魔法少女は立ち止まらない
「
拘束具が外れるたびに動きが良くなっていき、攻撃の激しさが増していく。
こちらの攻撃も避けるようになり、反撃や俺の魔法を撃ち落とすようにもなってきた。
直撃ではないが、避けきれずに何発かもらうこともあり、おかげさまでフードが消し飛ばされてしまった。
強化してなかったら回避が間に合わず、頭に直撃していたかも知れない。
(他の奴らはどんな感じだ?)
「寂しい鳥は空を見上げ、楽しげに歌う。地を這う蛇は歌に引かれて踊る」
散弾となり飛んでくる砲弾を、急上昇で避けながら詠唱を続ける。
『結構纏まってきてるね。デンドロビウムがハルナと同じく魔法を使える魔法少女で良かったね』
なるほどね。助けた甲斐はあったようだな。
邪魔者はいない方が良い。
この戦いは俺だけのものだ。
他人に任せる気も、助けてもらう気も無い。
「されど太陽は、地を焦がすように
地面から土の柱が飛び出し、マスティディザイアの動きを鈍らせる。
そして、空から熱線がマスティディザイアに降り注ぐ。
『拘束具が外れたよ。 後は頭のみだね』
これで左腕も解禁か……。
その時だった。
空間を歪ませながら、何かが飛んできた。
直感で右に避けるが、左腕が俺の身体から落ちていく。
(早い!)
『左腕の斬撃だね。砲弾と違って察知しにくいから、腕の動きを見るしかないね』
そんなに見ている暇など無いと思うんだがな。
「
腕を再生して、軽く動かす。
また無駄に血を流してしまった。
『突っ込んで来るよ!』
ッチ! 剣が使えるようになったら直ぐに接近戦か……牽制しながら距離を取るしかないか。
後は頭だけだが、その頭が大変だな。
最初は砲弾だけだった攻撃がレーザーや散弾になり、攻撃の動作も最初の頃はゆっくりだったが、今では目で追うのも難しい。
まるで戦いを楽しむ様に、少しずつ強くなってきている。
全く、馬鹿げた魔物だ。
(残り魔力は4割程度か……勝てると思うか?)
『……今のまま戦い続けて、顔の拘束具が取れた後は、手も足も出ないかも知れない』
――随分と弱気だな。
M・D・Wの時のような奇跡は起きない。
ここで魂を魔力に変換した場合、現実側にどれだけ悪影響が出るのかも未知数だ。
魔女の言葉を信じるなら、現実と同等の危機感を持った方が良い。
こんな、魔女の部下ですらない魔物に負けたくはないが……。
「不変を焼き尽くす
爆発する熱線を空から放つも、右腕からビームが撃たれ、相殺される。
ばら撒いてる魔法は剣の一振りで四散し、そこそこの魔法は今のように、砲撃によって相殺される。
手っ取り早いのは天撃や
そして、撃つまでに多少時間が掛かるので、今の状態では良い的にされてしまう。
しゃあないが、少し時間を稼ごう。
「
ばら撒いた魔法の中から氷だけを抽出し、マスティディザイアの上空で大きな氷塊を作る。
規模としてはこれまでで一番小さいが、詠唱を短縮しているので仕方ない。
だが、これで少しは時間が稼げるだろう。
氷塊は落ちていき、マスティディザイアを潰そうとする。
無論、剣や砲撃で破壊されていくが、氷の破片が降り注ぎ、マスティディザイアが地面に墜落する。
これで残りは3.5割。
魂を変換すれば、プラス8割と言ったところだろう。
(何か勝つ方法はあるか?)
『私の能力が全て使えれば、まだ方法はあるかも知れないけど、現状だと……何か、何かできれば……』
その時、氷の中からビ-ムが飛び出し、薙ぎ払われる。
間一髪杖に魔力を纏わして防ぐが、吹き飛ばされてしまう。翼でインパクトを殺すも、一気に魔力を消費してしまった。
相変わらず攻撃以外の魔法の燃費は最悪だ。
何度か地面でバウンドし、杖を地面に突き刺して止まる。
身体中がクソ痛い……骨も結構イッってるな。
痛む身体を無理矢理起こし、吹き飛んできた方を見る。
さっさと治して向かわないと……ああ、苦しくて辛いが、楽しくなってきやがった。
「女神の息吹よ。
(どれ位吹き飛ばされた?)
『3キロ位かな……あ~、ちょい周り見て』
アクアに言われて周りを見ると、デンドロビウムと数人の魔法少女が居た。
何とも間が悪いと言うか、運がないと言うか……。
このまま見なかった事にして……。
「待って!」
まあ、そうは問屋が許さないか。
「何ですか?」
「あなた大丈夫なの? そんなに血が出て」
デンドロビウムが悲しそうな表情をするが、構っている余裕は無い。
先程の防御と回復で更に魔力を消費してしまった。
「大丈夫ですよ。それでは」
「待ちなさいよ! あなたはそれで良いの! 1人で戦って……私たちだって……」
「邪魔なだけですよ。デンドロビウムから聞いていませんか?」
あの時がS級の下位なら、今はSS級の下位くらいはあるだろう。
こいつらでは何も出来ずに死ぬだけだ。
頭から流れる血を拭い、前方には翼を広げているマスティディザイアが微かに見える。
滞空したまま留まっており、まるで来るのを待っているようだ。
「だけど、あなたはそんなに血が出て、今にも倒れそうじゃない!」
まあ、結構血が流れたせいで多少ふらつくが、どうせ魔法しか使わないし、移動は翼の方で制御しているから問題ない。
「私を助けたいと思うなら、離れて固まっていて下さい。それだけで十分です」
魔力は後2割か……仕方ないが、やるしかない。
「私たちだって同じ魔法少女なのに……何で、何で何もできないのよ……」
確か、オーランタンって名前だったかな?
新人なら仕方ないだろうに……。
そんなマリンみたいにホイホイ強くなれれば、誰も苦労しない。
俺が……
私が戦いたいのだ。
「これから強くなりなさい。奴は私1人で十分です。私が必ず倒します」
「イニーフリューリング…………ごめんなさい」
これ以上語る言葉は無い。奴がどれくらい待っていてくれるか分からないし、早く向かった方が良いだろう。
翼を広げ、空を飛ぶ。
無駄な時間を過ごしてしまったが、少しだけ休むことができた。
『良いね、それでこそ契約者だ。動機が不純とは言え、その意気込みは素晴らしいものだね』
――
杖から奴の声が伝わってくる。こんな時に何だ?
(何か用か?)
『何もできないアクマに代わって、助けてあげようと思ってね』
『くっ、だからってフールの力なんて借りなくたって……』
『パスも切って、十全に能力も使えないお前では、何も出来ないと分かっているだろう? このまま契約者が死ぬのを見ているのかい?
『お前が……お前がそれを言うのか!』
何やら険悪だが、喧嘩なら余所でやって欲しいものだな。
(アクマ。勝てる可能性は少しでも上げた方が良いだろう。嫌いなのは分かるが、話だけでも聞いてやれ)
『分かってるけど……』
『まあ、ただで力を渡す気は無いさ。ただ1人の契約者であり、最後の契約者となる可能性がある魔法少女には、それ相応の試練が必要だと思うんだよね』
『お前はそうやってふざけた事を……邪魔をするだけなら帰りなさい!』
試練ね。今の状態から試練とか悪い予感しかしないが、大丈夫か?
アクマもあまりフールの言う事を聞く気が無さそうだが……。
『まあ、今回はアクマ次第って所かな』
『私?』
『今の状態じゃあ、負けて死んじゃうでしょ? だからさ、僕に契約者を頂戴。僕なら十全に能力が使えるし、奴にも勝てるだろうしね』
愚者……流石に何番でどんな意味を持っているかは知らないが、あの偽史郎と繋がりがあるのだろう。
パスと呼ばれているものが何だか分からないが、聞いている感じだと、アクマやフールが魔法や能力を使うのに必要な何かだろうか?
勝てる可能性が上がるのはありがたいが、気に入らんな。
『………………本当に勝てるの?』
『僕の能力はアクマが良く知っているでしょう? それに、この契約者なら、使える魔力が増えるだけでどうにかなるんじゃない?』
『分かったわ……ハルナが生き残れるなら……』
(そんなつまらん提案を受けるな。俺の相棒はアクマ以外必要ない。それに、勝てないと決まったわけでもないだろう?)
『ハルナ』
そんな情けない声を出すなっての。ずっと一緒に居ると契約しているんだ。アクマ以外を認める気は無い。
こんなバカな提案など、受ける気などない。
『クックック。良い契約者だね……良いよ。実に良い。アクマ、受け取りな! 僕の全てを!』
『えっ、これってまさか! フール!』
杖から煌びやかな光が出て、俺の中に入って来る。
『良い契約者を持ったね。僕はもう駄目だけど、後は任せたよ』
『何で……フールだって私の仲間じゃないか! こんな最後なんて……』
光が消え、杖からフ-ルの声が聞こえなくなる。
何が起きたんだ?
『パスが繋がってる……それに、
(一体どうしたんだ?)
『フールが全ての能力を私に受け渡したんだ。自分の命を犠牲にして……』
なるほど、能力を譲渡して、消えたってわけか。
嫌っていたとはいえ、数少ない同族だ。死んで嬉しいわけでもないか。
死んだフールには悪いが、赤の他人が死んだ所で、俺は何とも思わない。
だが、フールが残した意思や能力は無駄にはしない。
(アクマ。今は悲しんでいる暇はない。先ずはマスティディザイアを倒してからだ)
『言われなくても分かってるよ! 能力の掌握と最適化をするから、5分だけ耐えて。そすれば、ハルナに私とフールの本気を見せてあげるよ』
何とも大言壮語な事を言うな。5分ね……良いだろう。その時間で頭の拘束具まで壊してやる。
(良いだろう。だが、その間に頭の拘束具を壊してしまっても、構わんのだろう?)
『壊して、本気を出したマスティディザイアに殺されないでよね。少し黙るけど、頼んだよ』
(了解だ)
マスティディザイアまで後100メートル位って所で、此方を認識したのか、動き出した。
およそ3分掛け準備をして、1分掛けて詠唱すれば、少しは魔力を残した状態で奴の拘束具を壊す事が出来るだろう。
毎回相手の強さが馬鹿げているが、どうやら俺にもツキが回ってきたようだな。
フールの能力がどれほどのものかは分からないが、強くなれるのなら、何でも構わない。
「
自分の幻影を数体だし、攪乱する。
後は炎と氷の魔法をばら撒き、風の魔法で魔力を周りに拡散する。
さあ、時間まで俺と踊ろうか?
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