魔法少女スターネイルの選択
「ブルーコレットが応答しない?」
天城はオペレーターの1人からそう聞き、眉をひそめる。
魔物の出現予兆があり、オペレーターがブルーコレットに連絡をしたところ、応答しなかったのだ。
その時の討伐は、急遽スターネイルに出てもらい、問題無かった。
その後、ブルーコレットに連絡を取ろうと、何度も連絡をするが一度として応答する事が無かった。
「はい。先日の討伐を最後に、こちらからの連絡を拒否しているみたいです。親御さんに聞いたところ、その討伐を最後に家にも帰っていないみたいです」
天城は遂にかと、内心思うが、その事をオペレーターには言わなかった。
一般人を巻き込んだ事故から、ブルーコレットの素行はますます悪くなっており、誰の言う事も聞かなかった。
魔法少女とは歩く兵器だ。
安全に使えてる内は良いが、もしも暴走すれば数百から数万の人の命が簡単に奪われる。
勿論抑止力としてランカーたちが居るが、それでも被害が出てしまう。
天城もこのままではブルーコレットが暴走し、
何かしらの事件に巻き込まれた可能性もあるだろうが、その可能性は低いだろうと考えている。
今話題になっている魔女のこともあり、どう転んだとしても、良い結果にはならないだろう。
何より、これ以上北関東支部から不祥事を出すのは不味い。
「この件を知ってるものは他にいるか?」
「いえ、まだ局長だけです」
「そうか……報告書の提出を3日待ってくれないか?」
何か問題が起きた時は報告書を上げ、それは記録として本部にも提出される。
そうなれば魔法局全体にブルーコレットの件が知れ渡り、本当に指定討伐種だった場合、ブルーコレットは討たれる事になり、不祥事続きの北関東支部は完全に終わる可能性がある。
せめて上に話が行く前に事の真相を確かめ、内々に処理できれば最低でも北関東支部の、天城の首はぎりぎり繋がるだろう。
「――分かりました。ですが、どうするつもりなのですか?」
「幸い今日はスターネイルとマリンは、ここで待機の予定となっている。2人に話して探してもらう。魔物の討伐は、他の支部に応援を頼もうと思っている」
本音を言えば、せめて1週間は時間が欲しいが、流石に無理だと天城は考えている。
1日目なら問題なく、2日目ならまだ仕方ない程度で済むだろうが、3日目以降は間違いなく問題が起きていると、思われてしまうだろう。
3日目の内に処理できれば、何とかなる。
そして、その日を越えれば天城とブルーコレットは、共にクビとなるだろう。
場合によっては物理的にだ。
「そうですか。ブルーコレットの素行は問題になっていましたが、まさかこんなタイミングで失踪するとは思わなかったですね。局長が無事に北関東支部に居られる事を願っています」
オペレーターは一礼してから局長室を出て行き、天城は天を仰いだ。
(全く、折角助かった命だというのに、無駄にするような事をするとは……)
本来なら、M・D・Wでの戦いで死んでいた所を、イニーによって助けられている。
その命を無駄にするような行為に、天城は悲しくなる。
だがここで嘆いてばかりでは、話は進まない。
天城には局長として、やらなければいけないことがある。
天城は白橿に連絡を入れ、スターネイルとマリンに出勤次第、局長室に来るように連絡をする。
そして、同じ支部の局長に一部の討伐を代わってもらえないかと相談した。
通常ならお互いに悪くない話なのだが、魔女の影響で増えた魔物の討伐でどこの支部も大変な状況だった。
幸いマリンの知り合いが居る東北支部と、関西支部が引き受けてくれることになり、事なきを得た。
何故代わって欲しいのかと、理由を問い詰められた天城だったが、何とか誤魔化した。
『ネイルとマリンが到着したので、今から向かうわ』
天城が各方面に根回しをしていると、
「分かった」とだけ返事をして、通信を切る。
数分経つと、局長室の扉が開き、3人が入室する。
本来ならマリンは、学園での授業があるのだが、先日の魔女の件もあり、学園は休園となっている。
「来たわよ。それで、何かあったか聞くのは野暮かしら?」
呼ばれたのは2人魔法少女と白橿だ。
いつもならば、ブルーコレットも呼ばれるはずなのに、呼ばれていないとなれば、大体の予想がつく。
マリンは特に反応を示さないが、内心ではこんな時に、と愚痴りたい気持ちだった。
そして、スターネイルは顔色を悪くしており、今にも倒れそうになっている。
「――先日の討伐以降、コレット……ブルーコレットと連絡がつかなくなっている」
「それでどうするつもりなの?」
「ネイルとマリンにはコレットを探してもらいたい。期日は今日を入れて3日だ。恐らくだが、戦闘になると思う」
「それは、ブルーコレットが指定討伐種になったと考えて良いのでしょうか?」
濁しながら話す天城に、マリンはどう思っているのか話せと問いただす。
マリンにとって魔法局――この北関東支部は既にどうでもいいものとなっている。
親の勧めで所属したは良いものの、所属している魔法少女は自分を抜いて2人。
それも素行に問題がある2人だった。
親の顔を潰さない為にも続けていたが、既にマリンは魔法局を見限っている。
イニーを探してもらうため今も所属しているが、それがなけれ辞表を取り下げず、さっさと辞めている。
「――その可能性は大いにあると考えている。だが、もしもコレットが話を聞くような状態なら、まだ間に合うと言ってやって欲しい。それを無視したり攻撃してくるのならば……」
「私たちにコレットを……奈々ちゃんを殺せって言うの? これまで仲間だったのよ? それなのに……」
天城の声を遮り、スターネイルは震える声で、天城が話そうとしていたことを言う。
仲間だった者を殺せ。
幼い少女に告げるのはあまりにも酷な話だろう。
だが、そうしなければ、この北関東支部は終わるのだ。
この話が魔法局本部や妖精局にまでいった場合、対処するのはベテランやランカーたちになる。
そして、天城は局長としての責任を問われてクビになり、マリンも北関東支部を去り、魔法局としての機能を果たせなくなる。
そうなれば、北関東支部は本部に吸収されてしまうだろう。
そんな裏事情を天城は話すことをしない。
「話を聞くようなら連れ戻せる可能性もある。戦うのは、もしもの場合だ」
「3日って言うのは、他の支部とかに悟られるまでの期日ってわけね。探す手立てはあるのかしら?」
「残念ながら、何もないのが現状だ。魔物の討伐は他の支部に頼んである。どうか、ブルーコレットをよろしく頼む」
天城は頭を下げて、2人に頼み込む。
おそらく誰もブルーコレットを連れ戻すことは、出来ないと考えているだろう。
「分かりました。その代わり、イニーの件はくれぐれもお願いしますね」
「こうなってしまたら仕方ないし、私も全面的にバックアップするわ」
マリンと白橿は仕方ないとばかりに頷くが、スターネイルは返事をすることができなかった。
この中で一番ブルーコレットと一緒に居たのはスターネイルだ。
彼女にとってブルーコレットは死んだ親の次に親しい者だった。
そんなブルーコレットと戦う選択をスターネイルが、取れるはずがないのだ。
だが、本当にブルーコレットが魔法局から去り、悪に手を染めると言うのならばそれを止めるのは自分の役目だと思っている。
思ってはいるのだ。
「――分かり……ました」
スターネイルの口からは、それしか出なかった。
「制限時間は3日間だ。また、午前中はいつも通りで頼む。午後からは代わりの魔法少女が対応するので、ブルーコレットの件に当ってくれ」
天城の話が終わり、局長室から出たスターネイルは待機室に向かった。
白橿も心配して声を掛けるが、スターネイルは僅かに笑い、「大丈夫」と言うだけで、そそくさと立ち去った。
(奈々ちゃん……どうして)
一緒に魔法少女として強くなり、ランカーを目指そうと話していた2人。
偶然居合わした一般人を喧嘩に巻き込んだことで、全ての歯車が狂い始めた。
片や精神的に追い詰められ、ぎりぎりの状態で魔法少女を続け、片や吹っ切れて、暴れ回りながら魔法少女を続けるようになってしまった。
その結果がこれだ。
今のスターネイルは義務感からか、贖罪のために魔法少女を続けなければならないと、脅迫概念に駆られて魔法少女をやっている状態だ。
そんな中で相棒であり、味方であったブルーコレットと戦わなければならない。
もう、限界一歩手前だった。
偶然出会った少女――風瑠が居なければ、もう倒れていただろう。
今のスターネイルにとって、唯一の心の拠り所となっているのは風瑠だ。
今倒れては、風瑠が1人になってしまう。
そう考えれば、少しだけ頑張ることが出来そうだった。
そして、スターネイルの端末が鳴り、出撃要請が出る。
「分かりました。今から向かいます」
『今日は雪のため視界が悪いので、十分に注意してくださいね。それでは、頑張ってください』
通信を切り、テレポーターに入る。
スターネイルは休みを入れながら、午前中で3件の討伐を終わらせた。
その3件目が終わったのは12時を少し過ぎた頃であった。
いつもなら食堂で定食を買ったりお弁当を食べるのだが、今日は一度家に帰ることにした。
もしかしたら風瑠がまだお昼を食べていないかもと思ったからだ。
できる事なら一緒にお昼を食べたい。
そして、少し話を聞いてもらえないだろうかと、淡い期待もあった。
雪の中を走り、家の前につく。
部屋の明かりは全て消えているので、恐らく寝ているのだろうと、スターネイルは考えた。
家の中に入り、変身を解く。
リビングのテーブルの上には多摩恵が作った風瑠のお弁当が置いたままになっていた。
寝ているのだろうと考えた多摩恵は、自分のお弁当をテーブルに置いた後、2階の自室に向かうのだった。
寝ているであろう、風瑠を起こすために。
だが、もしも風瑠が居なくなっていたらと考えると、心臓の鼓動が早まり、気持ち悪くなる。
どうか、布団で寝ていてくれますように。
そう思いながら、ドアを開けた。
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