魔法少女と不思議な少年
(暇だな)
『今は待ってるだけだからねー。待機室も個別だし、出番までは外にも出られないからね』
新人の大会だからもっと緩いものだと思っていたが、思った以上に警備が厳重だった。
昔は俺も賭けたり、テレビで見たりしてたが、ここまで厳重なものだっただろうか?
まあ、あの頃は魔法少女や妖精界の事なんて、そこまで調べようと思ってなかったし、これ位普通なのだろうか?
(出番は次の次だっけ?)
『そうだね。それにしても、これはタラゴンの提案を受けて正解だったかもね』
(……かもな)
1回戦目も2回戦目も、代表に選ばれるだけあって、確かに強い魔法少女だった。
たが、新人としては強いだけで、魔法少女全体で言えば中堅辺りだろう。
試合開始の距離はランダムみたいだが、二言話す時間があれば十分だ。
そのまま物量で倒すことが出来る。
新人と言えば、俺ではなくてマリンでも良かったと思うが、プリーアイズ先生の事だ、焦ってとりあえず、ランキングが一番高い俺に話を通したのだろう。
一応だが、俺がどの様に戦うかを知ってるのは、司会兼実況をしているアロンガンテさんと日本のランカー勢。
ついでに学園組だ。
……宴会芸みたいな感じもするが、負けることはないだろう。
即死以外なら治せるしな。
まあ、杖無しで戦うので、運が悪ければなんてことも起こりえるだろう。
油断はしないつもりだ。
(このまま見ててもいいが……寝るかな)
『了解。時間になったら起こすよ』
ソファーで横になり、目を閉じる。
1
目が覚めた時とは違う感覚で、意識が浮上する。
この感覚は少し前に1度味わった事があったな。
目を開くと、あの時と同じ円状の広場の上に居た。
夢……とは違うな。しっかりと意識がある。
アクマの反応がないのは杖の時と一緒だが、どうなっているんだ?
「やあ、契約者君」
偽史郎もそうだが、後ろから話し掛けるのが、流行っているのか?
さて、今度は誰だろうな。
「……誰ですか?」
子供……見た目からすれば少年と言った所だろう。
当たり前のように向こうは俺を知っているみたいだが、誰だ?
「アクマの元仲間だよ。彼女は元気にしてるかい?」
アルカナの1人か……いったい何の用だ?
「元気にはしてますよ。それであなたは?」
「内緒だよ。僕がこっそり君に会ったことが彼女にバレると、怒られるだろうしね」
名乗る気はないのか……。
偽史郎に残りのアルカナの事を聞いておけば良かったが、名前よりも目的の方が重要だろう。
「それで、何の用ですか?」
「いや、ただの様子見だよ。後は……忠告をかな」
「忠告?」
名乗らない少年はふよふよと空中に浮き、くるりと一回転する。
そう言えば、アクマは妖精みたいな見た目だが、こいつの見た目は人間だな。
見た目は全員違うのだろうか?
「明日、奴らが仕掛けてくるよ」
「――そうですか」
こんな祭りみたいな状態で、手を出してくるのか……。
一応日本だけではな世界各国のランカーも警備についているのに、馬鹿な真似をする…………と言いたいが、魔女には関係ないのだろうな。
「せいぜい頑張ってね。応援だけはしてるからさ…………選定しよう……可能性と……」
少年はそれだけ言い残し、消えていく。最後に何か言っていたようだが、ほとんど聞こえなかった。
どうやら本当に様子見だけだったようだな。
忠告をされたものの、俺が出来ることは何もない。
そもそも、警備の面では今以上は望めないだろう。
…………っで、何時になったらここから出られるんだ?
前は床が崩壊して目が覚めたが、今の所そんな予兆はない。
そもそもだが、ここは一体何所なのだろうか?
精神だけをどこかに呼び出されているのか、それとも俺の精神世界なのだろうか?
足元が光ってるとはいえ、周りは暗闇が広がるだけの空間……何とも不思議だ。
床に座り、何も無い空間を見渡す。
何も見えず、何も聞こえない。
もしも死後の世界があるのなら、こんな感じなのだろうか?
……全く、呼び出したなら最後までしっかりとして欲しい。
『……ルナ! ハルナ!』
「あれ?」
何時の間にかあの空間から戻って、ソファーで横になっている。
どうやら戻って来られたようだな。
呼び出しておいて放置するとは……次会ったら頭を引っ叩いてやろう。
(時間か?)
『そうだよ。もう直ぐ呼び出しの人が来るから準備して』
(了解)
ソファーから身体を起こし、軽くストレッチをしてると、呼び出し音が鳴る。
「どうぞ」
扉が開き、妖精が入ってくる。
「もうすぐ出番となりますので、移動をお願いします」
「分かりました」
対戦相手はデンドロビウムだったかな。
タラゴンさんと同じく花の名前だが、昔見たアニメを思い出してしまうのは、俺の精神が男だからだろうか?
流石にアロンガンテさんみたいな魔法少女ではないだろうが、少し心をくすぐられる名前だ。
妖精の後を付いて行き、今回用に準備されたシミュレーター室に入ると、ランカー用と同じ繭型のポットが2つ置かれている。
モニターや待機用の椅子も一緒に置かれており、既にデンドロビウムが座って待っていた。
「あのー」
「なんでしょうか?」
「設定は本当にこれで宜しいのですか?」
係りの妖精に確認されるが、既に決められているので、断る事は出来ない。
何故か楓さんからも念押しされているしな。
「大丈夫ですので、よろしくお願いします」
「分かりましたが、後で難癖付けないで下さいね」
さて、後は座って待っていれば良いと思ったのだが、先程まで座っていたデンドロビウムが此方に歩いてくる。
「初めましてイニーフリューリング。私はデンドロビウムと申します。今日はよろしくお願いします」
「こちらも、期待に沿えるか分かりませんが、よろしくお願いします」
『魔法少女デンドロビウム。ハルナと同じく野良の魔法少女で、所属国は一応アメリカだね。年齢は14でランキングは52位だよ』
(紹介どうも)
どうせ1回戦ったら、もう会うことはないだろうし、名前以外は覚える必要はないだろう。
「さっき、係りの妖精と話していたようだけど、どうしたの?」
「試合について少々。始まれば分かると思います。不正とかではないので、安心してください」
「そうなの?」
不正ではないが、ある意味不正みたいなものなのかもな。
通常とは違う設定をお願いしているのだし。
「はい。もう少し時間が掛かりそうですし、座って待っていませんか?」
モニターに映る4試合目は中々の泥試合となっており、まだ時間が掛かりそうだ。
デンドロビウムは俺の横に座り、モニターではなく、俺の方をジッと見てくる。
俺ではなくて、モニターを見ろ。
「……どうかしましたか?」
「いえ、本当にフードの中って見えないんだなと思って」
これの原理は分からないが、被ってると安心するんだよな……。
学園に居る間はあまりフードを被れないのが難点だが、こればかりは仕方ないことだろう。
「あまり素顔は晒したくないものでして。不快でしたか?」
「そ、そんな事は無いわ。ただ、私も欲しいなーって……」
野良だから気が強いと思っていたが、なんだが弱気な少女だな……。
そう言えば、帽子を被っている魔法少女は結構居るが、フード姿の魔法少女はほとんどいない。
髪が崩れるとか、後姿が地味になるとか理由は色々とあるみたいだが、昔と違って、今の魔法少女は華やかさが売りだからな。
俺としては有難いローブにフードも、他から見れば地味だろう。
……はて? 何の話をしてたんだったかな?
ああ、フードについてか。
「普通のでは駄目なんですか?」
「出来ればしっかり隠したいなーと、思ったりしてます」
「
「顔を隠すなんてとんでもないって言われちゃった」
まあ、デンドロビウムの顔は普通に整っている。
薄紫色の髪と、アメジストの様に輝く瞳。
これを隠すのは少し勿体ないかもな。
「でしたら諦めるしかないのでは?」
「……そうよね」
そんな悲しそうな顔をされても、俺には何も出来ない。
理由は知らないが、応援だけはしてやろう。
「理由は聞きませんが、頑張って下さい」
『おっと! レジニマリスの一撃が決まったー!』
『腰の入った、良いストレートでしたね。相打ちにならなくて良かったです』
どうやら終わったようだな。
「選手の2人はポッドに入って下さい!」
「もう少し話していたかったけど、仕方ないか。手加減はしないからね」
少しだけ笑い、デンドロビウムはポッドに向かう。
俺も…………あっ、アクマにさっきの事話すの忘れてた。
(今更だけど、アクマの仲間から接触が会ったぞ)
『……もしかして、さっき寝てるときかい?』
(ああ、少年っぽい奴が様子見だとか言って、姿を現わした。明日魔女達が襲撃に来るとかも言ってたが、詳しくは後で話す)
まだ座って居る俺を不審に思ったのか、名前呼ばれたのでポッドに移動する。
さて、楽しいハンデ戦の始まりだ。
精々楽しませてもらおう。
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