闘争を求める魔法少女

 翼が斬り裂かれて消えたので、炎の魔法と風の魔法を使って、ぬかるんだ地面に着地する。

 こんな時に攻撃をしてくるのは奴らしかいないだろう。


「リンネが言ってた通り、あっさりと倒して見せたな」


 べちゃべちゃと、ぬかるんだ地面を踏みながら晨曦チェンシーが近づいてくる。

 武器は青龍刀と盾か……。


 この距離だと此方が不利だな……。

 どうせロックヴェルト経由で闇落ち第二形態はバレているし、先に変身しておくのもありだが、出来れば不意を突くような形にしたい。

 

晨曦チェンシー……でしたか。随分と手癖が悪いですね」

「言ってな。私がここにいるって事は、どういう意味か分かるだろ?」


 晨曦が青龍刀と盾を構える。

 どうせ、殺り合おうって事だろうな。


「一応聞いておきますが、何故私を狙ってるのですか?」

「お前を仲間にってのはリンネの判断だね。後はアルカナと言えば分かるかな?」


 なるほど、アクマの事は知ってるってわけか。


 まあいい。こういう不利な状況こそ、俺の求めているものだ。

 ……戦いは良い……いや、これ以上高ぶるとアクマに悟られてしまう。


 落ち着くとしよう。


「――ですか、なら戦うとしましょう。逃がす気などないのでしょう?」


「ああ。私は強い奴と戦いたいからこっち側に居るんだ。逃がすわけないだろう?」


(奴の魔法は?)


『青龍刀に炎。盾に氷って感じで、2つの属性の魔法を使うのと、純粋に強いって感じだね。結構トリッキーだから注意してね。問題は、私の情報が合っていない可能性が、あるってことかな』

 

 アクマが知っているのは、違う世界の晨曦だろうからな。

 参考程度と考えておこう。

 

 情報が合っている場合、どちらかと言えばブレードさんみたいな感じで、本人が強いパターンか…………本当に相性が悪い。


氷よ。咲き誇れアイスフラワー!」

 

 晨曦が踏み込んでくるのに合わせ、凍てつく花を展開する。

 雨が降っているので、多少効果があることを願いたいが、晨曦は青龍刀から炎を出して雨もろとも氷を蒸発させる。


 残念ながら、時間稼ぎにもならないか。

 ならば、一旦姿を隠してしまおう。


氷よ。覆い潰せアイスクラッシュ天翔ける光よ。我がエレメント・思い届ける翼となれフリューゲル


 分厚い氷の壁を出し、その間にM・D・Wの時に使った、黒色の翼の劣化版を展開する。


 素の状態では、速度で勝ち目がないからな。


「小賢しいね!」


 氷の壁は一太刀で両断されるが、その奥に俺は居ない。


「チッ! 上か!」

降り注ぐ水よ。タイダル激流の如く荒れ狂えウェーブ


 氷混じりの水が、晨曦を中心に渦巻く。

 これで少しくらい血でも流してくれると良いが……。


 晨曦は一瞬だけ嫌な顔をした後に、盾を水に叩きつける。

 それだけで水は全て凍り付き、流れを止める。

 更に炎を纏った青龍刀が振られ、氷の破片と共にこちらに飛んでくる。


 それを翼から出した炎で相殺し、数度翼をはためかせて晨曦から距離を取る。


 ついでにお返しとばかりに翼から魔法を展開し、それを撃ち出す。


(ここまでやってノーダメージか……魔法系は魔法少女相手には微妙だな)

 

『せめて長い詠唱が出来る位、距離が取れれば変わるんだろうけどね』


 魔法使いがこんなガチガチの接近職と戦うのが、普通は間違いだからな……困ったものだ。


「温いね……それが本気ってなら、終わらすわよ?」


 ――完全に弄ばれてるな。

 タラゴンさんもそうだが、どうして強者とばかり戦う羽目になるのかね……フフ。


 晨曦を空から見下ろし、杖を構える。


 ここまではタラゴンんさんの時と一緒だ。

 全くダメージを与えられず、弄ばれるだけだった。

 だが布石はちゃんとしてある。


 

漂いし氷よ。アイス怒り狂いし雷よ。貫き焼き尽くし暴れ狂えテックス

 

 雷を纏った氷の槍をドーム状に展開する。


「ほう。面白い」


 晨曦がにやりと笑い、構えを取る。


 この魔法で晨曦が倒せるとは思っていない。

 少しでもダメージが通ればそれで良い。


発射ファイア!」


 全方位から氷槍を飛ばす。

 因みにこれは避けられたら爆散し、雷を纏った氷の粒をばら撒く。


 雨が降っているので、少しは感電するだろう。


 かといって、盾や青龍刀で防いでも雷によるダメージが入るはずだ。


 そんな魔法を晨曦は捌いていく。

 笑みを浮かべているが、効いているのか?


 ……まあいい。

 一瞬でも動きが止まてくれれば、それでいい。


(撃ち終わったら仕掛けるぞ)


 『了解。健闘を祈るよ』


 とは言ったものの、全く動きが鈍くならないな……。

 こうやって落ち着いて見ると、実に実践慣れした動きだと分かる。


 

 ぬかるんだ足場なのに上半身はブレず、的確に破片を盾で防ぎ、被弾を最小限に抑えている。


 どの方向から飛んできても防いでる辺り、後ろに目でもあるのか?


 残り50発……。


 魔力の消費は合計2割程度。なるべく消耗を抑えて戦った甲斐もあり、かなりの余裕がある。


 晨曦の動きをしっかりと見てイメージトレーニングをする。

 俺の剣技は魔法少女としての能力に頼ったものだ。


 これを自分の力として使えるようになりたい。

 少しでも強くなるために、盗めるものは盗んでおきたい。


 残り20発。


 晨曦は間違いなく俺より強い。隠し玉もあるだろうが、アロンガンテさん相手に一歩も引かなかった事を考えると、それだけ自信があるのだろう。


 晨曦をランカー並みの強さの魔法少女だと、仮定しといた方が良いだろう。

 

 準SS級の次がランカー相手か……こんな糞難易度のゲームが有ったら、ゴミ箱にダンクしているだろう。

 

 だが、それで良い。2面のボスとしては上出来だ。

 

 高鳴る心臓を抑え込むように深呼吸をする。

 

『ハルナ大丈夫? 何かおかしいけど……』


 ここまでくるとアクマにも悟られるか。

 この状態で、俺の感情が強さに直結する第二形態に変身すると、どうなるんだろうな……。


(大丈夫さ。ちょっとだけ緊張してるだけさ)


 戦いたい……早く晨曦と戦いたい。


『なら良いけど、もう直ぐだよ』

 

 残り3発。

 

 この想いだけは誰にも邪魔させない……例えアクマにもな。


 「闇還変身

 

 何時もの様に光るのではなく、闇が俺を包み込み、溶ける様に消えていく。


 見た目などが多少変わったように感じるが、今はどうでもいい。

 右手に握られている剣があれば、それだけで十分だ。

 

 ラスト1発が、晨曦の真上から放たれる。


 さあ、俺の糧となり、死んでくれ。


「一ノ太刀・月閃」


 ぬかるんだ足場の代わりに障壁を出して、一気に踏み込み、剣を振るう。


 これはマリンの使っていた技をパクったものだが、初撃としてなら十分だろう。


 マリンは刀なので実際の技と少々違うが、気にしない。


 盾で防がれて逸らされるが、身体を翻して斬り上げる。

 振り下ろされる青竜刀とぶつかり、甲高い音を奏でる。

 その時の反動を利用して、一旦飛びのく。


 着地する前に空中に障壁を出し、そこからもう一度踏み込む。

 1度斬り付けては離脱し、晨曦の癖を探る。

 上から……後ろから……横から。


 避けるのか、防ぐのか、盾で受けるのか。

 いくら強くても、肉体を斬られれば血を流すのが道理だ。

 

 何度か繰り返し、1度距離を取る……狙うなら真上からだな。


「良いね。その目、その魔力ぞくぞくするよ! 火龍奏!」


 晨曦が青竜刀を振るうと、龍の形をした炎が放たれる。

 降ってくる雨を蒸発させ、触れてもいないのに地面が融解していく。

 剣の一振りでこんなものを使えるとは……俺の魔法が霞んで見えるな。

 こんなものを使われたら防ぐのは少々厳しいが……。

 

 ――今の俺ならそんなもの、どうとでも出来る気がする。

 

「断空・ホークスラッシュ」


 魔力を含んだ斬撃を3つ飛ばし、炎の龍を四散させる。

 晨曦が一瞬驚いた表情を浮かべるが、直ぐに口角を上げる。

 お互い様だが、向こうも戦いを楽しんでいるのだろうな……もっと長く楽しんでいたいが、此方も時間があるわけではない。


 あちらと違って、こちらは小手調べなどする気は無い。

 空中のあちこちに障壁を展開し、それを足場にしながら晨曦に近づいて行く。


 無論真っすぐ突っ込むのではなく、ジグザグに動いて遠距離技を警戒する。

 俺の翼を斬り裂いたのと同じ斬撃が飛んでくるが、それは障壁で逸らす。


 一瞬だけ真っすぐに突っ込んだ後、上に飛びあがってフェイントを掛ける。

 先程龍で攻撃をされたので、意趣返しといこうか。

 

「裂空・ドラゴンバスター」


 剣が軋むほどの魔力を込めて、落下しながら晨曦に斬り掛かる。

 盾を構えられて防がれるが、そのまま力を込める。


 少しの拮抗の後、盾を砕き、晨曦の片腕を斬り飛ばす。

 晨曦は呻き声を少しだけ上げ、直ぐに距離を取った。

 

 腕が無くなり、血がとめどなく溢れるのを無視して晨曦は青龍刀を構える。

 

 身体ごと両断するつもりだったが、少しズレてしまったな。

 

「チッ! 情報より強いじゃないか……」

「逆にあなたは弱くないですか? まだロックヴェルトの方がマシでしたよ」


 晨曦の顔が険しくなり、赤い髪が伸びていく。

 やはり強化フォーム持ちか……戦いを楽しみたいからって舐めるから腕を失うのだ。

 だが、それを待っているほど、俺は優しくない。


「断空・ホークスラッシュ」


 先程と同じように斬撃を飛ばすが、空中に裂け目が現れ込吸い込まれる。


「時間切れだよ晨曦」


 晨曦の後ろからレオタードにマント姿の魔法少女が現れる。


 またロックヴェルトか……。


「……リンネの指示かい?」

「ええ。手を抜いたとは言え、ここまでやられたなら引きなさいってさ」

「私が逃がすとでも?」


 この際、2人纏めて殺せれば、破滅主義派の戦力を削れるだろう。

 

「戦っても良いけど、他の魔法少女を放って置いても良いのかしら?」

 

 ――確かに結構時間が掛かっている。

 ここで時間をかけて2人を殺せても、マリン達がやられてしまっては、元も子もない。


「……さっさと消えなさい」

「この借りは必ず返すわ……イニーフリューリング」


 恨みがましい晨曦の声を残し、2人は裂け目に入っていく。


 初めから強化フォームだったら、どうなるか分からなかったから、ここで殺しておきたかったが、仕方ない。


 意識を切り替えて白魔導師に戻る。


「うっ! ぐふぅ!」


『ハルナ? ハルナ!』


 全身に激痛が走り、口から血が溢れ出る。

 

 まさか反動があるとはな……これ位の力ではまだまだ足りないと言うのに……。

 

 本当に……俺は弱い。


(大丈夫だ、少し無茶をしただけさ)


『一体何があったの? 急に意識が無くなっちゃうし、戻ったと思ったらハルナが血を吐いてるし……』


いぃやしよぉヒール

 

 自分に回復魔法を使うが、杖があるのに効きが弱い……もう1度使うか。


癒しよヒール

 

 ……これで一旦大丈夫だな。

 魔力は残り4割か……魔力自体は問題無いが、身体の調子は少し悪い。


(話は後にして、一旦戻ろう)


『後でちゃんと話してよ。反応は……まだあるけど、急いだ方が良いかも』


 やはり時間を掛け過ぎたか……。

 

翼よフリューゲル

 

 翼を広げて空を見ると、緑色の光が2つ飛んで行くのが見えた。


 アロンガンテさんはまだ時間が掛かりそうだな……もしかして、さっきの戦いを見られたりしたか?


 まあいい、今は戻ると…………いや、アロンガンテさんを助けてから戻る方が、効率が良いな。


(予定変更だ。アロンガンテさんを助けに行くぞ。アクマ)


『了解』

 

 念のため、アロンガンテさんには、恩を着せておくとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る