魔法少女の会議は踊る
「これから緊急会議を始めます」
妖精界の妖精局にある会議室で、楓の声が響く。
この会議は突発的に開催されたものであり、出席者は楓と妖精局の局長と、各国のランキング1位の魔法少女となる。
魔法局からも数名来ているが、今回の議題が議題の為、静かにしている。
因みに楓が司会役をしているのは、煩くした者に金ダライを落として静かにさせる事ができるのと、頼まれたからである。
会議の議題は各国で相次いでいる、ランカーの失踪についてだ。
世界で合計5名。
それが、これがここ2週間ほどで行方不明になったランカーの数だ。
もしも事故に巻き込まれて死亡してしまったなら仕方ないが、行方不明と言うのには少々質が悪い。
仮にだが、そのランカー達が反旗を翻すようなことがあれば、大問題となる。
50年前の”始まりの日”から現れた魔物が残した傷跡はとても大きく、ようやく復興の兆しが見え始め、徐々にだが人口が増え始めている。
昔ほど魔物が憎いからと倒す者は少なくなったが、お金や功名心のために魔物を倒す魔法少女が増えてきている。
また、魔法少女と魔法局の癒着や魔法少女同士の争い。
国を跨いでの派閥争いなどの問題もあるが、それらの問題も、今回の事に比べれば可愛い方だろう。
「頂いた資料を元に、纏めたものが此方になります」
楓は全員の手元に資料を召喚し、大きくモニターに映し出す。
居なくなったランカーの順位や名前、最終確認出来た日時や場所。
その他詳細な情報を元に話し合いが進む。
「現在分かっている事は少なく、共通点らしいものは見つかっていません。しかし、状況は決して良くないでしょう」
「少し宜しいかしら?」
出席者の魔法少女の内の1人が手を上げる。
「何でしょうか?」
「今の所、日本は行方不明者が出ていないようですが、何か対策とかはしているんですか?」
「対策らしい対策はしていませんが、緊急時や休日を除き、2人以上での行動を心掛ける様にしている位ですね」
M・D・Wの件を受けてから、楓は1人での行動はなるべく控える様に、他のランカーに言ってある。
もちろんだが、この事を守っている者は誰1人として居なかった。
強いて言うなら6位が守っているくらいだろう。
「人が減った分、何人か回してもらえると、ありがたいんですけど?」
「人員については、まだ被害の無い所から回すしかないでしょうね。日本としては出来る限りのバックアップを行います」
そして、安全確保の為に2人以上での出動となると、どうしても人手が足りなくなってくる。
ランカーの分を補うのは大変だが、分担して補うしかない。
正確な情報もないままではこれ以上決まるものは決まらず、助け合いましょうと呼びかけて終わりとなる。
しかし、情報の共有という面では大切な会議となった。
「一応ですが、今月末予定されている新魔大戦は、開催するということで宜しいでしょうか?」
もっとも重要な話が終わり、念のために楓が出席者に問いかける。
非常事態とはいえ、新米の魔法少女にとってこの大会は大切なものである。
それを無下にするのは楓としては心苦しかった。
「その件ですが、日本のイニーフリューリングと呼ばれている魔法少女は、本当に新人でしょうか?」
それは楓があまり聞かれたくない事だった。
だからと言って何も言わないわけにもいかない。
「新人になります。この件は妖精局に問い合わせれば分かると思いますので、気になる方は確認をお願いします」
「先日S級を倒しているみたいだけど、この子を新魔大戦に出すのは流石に駄目じゃないかしら?」
「出場に関しては、私があずかり知らぬ事です。出場条件は満たしているので、問題はないはずです」
新魔大戦はどこの国だって勝ちたい。
なので、一番成績が優秀な魔法少女を出すし、その為の準備も行っている。
そんな中で出場予定の魔法少女の1人が、既にS級を討伐済みとなれば、荒れないわけがない。
会議は先程までの重苦しい空気から、いつ破裂するか分からない風船な様な状態になる。
主に攻められているのは楓だが、それ以外にも新人と疑いたくなるような選手も居る。
会議に出席していた魔法局関係者や、妖精は重要な話は終わったと判断して、そそくさと退場を始め、会議の場には魔法少女達だけが残される。
いつ爆発するか分からない爆弾の近くには誰だっていたくない。特に、妖精はともかく、魔法局関係者は一般人なので、何かあれば簡単に死んでしまう。
「静かにして下さい!」
最終的にただの言い合いがあちこちで始まり、しびれを切らした楓が全員に金ダライを落として、場を鎮める。
「コホン。皆さんの気持ちも分かりますが、今回出場の方々は全員出場条件を満たしています。確かに強さは少し……かなり差があるかもしれませんが、決まってしまったものは諦めて下さい」
「でも、流石にS級を討伐出来る新人は新人と呼べるのかしら?」
結局の所、そこなのだ。
特に日本の魔法少女は過去にタラゴンやグリントがやらかしているので、厳しい眼で見られる。
「皆さんが言いたいことは分かりました。でしたら彼女にはハンデを設けようと思います」
楓はタラゴンからイニーがどの様にして、新魔大戦に出るか知らされている。また、今回の緊急会議についでとばかりに責められる可能性も考えていた。
後はうまく話を誘導し、あたかも無理難題なハンデを、イニーに負ってもらった様な形にするだけだ。
「ハンデって、そう言う問題では……」
「既に告知もされ始めてますし、今更選手を変えるのは批判の対象となるでしょう。でしたら、ハンデと言う形で納得してもらえないでしょうか?」
楓は周りの魔法少女たちを見渡して、少し間を置く。
「イニーフリューリングの能力については、皆さん知っていますか?」
「魔法だけを使えるんだったかしら? それと武器は杖よね?」
「そうです。なので、”先ず”は武器を使用禁止にします」
楓の発言に周りの魔法少女達が驚く。確かにハンデとなればそれ相応の物が必要だが、武器無しは流石に酷ではないかと思った。
ここにいる魔法少女は各国のトップだ。流石にやって良い事と、悪い事の分別はつく。
しかし、楓は周りの反応を見て畳みかける。
会議の時間中は仕事が出来ず、ただでさえ多忙な楓の仕事が貯まる一方となる。
意味のない会議など、さっさと終わらせて帰りたい楓であった。
「ついでに目隠しなんてどうでしょうか? イニーフリューリングは後衛となるので、それなりには戦えると思います。勿論、対外的には自主的に行ったものとしておきます」
武器無しで目隠しをする。
それで本当に戦えるのかと思う反面、そこまでしなければ戦いにならないのかと、楓からの挑発のように聞こえた。
これが楓からの提案ではなく、他の魔法少女からの提案だったならば笑うところだが、イニーの親玉となる楓からの提案だ。
「……本当にそのハンデ良いのかしら?」
「構いません。それに、ここまでしておけば言い訳も出来ないでしょう?」
挑発に対する挑発。
もしもこれだけのハンデを背負って負ければ、日本の威信はズタボロだろう。
逆にイニーが勝った場合、日本の魔法少女の異質さ……恐ろしさを世界に知らしめる結果となる。
「その代わりですが、もしもこちらが勝った場合、仕事の一部を皆さんに分配します」
世界的に見た場合、一番魔物の被害が少ないのは日本となる。そのせいか、重要度の低い仕事などが日本に来るせいで、楓にはあまり余裕がなかった。
なので、これを機にしかりと仕事を分配し、休む時間を作ろうと思ったのだ。
楓はどれだけのハンデがあってもイニーが負けるとは思っていない。
最初にタラゴンが考案した、杖だけで戦うハンデの事は、楓は聞いていない。
もしも杖だけだった場合、恐らく1戦目で敗退していただろう。
「そこまで言うのでしたら、乗って上げましょう。後で吠え面をかかないように」
楓に最も突っかかっていた、アメリカのランキング1位である、リリウムナイトが楓の提案に乗る。
それを皮切りに各国の魔法少女たち……主に出場選手を出す国が、楓の提案に乗る。
「決まりですね。それでは、新魔大戦の日を楽しみにしております」
こうして緊急会議の後に起こった、つまらない会議が閉幕となる。
楓は仕事が減る事に喜びながら、執務室に帰るのだった。
1
「進捗はどう?」
「順調だね。身体は破棄して、頭部はロックヴェルトに保存してもらってあるよ」
楓たちが会議をしている頃、魔女はリンネに会いに来ていた。
「アメリカで2人。中国とロシアで1人ずつ。さらに、ミグーリアで1人の計5人」
5人……それは行方不明となったランカーの数であり、リンネたちが狩った魔法少女の数である。
「悪くはないね。こちらの被害は?」
「日本に手を出した時からは無いね。やはり、あの国はおかしいよ」
日本に手を出した時に、ロックヴェルトが2回、晨曦が1回負傷しているが、それ以降は負傷らしい負傷はしていない。
その負傷もランカーにやられたのではなく、全て一般の魔法少女である、イニーによって負わされたものだ。
「被害がないのなら良いわ。話は変わるけど、新魔大戦って知ってるかしら?」
「新人の魔法少女たちがシミュレーションで戦う奴だろう?」
「そうよ。可愛い魔法少女たちが、切羽琢磨して戦う素晴らしい催し物よ」
魔女は楽しそうに笑い、1枚の紙をリンネに差し出す。
「……なるほど、人の集まる新魔大戦で声明を出すというこか。ついでに、一波乱起こすと」
「ええ。もうそろそろ表舞台に立ってもいいでしょうからね。アクマも居ることだし、もう待つ必要はないわ」
魔女の枷であるアルカナの存在。
魔女の根源たる存在が決めたルールであり、たった1つの希望。
アルカナが存在する限り、アルカナの居る世界しか滅ぼさない。
この世界にはアルカナであるアクマが存在している。
魔女が待つ必要は、もう無いのだ。
「全員参加かな?」
「その方が良いでしょうね。折角の催し物だし、盛大に行こうじゃない」
「了解だ。皆には招集をかけておこう。やるのは決勝の時かね?」
「そうしましょう。
破滅主義派。
それはリンネが適当に言った名前であり、どの世界のリンネも同じ組織名を名乗ってた。
魔女としては名前など何でも良いが、リンネがそう名乗るので、便乗した形だ。
「ああ。他でも私はそう名乗っているんだね。私たちの事を示すには良い言葉だと思ってね」
「名前なんて何でも構わないわ。それじゃあ、失礼するわね」
「おっと、その前に1つ良いかね?」
魔女がいつものように魔法陣に消える前に、呼び止める。
「何かしら?」
「――そのフードの中身はどうなってるんだい?」
魔女は常にフードを被っており、その中は真っ暗になっている。
その為、魔女の素顔を知るものは誰もいない。
リンネも素顔について聞く気がなかったが、魔女と対になる様な色合いであり、同じくフードの奥が見えないイニーに会い、なんとなく魔女の事が気になったのだ。
「……知りたいかしら?」
「最後は皆仲良くあの世行きだろう? 折角なら、悔いなく死にたいのさ」
「まあ、あなたなら別に良いでしょう。長い付き合いですからね」
魔女はゆっくりとフードを捲り、その素顔をリンネに晒す。
「……そういう事だったのか。なるほど……私の仮説は正しかったのか」
リンネは目を見開き、何がおかしいのか、高らかに笑い出した。
その間に魔女は部屋から居なくなり、リンネだけが残される。
「小さな存在だな……私も……
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