魔法少女とクラスメイト

「皆さん集まりましたね。S級の出現予兆がインドでありまして、そちらを譲っていただきました。今から出発しますが、大丈夫ですか?」


 インドか。

 確か元々の領土の半分が魔物の攻撃により吹き飛んだと、古いニュースで見たな。

 その時に人口もかなり減り、一時期は国家としての体制を保てなくなりそうだったとか。


 日本じゃないなら破滅主義派も来ないと良いが……。

 

(流石にインドなら大丈夫だよな?)


『大丈夫だと良いけどね……大丈夫だとさ』


 不安になる事を言うなよ……。


 大型のテレポーターに全員で入り、出現予定の場所に転移する。


 転移先は見渡す限りの荒野だ。


 恐らく、魔物が吹き飛んばした後に、魔法少女が直した何所かだろう。

 土地が戻っても元々あった建築物や、ましてや人はどうしようもないからな。


「早めに移動したため時間はありますが、各自武器を出しておいてくださいね。結界の展開と魔物の出現はほぼ同じなので、運が悪いと、先手を取られてしまいます」


 珍しくプリーアイズ先生が先生らしい事を言ってるな。

 そう言えば、ここに居る全員、武器が被っていないな。

 一応俺と茨姫は同じ魔法特化だが、茨姫の場合、正確には植物特化だ。


 自然そのものが武器と言った所だろう。


 後はマリンが刀と弓で、シモンが人形。ミカちゃんが巨大なチャクラムでスーパーアークが大きなロボットアーム。

 喧嘩してた片割れの焔が大剣でもう片方の暁が槍。

 茨姫が魔法の植物特化でルーステッド・カリステン・ジ・アリスエルがライフル。

 そしてスイープがレイピアでプリーアイズ先生が・・・・・・何なんだ?

 最後にアロンガンテさんがレールガンと高周波ブレード。

 

 これっていざという時、連携とか取れるのか?

 学園組の戦いは多少見てはいるが、連携についてはマリンとしかやってないからな……。

 

 こうやって全員の武器を見ると、アロンガンテさんの凄さというか、場違い感が際立つ。


 アロンガンテさんが武装を展開すると、身長が2メートル程となり、レールガンも2メートルはありそうだ。

 装甲の様なスカートも展開されており、威圧感が凄い。


 アロンガンテさんやグリントさんと、生身でやり合うタラゴンさんやブレードさんはやはり頭がおかしいのでは……。


 多少気を引き締めて待っていると、アロンガンテさんの端末が鳴る。

 

「はい。分かりました。皆さん結界が展開されるので準備してください。基本的に、結界内で端末の電波は届かないので注意してくださいね」


 アロンガンテさんが注意を促すと、景色が塗り替わっていく。

 M・D・Wの時に、この現象を何度も見たが、何時見ても幻想的だ。


 今回は廃墟だな……嫌な思い出が蘇る。


『魔物の反応あり。500メートル離れた先だね』


(了解。注意だけはしておくさ)


「さて、知らない方も居ると思いますので、解説します」


 アロンガンテさんがビットの様な物を飛ばしてから、説明を始める。


 結界内で一番大切なのは索敵である。視界の悪い場所で先制された場合、そのまま殺される危険が高い。

 大型なら音などで見つけやすいが、飛行型や、ステルス性の高い魔物は見つけ難い。


 1人でなら常に壁を背にする様に移動し、2人以上なら前後を確認しながら索敵するのが良いらしい。

 俺の場合は完全にアクマ任せなので、ロックヴェルトの様に別空間にでも居ない限りは先手を取られる心配はほとんどない。


 索敵の次は、戦う場所だ。

 見敵必殺が基本だが、足場や周りの状態はなるべく有利になる様に戦った方が良い。


 例えばアロンガンテさんの場合は広い場所で戦った方が有利だ。

 市街地などでも軽快な動きも出来るが、レールガンの長さや破壊力の関係で、ブレードで戦うしかなくなる。


 ブレードだけでもほとんどの魔物や建築物は斬り裂けるので、苦戦することは早々ないがな。


 ある意味、アロンガンテさんは万能型になるのかもしれないな。


 因みに俺の場合は何所でも変わらない。

 強いて言うなら、戦闘開始時の魔物との距離が大事だろう。


 そして最後に重要なのは相手の能力を一早く知る事だ。

 どのような魔物が出るかは魔法局や妖精局から知らされるが、この前のM・D・Wの様に絶対当たるわけではない。


 獣型が出ると知らされ、数メートル位かと思ったら、10トントラックの様な大型の狼が出て酷い目に遭った魔法少女が居た例もある。


 後はカウンター持ちの魔物に必殺の一撃を与え、カウンターでやられかけたとかもあった気がする。

 なので、見つけたからと直ぐに攻撃するのは危険だったりする。


 また、S級以上は他にも眷属という形で魔物が出る事が多いので、1人で討伐する際は注意する必要がある。


 今回はメインとなるS級はアロンガンテさんが倒し、眷属の中の弱いのを俺達が倒す予定だ。

 強いのはプリーアイズ先生か、数体現れた場合は俺かマリンが討伐する流れだ。

 

 そんな事をアロンガンテさんは説明してくれた。


「説明は以上となります。魔物の反応も捉えたので、移動しますよ」


 先程飛ばしてたビットは索敵用だった様だな。

 ついて行くとするか。


 因みに、アロンガンテさんは歩かずに飛行しており、プリーアイズ先生も空を飛んでいる。

 俺も飛んでも良いが、魔力を消費するので、普通に歩いておく。


 アロンガンテさんが魔物の反応から20メートル程離れた所で止まり、プリーアイズ先生が俺達の真上に移動する。

 

「ここから先は実戦となります。なるべく流れ弾などは注意しますが、魔物との戦いには常に死ぬ可能性があるのを忘れないで下さい。それではプリーアイズさん、こちらは任せます」

「はい。それでは皆さん。今日は頑張っていきましょう!」


 アロンガンテさんが魔物との間にあるビルをレールガンで壊し、視界を広げる。

 それにより、魔物も此方に気づいたのか、魔物の咆哮と共にあちこちから魔物の反応が増え始めた。

 アロンガンテさんは飛んで行き、魔物の射線を此方から外す様にして戦い始めた。


「基本的には学園での訓練している組に分かれて戦ってください。何かありましたら、私かマリンさんの組が助けに入るので、安心して下さい」


 それ初耳なんですが……まあいいや。


「それでは先輩。何時も通り前はお願いします」

「何時も言ってるけど、今は同じクラスだからマリンでも良いのよ?」


 まあ、マリンと呼んでも良いのだが、先輩と呼んでた方がマリンの機嫌が良い事が多いので、この呼び方が俺の中で定着している。

 他の生徒がマリンの事を委員長と呼んでいるのと一緒だ。


「先輩は先輩ですからね。念のため、魔力の消費は最小限でお願いします」

「うん? 分かったわ」


 生徒の中で俺の次に強いのはマリンだが、長期戦には向いていない。

 一言声を掛けておくだけでも、もしもの時の備えとなるだろう。


「皆さん! 来ましたよ!」


 それじゃあ、やるとするか。


 マリンが魔物に向かって走り出し、1体目に斬りかかる。マリンを狙って近づいて来る魔物には適当に魔法を撃って牽制したり倒したりする。

 

「弧月・円刃!」


 毎日の様に一緒に戦っているが、日に日に強くなっていってるな。

 若さゆえか、想いがなせるものか……未来を支える魔法少女や人の為にも、魔女をどうにかしないとな。

 

 他の生徒達も今は問題なく戦えているな。

 一番幼いシモンも、相方やプリーアイズ先生に支えられながら戦っている。

 

 たまにB級と思われる魔物も現れるが、プリーアイズ先生が指を鳴らすと爆発したり、細切れになったりして倒されている。


 今回アロンガンテさんが戦っている魔物は、アクマ曰く悪魔型らしい。


 アクマが悪魔と言うと混乱しそうになるが、仕方ないだろう。

 悪魔型は攻撃系の魔法とデバフ系の魔法を使う。


 飛ぶタイプと飛ばないタイプが居るが、今回は飛ぶタイプらしい。

 アロンガンテさんなら簡単に倒せるのだが、俺達の研修の為に直ぐに倒さないでいるんのだろう。

 

「セット、氷よアイスニードル雷よ。阻害せよサンダーピアー


 何時でも魔法を放てるように準備したまま、マリンの援護を続ける。


 マリンの戦いは見ていて安心できるな。

 俺もあんな感じで戦いたいものだ。


 大体15分程戦っていると、レールガンが放たれたと思われる音が響き渡り、魔物が消えて行く。

 とりあえず何事もなく終わったな。


 緑色の光を後ろに残しながら、アロンガンテさんが此方に向かってくる。

 グリントさんもそうだが、あのブースターやスラスターから出ているものは何なんだろうな?

 推進力を得るためのなにか何なんだろうが、不思議である。


 後は結界が解けて、帰るだけかな。


「皆さんお疲れ様です。怪我も無さそうで良かったです」


 多少汚れなどはあるが、怪我すらないのは良かったな。

 一応治す事は出来るが、怪我は無い方が良いだろう。


 全員で集まり、束の間の余談に浸る。

 しかし、結界が解かれるどころか、空が突然曇りだし、何故か雨が降り始めた……。


 結界内で、途中から雨が降る事は普通ありえない……。

 

 直ぐ様アロンガンテさんは、ランカー用の端末を取り出すと、どこかに掛ける。

 

 「妖精局……駄目ですか…………他も繋がらない」


 応答しない端末をしまったアロンガンテさんはレールガンを上に向け、溜めた後に撃ちだした。

 恐らく結界を破壊しようとしたのだろうが、何も起こらない。


(何が起きているか分かるか?)


『雨が降り始めた時に結界が妖精のから、奴らのに変わったんだ……間違いなく何か起きるよ』


 そういう結界とかあるのなら、先に教えといてくれませんかね?


(何時も通り通信妨害があるみたいだが、他の性能は?)


『耐久はランカー用よりもあるし、向こうの人間は出入り自由。挙句に魔物すら召喚してくるよ』


 酷い性能だ……そんなものをほいほい使われてたら、勝てるに勝てないか。

 他の生徒達も雨のせいで混乱してるし、プリーアイズ先生とアロンガンテさんに少し話しておくか。


「皆さん! 一旦あちらのビルに避難します。直ぐに移動してください!」


 プリーアイズ先生の指示に従い、ビルに入って雨宿りする。


「アロンガンテさん」

「どうしました?」


 外に多数のビットを飛ばして険しい顔をしているが、こちらに振り返る時は笑顔に変わっていた。

 こういう対応は大人と言った所か。

 

「この現象は恐らく、破滅主義派によるものです」


(そう言えば、世間的に破滅主義派ってどれ位知られてるんだ?)


『あー。この世界ではまだほとんど知られてないや。アロンガンテも、もしかしたら知らないかも』


 結界もだけど、そういう一般的な情報はしっかりと教えといてくれよ……。


「――何か知っているんですか?」

「……先日、魔法少女タケミカヅチの付き添いで魔物討伐に行ったのですが……」


 案の定アロンガンテさんは何かを探るような視線を向けて来たので、ミカちゃんの時にあった事を、少し嘘交じりで話す。


 ついでに、ロックヴェルトと名乗る魔法少女が、破滅主義派と名乗っていたって事にする。


 ついでに今回の様に結界を展開する能力がある事を話す。

 実際とは少々違うが、今は関係ないだろう。


「なるほど。つまり、どこかに元凶となる魔法少女が居るというわけですね」

「恐らくは……」


 アロンガンテさんは顎に指を当てて考え込むような仕草をする。


「参考になるか分かりませんが、タケミカヅチの時は、こちらを殺そうとしてきました」

「そうですか。私1人で出ても良いですが……もしもの場合もありますからね」


 通常なら自己責任と割り切るが、こんな異常事態の時はそうもいかない。

 特に、ここに居るのは将来を担う予定の魔法少女達だ。

 出来る限り、犠牲を出さずに何とかしたいと考えるのは道理だろう。


 そんな感じで悩んでいる時だった。

 雨の中、こちらに向かって歩いて来る、2つの影があったのだ。

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