魔法少女は持ち去られる

 タラゴンとイニーの想像を絶する模擬戦を見終えた、マリンとミカは体調を少し崩しながらも、先程見た模擬戦について話し合っていた。

 マリンは手足を吹き飛ばされてもなお、突き進む姿に胸を締め付けられた。

 

 これが普通の模擬戦かと問われれば、全員が否と答えるだろう。

 痛みは現実と変わらないはずなのに、少し顔を顰めるだけで叫ぶどころか泣く事すらしない。


「どうでしたか?」


 マリンはミカに問いかける。無論、ミカもあの模擬戦には考えさせられるものがあった。

 幾ら傷ついても戦いを止めない様は、ミカがロックヴェルトに狙われた時に見た姿と一緒だった。


 自らを投げ捨ててミカを助け、変わり果てた姿第二形態でロックヴェルトを追い詰めた。

 結局イニーはミカには何も教えていないが、ミカとしては出来れば知りたい。


 2つの姿を持ち、片や濁った眼をし、片や憎悪に染まった眼をしている、その理由が知りたい。

 強化フォームとは全く違い、まるで人が変わった様な姿になる、その理由を。


「わらわなら、最初の一撃で死んでいるじゃろう。もしも避けられたとしても、あの殴りで悶え、そのまま終わりじゃろうな」


 血を吐きながら吹き飛んでいるのに、それすら予想してたかのように追撃をする。

 回復魔法が使えるからと、安々と出来るものではないだろう。


 だが、ミカはイニーの、もう1つの姿を見ているからこそ立てられた予想がある。


 この模擬戦のイニーは確かに本気だ。本気だが、魔法少女相手ならあの黒い姿の方がもっと戦えるはずだと。

 知られている通り、世界的に魔法と言われているものは魔法少女相手には不利だ。


 イニーの場合は詠唱をしなければ魔法が使えない制約や、攻撃以外の魔法は弱体化する制約がある。

 戦う事に限って言えば魔法少女相手にもそれなりに戦えるだろうが、それでも、黒い姿の方が魔法少女相手には戦えるだろう。


 何故隠しているのか……ミカはその事が気になった。


「強化フォームになれば……いえ、まだ足りないわね」

「わらわたちはまだ新米のぺーぺーじゃ。焦る気持ちも分かるが、焦った所で何にもならん」

 

 ミカは首を振ってやれやれとする。

 

 そう、焦った所で仕方がないのだ。

 焦った結果が招くのはミスであり、そのたった1回のミスが招くのは死だ。

 強くなるには、堅実に訓練を重ね、魔物を倒すのが一番良い。


 マリンとミカが少し休んでいると、モニターが切り替わり、イニー達が映し出される。


「あのタラゴンさんがイニーの姉ね。可哀そうに」


 マリンは先程タラゴンに連れて行かれた、イニーの事を思い出す。

 やる気に満ち溢れたタラゴンとブレードとは違い、イニーは巻き込まれただけの一般魔法少女だ。


「じゃが、最低でもランカーと一緒に戦えるだけの力はあると評価されているのじゃろう」

「そうね。あっ、始めるみたいよ」


 アロンガンテがレールガンを、グリントが右手に持ったライフルを構えて発射する。

 その一撃だけでも、当たればただでは済まないだろう。


 しかし、それはタラゴンによって防がれ、余波によって砂煙が舞う。

 その間にブレードが駆け出し、イニーが魔法を放つ。


「わらわもあれ位の雷が使えればのう」


 イニーが使った雷の魔法は、ミカの最大出力よりも威力が高かった。

 もちろんイニーの魔法は相手には通用せず、全て防がれてしまったが、防ぐ必要がある程度の火力はある。


 ミカが模擬戦の途中に、ブレードに放った雷の魔法は、ブレードが素の状態で受けても肩こりが取れた、と言われて終わる事があった。

 

 フルールが展開した木の壁をブレードが一息で斬り裂き、フルールに斬り掛かろうとするも、アロンガンテが高周波ブレードで防ぐ。

 グリントがミサイルをブレードに放つが、それはタラゴンが爆発させる。

 しかし、余波を避ける為にブレードとアロンガンテは距離を少し取り、アロンガンテがレールガンを乱射する。

 

 それをタラゴン達は何とか避けるが、フルールの魔法の植物が、動きの阻害する様に地面から生えてくる。

 それはイニーが翼から魔法を放って壊し、追加でフルールに魔法を放つことで牽制する。

 

 タラゴンやブレードにも多少攻撃が掠るが、軽いものはイニーが回復し、万全の状態を保つ。

 

「凄いわね……」

「うむ。これがランカーなのじゃな」

 

 地面はグリントやタラゴンによって抉れ、ブレードが果てまで斬り裂き、イニーとフルールによって植物や氷が散乱している。

 先程のタラゴンとイニーの模擬戦も酷い有様だったが、開始数分で、それを凌駕している。


 拮抗した戦いが続く中、イニーが大きな円を描くように氷槍を地面に放つ。

 

「あれは一体なんじゃろうか?」

「先程の動画を考えますと、あれで何かをするとは思うけど、どうするのかしら?」


 イニーの詠唱が始まる中、アロンガンテのチャージしたレールガンにより、地面に大穴が開く。

 ブレードの剣戟が空気を斬り裂き、フルールによって荒野に緑が生い茂る。

 タラゴンが全てを吹き飛ばし、グリントが乗るリンドが残骸を踏み抜く。


 イニーの詠唱に呼応する様に魔法陣が描かれていき、空中で層を作る。


「綺麗なのじゃ」


 幾何学的な模様が描かれた魔法陣が連なる様は、端から見ればとても綺麗なものだ。

 だが、マリンはここでおかしな事に気づく。


「あの魔法陣が魔法の範囲って事は、タラゴンさんとブレードさんも入ってないかしら?」

「はえぇ?」


 モニターに映る魔法陣はとても大きく、イニー以外全員をその円の中に捉えていた。

 

終わるべき世界のエンド・オブ・無神論サクリファイス

 

 モニターが無数の光線により、白く染まる。


 だが、イニーの魔法が放たれる瞬間に、イニー以外は各自強化フォームになり、防御する。

 滅びを告げるような、イニーの魔法は荒野に大穴を開けるが、相手となる3人はもちろん、味方である2人も無傷で耐えきった。

 

 だが、マリンとミカはタラゴンの叫び声が少しだけ聞こえ、何故イニーがこんな事をしたのかが気になった。

 完全にフレンドリーファイアであり、無傷とはいえ普通は許されない。


 とうとうイニーがキレたのかとマリンは思ったが、その様な素振りは見せず、模擬戦が続く。

 もちろん巻き込まれたブレードさんは笑うだけで、文句はタラゴンの一言位だった。

 

 強化フォームとなった事で戦闘スピードが加速する。

 常に爆発やレールガンによる軌跡が映り、フルールによる魔法の範囲が広り、時々森が出来上がる。


「私もいつかは……」


 マリンはブレードの戦いをつぶさに観察し、脳内でシミュレーションをする。

 使う武器が違うとはいえ、ブレードはマリンと同じ二刀流である。

 これ程良い教本はないだろう。

 

 

 途中でイニーはアロンガンテのチャージしたレールガンが直撃し、死亡判定となる。

 続いてブレードがアロンガンテを倒すもフルールによって動けなくされたところをグレントによって倒される。


 タラゴンが善戦してフルールを倒すが、疲れた所にグレントの攻撃を喰らい、イニー達の負けとなった。


 マリンとミカが先程の模擬戦について話していると、タラゴンがイニーを脇に抱えて戻って来る。

 ブレードも後ろから付いて来ているが、笑いを堪える様な表情をしていた。


「戻ったわ。どうだった?」

「凄まじかったです……あの、何故イニーは抱えられてるんですか?」

「気にしないでやれ。それに、悪いのはイニーではなく、タラゴンだからな」


 ブレードは笑いながらソファーに座る。

 タラゴンは自分達を巻き込んで良いとは言ったものの、イニーがあそこまで強力な魔法を使うとは思ってなく、模擬戦が終わったと同時に、イニーの頬を両手で弄りながら説教をした。


 そして、頬を掴まれたせいでうまく話せないイニーを脇に抱えて戻って来たのだ。


「まさか、あんな魔法を使うなんて思わないじゃない?」

「まあな。危うく全員お陀仏になりかけたからな。まあ、身体が温まって来た所だし、本気を出し始めるには丁度良かったな」

「一応許可は貰っていたはずですが?」

「生意気言わないの」

 

 マリンとミカは、今の話を聞いて大体の事を察した。

 イニーの場合、高火力の魔法を使う場合、広範囲となってしまう。

 なのでイニーが高火力の魔法を使う場合、接近戦をするブレードや動き回るタラゴンを巻き込む恐れがある。


 その事を許可していたタラゴンだったが、イニーが本当に巻き込んで魔法を使うとは思っておらず、模擬戦中に悲鳴のようなものを上げたのだ。

 

「さてと、今日もやる事やったし、これからイニーの罰ゲームでショッピングに行くけど、どうする?」

「行きます!」

「行くのじゃ!」


 2人はハモる様に答え、イニーがやれやれと首を振る。

 

 マリンとしては初となるイニーとの買い物にワクワクするが、実際は2回目だと言う事を知っているのはミカだけだ。

 イニーが周りにバレない様にミカをチラリと見て、目くばせする。


 ミカはハッとして、小さく頷いて答えた。


「悪いが、私は用があるからパスだ。今日は楽しかったぜ」

「分かったわ。今日は付き合ってくれてありがとうね。また今度戦いましょう」


 タラゴンたちはブレードに別れを告げ、シミュレーター室を後にする。

 イニーがタラゴンから降ろされるのは、テレポーターに着いてからだった。





1 

 


 


 タラゴンさんとショッピングに行くのは、学園に入学する前以来だが、これが食品などを買うただのショッピングなら、俺も苦労をしないで済むんだがな……。


 俺の前には以前アクマの罰ゲームで訪れたショッピングモールが見える。

 因みに、ショッピングモールの名前は募集中とのことだ。


「1度は来て見たかったのよね」


 行くなら俺無しで行ってほしかったが、逃げられないように手は繋がれたままだ。

 ちなみにもう片方の手はマリンが握っている。


 ぶらんぶらんとしてやろうか?


『こんな早くに2度目が訪れるとは、運が良いね』


(俺としては運が悪いけどな)


 どうせまた着せ替え人形にさせられるんだろう?

 一体何が楽しんだろうな?

 こんなツルリンストーンな身体より、タラゴンさんとかが着た方が面白いと思うんだがな。

 

 そのままドナドナと運ばれ、色々な服をとっかえひっかえ着せられ続ける。


「白や黒も良いけど、水色とかも良いわね」

「次はこちらの着物なんてどうでしょうか?」


 まーだ続きそうですかね?


 今日はもう懲り懲りするほど戦ったので、なにもやる気が出ない。

 最後の3対3なんて世紀末を通り越してただの地獄だったしな……。


(新魔大戦の出場選手についての情報はあるのか?)


『選手については内緒だけど、出場するのはアメリカ。ロシア。カナダ。オーストラリア。中国。北極。アフリカ連合そして、ミグーリアって新興国と妖精局から1人だね』

 

(ほとんどは知っている場所だが、ミグーリアって魔物の被害者たちが集まって作った国で当ってたっけ?)


『そうみたいだね。出来て20年位かな? 魔法少女の育成に力を入れてるみだいだね』


 逆に、魔法少女に力を入れていない国があるなら、そっちを知りたいぜ。

 魔法少女が負けるってことは、それだけで被害が出るんだ。

 特に結界内で負けて、増援の魔法少女が遅れた場合は悲惨だからな……。


「着物も良いけど、次はゴスロリ系なんてどう?」

「良いですね! でしたら此方のフリフリの……」


(そう言えばアクマの仲間から連絡とかはないのか)


『パスは切ってあるから来ないし、する気はないよ。どうせ、奴らは戦うことしか考えてないからね。ハルナには会わせたくない』


 勝たなければ滅びるしかないんだから、それで良いと思うんだがね……。

 逃げたくなる気持ちも分からなくはないが、先延ばしにしたところで良い結果にはならないだろう。


(確認だが、新魔大戦が終わったら動くってことで良いか?)


『そうだね、向こうがどう動くかもあるけど、それくらいを目処に学園からはさよならだね』


 杖もとりあえず手に入ったし、一応身分も手に入った。それに、狙われているのが俺ならば、他の人と一緒に居るわけにもいかないだろう。


 世話になった恩は、新魔大戦に出るってことで清算だ。


「折角だし、パジャマとかも着せてみますか」

「この兎の着ぐるみパジャマなんてどうじゃ?」


(なあアクマ)


『どうしたの?』


(もしかして、これ全部買うのかな?)


 既に2時間程遊ばれているが、既に着た服は数知れない。

 水上のクローゼットも結構埋まっているが、これ全部は入らないだろう……。


『まあ、お金的にはタラゴンがたんまり持ってるだろうし、仕舞う場所もタラゴンがどうにかするだろうから、大丈夫でしょう』


 これ全部が無駄になる事を考えると、少々やるせない気持ちになるが、仕方ない。


 合計2時間30分程遊ばれて、やっと解放となった。


 夕飯は寮でひっそりと、アクマと食べました。


 今日の夕飯は、いつもより少しだけ、しょっぱく感じた気がした。

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