魔法少女は目撃する
新人クラスの生徒を巻き込まない様に空を飛んだアロンガンテは、自分の偽物であるドッペルと戦っていた。
アロンガンテは、出来れば自分のではなく、他のドッペルを倒したいが、自分の能力の強さは自分が良く分かっていた。
ランカーならともかく、新人なら巻き込んで殺してしまう恐れがある。
そうなる位なら、離れて戦った方が良いと考えたのだ。
スラスターを吹かして後ろを振り返り、ドッペルに向かって数発レールガンを撃つ。
だが、それはドッペルが放ったレールガンにより相殺される。
(このドッペル……A級かS級はあるわね)
ドッペルは階級により、能力に差がある。
D級やC級位なら完全に下位互換なので問題はない。B級も不意を突かれなければ、問題ないだろう。
だが、A級やS級となると話が変わる。
ドッペル自体が特殊な魔物に分類され、今回ならば
イニーの場合は特殊であったため、一瞬で倒す事が出来たが、普通はそうならない。
アロンガンテは新人クラスの生徒から距離を取り、頃合いを見て一度止まる。
(A級なら倒したことはありますが、S級はどこまで強いのでしょうかね……)
アロンガンテの全身が光り出し、追加で装甲が展開され、索敵で使っていたビットとは別に、攻撃用のビットが召喚される。
レールガンも一回り大きくなり、威圧感を増す。
アロンガンテもイニーと同様、短期決戦をするため、強化フォームとなったのだ。
勿論ドッペルもそれを模倣する。
そこからは目まぐるしい戦いとなる。
レールガンを乱射し、ビットで牽制をする。
すれ違いざまに高周波ブレードで斬りつけたり、レールガンの砲身で殴ったりする。
「セット! イリミネイトレイ!」
「セット、イリミネイトレイ」
通常弾から拡散する弾に変えて撃つが、ドッペルも同様に撃ち返す。
弾同士がぶつかると激しく発光し、辺りに光を撒き散らす。
その間にアロンガンテは一気に滑空し ドッペルの下を取り、レールガンを構える。
ビットをレールガンの砲身周りに展開し、目元にあるスカウターで狙いを定める。
「
極太のレーザーを撃ち出す。
ビットによりレールガンの威力を増幅させ、一時的に砲身の耐久を限界突破させて放つ一撃。
アロンガンテが使える魔法の中では2番目に強力なものであり、その一撃は結界に穴を開ける事は勿論、あのM・D・Wを倒す事すらできる。
およそ3秒……砲身が熱を持ち、溶け始める前に撃つのを止める。
雨が砲身に当り、蒸気を上げる。
(……まあ、駄目ですよね)
光の消えた先には、ドッペルが纏っていた装甲を前面に展開していた。
それはアロンガンテが強力な魔法や攻撃を受けた際にやる防御であり、生半可な攻撃は弾いてしまうのだ。
無論デメリットとして、この状態では攻撃が出来なくなり、その場から動けなくなる。
だが、移行事態は瞬時に出来るので、デメリットと言う程でもない。
だが、
撃った後は砲身の冷却まで、次弾を撃てないのだ。
それからはドッペルが攻め、アロンガンテが回避して逃げる戦いが始まった。
雨の中、雷の様にレールガンの光が迸り、緑色の光が線を描く。
ただただ時間だけが過ぎていき、新人クラスの安否が気になるアロンガンテは焦燥に駆られる。
常に魔力の反応は捉えているが、どれが誰だかは流石に分からない。
しかし、近くにイニーと思われる反応があるのだけは、しっかりとアロンガンテは捉えていた。
そんな時だった、地表から淀んだ魔力が迸り、捉えていたはずのイニーの魔力が消えたのだ。
(なっ! まさか)
焦る気持ちを抑え、イニーの反応があった方を振り返る。
そこには、2人の魔法少女が居た。
アロンガンテはドッペルの攻撃を回避しながら、2人の戦いをスカウターの倍率を上げ、拡大する。
片方は先程
もう1人は黒い和服の様な、ドレスの様な服を纏った少女だった。
纏う魔力はどこまでも淀んでおり、敵の増援だとアロンガンテは思ったのだが、その少女が目にも留まらぬ速さで晨曦に接敵する。
遠目から見てるとは言え、アロンガンテからは剣を振った瞬間を捉えることが出来なかった。
突如として現れた魔法少女が誰なのかは、アロンガンテには分からない。
だが、イニーと無関係でないことは、確かだろうと思った。
イニーの反応が消えたと同時に現れたのだ。
それで無関係ではないと思う方が、おかしいだろう。
その戦いは普通の魔法少女同士の戦いとは、一線を凌駕していた。
黒い魔法少女の剣を晨曦は的確に防ぐが、防ぐ度に地面が割れ、甲高い音が雨の中響く。
晨曦が剣の威力を流してるのもあるのだろうが、それだけの攻撃を、黒い魔法少女がしてる証拠と言えるだろう。
黒い魔法少女は空中を飛び交い、あらゆる方向から晨曦を攻め立てるが、アロンガンテが見る限りでは一度も剣は当たってなかった。
それ程まで晨曦の技量が高いのか、それとも黒い魔法少女が何かを狙っているのか……それをアロンガンテには判断できない。
「
「ッチ! 防御機構展開!」
ドッペルの攻撃を避ける事に専念していたアロンガンテは避けるには厳しい攻撃を受け、防御の姿勢に入る。
奇しくも、先程アロンガンテとドッペルの立ち位置は逆になっていた。
数秒の砲撃を受けきり、アロンガンテは防御を解除する。
(結構魔力が減って来ましたね……私がこの様な状態では、後でタラゴンに笑われそうです)
下で戦っている2人に気を取られ、自分の戦いを疎かにした結果、余分に魔力を消費してしまった。
たが、ドッペル側の砲身の冷却が終わるまではアロンガンテ側が有利となる。
雨も降っていることもあり、通常よりも早く砲身の冷却は終わっていた。
ならば、今は攻めるのみだと、アロンガンテは意識を切り替える。
イニーの事も気になるアロンガンテであるが、背面のブースターを吹かし、一気にドッペルに距離を詰める。
冷静にドッペルの動きを観察し、ビットにより牽制し、隙を見つけ次第レールガンを撃つ。
ドッペルは先程のアロンガンテと同様に回避をし、高周波ブレードを巧みに使って反撃をする。
高速で移動しながら、そんな戦いが続く。
時間だけが過ぎていき、魔力がジワジワと減っていく。
いっそのこと自滅覚悟で必殺技を使おうかと、アロンガンテが悩んでいると、下方からドッペル目掛けて氷槍が複数飛んできた。
(これはイニーね……)
突然の魔法にドッペルは回避行動を取り、大きな隙ができる。
それを見逃す程、アロンガンテは呑気ではなく、レールガンを放つ。
イニーの助けを借り、漸くドッペルにダメージを与えることが出来たのだ。
しかし、致命傷には程遠く、喜んでばかりにはいられなかった。
魔法が途切れると、イニーが黒い翼をはためかせて上がってくる。
白いローブの一部が赤く染まっており、アロンガンテは眉をひそめる。
白いローブには赤い染み以外は汚れらしい汚れは殆どなく、怪我による血ではなさそうである。
雨により徐々に流れているが、 赤い染みは簡単には落ちない程、濃く染まっていた。
「助けに来ました」
「……ええ。ありがとう」
濁った眼は相変わらずであるが、少し高揚している様に、アロンガンテには見えた。
自分の血など気にしないような素振りに、アロンガンテはうすら寒いものを感じるが、今はそんな事を気にしている余裕は無い。
だが、白いローブに黒い翼……それはイニーの心の矛盾を現している様に、アロンガンテは思えた。
「私が援護するので、アロンガンテさんは先程通りにお願いします。戦いは見ていたので、動きは合わせられます」
「分かりました。一気にケリをつけましょう」
アロンガンテは先程の考えを頭の隅に追いやり、今の事を考える。
自分には守らなければならない者が居るのだ。
こんな所で油を売ってる余裕はないのである。
アロンガンテは高周波ブレードを構え、ドッペルに斬り掛かる。
その後ろからイニーが雷を纏った氷槍を撃ちだし、ドッペルの動きを牽制する。
魔法の一撃がドッペルのレールガンに当たり、隙が生まれ、その隙をアロンガンテは見逃さず、高周波ブレードでドッペルのレールガンを斬り裂いた。
そのままアロンガンテはドッペルの横をすり抜けようとするが、その時にスラスターの一部を斬り裂かれてしまう。
すり抜けるアロンガンテの方をドッペルが振り返り、イニーに背中を向ける形となった。
ドッペルの特性上仕方のないことだが、イニーにとっては絶好のチャンスとなる。
「
最初にイニーが下から撃った氷が空中で混ざり合い、大きな十字架となってドッペルに落ちていく。
それをドッペルは防御機構を展開して防御する。
そして、ドッペルの背面はガラ空きとなる。
スラスターの一部を壊され白煙を上げる中、アロンガンテは再びビットをレールガンの砲身の周りに展開する。
「とどめです。
ドッペルの背中に向かって撃ちだされた砲撃はドッペルとイニーが放った
ドッペルに斬り裂かれたスラスターと、多少無理をしたせいで、アロンガンテの装甲の一部から白煙があがり、雨により砲身から蒸気が立ち上がる。
ブースターの一部もうまく動かず、徐々に高度が下がっていく。
そこにイニーが近づいてくる。
「大丈夫ですか?」
「少々無理をしたせいで、ガタがきてますね……私の事は良いので、先に新人クラスの子達をお願いします」
「……分かりました。先に行ってますので、直り次第戻って来て下さい」
「ええ。5分もあれば、移動に支障がない程度にはなります」
イニーは頷くと魔法を唱え、黒い翼が白く変わる。
そのまま新人クラスの生徒たちの方に飛んで行った。
(イニーと黒い魔法少女ですか……)
もしもイニーがあの黒い魔法少女の場合、イニーには普通では有り得ない何かがある事になる。
魔法少女ならば強化フォームがあるが、あれは今ある能力を伸ばす形だ。
魔法を使うものが剣を使えるようになる事などありえない。
また、捉えていた魔力はイニーから別のモノに変わっていた。
アロンガンテはこの事を楓に報告するか、自分の胸に留めて置くか悩む。
リンネが言っていた回復魔法の素養の事が引っかかってるのだ。
リンネが言っていたことが本当なら、登録されている公式の魔法少女の中に、回復魔法を使えるものが少ない原因となる。
世界を滅ぼしたいと思う様な人間が、世界を守ろうと戦うはずがないのだ。
そんな時、ふとアロンガンテの頭にジャンヌの事が思い出される。
彼女は楓が引っ張って来た魔法少女なのだが、その回復魔法の才能は魔法少女界一と言っても良いほどである。
もしかしたらジャンヌはスパイなのではないかと、アロンガンテは思うが先程のイニーの件もある。
リンネに面と向かって拒絶を示し、先程も自分を助けてくれたのだ。
その濁った眼からは信じられないが、疲れていた自分を回復してくれたり、他の生徒の為に自分を差し出そうとした少女。
そして、色々と問題も起こしたが、何かあれば直ぐに駆け付け、治療をしてくれたジャンヌを疑いたくはなかった。
(とりあえず、破滅主義派の事だけは報告しておきましょう)
そう頭の中を整理し、アロンガンテは装甲の修復を進める。
先に行ったイニーが心配ではあるが、ブースターが動かなければ、アロンガンテは空を飛ぶことは出来ない。
これ以上無茶をして、途中でブースターが爆発でもしてしまえば、今以上に修復に時間が掛かってしまう。
相変わらず雨は降ったままであり、濡れた髪がアロンガンテの頬に張り付き、雨が流れていく。
アロンガンテは雨音に耳を傾け、しばしの休息を取るのであった。
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