魔法少女ブレードは姉御肌

「……そうよね。イニーって全く力が無かったわよね」

「すみません」


 杖縛りを提案されたので、杖のみでどこまで戦えるかやってみた結果、E級に倒されました。


 何と言うか、攻撃をいなす事は出来るのだが、筋力がないので防いだり、此方から攻める事が全くできなかったのだ。

 

 俺ってフィジカル雑魚過ぎませんかね?

 

「良い縛りだと思ったけど、流石にこれはないわね」

「……すみません」

 

 第二形態なら剣を問題無く振れる程度の力はあるが、白魔導師だとな……悔しいです。


「杖無しで魔法を使っても今回の新人達には過剰だし……いっその事目隠しして戦う?」


 うーん、ありかも知れないな。

 

 パッと見ただの舐めプの様に見えるが、それ位のハンデで戦えば、俺も何かを掴める可能性がある。

 

 それに、目隠しして戦うと言うのも面白そうだ。

 

(目隠ししてても、アクマのナビがあれば戦えるか?)


『問題無いだろうね。流石に、正確に狙って魔法は使えないけど、それなりに戦えると思うよ』

 

「それでやってみようと思います」

「えっ、本当に? 流石に目隠しして戦うのは難しいんじゃないかしら?」

「多分大丈夫だと思いますので、お願いします」


 タラゴンさんがいぶかしげにしながらも、どこからともかく黒い帯を取り出したので、それを鉢巻きの様にして目を覆う。

 

 この状態なら、新魔大戦の時にフードを取っても問題無いだろう。

 出来ればフードを被ったままでいたいが、流石に相手に失礼だろう……あんまり変わらないか?

 

 一応風の補助系魔法を使えば、周りの状況を知る事ができるが、最初はアクマに任せるとしよう。


「それではお願いします」

「さっきみたいに、簡単に負けないでよ」


 機械音が鳴り響き、魔物の出現を知らせる。


『四方20メートル先に獣型の魔物。合計4体』


(了解)

 

炎よ。舞い踊れフレイムバタフライ


 蝶型の炎をばらまき、牽制する。

 

 草原を駆ける足音はするが、どれ位の距離とかはアクマに頼らないとどうしようもないな。


『3時の方向10メートル先!』


 3時だから、これ位かな?


氷よ。連なり降り注げアイシクルランサー


 氷の槍を数本纏めて放ち、面で攻撃する。


『ヒット! 次は右手方向12メートル先とその後ろ3メートル先!』


「大地の鼓動よ。天地喰らう咢となれアースクエイク


 アクマの指示の方向の地面を大きく裂き、再び閉ざす。

 恐らく2匹纏めて倒せてるはずだ。


『ラストは真後ろで3メートル先!』

 

 ……流石にの距離は厳しいが、やりようはある。

 これまでも何度かやって来た、飛び切りの方法がな。


風よ。吹き飛ばせウインドバースト!」


 魔物が接触する前に、風の魔法で自分を空に吹き飛ばし、魔物との接触を避ける。


炎よ。燃やし尽くせフレイムバーン


 杖を地面に向けて、爆発する炎弾を撃ちだし、魔物を吹き飛ばす。

 

 これで終わりだろう。

 

 爆発の余波が俺の頬を舐め、その余波をうまく使って体勢を直して着地する。


『4体撃破完了! お疲れ』


 何とか倒せたが、これは中々にスリリングだな……だが、面白い。

 意味があるのかと問われれば、なんとも言えないが、見えないからこそ感じるものがある。


 うまくいけばロックヴェルト対策になるか?

 奴の魔法を正確に感じ取れるようになれば、先手を取れるようになるかもしれない。


 目隠しを外すと直ぐ近くにタラゴンさんが来ているのだが、微妙な表情をしている。

 

「思った以上に戦えるわね。何か仕掛けでもあるの?」


 仕掛けはあるにはあるが、アクマの事を教えることは出来ないからな……。


「秘密です。それよりもこれで良いですか?」

「後は一撃で倒さないように注意すれば、大丈夫かしら? 一応杖は無しでやってみる?」


 他の新人達がどれ位強いかが全く分からないが、杖無しでやってみて、駄目そうなら取り出せばいいだろう。

 

「そうしてみます」


 結果としては先ほどより少し苦戦したが、問題なく倒せた。

 今は狙って魔法を使うのではなく、ばら撒く様にして魔法を使っているが、練度を上げればそれなりに狙いをつけられるようになるだろう。

 

「うーん、出来れば可愛いを前面に押し出してほしいけど、これはカッコいいわね……」


 恐らくこの姿になってから、初めてカッコいいと言われたな……少し嬉しいです。


「後は繰り返し訓練すれば、それなりに戦えるようになると思います」

「そうね。新魔大戦はこれで行きましょうか。それじゃあやる事やったし、久々に私と戦う?」


 やはりそうきたか……あの時みたいなデスマッチにさえしないなら、付き合ってやるかな。

 

「良いですが、あの時みたいなデスマッチは嫌ですよ」

「……分かってるわよ。ちゃんと普通の設定にしておくわ」


 本当かな~?


 まあ、戦えるのならそれで良い。

 多少トラウマとは言え、戦うこと自体は好都合だからな。


 今度はどこまで追いつめられるかな?


 タラゴンさんが端末を操作して、景色が草原から廃墟に変わる。

 

「開始は5分後で、設定は先に有効打を3回入れた方の勝ちね。分かった?」

「分かりました。それでは5分後に」


 互いに距離を取って、廃墟に向かう。

 いたって普通の模擬戦になりそうで良かった。


(今回はナビは無しでいいぞ)

 

『了解。頑張ってね』


 さてと、どこまで戦えるかな?





1




 イニーとタラゴンが色々と試していた頃、マリンとミカはブレードに遊ばれていた。


 マリンの振るう刀は一撃としてブレードには掠らず、ミカのチャクラムもブレードの持つ剣と刀に往なされ、全く効果がない。


 マリンは一度弓で攻撃をしてみたのだが、ブレードが綺麗に跳ね返し、危うく自分に刺さりそうになった。


 飛び道具など使わず、己の手で一撃を入れてみろ。


 そのようなことを言外に言われ、それ以降は刀で一太刀入れようと頑張っている。


 マリンはブレードの懐に踏み込み、跳ね上げる様に刀を振るい、それに呼応するように、ミカちゃんがブレードの後ろからチャクラムを横薙ぎに振るう。


「甘い。全く甘いなぁ!」


 ブレードは左手に持つ剣でマリンの刀を往なし、右手に持つ刀でチャクラムを上に弾き飛ばす。


「雷円斬!」

 

 ミカちゃんはチャクラムと一緒に飛ばされるが、その反動で回転しながら、雷の斬撃を飛ばす。


 この一撃だけではブレードに、一撃を入れることはできない。

 しかし、この戦いはミカ1人で戦っているわけではない。


 マリンは往なされた力に乗るようにして身体を回転させ、ブレードをその場に食い止めるため、刀を連続で振るう。

 

 そんなマリンの猛攻を、ブレードは左手の剣だけで相手をし、真上から迫る雷円斬を右手に持っている刀で斬り裂く。


 ついでとばかりに剣圧で、ミカを吹き飛ばす。


 新人の中ではイニーの次に強いマリンと、C級を単独で倒すことが出来るミカ。


 そんな魔法少女2人を相手にして、余裕の表情を崩さないブレード。


「連携も悪くないし、個々としても新人ならば優秀だ。だが、まだまだ甘い」


 ブレードが僅かに目を閉じ、その隙にマリンは刀でブレードを突く。


 その一撃はブレードの身体を貫き、念願の一撃を入れられたと、マリンに錯覚させる。


「だから、甘いんだよ」

 

 貫かれたはずのブレードが歪んでいき、幻のように消える。

 当の本人であるブレードはマリンの後ろを取り、首に剣を突き付けていた。


「これで4敗だ。ひよっ子」


 マリンは悔しそうに顔を歪め、その場に腰を下ろす。

 先ほど吹き飛ばされたミカも駆け寄って来て、マリンの隣に座りこむ。


 

 魔法少女ランキング7位。剣王の二つ名異名を持つ魔法少女。その名もブレード。


 剣と刀で二刀流をする、かなり変わった魔法少女である。


 ランカーなので強化フォームにもなれるのだが……ブレードの場合は戦っている内に、いつの間にか強化フォームになれるようになった。


 また、順位は7位なのだが、実際の実力はそれ以上ある。

 しかし、本人の希望により7位となっている。

 よく分からないけど、とんでもなく強い。

 

 それが彼女である。


「太刀筋が綺麗すぎるな。魔物相手には良いが、人間相手にそんなんじゃカウンターしてくれと言っているようなもんだ」

「はい……」


 強い。

 

 それが、マリンがブレードに感じたものだった。


 マリンは自分と同じく刀を使うブレードの動画を見て、戦いの参考にしてきたが、実際に戦ってみて、ブレードの洗練された動きに目を奪われるばかりだった。


 最後の一突きも確実に当てたと思ったが、結果として後ろを取られて負ける形となった。


「ミカも悪くはないが、折角雷の魔法を使えるんだから、もっと有効な使い方を考えろ」

「分かったのじゃ」

 

 イニーに助けられた一件以来、精力的に訓練に励んでいるミカであるが、やはりブレードには一撃も攻撃を当てられていない。


 イニーに助けられた結果、初めて強くなりたいと願い、徐々にだがその蕾を開かせようとしているミカ。

 

 2人がかりでもどうにもならないブレードという壁を前にしても、未だにその目から闘志は消えておらず、次の戦いに向けて作戦を立てる。


 ブレードが単純に強いからこそ、2人は中々突破口を見いだせていない。

 攻撃のタイミングをずらしてみたり、逆に合わせてみたり。

 前後から挟んでみても、両手の剣と刀に防がれてしまっている。


 マリンには強化フォームになる手も残されているが、素の状態でブレードに一撃を入れたいと思っている。

 

 それはマリンの意地でもあるが、ブレードが強化フォームになれば、折角の2対1をしているのに、その強みが無くなってしまうからだ。

 

 そんな2人が次の戦いはどうするか考えていると、呼び出し音が鳴り響く。


 ブレードは確認の為に端末を操作していると、ニヤリと笑う。

 

「タラゴンとイニーが模擬戦をするみたいだが、見るか?」


「見ます!」

「見るのじゃ!」


 再びブレードが端末を操作し、シミュレーション内の空に3つのモニターを映し出す。

 1つはイニーを映し出し、もう1つがタラゴンを。最後の1つが俯瞰視点で映し出される。

 

「有効打3本制か。流石にデスマッチを選ばないか」


 ブレードは昔あったタラゴンとイニーとの模擬戦を思い出し、少々不安げにモニターを見上げる。


 模擬戦の開始を告げる機械音が鳴り響き、2人同時に動き出す。

 現状は2人共離れており、互いの位置は分からない。


 タラゴンが空を飛び、適当なビルを爆破してあぶり出しを始める。


「まあ、タラゴンならそうするよな?」

「どういうことですか?」


 ブレードが呆れたように呟いたのをマリンは聞き逃さず、理由を尋ねる。


「私もそうだが、ああいう遮蔽物が多い時は全て壊してしまうんだよ。味方が居るならともかく、居ないなら何も無い方が戦いやすいからね」


 普通の魔法少女なら遮蔽物を使って戦うが、ランカーともなると、遮蔽物は邪魔にしかならない。

 邪魔なものは壊して、真っ更な状態にしてしまった方が戦いやすいのだ。


 しかし、イニーは爆発の方向に当たりを付けて魔法を放つ。


 何時もなら唱えた魔法は直ぐに飛んで行くのだが、今回は全ての魔法を撃たないで、一部を空間に留めていた。

 

 タラゴンもイニーの魔法が見えた方に飛んで行き、辺りを見渡す。

 既にその場にはイニーは居ないのだが、時間差でその場にあった魔法がタラゴン目掛けて放たれる。


 タラゴンはビルを爆発した事によって生まれた土煙の中、飛んでくる魔法を避け、カウンターとばかりに爆発を放ち、土煙を吹き飛ばす。


『居ない?』


 タラゴンが、イニーが居ると思っていた所には誰もおらず、辺りを見渡す。

 その時、タラゴンの真上から氷柱が降り注ぎ、地面から岩槍が生えてくる。


 これは、イニーが仕掛けた魔法のトラップだった。


 マリンとミカはこれで1本目かと思うが、ブレードはこれでは足りないだろうと考える。

 

 ブレードの考えは当たり、タラゴンは熱のバリアを張り、全ての魔法を防いでしまった。


 無傷なまま全ての魔法を防いだタラゴンはニヤリと笑い、再び空を飛ぶ。


「これがエクスプロ-ディア爆炎姫……」

「見て分かると思うが、あの2人は有効打や一撃を入れるなんて事は考えず、確実に相手を殺そうと戦っている。タラゴンは馬鹿だから良いが、殺す気くらいの気兼ねが無いと、ランカーに一撃何て入れられないぞ」

 

 魔法少女の中でも、更に特別な存在。

 それがランカー10位以上なのだ。


 それからもタラゴンとイニーの模擬戦は続く。

 

 タラゴンの裏を突くようにイニーは魔法を撃ち出し、タラゴンから逃げ続ける。

 しかし、運悪く隠れていたビルを丸々爆破され、先に1本取られてしまう。


 逆に2本目はイニーがタラゴンを上手く嵌め、命の息吹よ終われエンドオブアイスから白き世界の涙ホワイト・オブ・ティアーズに繋げる事で、タラゴンから1本取る。


「これがイニーの本気……」


 多種多様の魔法を操り、ランカーであるタラゴンに肉薄する様は、新人とは思えないものだった。

 

 確かにイニーは全力で戦ってはいるが、本気ではない。


 それは前の模擬戦とは違い、命の危険が全くない事が関係している。

 

 前回の時の様な、痛みや死に近い感覚を得られるのなら、イニーは尋常ではない魔法……天撃やM・D・Wの時に使っていた魔法を躊躇いなく使う。


 しかし、これはあくまでも模擬戦であり、3本先取のルールがある為、その事を念頭に置いてイニーは戦っている。


 結果としてイニーが負ける結果となったが、同世代であるマリンとミカは、この戦いに感銘を受ける。


「これが、ひよっ子共とイニーの差だ。魔法少女は覚悟や想いがないと真価を発揮できない。強くなりたいなら、自分に嘘を吐くな」


 ブレードもいつの間にか強くなった魔法少女だが、その根底には誰よりも強くなりたいと言う想いがあった。

 

 暇があれば魔法少女を捕まえて模擬戦をし、紐付きでは戦える回数に限りがあるからと、野良になって魔物と戦い続けた。

 

 どんな願いや想いでも良い。


 その想いが強ければ強いほど、魔法少女は輝く事ができるのだ。

 2人は頷き合ってから立ち上がり、再びブレードに挑む。

 それから数度の負けを経験し続ける事8敗。


 13度目の挑戦にて、ついにブレードに一撃を入れる事ができたのだった。

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