魔法少女タラゴンのクッキング
全く、魔法少女とは難儀なものだな……。
元気になったのは良いが、吹っ切れすぎじゃないか?
(ビンタされると思ったら、まさかキスされるとは思わなかった……)
『アクマちゃんもあれは流石に驚いたね……いや、マリンにその気がありそうな感じはしてたけどさ』
これまでの行動で、マリンに好かれるような事なんて有ったか?
全く、年頃の少女が考えてる事は分からない……。
それに、百歩譲って女性が女性を好きになるのは構わないが、俺は駄目だ。
色々と理由はあるが、一番はどのような結果になろうとも、俺はこの世界から居なくなる。
俺はともかく、マリンが幸せになる事はあり得ない。
(だが、強化フォームが更に強化されたのはなんだ?)
『どちらかと言うと、これまでか不完全だったんじゃないかな?』
(どういう事だ?)
『これまでは想いの強さで無理矢理覚醒してて、今回は正式に覚醒したんだと思う』
正式にね~。
この前、A級の魔物と戦ってるのをみたが、あの時よりも動きにキレはあるし、間違いなく強かった。
まさか降らした氷柱を捌かれ、岩槍を砕かれ、炎の渦を斬りさかれるとは思わなかった……。
(あの状態のマリンってどれ位強い?)
『う~んざっくりだけど、ランキングで言えば最低でも10台後半になるんじゃないかな?』
――それは強いな。
元々ランキング10位前半辺りは覚醒していないと、話にならない。
そう考えると、確かにこれまでのマリンの強化フォームは役不足感が否めなかった。
だからって、何で急に強くなるのかね? あれでは完全に主人公ではないか。
俺は物語の最後にマリンを庇って死ぬポジションかな?
そして、マリンは更なる覚醒をして魔王を倒して、めでたしめでたし。
って、なったらまだ救いがあるんだけどな……。
マリンの事は一旦置いといて、タラゴンさんが待っている、水上に帰るとするか。
(そんじゃあ、頼むわ)
『そのまま帰れば良いのに、何で寮に帰って着替えたの?』
そりゃあ、あのままの服だとタラゴンさんに弄られる未来が見えたからな。
何時ものパーカーに着替えておきたかったんだ。
(気にするな。パーカーの方が落ち着くんだよ)
『そういう事にしといて上げるよ。ホイ』
アクマの転移により、あっと言う間にタラゴンさん家の前に到着だ。
まだ18時だし、セーフだろう。
玄関の近くまで来ると、良い匂い漂ってくる。
(匂い的に、今日はカレーかな?)
『カレーはジャガイモ無しの方が好きかな』
俺はどちらでも構わないが、ニンジンが入っていると嬉しい。
玄関を開け、家の中に入る。
「ただいま帰りました」
「やっと帰って来たのね。もうそろそろ出来るから、手を洗ってなさい」
……学園に入る前に、何度かこんなやり取りをしたが、未だに慣れないな。
そもそも1人暮らしだと、ただいま何て言う事は無い。
今はアクマが居るが、常に一緒なのでただいまやお帰りを言う事は無い。
ともかく、手も洗ったし座って待つとするか。
出来れば手伝いとかをしたいのだが、タラゴンさんは手伝わせてくれない。
手伝おうとすると押し返され、力の弱い俺では抗うことが出来ない。
「お待たせ、今日はカレーよ。それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
相変わらずタラゴンさんの料理は美味い。
たが、1つだけ問題がある。
それは俺とタラゴンさんで食べる速度が違い、タラゴンさんの方が早く食べ終わるのだ。
食事を終えたタラゴンさんは、俺が食べ終わるまで、ずっと俺を見てくる。
「なにか?」と聞いても「別に」と言うだけで、理由を言わない。
(そう言えば、魔女達の事をタラゴンさん達に話すのってありなのか?)
『魔女の事は黙っといた方が良いね』
(何でだ?)
『これまでの経験で、下手に情報が広がると、その分被害が増えたからさ』
なるほど、藪を突いたら蛇は蛇でも毒蛇が出るってことか。
確かに、下手に探りを入れたら直ぐに見つかって、やられてしまうだろうな。
『私たちの契約者ならともかく、魔女については誰にも話さない方が良いね。一応破滅主義派についてはタラゴン達も動くみたいだし、その内魔女の方から宣戦布告でもしてくるよ』
それまでは黙するのが一番か……。
どうせ1人で戦う予定だし、話すより話さない方が、被害が出ないなら話さなくても良いかな。
「美味しい?」
「とても美味しいです」
辛さと甘さが程よい塩梅だ。
ついでに、サラダに掛かってるのが青じそドレッシングなのも良い。
「ごちそうさまです」
「はい。お粗末様。デザートと珈琲はいる?」
「……お願いします」
断る選択肢は無い。
だって、美味しんだもん。
デザートの杏仁豆腐を美味しく頂き、珈琲を飲んで一息つく。
「マリンって子は大丈夫だったの?」
「立ち直って魔法局に行ったので、大丈夫だと思います」
正直、大丈夫か大丈夫じゃないかと聞かれれば、大丈夫じゃない気がするが……
「そうなの。マリンはどうして塞ぎ込んでいたの?」
う~ん、結局どう言う事だったんだろうな?
力が無い事と、守ることが出来ない事の葛藤って奴なのかな?
『(後は好きな人の隣に居る事の出来ない、悲しみもかなー)』
(何か言ったか?)
『何も。要は、力不足で悩んでった事で良いんじゃない?』
それもそうだな。
「力不足で悩んでたみたいです。話し合ったら何とかなりました」
「ふーん。ちゃんとアロンガンテからお礼を貰っておくのよ。これ、アロンガンテの連絡先よ」
そう言えば、お礼をするとか言ってたな。
タラゴンさんからアロンガンテさんのアカウントを教えもらい、登録しておく。
お礼と言われても、特に欲しい物は無いしな……気が向いたら連絡してみるか。
「明日から学園には行くの?」
「はい。一応元気になりましたから。休む理由もないですからね」
――また明日学園で会いましょう――
マリンの言葉が、再生される。
うん、学園に行きたくないな。
本当にマリンはどうなってしまったんだ……。
「そう……頑張るのは良いけど、何かあったらちゃんと話しなさい。私達は家族なんだから」
タラゴンさんは心配するように、俺を見る。
家族ね……俺がどんな人間か知っても、その言葉を言えるのだろうか?
まあ、男に戻る気はもうないので、性別的には問題無いのかもしれないが、最後は別れを告げなければならない。
仲良くなったとしても、最後が辛くなるだけだろう。
「分かりました」
「良し! それじゃあ、一緒にお風呂に……」
「入りません」
しょんぼりとしても、一緒にお風呂に入ることは一生無い。
本当ならアクマとすら入りたくないが、手入れや何やらの関係のため、仕方なく一緒に入っている。
「仕方ないわね……先に入ってきて良いわよ。私は片づけをしておくから」
「前みたいに、急に入って来ようとしないで下さいね」
「……分かってるわ」
……念のため扉は氷漬けにしておくかな。
そう言えば、部屋に戻るのも久々だが、綺麗なままだな。
タラゴンさんも世界のあちこちに行ってたらしいし、誰かに掃除とか頼んでるのだろうか?
タオルと着替えを持って、お風呂に向かう。
お風呂と言うか、温泉なのだが、家にある以上お風呂で良いだろう。
(そんじゃあ、何時も通り頼む)
『了解!』
風呂場に入り、入り口を氷で固めてから、アクマの憑依を解く。
基本的に身体を洗うのは全てアクマに任せている。
それにしても、相変わらず平べったい身体だな……。
女性らしさが欲しいとは思わないが、何だかな~。
そんな事を考えてると、アクマにお湯を被せられ、髪を洗われる。
これがまた気持ち良いのだ。
「泡流すよ~」
(了解)
そのまま流され、身体も洗われる。
最初の頃は恥ずかしかったが、今は慣れたものだ。
そう言えば、もう直ぐ12月か……俺が魔法少女になったのが9月だったから、もう直ぐ3カ月経つんだな。
その間に、何度死に掛けたか……まあ、2回死んでる様なものだが、波乱万丈の日々だな……。
全く……
「良いよ~、お風呂入ろうか」
あ~、良い湯だ。
タラゴンさんの家に厄介になってるのも、これが理由の1つだ。
今の身体では、温泉に入りに行くのは厳しいからな。
「良い湯だねー」
「そうですね。だからって、のぼせないで下さいよ? タラゴンさんに、バレない様にするのは面倒ですからね」
「分かってるよ~」
本当か?
それからまったりと堪能し、風呂から出る。
出る時には、アクマの髪を回収し、燃やしておく。
無いはずの金髪があれば、何を言われるか分からない。
タラゴンさんに声を掛けたら、今日はもう寝るとするか。
「出ました」
「分かったわ~。もう寝るの?」
「はい。明日は学園もありますからね」
正直、マリンが怖くて行きたくないが、こればっかりは仕方ない。
「そう。無茶はしないようにね」
「はい」
タラゴンさんが心配そうな表情をするので、そう答える。
『……嘘つき』
仕方ない。
俺は弱いからな……勝つ為なら何でもする。
(どうせ別れるんだ。あまり心配させない方が良いだろう?)
『ハルナが良いなら、良いけど。ハルナが居なくなることで、悲しむ人が居る事を忘れないでね』
悲しむね~?
俺は戦えればそれで良いのだがな。
他人の感情など、俺には関係ない。
だが、馬鹿正直に俺の思いを、アクマやタラゴンさんに話す気は無い。
魔女との対決がいつになるかは分からないが、先ずは魔女の幹部達を殺さなければならない。
そして奴らと、奴らが準備してくる魔物を倒し、魔女を倒す。
アクマは初めて世界を救え、俺は偽史郎との契約を果す。
その後が、今から楽しみだ。
だが……もしも……もしも俺が力及ばず、途中で落ちると言うのなら……。
(それじゃあ、朝になったら起こしてくれ)
「ほいほい」
布団に入り、身体を丸めて眠りにつく。
……明日の学園が怖い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます