愚者としての能力も手に入れた。
その代わりフールは死んでしまった。
これを馬鹿な真似と言わず、何と言えば良い?
「そうだね。最後にして最低の魔法少女に、可能性を見出したからかな」
最後にして最低ね。
残り3人のアルカナが契約者を見つけなければ、そうなるだろうな。
最低とは中々酷い言い草だが、正義感の無い魔法少女ならば、最低呼ばわりされても仕方ないか。
そして、可能性か……そんなものは無いと思うのだがな。
「可能性なんて、私には無いと思いますがね。そんなものは魔法少女に憧れる少女にでも言って下さい」
「いいや、君にはこれまでの契約者にはない可能性があるよ。君なら魔女を殺す事が出来ると、僕は信じているよ」
少年の様に清々しいまでの笑顔だな。
既に死んでいるからって、好き勝手言いやがってからに……。
「誰に何と思われようと構いませんよ。私は私のやりたいようにやるだけです」
「うん、それで良いんだ。君が君らしく生きてくれればそれで良い。僕やアクマの願いなんて、君にとっては邪魔でしかない。だけど、アクマを裏切るような事だけはしないで上げて。君がアクマと共にある限り、僕は力を貸すよ」
アクマは犬猿の仲みたいに言ってたが、フールはアクマを気にかけているみたいだな。
アルカナたちの内情など興味は無いが、俺がアクマを裏切るとしたら、この世界での戦いが終わった時だろう。
それまでは裏切ることはおそらくない。
「アクマが魔女を倒す気でいる間は裏切りませんよ。アルカナの力は必要ですからね」
「ふふ。後は頼んだよ。
フールの姿は薄れていき、1枚のカードを残して姿を消した。
フールが居なければ、俺はマスティディザイアに勝つことは出来なかっただろう。
例え、魂を魔力に変換したとしても、素の能力が違いすぎていた。
フールは第二の命の恩人……と、言っても良いだろう。
残されたカードは、愚者のカードだった。
カードを手に取ると、俺の身体に溶け込むように消えてしまう。
「助けて貰った借りは、しっかりと返させてもらうさ」
カードを持っていた方の手を握り締める。
お前のような奴は、わりと嫌いじゃなかった。
1
『目覚めよ。目覚めるのです。魔法少女よ』
……どんな起こし方だよ。
目が覚めるというより、目が冷めてしまいそうだ。
夢を見ていた気がするが、よく思い出せない。
ただ、何となくだが、フールが俺に何かを託したような夢だった気がする。
今度フールがどんな奴だったか、アクマに聞いてみるかな。
カーテンを開けて外を見ると、見渡す限りの雪景色となっており、色が消え失せてしまっている。
子供にとっては嬉しいかもしれないが、大人にとっては地獄だろうな。
(起きたよ。今は何時だ?)
『12時半で、多摩恵が帰って来たから起こしたよ。後少ししたら部屋に来るだろうね』
律儀に帰って来たのか、或いは本当に早く終わったのか。
どちらにせよ、俺も一度起きるとしよう。
俺が布団から身体を起こすと、多摩恵が部屋に入ってきた。
「あっ、起きてたの? お昼はまだ食べていないようだけど、大丈夫?」
「――私よりも多摩恵の方が大丈夫ですか?」
多摩恵の顔色はかなり悪く、今にも倒れそうだ。
会って少ししか経っていないというのに、何度も顔色が悪くなったり、嘔吐したりしている。
一旦魔法少女を休んで休養した方が良いのではないだろうか?
「私は大丈夫よ。それより、まだお昼食べてないなら一緒に食べましょ」
多摩恵に引っ張られる形でリビングに向かい、お弁当を食べる。
家の中でお弁当食べるのは小学生以来だろうか?
あの頃はまだ姉も居、幸せだったのだが、それから数年であんな事になるとは……。
思い出さない様にしていたのに、マスティディザイアのせいで思い出す羽目になってしまった。
あの頃は仕方ないと考えていたが、今は沸々と憎悪が湧いて仕方ない。
あまり考えない様にしたいが、もしも
年齢を考えればもう辞めて居ると思うが、プリーアイズ先生みたいな例もあるからな。
どうか、俺の目の前に現れない事を祈る。
お弁当を食べる多摩恵の箸の進みは遅く、雰囲気もどんよりとしている。
……やれやれ。
「何かあったんですか?」
「……うん。ちょっとね。ねえ、北関東支部には何人の魔法少女あ居るか知ってる?」
「はい。スターネイルとブルーコレット、マリンの3人ですよね」
「うん。それで、私がスターネイルなんだけど、ブルーコレットが……」
ポツリポツリとスターネイルが話したことを纏めると、ブルーコレットが行方を晦まし、大変な事になったみたいだ。
そのブルーコレットはスターネイルと長年コンビを組んできた魔法少女であり、最近はスターネイルとは違う意味で不安定だったこと。
北関東支部の見解として、ブルーコレットは恐らく
なので被害が出る前に一度話して、穏便に済まそうとしている。
だが、穏便には済まないだろうとスターネイルとマリンは考えている。
特にこれまで長年ブルーコレットと連れ添ってきたスターネイルは、このままではブルーコレットと戦わなければならないと考えているみたいだ。
戦いたくないが、戦わなければならない。
そして、もしもブルーコレットと出会い、戦う事を選ばなかった場合、殺されるのはスターネイルとなる。
ブルーコレットがただ失踪しただけなら、そこまで大事にならないだろうが、タイミングを考えると、ただの失踪な訳がない。
間違いなく、魔女が関わっているだろう。
ついでに、ブルーコレットの本名は
(どう思う?)
『魔女たちが何かした可能性はあるね。ハルナがどうするかは任せるけど、もし魔女がブルーコレットに何かしていた場合、殺すしかないよ』
そうか……。
「話は分かりました。それで、多摩恵はどうする気なのですか?」
「私は……もし奈々ちゃんが敵になるというなら戦うよ。そうしないと……私は魔法少女だもの」
「そんな顔をしていて、本当に戦えるのですか?」
「だって……だって私がやらないと! 私が奈々ちゃんのパートナーだったんだもの。私が悪いから…………私が悪いんだから……」
結構思い詰めているな。
少し前のマリンよりも酷そうに見える。
全ての始まりはあの日、スターネイルとブルーコレットの喧嘩に、俺が巻き込まれたことから始まった。
このまま殺し合う2人を見るのも良いが、うどんを食わせてもらった分としての貸しを返すなら、丁度良いだろう。
魔女が本当に何かしていた場合、スターネイルは勿論、マリンでも勝つ事は出来ないかもしれない。
「そうですか。ただの一般人である私には何も出来ませんが、ブルーコレットに会い、危機に陥ったなら、彼女に助けを求めては如何ですか?」
「彼女?」
俺は視線をテレビに映し、放送されている魔法局の記者会見を見る。
内容は相も変わらず、俺を見つけたら必ず知らせろとか言っている。
「イニーフリューリング?」
「ええ。聞いた話では、彼女は魔法少女を助けているのでしょう? 今は行方が分からないみたいですが、もしかしたら来てくれるかもしれないですよ?」
『自演乙!』
まあ、当の本人が目の前に居るとは流石に思うまい。
確実に助けられるわけではないが、少しでも希望を持たせといた方が良いだろう。
「でも、私は彼女に酷い事をしちゃったから、きっと助けてくれないよ……」
そう言えばM・D・Wの前哨戦で結構酷い目にあったな……一般人の救助もあり、あの時は心を無にしていたが、アクマも怒っていたな。
「魔法少女とは私怨で人を助けなかったりするのですか? まあ、選ぶのは多摩恵です。ですが、悔いのないようにして下さい」
「うん。なんだか、私の方がお姉ちゃんなのに、風瑠の方がお姉ちゃんっぽいね」
多摩恵は「えへへ」と笑い、少し元気になったようだ。
「それよりも、早く食べた方が良いのではないですか?」
「あっ! そうだった!」
話を聞いた感じ、これからブルーコレットの探索を始めるのだろう。
こんなに雪が降っている中で探さないといけないとは、大変だな。
「弁当箱は私が洗っておきますので、そのままで大丈夫ですよ。世話になっているので、これくらいはさせて下さい」
「ありがとうね! 多分夜には帰って来られるから、夕飯は任せて」
多摩恵はお弁当の残りを素早く食べ、直ぐに出ていってしまった。
慌ただしい奴だな。
……スターネイルが探してるって事は、マリンも探しているんだろうな。
出来ればスターネイルとブルーコレットが鉢合わせしてくれれば良いが、そうならないだろうな。
俺の糞運では、悪い結果を引き寄せるだろう。
(確認だが、マリンも近くに居るのか?)
『うーん。大体太田辺りに居るみたいだね。こっちまでは来なさそうだね』
(それなら良いが、鉢合わせしそうになったら言ってくれよ)
ミカちゃんなら良いがマリンに会った場合、何を言われて何をされるか分かったものではない。
『了解。善処するよ』
善処じゃなくて、確実にやってもらいたいが、言い返すと拗ねるのでこれ以上は何も言わないでおく。
結構体調も良くなってきたから、外出でもしたいがこの雪では外に出ることは出来ない。
妖精界に行くって手もあるが、行った所で破滅主義派の連中が見つかるわけでもないだろう。
仕方ないが、また寝るとするか。
食べ終えた自分の弁当箱と、多摩恵の弁当箱を洗ってから多摩恵の部屋に戻る。
(そんじゃ、また寝るからよろしく)
『食っちゃ寝してると太っちゃうよ?』
太れるものなら太りたいね。
この身体になってから体重が増えやしない。
主な原因は四肢を再生する時に栄養を持っていかれてるせいなので、こればっかりはどうしようもない。
一度に食べられる量もそこまで多くないので、体重を増やすのに時間が掛かる。
魔法少女の中にはダイエットを頑張っている者も多いだろうが、逆に俺は太りたい。
(先の事を考えるなら、もっと体重を増やした方が良いだろうに……。そんじゃ、おやすみ)
『まあ、今はただの幼女体形だもんね。おやすみ~』
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