魔法少女と新魔大戦2日目
新魔大戦2日目。
この日は朝から喧騒に包まれており、騒動も起きていた。
それは昨日の夜発表された、新魔大戦の変更内容のせいだ。
既に1日目のトーナメントを終えているというのに、バトルロイヤルに変更すると発表されたのだ。
観客たちも何となく理由は分かっているが、だからと言って到底許されることではない。
特に、イニーに賭けていた者たちの一部が強く反発したが、公式に発表されたものであるため、幾らクレームを入れた所で意味がなかった。
また、イニー本人やそれ以外にの出場する魔法少女たちが、バトルロイヤルに変更する事を了承していることもあり、試合関係者は粛々と準備を進めていた。
この事態に怒った者もいれば、喜んだ者もいた。
それは1日目の試合に負けた魔法少女や、その魔法少女に賭けていた者たちだ。
『えー会場にお越しの皆様。既にご存じだと思いますが、新魔大戦の試合方式が変更になりました』
『思う事も多々あると思いますが、クレームは各魔法局にお願いします』
昨日と同じく解説席に座ったフェイとアロンガンテは全ての責任を魔法局に押し付け、事態の鎮静化を図る。
実際に悪いのは魔法局なのだが、解説をしている2人にも火の粉が降りかかったので、この場で責任を押し付けたのだ。
『それでは改めて、ルールの変更内容についてお知らせします。昨日まではトーナメント形式でしたが、とある魔法少女の戦闘能力を鑑みた結果、バトルロイヤル形式に変更となりました』
『それに伴い、先日敗退した魔法少女たちも、もう一度チャンスを与えられる事になりました』
一度敗退したが、試合形式が変わったことにより、もう一度やり直しとなる。
結果として、チャンスが与えられた形となった。
『因みにですが、とある魔法少女のハンデはどうなるのでしょうか?』
『出場選手たちの要望により、今回は無しとなりました』
『まあ、どの様な戦いになるかは目に見えていますからね』
とある魔法少女とは勿論イニーの事なのだが、言わずもながらだろう。
そして、圧倒的な戦いを目にしたイニー以外の魔法少女が最初に潰すのは、イニーになる事は明白だ。
『他には賭けの形式が変更になりましたので、試合開始前に確認の方お願いします』
『オッズもガラッと変わりましたね。1番人気はデンドロビウム。2番人気はイニーフリューリングとなっております』
試合開始まで残り30分となった頃、マリン達学園組は昨日と同じく観客席に座って、試合が始まるのを待っていた。
昨日との差異があるとすれば、イニーの事を聞かれることが多い事だろう。
戦果としてイニーの異常性は知れ渡っていたが、イニーは動画を非公開にしている為、戦い振りと言ったら、M・D・W位でしか見る事が出来なかった。
そんなイニーの戦闘の様子が昨日、観衆の目に晒されたのだ。
武器も持たず、視界すら塞いだ状態で見せた圧倒的な力。
あの戦いを見た後では、誰もイニーの事を馬鹿にすることは出来なかった。
「委員長、随分嬉しそうじゃん」
「そうね。世間がやっとイニーを認めてくれたみたいで、嬉しいのよ」
マリンは周りから聞こえるイニーの話に、顔がにやけそうになるのを何とか我慢しながら、スイープになるべくそっけなく返す。
昨日はイニーを馬鹿にするような話ばかりだったのが、今日はイニーを褒める様な話ばかりが聞こえてくるのだ。
イニーが好きであるマリンにとっては、喜ばしい限りであった。
「それにしても、バトルロイヤルですか……イニーを狙い撃ちしているようですわね」
「まあ、あんな魔法を見せつけられちゃったら仕方ないんじゃない? それでもイニっちが負けるとは思わないけどさ」
「ハンデがあれば詠唱時間がネックになるけど、無いなら負ける要素はないでしょうね」
誰よりもイニーの事を知っていると自負しているマリンからしてみれば、ハンデ無しでイニーが負ける事はあり得ないと思っている。
イニーが本気を出せば、たかが新魔大戦に出る程度の魔法少女など、簡単に倒せてしまうだろう。
先日見たイニーとタラゴンの模擬戦や、その後のランカー同士の戦いを見たマリンはそう確信している。
「しかしじゃが、よくこんな無謀な変更が通ったものじゃのう」
「上の方の圧力じゃないかしら? 大方イニーの勝ちが分かった状態で続行するのは態勢が悪いと思ったんじゃないかしら?」
「腐敗……と言ったやつかのう」
ミカはやるせない気持ちになり、目を伏せる。
ミカやマリンたち魔法少女と切っても切れない関係にある魔法局の腐敗。
一部の魔法少女に討伐依頼を優先したり、討伐時の買取金額のかさ増しや、逆に中抜きをしたり、例を挙げればキリがない。
最近だと東北支部で起きた事件が大々的に発表されたが、これも氷山の一角に過ぎない。
「私達が学園を卒業する頃には……あら?」
試合開始まで残り少しとなり、既に出場選手はシミュレーション内で待機していた。
バトルロイヤルと言う事で、昨日よりも広いフィールドとなっており、バラバラの位置で待っていたのだが……。
『おや? 機材に不具合が起きたのでしょうか?』
『はい。本当ですか?』
ホログラムにノイズが走り、プツンと音を立てて、映像が消える。
そして、黒いフードを被った者と、9人の魔法少女と思わしき人物が映し出される。
その中にリンネやロックヴェルトなど、イニーを襲った魔法少女も居た。
『やあ、世界の人類諸君。新魔大戦を楽しんでいるかね? 私たちは破滅主義派と名乗る者だ。M・D・Wやドッペルを操っていた者と言えば分かるかな?』
何が起きているか分からない者たちは騒めきだし、周りの妖精や魔法少女にM・D・Wやドッペルの事を聞き始めた。
どちらも魔法少女たちの間では知らない者は居ない知名度だが、倒されてしまった魔物は魔法少女の動画位でしか、一般人は知ることは出来ない。
しかし、M・D・Wは一般人を巻き込む事件だったので、日本ではかなり知名度があった。
『私たちは腐った人類を粛清し、破滅を齎そう。手始めに今日の試合を盛り上げる為に、プレゼントを用意したわ。魔法少女同士の戦いも良いけど、魔法少女は魔物と戦ってこそ本望でしょう?』
破滅主義派たちの映像が半透明になり、イニーたちが映し出される。
そして、フィールドに1匹の魔物が現れる。
この時アロンガンテは、今回のシミュレーターを管理している者と連絡を取っていたが、起きている事態に顔をしかめる。
『ふふ。どうやらアロンガンテは知らされたみたいだね。既にシミュレーターのシステムはこっちで掌握しているわ。シミュレーション上での死は、現実の死と一緒よ。因みに、映像やホログラムも消せないわよ。折角だし、この魔物の説明はあなたがしてくれないかしら?』
現状新魔大戦に出ている魔法少女は立方形の箱に閉じ込められ、動けなくなっている。
魔物も同じく動けないようになっているが、その全容を把握することは出来る。
その魔物は4メートル程の人型であり、四対の黒い翼を背中に生やし、右腕と左腕は異形の形をしていた。
顔の部分は拘束具の様なもので見えなくなっているが、赤く光る眼が隙間から見えている。
体のいたる所に拘束具の様な物がついており、まるで囚人の様な見た目となっている。
そして、この魔物は昔アロンガンテが死闘の末倒した魔物であった。
『……魔物の名前はマスティディザイア。異形の腕は、左腕は剣に、右腕は大砲に変化します。剣の一振りは海を割り、大砲の一撃はマグマすら凍らせます。また、拘束具が外れる事により力が解放され、最終的な魔物のランクは…………
会場中で悲鳴が上がり、事態を呑み込んだ者たちが動き出す。
新人の魔法少女たちが勝つことなど、天地がひっくり返ってもあり得ない。
『紹介ありがとう。それと、妖精局の前にプレゼントを置いていたから、後で見てちょうだい。ヒントは行方不明の魔法少女よ』
先日の会議で話が上がった、ランカーの行方不明事件。
それは破滅主義派が起こしたものだった。
自分たちの力を誇示するためにやってのけた事だが、これにより破滅主義派はランカーに匹敵する力を持っている事は勿論、魔法局や妖精局に悟られない程の、隠密行動を取れる事が分かる。
そして、行方不明となった魔法少女たちは……。
フェイは同僚の妖精に連絡を入れ、妖精局の事を聞き出す。
『そう……ですか。分かりました』
『どうしましたか?』
同僚から話を聞いたフェイは顔を青くしながら通話を切り、アロンガンテが心配する。
フェイはアロンガンテの耳に顔を近づけ、小声で先程の通話の内容を話す。
アロンガンテは目を見開き、湧き上がる怒りを抑え込むように手を握りしめる。
数名の女性や少女の首無し死体と、身元不明の首が氷漬けにされて妖精局に前に放置されていたのだ。
魔法少女も死んでしまえはただの人だ。
変身も解け、元に戻ってしまう。
身元不明とはいえ、先程の発言を考えるに、死体となっている者が誰なのかは考えるまでも無いだろう。
『どうやらプレゼントは気にいって頂けたみたいね。そうそう、私の事は魔女と呼んでくれれば良いわ。それじゃあ、そろそろ始めようかしら。選手の魔法少女たちも待ちきれなさそうだしね』
映っている10人の魔法少女の反応は大きく分けて2つの別れている。
事態を呑み込めず、恐怖に呑まれる者と、逆境位乗り越えてやろうと意気込む者だ。
だが、どちらの反応を示した所で、魔法少女たちに勝ち目はないだろう。
無残に蹂躙され、殺されるだけだ。
だが、一部の魔法少女……マリンやミカ、アロンガンテは静かに佇んで居る彼女なら、もしかしたら、と考えしまう。
M・D・Wやドッペルなど、身の丈に合わないような魔物たちを倒し、魔法少女を救ってきた魔法少女。
ジャンヌやミカの前ではロックヴェルトを撃退し、人知れず
だが、
誰も彼もか悲観に暮れ、命を失うであろう魔法少女たちを悲しむ。
「委員長……」
「大丈夫よ。イニーならきっと勝てるわ。
ミカは心配そうにしながらマリンを見るが、マリンは全く動揺していなかった。
イニーは常に他の魔法少女たちの前に立ち、戦い抜いて来た。
その小さな身体を傷付け、誰かを守りながら……。
彼女なら……イニーならまた奇跡を起こしてくれるかもしれない。
そう思わずにはいられなかった。
だが、その結果が何を意味するかを知っているのは、この場には居ないジャンヌとタラゴンだけだった。
『それでは、最後の戦いを精々楽しんでちょうだい。それと、折角の戦いなんだから、実況もちゃんとするのよ? じゃないと、どうなるか分かるわよね?』
魔女がそう言い残すいと、映像が消える。
会場が慌ただしくなる中、シミュレーション内の魔法少女たちと魔物を囲っていた結界が解かれた。
魔物の……マスティディザイアの咆哮が会場に響き渡り、空気を揺らす。
そして、生死を掛けた新人魔法少女たちの戦いが幕を開けた。
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