魔法少女マリンのお出迎え
「おはようイニー」
「……おはようございます先輩」
『これはアクマちゃんも驚いたなー』
朝起きてタラゴンさんと朝食を食べ、タラゴンさんの持ってるテレポーターで妖精界に送ってもらったまでは良かった。
タラゴンさんと別れ、一旦寮の部屋に寄って、掃除をしようと思ったら……部屋の中にマリンが居た。
アクマが変な反応をしてると思ったら、こういうことだったか……。
どうやって入ったのかは気になるが、マリンの事だ。
しっかりと手続きをしているのだろうから、先生に言ったところで、意味はないのだろう。
何と声を掛ければ良いか分からないが…………昨日の朝からやり直す事は出来ないだろうか?
更に、部屋は綺麗に掃除もされている。
ありがたいけど、マリンの考えが分からない……。
「昨日のお礼って訳じゃないけど、掃除しといたわ」
うん。そうじゃないんだ。
「……ありがとうございます」
「今飲み物を持ってくるから、座って待っててね。イニーは珈琲で良かったかしら」
「はい」
マリンが台所に移動し、飲み物の準備をする。
(俺はどうすれば良いんだ?)
恐らく出て行けと言えば出て行くとは思うが、まだまだ学園で会うのに、仲を悪くするのも憚られる。
『とりあえず、様子見かな? 困った事になるようなら、学園から去るのも手だね』
まあ仕方なく学園に通ってるだけだし、去ってしまえばそれでさよならが出来る。
それに、下手に学園に居続けても、俺と一緒に居るだけで魔女たちに狙われる可能性もあるんだよな……。
「お待たせ」
飲み物を持って、マリンが戻ってくる。
「昨日、あの後支部に行ったら、怒られちゃったわ。悩んでることがあったら、ちゃんと話せーって」
俺が寝込んてた間だから、5日間家で引き籠っていた事になる。
まだ少し頬がこけており、隈も消えていない。
今日はまだ、学園を休んでいた方が、良かったのではないだろうか?
「他のクラスの方にも心配かけたのですから、クラスメイト達にも怒られそうですね」
「そうね。イニーも、昨日はありがとうね」
珈琲を1口飲み、静かに頷く。
昨日から何かが壊れてしまっているマリンだが、魔法少女としては頑張って欲しい。
もしもの備えは必要だからな。
少しだけ他愛もない話をしてると、学園に行く時間となる。
「珈琲ありがとうございました。それでは、行きますか」
「ええ、行きましょう」
マリンは寮長に鍵を借りて、俺の部屋に入ったそうだ。
因みに、寮長はプリーアイズ先生だそうだ。
あの先生は本当に碌な事をしない……。
「お? おお? 何故イニーと委員長が一緒に居るのじゃ?」
寮の部屋から出て鍵を閉めると、運悪くミカちゃんと遭遇してしまった。
何で今日に限って鉢合わせするんだ?
「イニーに慰めて貰ってたの。色々とあったけど、今日からは学園に行くわ」
「う~む。大丈夫なら良いのじゃが、無理はするでないぞ? 全く……連絡も寄こさないで急に来るとは…………ん? 慰めて?」
「それでは学園に向かいましょう」
マリンが何か言う前に、さっさと行こう。
ミカちゃんに聞いたところ、あの戦いで魔法少女を辞めた子は誰もいないそうだ。
結構な惨劇だったのに、精神の太いことだ。
……まあ、重傷だったのは俺だけだったし、俺の次となると、プリーアイズ先生が結構な怪我をしてたみたいだ。
回復魔法で直ぐに回復したので、後遺症とかも無いとのことだ。
因みに魔法少女を辞めると言っても、別に魔法が使えなくなるわけではないそうだ。
しかし、魔法なんて使える者を野放しにしておくことは出来ないので、魔法を使ったら直ぐに分かるように、妖精の魔法を掛けられる。
余程の場合がない限り、この状態で魔法を使った者は、妖精界の魔法少女用の施設に幽閉される。
そこから出られるかどうかは、本人次第となる。
辞めたとしても、もう一度申請すれば魔法少女に返り咲く事は出来るが、そんなことをする者はほとんど居ない。
辞める者のほとんどは、死の恐怖に負けた者だ。
好き好んで、もう一度魔法少女になんてならないだろう。
ミカちゃんとマリンの会話をBGMに、学園に向かう。
多少早い時間なので、いつもより人が少なく、すれ違う事がほとんど無かった。
学園に着き、教室の扉を開く。
久々の教室だが、今日は俺達が1番早かったみたいだな。
「あっ、先生の所に行く必要が有るんだったわ」
席に着いて寝ようとすると、マリンが教室から出て行く。
恐らく、俺の部屋に侵入する時に持ってた鍵を返しに行くのだろう。
「それでなのじゃが、何故イニーの部屋にマリンが居たのじゃ?」
それはね、俺が知りたいよ。
「実家から帰ってきたら、何故か居ました」
「そうなのかえ? 委員長が元気になったのは良いんじゃが…………うーむ」
ミカちゃんが変顔をしながらうんうん唸るが、答えを知ってるのはマリンだけだろう。
「まぁ! もう大丈夫なんですの?」
「ジャンヌさんに治してもらったので、もう大丈夫です」
茨姫がやって来て、そこから続々と生徒達がやってくる。
俺が居る事に驚かれるが、驚き過ぎじゃないか?
そして、時間になり、プリーアイズ先生とマリンが一緒に、教室に入ってくる。
「えー、休んでいたイニーさんとマリンさんが無事に戻ってきました。先日は大変でしたが、これからも頑張っていきましょう」
「心配を掛けてごめんなさい」
マリンがみんなに頭を下げて謝る。
ちゃんと謝る辺り、真面目だよな……。
「それではいつも通りに訓練と行きたいのですが、イニーさんだけはちょっと残って下さい。他の人はシミュレーション室に移動をお願いします」
俺だけを残し、生徒達が教室を出て行く。
一体なんだ?
「えーと、イニーさんはあの戦い以降で、自分の順位を確認しましたか?」
起きてからはそのままマリンと夕焼けをバックに喧嘩して、タラゴンさんとカレー食べて寝たから、見ていないな。
(アクマは見たか?)
『あー、言おうと思ってたんだけど、忘れてた。あの時S級を一気に倒したせいで、順位が上がったんだ』
確かにあんだけ倒せば順位は上がるだろうが、それを何故プリーアイズ先生に聞かれるんだ?
一応首を横に振り、知らないと言う。
「そのですね……イニーさんが現在21位になって、私が22位になってるんですが……」
プリーアイズ先生はバツが悪そうに翼をわさわさと羽ばたかせ、人差し指をツンツンとしている。
生徒より教師の方が、ランキングが低くくなり、何かあったのか?
プリーアイズ先生の年齢を考えれば、現状でも凄い方だと思うのだが、一応公務員だから上から何か頼まれたのかな?
「年末にある、学園別新人魔法少女大戦に出て頂くことって出来ますか?」
何それ?
『ざっくり話すと、学園別に新人の魔法少女を1名選出し、競いましょうって事だね。因みに、長いから新魔大戦って呼ばれてるよ』
(それって何か意味があるのか?)
『一応魔法局が主催で、各国の強さを見せつける為に行っている行事だね。代理戦争とまではいかないけど、魔法少女内の派閥にも影響があるみたい』
(なるほどね…………国同士、魔法少女同士が争っている暇はないと言うのに、平和な事だな)
『一応だけど、ハルナはその平和を守る為に奴らと戦うんだからね? 人同士の争いについては同意だけどさ』
破滅主義派の奴らの動きは分からないからな……。
魔女については下手に此方から手が出せない。
受け身になるのは仕方ないにせよ、出来ればさっさとアクションを起こして欲しい。
まあ、奴らの事は放って置く事は出来ないが、動き始める前に、俺も力を付けたい。
ある意味だが、この誘いは有りなのかもしれないな。
戦う相手が新人とは言え、魔法少女と合法的に戦えるのはありがたい。
第二形態では結構戦っても居るが、向こうは悪即斬だからな。
「内容を教えて貰えますか?」
「はい!」
概要はアクマから教えて貰ったので、詳しい事をプリーアイズ先生から教えてもらう。
別にアクマに調べてもらったのを、教えてもらっても良いが、流石に可哀そうだし、先生に教えて貰おう。
日程は12月の28日と29日の、2日に分けて行われる。
今回参加する学園の数は8校と、妖精局の枠から2人参加する。
対戦形式はトーナメント形式になっており、準決勝までを1日目に行い、残りは2日目で行う。
対戦方法はシミュレーションでのデスマッチだ。
流石に俺がタラゴンさんと戦った時の様に、痛覚がそのままなんて事はない。
血や怪我の再現もマイルドになっており、観客にも優しくなっている。
一応出られるのは学園の新人から1人となっているが、新人……魔法少女になって3年以内なら新人クラスに居なかったとしても出ることは出来る。
昔はグリントさんが絶望を振り撒いたり、タラゴンさんが1人で纏めて皆殺しにしたとかもあったそうだ。
魔法局や各国は色々と規制やルールを変えようと動いたそうだが、魔法少女は理不尽に打ち勝たなければ強くなれないと、各国のお茶会から駄目出しを喰らった。
以降はそんな感じと言うか、こんな感じになっているらしい。
なので、新人(笑)の俺が出ても問題はないそうだ。
ただ、本来なら学園別新人魔法少女大戦の半年位前には選手を決めるのだが、またもやこのプリーアイズ先生は忘れていたそうだ。
…………頭にプリンでも詰まってるのか?
俺が会った事は無い学園長に、学園別新人魔法少女大戦の事を聞かれて思い出し、俺に頼んで来たって所だ。
「申し訳ありませんが、お願いできますか?」
「――分かりました、お引き受けします」
「ありがとうございます!」
これも仕事だと思えば良い。
勝つ必要も無い分けだし、気楽に戦おう。
「それと、タラゴンさんから伝言なのですが、出る場合は優勝以外許さないとの事です」
何時の間に……。
(まあ、白魔導師でも、ランカーとかが来なければ負ける事はないだろう)
開始距離の問題もあるだろうが、奥の手として
痛みを気にしなくて良いなら、あれで自爆するのが手っ取り早い。
『ハルナ……それはフラグだって……』
流石に新人にそんな奴は居ないだろう。
もしも居れば噂やニュースとかになっているだろう。
「私が何かしておくことはありますか?」
「後で正式なルールの説明や会場での注意事項などがありますが、そこの所は後程となりますね」
それなら、当日まではいつも通りで良さそうだな。
「分かりました。話は終わりで大丈夫ですか」
「はい。それでは、行きましょう」
プリーアイズ先生と一緒に、シミュレーターに向かう。
今日のシミュレーションは、魔物の相手より、マリンの相手の方が辛かった……。
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