魔法少女は裏切らない

「アロンガンテさん」

「――目視で確認は出来ますが、ビットから反応が拾えませんね。イニーも、皆さんも後ろに下がってください」


(外はどうだ?)

 

『この結界内だと、私たちの能力は当てにならないからね……奴らについては、ハルナの目視圏内に入らないと、こっちで反応が拾えないよ』


 ――まさに相手のフィールドってわけか。


 わざわざ分かるように近付いて来るってことは、なにかあるのか?


 片方は色の抜け落ちような白髪の女性だ。白いワイシャツに黒いスカートなのだが、ジャンヌさんとは違った胡散臭さがある。


 もう1人は赤い短髪で、紅葉が散りばめられたような和服を着ており、強者の風格がある。


「止まりなさい」


 2人との距離が10メートル程になると、アロンガンテさんがレールガンを構えて警告する。


「アロンガンテか。反応を捉えたから来てみたが、まさかランカーがいるとはね」

「目的は何ですか? 場合によっては排除させて頂きます」


 奴らがどうして現れたのか気になるが、出来ればアロンガンテさんには問答無用でレールガンを撃って欲しいところだ。


 ロックヴェルトの事を考えると、どうせろくな奴らではない。


「目的ね。そこのイニーフリューリングを、此方に勧誘しに来たと言ったらどうするかな?」


 はぁ?


 俺を勧誘しに来ただと?


(どういうことだと思う?)


『糞ババアが私に、喧嘩を売ってるってことは、よく分かったよ』


 珍しくアクマが怒ってるな……自分の契約者を奪いに来たと言っているようなものだし、仕方ないか。

 

「……どういう事ですか?」

「イニーは回復魔法をかなり使えるのだろう? ならば、此方側になびく可能性があると思ってね」

「回復魔法とあなた達に、何か関係があるのですか?」

「おや? その様子だと何も知らないみたいだね。ジャンヌは何も教えていないのかい?」


 隣に居るマリンが不安げにこちらを見てくるが、俺としては回復魔法が使える事と、破滅主義派がどのような関係があるのか、少し気になるな。


(アクマは何か知っているか?)


『これまで回復魔法が使える魔法少女とは、1度も契約したことないから知らないよ。ただ、あの2人が他の世界と一緒なら、名前くらいは分かるよ』


 ですよね。知ってたら最初の段階で教えてるよな……。

 名前については、アクマに聞かなくても勝手に教えてくれるだろう。


 悪役は大体勝手に名乗るからな。

 

「教えてあげる前に自己紹介をしておこうか。私の名前はリンネ。隣に居るのは用心棒の晨曦チェンシーだ。そうだね……破滅主義派とでも、言った所かな」

「――そうですか。それで、先ほどの事は?」

「そう焦るな。回復魔法の素養はね、世界を滅ぼしたいと、強く願った者にしか発現しないんだ。この意味が分かるかな?」


 ……アロンガンテさん以外が一斉にこちらを見る。

 

 そんな事を思ったことは無いと言いたいが、心当たりがあるので困る。

 今は偽史郎との邂逅により、目的が定まっているから大丈夫だが……なるほど、俺の感性も間違っていなかったようだな。


 もしも女性として生まれ、同じ人生を歩んで、アクマと会わずに魔法少女になっていたら、俺は向こう側だったのだろうな。


「ついでだが、回復魔法の効力は世界に対する恨み辛みが深ければ深いほど、強くなるのだよ……ねぇイニー」


 マリンが俺のローブを掴み、ミカちゃんが心配そうな表情でこちらを見る。

 

『……ハルナ?』


 アクマも戸惑っている様子だが……ふむ、困ったな。

 周りの真剣な雰囲気と、俺の思いに凄いギャップを感じる。


(向こうには行かないし、世界についても今は興味ないから安心してくれ)


『べっ! 別に心配なんてしてないし! それよりも、周りをどうにかしなよ』


 ごもっともだ。

 

「残念ながら、私はあなた達に興味がありません」

「……強力な回復魔法が使えるのは知っているよ。そんな君が此方に興味無いとは驚きだな」


 リンネは本当に驚いているのか、僅かに表情を崩す。


 ここで本音を言うならば、世界を滅亡させるよりも、奴らとやりあった方が楽しいからだと、言いたい。


 だが、普通の少女がそんな事を言うだろうか?


 これまで、受け答えのミスを何度もしてきたので、ここで正直に答えるのは止めた方が良いだろう。


 それに、の事はアクマにすら伝えていないのだ。

 下手なことは言えない。

 

「今は世界を滅ぼすよりも、大切なものがあるので、お引き取り願います」


 これが今求められる最高の答えだと思います。


「イニー……あなたは……」


 雨音のせいで聞き取れないが、マリンが何かを呟く。


 ミカちゃんとスイープがしきりに頷くのが、視界の端にちらつくが、何を思って頷いているのかが分からない。


「やっぱり駄目だったし、もう良いでしょ?」

「まあ待て、なら話を変えよう。ここに居る者の命が惜しければ、私達と共に来たまえ」

「――それは私に対する挑発と受け取っても、宜しいですか?」

「それはどうだろうね。それで、返答は?」


 正攻法が駄目なら脅しと来たか。

 悪役らしいと言えば悪役らしいな。


 とは言ったものの、もしこの場にM。D・Wみたいなものを呼ばれたら流石に困る。


 勝つことは出来ても、恐らく誰も助からないだろう。

 正直、他人の命など……何て言いたいが、未来の事を考えるなら、犠牲は少ないに越したことはない。


 そこまでして、俺を誘う価値などあるのか?


 まあいい。結界内から出ればチャンスはあるだろうし、ここは従っておくのが吉か?

 

 そんな事を考えて、答えようとすると、俺の前にマリンが出てきて弓を構える。


「イニーをそちらに渡す位なら、私はあなた達と戦います」

「うむ。わらわも親友を失うくらいなら、戦って抗うのじゃ」


 マリンに続くように、ミカちゃんも俺を遮る様に前に出て、チャクラムを構える。

 それを見たアロンガンテさんが少し笑い、レールガンのチャージを始めた。


「残念ながら交渉決裂の様ですね」


 俺なんかの為に身体なんて張らないで良いんだがな……これだから魔法少女はろくでもない。


「そうか……なら、精々足掻いてもらうとしようか」


 リンネが左手を上げるとビルや他の廃墟が全て消える。


 そして、俺達を囲むように、が現れた。


『ドッペルか……それもS級』


「先ずはお手並み拝見といこうか。晨曦チェンシー、行くよ」

「へいへい。指示には従うよ」

「逃がすわけないでしょ!」


 立ち去ろうとするリンネ達にアロンガンテさんがレールガンを撃つが、自分のドッペルのレールガンに相殺される。


 この前、自分の偽物と戦ったばかりなのに、また戦うのか……。

 

 レールガンによる爆風が晴れると、2人の姿は見えなくなっていた。

 

(そのドッペルの特徴は?)


『見たまんま、魔法少女に化けるんだけど、階級が上がると、化ける相手の能力に近づくんだ。』


(つまりS級となると?)

 

『最も強い状態の自分と戦う様なものだよ。さっきの戦いで消耗してる此方は不利だね』


 なるほどね。


「相手はドッペルです! なるべく自分の偽物は、自分で相手してください!」


『もう1つ特性があって、化けた相手を狙うってのがあるね』


 アロンガンテさんが呼びかけた意味は、そういうことか。

 自分以外の偽物を狙うと、自分の偽物が攻撃をしてくるってわけだ。


 アロンガンテさんはそう叫ぶと、一気に上昇していく。

 アロンガンテさんの偽物も、それを追い掛ける様に付いて行く。


 周りを巻き込む恐れがあるから、離れたってわけか。


 こんな雨の中で戦う事になるとは……俺も一旦離れておくかな。

 俺の魔法は威力が高くなるほど、範囲が広くなる。

 アロンガンテさんと同じく、クラスメイトたちから離れた方が賢明だ。


「マリン、ミカちゃん。私の魔法は巻き込む恐れがあるので離れます。なるべく早く戻ってくるので、頑張って生き延びて下さい」

「逆に私が先に倒して、助けに行ってあげようかしら?」

「わらわは多分無理なので助けてなのじゃ」

 

 ミカちゃん……いや、気持ちは分かるけどさ。


翼よフリューゲル


 白い翼を生やし、雨の中を飛んで行く。

 去る前にプリーアイズ先生に目配りし、頷いておく。


(さて、どう戦うかな)

 

 杖でぶっ刺して倒せるならそれで良いが、あれは諸刃でもあるので、出来れば止めておきたい。

 この後も連戦になる可能性があるのだし、消耗は抑えた方が良い。

 

『第二形態になってみたらどう? もしかしたら瞬殺できるかもよ?』


 う~ん確かにありかもしれないな。

 もしも俺が変身して、向こうも変身したら泥試合になる恐れがあるが、変身されなければ簡単に殺せる自信がある。


(後ろからは付いて来てるか?)


 『うん。付いて来てる……あっ、魔法が来るから回避して!』


(了解)


 アクマの指示に従うようにして、偽物の魔法を避け、更に上昇する。

 氷槍や炎弾などを避けるが……イチかバチか、やってみるか。


(行くぞ)

 

『了解。タイミングは…………今!』


 一瞬身体が白く光り、第二形態に変身する。同時に魔法も解けるので、空中に障壁を出して足場にする。

 

 その障壁を踏み込んで、此方に向かってくる偽物に突っ込む。


 飛んでくる魔法を障壁で逸らし、距離を詰める。


「瞬剣・スターアロー」


 落下しながらもう1枚障壁を出し、それを足場にして更に踏み込む。

 一瞬足元から嫌な音がしたが、確実に殺すためには仕方ない。


 ドッペルはそのまま塵となり、姿を消す。


 完勝と言って良いだろう。


『やっぱり2つの形態があるってのは、ズルいけど良いね』


 そうだな。これについては偽史郎は何も言ってなかったが、何故変身できるんだろうな……。


 とりあえず落下しながら白魔導師に戻り、砕けた足を治す。


(さて、戻って手助けと行くか)


 『今の所誰の反応も消えてないけど、念のため急ごうか』


 了解。


翼よフリューゲル


 翼を出してクラスメイトの所に向かう。


(魔力は殆ど減ってないし、M・D・Wに比べればマシだな)


『普通は10回戦って9回は負ける相手なんだけどね。こればかりは相性が良かったね……避けて!』


 急にアクマが叫んだので、翼をはためかせて緊急回避するが、どこからが飛んできた斬撃が翼を斬り裂く。


 どうやら、直ぐに戻る事は出来なさそうだな……。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る