魔法少女たちの熱い戦い

 1回戦目が終わり、新たな魔法少女がホログラム上に姿を現す。

 2回戦目のフィールドは山岳となり、1回戦目とは別の意味で足場が悪くなっている。


『2回戦目は中国代表のロウシェン選手と、北極代表のカルトトリステスの対戦となります』

『試合の前に選手の紹介を行いたいと思います』

 

 中国代表のロウシェン。

 武器は十字槍であり、雷と炎の魔法を使う。

 攻撃に特化した魔法少女であり、近距離では巧みに十字槍を扱い、距離が離れれば魔法を使って一気に接近する。

 攻撃こそ絶対の防御と言った様は、とても刺激的である。


『ロウシェン選手からの一言コメントですが、イニーフリューリングの素顔は何時になったら公開されるんだ? との事です』

『……もしかして、全員がイニーフリューリングの事をコメントしてたりしませんよね?』

 

 何故か3人連続でイニーの事についてのコメントとなっており、アロンガンテが心配そうに聞く。

 フェイは苦笑いを浮かべるだけで、何も言わなかった。


「ふぁ! あっ、もしかして、私寝てました?」


 1回戦が始まって早々に寝てしまった茨姫が起きて、辺りを見回す。


「気持ちよさそうに寝てたよ。まあ、イニっちの出番はまだ先だから良いけどさ」


 スイープは売店でかったポップコーンを茨姫の口に放り込み、適当に相槌を打つ。


「はむ。キャラメル味ですわね。ありがとうございますわ」

「……はいはい」


 いたずらの感覚でスイープは茨姫の口にポップコーンを放り込んだのだが、何故かお礼を言われて微妙な顔をする。

 

『続きまして、北極代表のカルトトリステス選手の紹介となります』


 北極代表のカルトトリステス。


 こちらも”始まりの日”以降に国として樹立したのだが、少々問題を多く抱えている。

 国としての情勢は置いておくとして、カルトトリステスは大鎌と戦斧を状況により使い分け、光系統の魔法と回復魔法を使う。


 魔力量もそれなりに有り、短期戦から長期戦までそつなくこなす。


『カルトトリステス選手からの一言ですが、必ず優勝して見せますとのことです』

『4人目にて、始めてまともなコメントですね』


 ロウシェンとカルトトリステスは既にフィールドでストレッチをしており、何時でも開始できる状態だった。


 ロウシェンに限っては演舞を披露しており、観客にサービスをしていた。


『選手も準備万端みたいなので、これより2回戦目を始めたいと思います』

『悔いの残らない戦いをしてほしいですね』

『それでは新魔大戦第2試合……始め!』


 試合が始まり、カルトトリステスが空に向かって大きな光弾を打ち上げる。

 それはロウシェンからしたら逆光となり、視界が悪くなる。


 カルトトリステスは光弾を背にするように立ち回り、光線をロウシェンに向かって放つ。

 ロウシェンもうまく炎の魔法を使い、カルトトリステスとの距離を詰めようとするが、逆光のせいか、少し動きが悪い。


『先ほどの戦いもそうですが、やはり自分に有利な状態を作るのは重要なのでしょうか?』

『自分が十全の力を発揮できる場所を作り出すのは、重要な事ですね。常に怪我や死のリスクがある中で、そのリスクを少しでも無くす事が出来ますからね』


 ロウシェンはカルトトリステスを追うのを一旦止めると、大きくジャンプして十字槍を投擲する構えを取り、光弾に向けて投げた。


 十字槍の投擲により光弾は壊れるも、カルトトリステスはその隙を見逃さず、大鎌を構えて一気に距離を詰める。

 

『ここで一気にカルトトリステス選手が距離を詰める!』

『光弾を壊すのは良い判断とは思いますが、武器が無くなってしまったロウシェンは、どう対処するのでしょうか』


 落下を始めるロウシェンにカルトトリステスが突っ込み、大鎌を振りかぶる。


 しかし、ロウシェンはどこからともなく十字槍を取り出し、大鎌を向かい打つ。

 先ほど投げた十字槍は石突から炎を吹き出しながら、ロウシェンの元に戻ってくる。

 

『なんとロウシェン選手、十字槍が1本と思いきや、2本持ちだー!』

『わざと2本ではなく、1本で戦って意表を突いたのでしょうね。彼女は2槍流のことは口外していませんでしたから』

『アロンガンテさんは知っていたんですか?』

『彼女の師匠的な立場の方から聞いていましたからね。ついでに、ロウシェン選手に賭けるように言われましたが、断りました』

 

 もちろんだが、アロンガンテが賭けた相手はイニーとなる。額はそこまでではないが、ゲン担ぎ兼応援のために賭けたのだ。


 ロウシェンの反撃に面食らうカルトトリステスだが、何とか十字槍の一撃を防ぎ、後方から迫る十字槍も避けきる。

 ロウシェンはそのまま炎の魔法で加速して、カルトトリステスに接近する。


 タイミング良く帰ってきた十字槍を掴み、2本の十字槍を巧みに操りながら、カルトトリステスを追い詰める。


『先程の演武といい、ロウシェン選手の動きには華がありますね』

『魔法だけではなく、実際に型の訓練などもしているそうです。なので、あれほどキレのある動きができるのでしょう』


 ロウシェンが十字槍を振るう度に炎や雷が走り、まるで舞っているように見える。

 だが、確実にカルトトリステスを追い詰め、徐々に傷が増えていく。

 

 カルトトリステスも苦い顔をしながら何とか反撃をしようとするも、中々隙を突くことができないでいた。


『十字槍は一部では最強の武器と呼ばれているだけあって、カルトトリステスは苦しそうですね』

『突いてよし。斬ってよし。払ってよしと、多様な攻撃が出来るので、予測が立て難いのが、十字槍の強みですね』


 このままでは不味いと思ったカルトトリステスは大鎌から戦斧に変え、ダメージ覚悟でロウシェンを斬りつける。

 ここで無理をして攻めても良かったロウシェンだが、カルトトリステスは回復魔法が使える。

 もしもカルトトリステスの攻撃を受け、痛み分けになった場合、不利になるのはロウシェンなので、仕方なく距離を取る。

 

『おっと、ここでカルトトリステス選手は回復魔法で傷を癒す!』

『この魔力消費が、戦いに響かなければ良いですね』


 回復魔法は魔力の消費が激しい。

 一部の例外イニーやジャンヌなど、回復特化ではない場合、戦いの最中に回復するのは諸刃の剣と言って良いだろう。

 

 一時的に距離を取ったロウシェンだが、直ぐに踏み込み、2本の十字槍で斬り掛かる。

 だが怪我を治し、仕切り直しとなった事で、カルトトリステスも防御の姿勢から、自分からも斬り掛かる。

 十字槍と戦斧が交わり、火花を散らす。


 武器による攻撃の合間に炎や雷が走り回り、光の柱やレーザーの様なものが迸る。


『ロウシェン選手が一方的に攻め立てると思いきや、カルトトリステス選手も負けずに攻める!』

『これはどちらが勝つか分からなくなってきましたが、回復魔法を使った分、カルトトリステス選手の方が不利でしょうか?』


「わらわもあんな風に戦いたいのう」


 ロウシェンの戦い振りを見ながら、ミカがポツリと零す。

 舞うように十字槍を振り、合間に炎と雷を使い、不規則な攻撃を繰り出す。

 自分の武器である巨大なチャクラムなら、ロウシェンと同じような事が出来るのではないかと、考える。


 投げて良し。斬って良し。振り回して良し。

 だが、まだミカの体格には合っておらず、どうしても振り回されている。

 振り回されない程の力か、武器に見合った身長になれれば……。


 2人の戦う様を見つめ、ミカは真剣に悩むのであった。


 一瞬鍔迫り合いになるも、2人は飛び退くように離れ、肩で息をする。

 戦闘時間としてはそう長くないだろうが、新魔大戦という大舞台で戦っている分、緊張で身体に力が入っているのだろう。

 そのせいで、何時もより早くバテてしまっている。


『次が最後になりそうですね』

『この様な大舞台で戦う事は中々ない分、最初から飛ばし過ぎてしまったのでしょう』


 ロウシェンは自分の前に十字槍を交差させるように構え、カルトトリステスは戦斧から大鎌に武器を変える。

 2人はほぼ同時に踏み出し、一気に距離を詰める……。

 

『勝敗は……ロウシェン選手の勝利となります!』

『最後のフェイントは見事でしたね。2槍流だから出来た事でしょう』


 ロウシェンはカルトトリステスと交差する前に十字槍の片方を投げ、カルトトリステスに防御させたのだ。

 そして、無理に防御したせいで出来た隙を突いて、十字槍でカルトトリステスを貫いたのだ。

 

『見ごたえのある良い試合でしたね。続きまして、3回戦目に移りたいと思います』

『次の対戦はロシア代表リェーズパーダ選手とアフリカ連合代表カリプルヌス選手となります』


 滞る事無く2試合を終え、新魔大戦は3回戦目が始まろうとしている。

 その裏で暗躍している者に気づく者は、誰も居なかった……。


「あれがアクマの契約者か……とてつもなく、弱そうだねぇ~」


 そして、新たな困難がイニーの身に降りかかる事を知る者も、誰も居なかった。

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