魔法少女のフレンドリーファイア

 模擬戦は案の定俺の負けで終わり、一旦待機室にて休憩をはさむことになった。


 やはり勝てないか……。

 

 前の時ほどゾクゾクする戦いにはならなかったとはいえ、それなりに本気で挑んだが、強化フォームにすらなっていないタラゴンさんに負けてしまった。


 1本取れたとはいえ、悔しい所だ。


(見てた感じどうだった?)


『善戦はしたって感じかな。そもそもが対人戦に向いてないんだし、1本取れただけでも儲けものだよ』


 使える大魔法を使えるだけ使って1本だからなー。

 慢心していないタラゴンさんはやはり強い……。


 最終的にフィールドの廃墟は全て吹き飛び、所々大穴が空いたり氷山が出来上がったりと、世紀末溢れる状態になっていた。


 もしも現実だったなら、国が滅びていただろう……。


 そもそもだ、強化フォームにならなくてもこれだけ戦えるのに、何であの時は強化フォームになったんだ? 嫌がらせか?


 まあ、あのひりつく感じは嫌いではないが、どう考えても過剰だったよな……。


 そりゃあ、土下座させられるわな。

 

「お疲れさま。まさか1本取られるとは思わなかったわ。やるわね」

 

 さっぱりとした表情のタラゴンさんが、気分良さそうに俺の頭を撫でる。

 もちろん、勝手にフードを下ろしてだ。


「それでも負けてしまいました」

「そう簡単に負けたらランカーを名乗れないわよ。イニーも無茶をしなくても戦えるように、もっと強くなるのよ」


 多少は戦いの幅が広がって強くなってはいるとは思うが、出会う敵が敵だしな……。

 俺が強くなるよりも、出会う敵がどんどん強くなっている気がしなくもない。


 晨曦チェンシーも最初から俺を殺す気だったなら、あそこまでうまく事を運べなかっただろう。

 奴には戦いを楽しみたいという気持ちがあったので、その隙を突いて倒せただけだ。


 最初から強化フォームになっていたらどうなっていたことやら……。


「負けたんだし、罰ゲームとして、今度お買い物に行きましょうね~」


 そんなこと初めて聞いたのですが?


 何か、負けるたびに罰ゲームを受けてる気が、しなくもないな……。

 

 撫でくり撫でくりされていると、ブレードさん達も待機室に帰ってくる。

 ブレードさんは変わらずだが、マリンとミカちゃんは妙に疲れているように見える。


「お疲れ~、そっちはどうだった?」

「13回やってやっと一撃ってところだね。新人としては上々だ」

 

 ああ、一撃入れられたのか。

 ブレードさんの戦いは動画でしか見たことがないが、マリンの上位互換であり、素でロックヴェルトの様に空間を斬り裂く。


 あの人が本気になれば、どんな防御も役に立たず、魔法なんかもよく分からない理論で斬り裂かれる。


 理不尽なランカー筆頭なのがブレードさんである。

 強いて弱点があるとすれば、対空性能が低いくらいだろうか?


 強化フォームになると空を飛び跳ねていたので、あくまでも素の状態での弱点だがな。

 

「疲れたわ……」

「わらわもがんばったのじゃ~」

 

 2人共ソファーに倒れ込み、そのまま動かなくなる。

 シミュレーションとは言え、疲れるものは疲れるからな。

 それがランカー相手ならなおさらだ。


 飲み物でも持ってきてやるかな。

 2人共オレンジジュースでいいだろう。


 タラゴンさんの魔の手から逃げて、飲み物を取りに行く。


「どうぞ」

 

 テーブルにオレンジジュースが入ったコップを置き、少しだけタラゴンさんから離れて座り直す。


「タラゴンとイニーの模擬戦を見てたが、中々楽しそうだったな」


 あの世紀末見たいな戦いを見た感想が楽しそうって……楽しいの一言では済まない惨状だった思うのだが?


「でしょ? 私も結構本気を出しけてけど、まさか1本取られるとは思わなかったわ」

「あれだけ波状攻撃されたんだから仕方ないだろう。私なら大丈夫だっただろうけどな」

 

 ブレードさんはタラゴンさんを煽り、売り言葉に買い言葉でふざけ始める。

 いい年の大人が何をやっているんだか……。


「イニーは、よくタラゴンさんから1本取れたわね……見てたけど、同じ魔法少女なのかと疑ったわ……」

「そもそもじゃが、よく逃げずに戦えたのう」


 下手に逃げると、更なる無理難題が襲う可能性があるからな。

 それに、前回に比べれば普通の模擬戦だ。

 

 少々……かなり派手な戦いになったが、特に感じるものはなかった。


「前回に比べればマシでしたからね。そちらはどうでしたか?」

「……そうね。ミカのおかげではあるけど、2度目はないでしょうね」


 ミカちゃんがマリンに同意するように頷き、2人同時にオレンジジュースを飲む。

 なんだが息が合っているな。


 それからしばらく休憩をはさみ、再び俺はタラゴンさんと訓練をした。


 主に目隠しをした状態での、戦い方についての訓練だったが、少しは目が見えない状態での戦闘に慣れたとは思う。


 今はアクマが居る事を前提とした戦い方たが、この訓練が何かに繋がると思いたい。

 心眼的なものは期待してないが、気配とかを今以上に読めるようになりたいところだ。


 ……なるのだろうか?


 午前はそんな感じで訓練をし、ブレードさんの提案で昼は全員で食べる事になった。

 一応このランカー用の施設にも食堂はあるが、デリバリーして、待機室で食べるそうだ。


 因みにチョイスはハンバーガーである。

 

 男の時は仕事帰りとかに食べてたが、この身体になってからは中々そういう店に行けてなかったので、食べるのは久々だ。


 妖精界でも結構有名なハンバーガー店らしいが、食えれば何でも良い。

 

 5人前にもなると、結構な量になるのだが、妖精が宙に浮かせて運んできてくれた。


 つまり、妖精デリバリーだ。

 

 現実ではお目にかかる事は一生ないだろう。


 これが、ファンタジーと言うものか……。

 

 ハンバーガーはパティ2枚にチーズとトマトとなっており、サイドにポテトも付いている。

 

 無難で美味しそうではあるのだが……。

 

『が……んば……ぶふぅ!』

 

 悲しいかな。俺の口では、ガブリつくには少々大きすぎたようだ。

 

 タラゴンさんの母親の様な笑顔と、マリンの何とも言えない笑顔で更に精神的ダメージを負う。

 そして、どう頑張っても口の周りが汚れてしまう……皿に載せて食べられれば良かったのに。

 

「あらあら。口の周りが汚れているわよ」

 

 タラゴンさんに口の周りを拭いてもらいながら、何とか完食する。

 当たり前だが、俺の食べる速度が一番遅い。


「腹も膨れた事だし、御褒美の動画を見るか?」

「はい!」

 

 マリンが元気よく返事をするが、それ罠だからな?

 どんな噂だか知らないが、設定が現実リアルと一緒で、更にデスマッチだから子供どころか大人にもオススメ出来ない代物だぞ?


 それを分かってて、この人は昼飯の後に見せようとしてるからな?


 ブレードさんが端末を操作して、俺とタラゴンさんの模擬戦を再生する。


(懐かしいな。あの時は何度も手足を吹き飛ばされて、酷い絵面だったな)


『さっさと諦めて負ければいいのに、無茶をするのが悪いよ』


 折角ランカーと戦えるからと無茶をしたが、そのランカーが今では義理の姉だからな……人生何があるか分からない。


 互いに牽制程度の魔法を使い、そこから俺が腹を殴られたり氷塊をタラゴンさんに向けて落としていき、タラゴンさんが強化フォームになる。

 

「うっ」

 

 俺の腕が爆破される場面となり、軽くミカちゃんがえずく。

 血が噴き出るのは一瞬とはいえ、結構迫力がある。

 腕が再生されるのも少々気持ち悪いので、どう考えても食後に見るものではない。


「この時からまだ1年も経っていないのよね」

「そうですね」

 

 1年も経っていないが、恐らくその1年後が訪れる可能性は低いだろう。

 魔女次第とはなるが、奴らがそんなにのんびりと、しているだろうか?


 まあ、下手な事は言わないでおこう。


 動画も終盤となり、数度手足を爆破されながら、タラゴンさんの真上を目指して飛んで行く。

 2人共顔色が悪いが、タラゴンさんとブレードさんは平常運転だ。


 俺の神撃――今は天撃をタラゴンさんが防御し、俺が更に演唱を始めて血の涙を流す。

 

 最後に星と共に滅びよスーパーノヴァ・レプリカを使いタラゴンさんの両腕が吹き飛び、俺も空を舞ってから地面に落ちる。

 

 これにて動画は終わりとなる。


 因みに星と共に滅びよスーパーノヴァ・レプリカなのだが、この戦い以降使う事が出来ない。

 あの時はギリギリの状態で、何かしらのリミッターを外せたから使えたのだろう。


 一応2人共吐かないで動画を見終えたが、顔色は良くない。

 

「……これは公開できませんね」

「うむ。まさかここまでとは思わなかったのじゃ」

 

 せめて怪我と血の描写がオブラートだったら多少見られたものになっただろうに。

 表現的に問題無かったとしても、途中から素顔が映ってるので、公開はしなかっただろうがな。


「ククク。中々良い動画だっただろう。因みに、他人に口外しないようにな」

「勿論ですが……何故こんな模擬戦が行われたのですか?」

 

 それはね、タラゴンさんが暴走した結果だよと言いたいが、黙って置く。


「そこの阿保がイニーを連れ去って勝手に始めたんだよ。終わった後は楓に土下座させられてたな」

「嘘を言うんじゃないわよ。勝手にじゃなくて、ちゃんとイニーの許可は取ったわ」

「だからって限度があると、楓に怒られただろう?」

「ぐぬぅ……」

 

 あれは返事をした俺も悪いけど、それを鵜吞みにするタラゴンさんも悪かったと思うんですよね。

 まあ、あれでランカーがどんな感じなのかを知る事ができたのは事実だ。


 昔流行ったランカー1人で世界を滅ぼせるって噂も、あながち嘘ではないだろう。

 

「2人はまだ気分が悪そうだし、ゆっくり休んでいなさい。ブレードも居るし、3人ででもやってみる?」

「あれか? 相手は誰にするんだ?」

「964でどう?」


 あれとか誰とか言って、何の事かと思ったが数字を聞いて察しがついた。

 シミュレーション上のデータを使って。対人戦をするつもりだろう。


 それも3対3でだ。


 数字的に相手はアロンガンテさんに、会ったことのないフルールさんと、グリントさんか……馬鹿なんじゃないの?


 3人中まともな魔法少女が1人しかいないぞ?


「ルールはいつも通りで良いでしょうし、行くわよ!」

「良いだろう。腕が鳴るな」


 いつもの如くタラゴンさんに手を引かれ、待機室を後にする。

 俺の返事は待ってくれないようだ。

 


 サクッと繭に放り込まれて、景色が荒野に変わる。

 直ぐにブレードさんとタラゴンさんが現れた。


「ルールってどんなのですか?」

「うん? タラゴンから聞いてなかったのか? 3対3のデスマッチだ。痛覚はそのままだが、見学の2人が居るから、表現はマイルドに設定してある」


 それって見た目は大丈夫ですけど、死ぬ時は死ぬほど痛いってやつですよね?

 痛みに対する忌避感はほとんどないが、戦ってる時にが出てしまわないか心配だ。


 心躍る戦いとなると、自分を抑えられるか分からないからな。


「ブレードが前衛で私がカバーして、イニーが強い魔法を適当にぶっ放す感じで良いわね? 場合によっては私たちを巻き込んでも構わないから」

「問題無しだ」

「了解です」


 先に空を飛ぶために翼を生やしておく。

 

 もちろん白ではなく黒い方だ。

 体力はそれなりに回復して増えてきているが、地上よりも空中の方が戦闘の幅が広がる。


 魔力が常に減っていくデメリットがあるが、軽い魔法ならノータイムで使えるし、地上を走るより速く動ける。


「それじゃあ、始めるわよ!」

 

 機械音が鳴り響き。数十メートル先に2人とリンドに乗ったグリンドさんが現れる。


(因みに、6位の詳細は?)


『魔法少女フルール。異名はワイズプラント。植物の魔法を使う魔法少女で、守りや拘束等を得意としてるね。とにかく堅い。以上!』

 

 そうなると、向こうの前衛はアロンガンテさんで遊撃にグリントさん。カバーにフルールさんって感じか。

 場違い感が凄いが、やるだけやるか。


 アロンガンテさんとグリントさんが射撃で攻撃をしてくるが、それをタラゴンさんが爆破して防ぐ。

 砂煙が舞い、そこをブレードさんが突っ切る。


轟く雷よ。ライト万物を斬り裂くニングシャ刃となれイン


 空から無数の雷が降り注ぎ、3人に当たるかと思いきや、フルールさんの、魔法の植物によって防がれる。

 

 フルールさんの魔法をブレードさんが斬り裂き、ブレードさんの追撃をアロンガンテさんが受け止めて、激しい攻防が始まる。


 こちらもちょいちょい魔法を翼から撃ってはいるが、やはりフルールさんが全て防ぐ。

 まあ、魔法をばら撒けばばら撒くほど俺に有利になる。


 だが、俺とフルールさんは今回サポート寄りの戦いをしているが、他の4人の戦いが酷い。

 流れ弾は何とか避けているが、1発でも当たれば、それだけで致命傷になりかねない。


 なんにせよ、このままでは一進一退となり、埒が明かない。


 ――とりあえず、全員巻き込むか。


 16本の氷槍を壊されない様に、かなり距離を取って、円を描くように地面に突き刺す。

 

「滅びの針は時を刻む。終末に繋がる道は開かれる。とめどなく溢れる血は果てしなく広がり罪の証となりて、十字架に注がれる」


 自分の声よりも周りの爆音や、レールガンの発射音。ブレードさんの剣が地面を割る音が物凄くうるさい。

 俺個人が狙われてるわけではないが、恐ろしいものだ。


「非力なる者は歌を紡ぎ、高貴なる者は血を紡ぐ。愚かなる者の代表として我は願わん」


 この魔法で消費する魔力はおよそ4割。

 既に2割程使っているので、この規模の魔法はこれ1回きりだ。

 それに、これを使った後は俺は積極的に狙われるようになるだろう。


『えげつないねー。流石ハルナえげつない』


(仕方ないんだよ)


 俺の魔法の仕様上敵味方を区別して使うのは難しい。

 ならば、最初から全員巻き込んだ魔法を使った方が、効果がある。


 氷槍によって描かれた魔法陣が、空中に層を作る様に連なる。

 

終わるべき世界のエンド・オブ・無神論サクリファイス


 天を裂き、地を轟かす魔法が放たれ、光によって一瞬視界が遮られる。タラゴンさんの「バカー」と言う声が微かに聞こえた気がするが、許可は貰っているので、気にしない。


『生存反応5人。まあ、誰も死んでないね。ただ、全員本気強化フォームになったみたいだよ』


 でしょうね! そして、ここからが本番って事か……。


 しかし、ここからの戦いは正直あまり覚えていたいものではなかった。


 強化フォームとなったランカーの間に入るなど、今の俺では無理だったのだ。

 

 これだけの力があっても、魔女に負けるのか?

 この人たちを相手に、俺1人で勝てるだけの力なんて……。


 ――まあ、やるしかないんだけどな。

 

 ただ、最後に味方諸共魔法を使った事をタラゴンさんに怒られた。

 

 使って良いって言ったじゃん……。

 

 タラゴンさんのスパルタ訓練を終えた俺は、用事があるブレードさん以外に引きずられる形で、シミュレーターを後にした。

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