魔法少女とマスティディザイア
魔女の声がシミュレーション内に響き渡り、現状を事細かに教えてくれるのはありがたいが、まさかこんな形で仕掛けてくるとは……。
まだM・D・Wが良かったかもしれんな…………それはないか。
問題はここから逃げる事が出来ないのと、シミュレーション内で死んだ場合、実際に死ぬ可能性があるって所だろう。
現状どう足掻いてもシミュレーション内から戻る事が出来ない以上、魔女が言っていた事は本当だと思った方が良いだろう。
(勝ち目はあるか?)
『全員見捨てれば恐らく勝てるだろうけど……』
そう、ここには俺以外に魔法少女が9人居る。
個人的に見捨てても全く心は痛まないのだが、この戦いは運が悪い事に世界中の人が視聴している。
俺個人の評判が下がるのは構わないが、この新魔大戦に俺は日本の代表として出ている。
俺の評判と共に日本の魔法少女の評価が下がる可能性がある以上、他の魔法少女を見捨てるのは良い手ではない。
最悪の状況に追い込まれた場合はなりふり構わないが、最初から見捨てる算段を考えるのは止めとくべきだろう。
(あの魔物の詳しい情報とかあるか?)
『名前はさっき聞いた通りで、眷属は召喚しない単独タイプだね。見た目通り空を飛ぶし接近戦から遠距離戦までこなせて、今の状態で大体S級だね。全ての拘束具が外れれば固有の結界を展開して、常にデバフを掛けてくるよ。更に、目を合わせるとトラウマを呼び起こして、精神ダメージを与えてくるから厄介だね。目を合わせたら最後だと思った方が良いよ』
パッと見は堕天使の様な見た目だが、やってくることも堕天使みたいだな。
拘束具が外れれば常に全体デバフをまき散らし、下手に目を合わせれば精神をかき乱され殺されると……。
(大砲や剣ってのは、さっきアロンガンテさんが言ってた通りか?)
『あくまでもアロンガンテが戦ったタイプがそうだっただけで、全く同じとは考えない方が良いね。最低ラインがそれ位と考えといた方が良いよ。それと、ダメージを受ける毎に拘束が外れていって強くなるから注意してね』
剣も大砲も、相当な威力と範囲か。
守るのには向いてないが、馬鹿が突っ走らない事を祈ろう。
運が悪ければば掠っただけで殺されてしまう。
しかも、マスティディザイアは空中戦も出来る。
空を飛ばれたら、まともに戦える魔法少女は俺を含めて3人だけだ。
まあ、戦えるだけで勝ち目があるのは俺だけだろうだけどな……。
試合を見た感じ、俺の次に強いのがデンドロビウムっぽいが、俺が遊び程度に使った魔法を防げないようでは、頼るのは止めた方が良いだろう。
(拘束具が付いてる状態で倒すことって出来るのか?)
『無理みたいだね。拘束具がダメージを代わりに受けているみたいだよ』
面倒くさい魔物だな……。
『それでは、最後の戦いを精々楽しんでちょうだい。それと、折角の戦いなんだから、実況もちゃんとするのよ? じゃないと、どうなるか分かるわよね?』
魔女の演説が終わり、俺や魔物を囲っていた結界が消える。
まさに性悪と言った所業だろう。諸行無常
他の魔法少女を確保するか、先にマスティディザイアのヘイトを集めるか……いや、俺は魔法が使えるのだ。
こういう時にこそ活用しなければ、魔法少女は名乗れないだろう。
(アクマ。全体のマップと、魔法少女の位置を教えてくれ)
『了解。情報を頭に入れるから確認して。少し痛むよ』
ぶつけた様な痛みが頭に走り、情報が流れ込んでくる。
これなら言葉よりも早く理解できるが、地味に痛い。
俺から、魔物までは大体2キロか。他の魔法少女たちとの距離も似たり寄ったりだな。
「
よし、9人全員に繋がったな。
少々柄じゃないが、仕方ない。
「こちらイニーフリューリング。私が1人で戦うので、全員逃げに徹してもらいたい。もしも奴と戦うと言うのなら、命の保証はしない」
「何が1人で戦うだ! 私だって魔法少女よ! 命くらい……」
「あなただけで何が出来ると言うの? 皆で戦えば……」
「S級を討伐出来るからって、舐めないで頂戴!」
数人が反発してくるが、覚醒に至れていない魔法少女が、S級やそれ以上に勝てると思っているのか?
……まあ、強化フォームになれない俺も人の事は言えないが、M・D・Wを倒した実績もあるから大丈夫だろう。
全く、大人しくしていれば生き残れるかも知れないというのに……代表だからって、死んだら何も残らないのだぞ?
「忠告はしましたよ」
ぎゃーぎゃー煩いのと、魔力を消費するので切断する。
折角だし、あれもやっておくか。
(
『そうだね……推定SS級魔物。マスティディザイアの撃破を最優先とし、必ず生き残ること。犠牲は……ハルナに任せるよ』
M・D・W時といい、今回も弱気だな。
アクマとしては見捨てたくはないのだろうけど、その余裕があるとは思っていないのだろう。
まあいい。そもそも勝てるかどうか分からない相手だ。
他人に構っていれば、足元をすくわれかねない。
(了解だ。最初から全力で行くぞ)
「
「秘められし混沌の力よ。天翔ける光となり、終息をもたらせ」
白い翼と黒い翼を生やすが、今回は更に追加する。
アロンガンテさんの戦いを見て考えたものだ。
今の状態でも機動性や攻撃性は問題ないが、翼を攻撃された場合、空を飛べなくなり大きな隙が生じてしまう。
「
手足に補助用の小さな翼を生やす。
これだけでも対空することができ、手足を動かす際の補助にもなる。
一撃程度なら杖で攻撃を受けても、受け流すことができるだろう。
「
更に雷の魔法で反射神経と、ちょこっと肉体を強化する。
これまで色々と試した結果、強くしすぎると後が辛いので、かなり控えめの強化だ。
これで戦闘準備は整った。
(奴の様子は?)
『最初の咆哮以降は沈黙しているね。9人中4人がマスティディザイアに向かってってるよ』
なるほど。なら、先にヘイトを稼いでやるか……。
「
速さに特化した氷槍を放ち、ついでに空を飛ぶ。
この氷槍は砕けると花びらのような氷が舞い、範囲攻撃してくれる。
ヘイトを稼ぐには持って来いだろう。
『ヒット! ダメージは無し。こっちに気づいたみたいだね。来るよ!』
ダメージが無いのは想定内だが、飛ばないで走って向かってきているのか……。
(接敵まではどれくらいだ?)
『このままなら10秒も掛からないね。逃げる方向はナビするから頑張ってね……避けて!』
アクマの声を聞いて直ぐに回避行動をとる。
すると、青い何かが俺の横を通り過ぎていき、山に当って爆発を起こす。
山だった場所には大きな穴が開き、中心に氷の棘が咲き誇っている。
こりゃあ掠るだけでも危なさそうだな。
あの氷は意趣返しのつもりか? 魔物のくせに生意気なことだ。
アクマの指示に従いながら空を飛び、大技の準備をする。
問題は、他の魔法少女に配慮しなければならない点だ。
俺の場合、高火力イコール広範囲になるからな。
被害が出ないように、結界や射線に注意しなければならない。
それち、奴の砲撃の飛ぶ方向も気を気を付けなければならないな……。
『直線上に反応はマスティディザイアのみ。撃つなら今だよ』
飛びながら詠唱を終わらせ、杖の先端をマスティディザイアの方に向ける。
「永劫の彼方に消え失せろ。天撃!」
昔タラゴンさんに向かって頭上から撃った元神撃を撃ち出す。
木々や地面を消し飛ばしながら進んで行きマスティディザイアを呑み込む。
だが、これで終わるとは思っていない。天撃を撃ち出した魔法陣が消え、えぐり取られた地面の先にはマスティディザイアが呆然と立っていた。
そして、右腕に巻き付いている拘束具と、身体に巻き付いている拘束具が外れた。
マスティディザイアは背中の翼を広げ、右腕の大砲をゆっくりとこちに向けてくる。
(見た目的にダメージはなしか……)
『拘束具がダメコンみたいな感じで働いてるからね。全て外してからが本番って所かな』
(何とも厄介な事で)
大砲の先が光った瞬間に俺は翼を羽ばたかせて上昇する。
すると、俺の居た所を砲弾ではなくビームの様なものが通過して爆発を起こす。
拘束具が外れた分強くなってきているな……。
マスティディザイアも空を飛ぼうとした時、どこからか黒いビームの様なものが飛んできて、マスティディザイアに当たる。全く意に返さず、マスティディザイアは俺から視線を逸らした。
俺だけを狙っていたマスティディザイアは、黒いビームが飛んできた方に右腕の大砲を向け、射撃の準備を始める。
全く、馬鹿な真似をしてくれる……。
「逃げろー!」
声を張り上げ、デンドロビウムに指示を飛ばす。
流石に俺やアクマも、常に周りに気を掛けている余裕はない。
その隙を突かれる感じで、デンドロビウムが魔法で攻撃をしてきたのだ。
それなりに距離は離れているが、強化している俺の目には驚いているデンドロビウムがしっかりと映っている。
あの程度魔法でダメージなど与えられるはずがないだろうに……。
マスティディザイアが右腕から青白い砲弾を放ち、高速でデンドロビウムに向かって行く。
正確にはデンドロビウムの足元当たりを狙っている感じだろうな。
爆風だけでも相当なダメージになるだろう。
「
砲弾の前方に氷の粒をカーテンの様に展開し、砲弾を爆発させる。
爆風で少し吹き飛ばされるが、直ぐにマスティディザイアに向かって魔法をばら撒く。
砂煙が舞い上がり、これで少しは時間を稼げるだろう。
今のうちにデンドロビウムの所に向かう。
デンドロビウムも爆風で吹き飛ばされて、爆心地に近かったこともあり、少し怪我をしていた。
「忠告はしたはずですよ? 邪魔なので下がっていてください」
「あなた1人で戦うと言うの? そんなの無茶よ! 相手はSS級なんでしょ? みんなで協力して戦った方が……」
「あれにダメージを与えられる程の火力があるんですか?」
デンドロビウムは言葉を詰まらせ、自分の杖を握りしめる。
恐らく先程自分が使った魔法の結果を思い出しているのだろう。
デンドロビウムの魔法に対して、マスティディザイアは全く意に介していなかった。
逆に反撃を食らって危うく死ぬところだったのだ。
下手な攻撃をしたところで拘束具を外すことはできず、傷すらつけることはできない。
デコイ以外でデンドロビウムや他の魔法少女は使い道がない。
それが今のでハッキリとした。
「もし、少しでも役に立ちたいというなら、他の魔法少女が来ないように纏めてください。纏まっていてくれた方が、私も戦いやすいので」
俺が巻き込んで殺してしまいましたじゃあ、外聞が悪いからな。
デンドロビウムに良心があるというのなら、俺の言うことを聞いてほしい。
「……イニーは1人で勝てるんですか?」
「私以外では、戦いの土俵にすら上がれないだけです。私が負ければどうなるかなんて、分かっているでしょう?」
悔しそうに顔を歪めているが、反論しない辺り分かってはいるのだろう。
「時間がありません。頼みましたよ」
それだけ言い残して、飛び立つ。
その時、砂煙の中からマスティディザイアが羽を広げて飛び上がる。
顔の拘束具を除いて、拘束具の数は4つ。
先ずは、それらを全て外さなければならない。
そうだな……こいつは3面のボスと言ったところだろうか?
俺の負けは残り9人の魔法少女の死を意味する。
良いね。戦いは理不尽なほど
(行くぞ、アクマ)
『どうか、無理だけはしないようにね……』
無理をしなければ勝てないと分かっているだろうに……アクマって奴は……。
マスティディザイアは2つの拘束具が外れた事により、攻撃の間隔が早くなってきている。
まだ左腕は使えないみたいだが、右腕の砲撃やビームだけでもかなりの脅威だ。
「
空中に無数の魔法陣が現れ、そこから氷を纏った岩がマスティディザイア目掛けて降り注ぐ。
さあ、楽しい楽しい戦いの始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます