魔法少女はお菓子を食べる……食べさせられる
水曜日の午後、俺はミカちゃんと共に東北支部に居た。
別に他所で待機していても良かったのだが、ミカちゃんがローブを放してくれなかったのだ。
わりと本気で放そうとしたが、俺の力では放す事ができなかった…………ちくしょう。
東北支部はつい最近不祥事があったばかりでギスギスしており、幼いミカちゃんには居心地が悪かったのだろう。
初めて魔法局の支部に入ったが、ファンタジーよりもSFの様な感じだ。
まあ、魔法少女がファンタジーなだけで、技術体系は基本科学だからな。
魔力も新エネルギーとして使われているだけで、魔力以外のエネルギーも普通に使われている。
それでも壊れたものを、簡単に直す事は出来ない。
道路や車。家や駅。
昔は直すのに数年は必要だったものが、早ければ1週間もあれば直せるが、それでも1週間は掛かる。
なので、環境破壊や建造物の破壊は気を付けましょうという話だ…………なんか違うな。
東北支部は野良の俺にとっても、新人のミカちゃんにも居心地が悪いって話だ。
今は魔法少女用の待機場に居るが、数名の魔法少女がチラチラとこちらを見てくる。
慣れたものだが、見るくらいなら話しかければ良いだろうに……。
まあ、それはそれで困るけどな。
(この中にランキングが高い魔法少女とか居るのか?)
『丁度正面で本を読んでる魔法少女がこの中では一番ランキングが上だね』
どれどれ……。
淡い緑色の髪とスリットの入った長いスカートが特徴的だな。
細目? 狐目が何となく強者の風格を感じる。
(名前とランキングは?)
『魔法少女セントハウル。ランキング14位で覚醒持ちだね。メインは銃火器で、ナイフを用いた接近戦が得意だよ』
なる程ね……何とも近代的な魔法少女だな。
こっちなんて魔法オンリーだぜ?
引き金を引いて火力が出せるなんて楽で良いな。
覚醒についても気になるが、そこまで知ったところで毒にも薬にもならん。
2度と会うこともない魔法少女の事など、必要以上に知る必要はないだろう。
だらだらとアクマと話していると、横からローブを引っ張られる。
「のう、イニーよ」
「どうかしましたか?」
「この空気の中よく茶菓子など食えるのう……」
出されたものは食べる。それが大人の対応だ。
例え場違いだとしても、お菓子に罪はない。
ほろ苦いチョコレートが疲れた身体に染み渡る。
「出されたものを食べるのは礼儀ですよ? 出来ればジュースではなく珈琲が良かったですが」
「う、うむ。そうなのかえ?」
「ええ。ミカちゃんが料理を誰かに作ったとして、一口も食べて貰えなければ、悲しいでしょう?」
「確かにそうなのじゃ。ならわらわも頂くかのう」
下手な遠慮は印象を悪くするからな。日本人は奥ゆかしいのが美徳とか言うが、出された茶菓子位は食べといた方が、印象が良いと俺は思っている。
「面白いこと話してるわね~」
俺とミカちゃんがリスの様にお菓子を食べてると、邪魔者が現れる。
そう、先ほどアクマが話していた東北支部最強の魔法少女。
セントハウルが…………俺を持ち上げて膝に乗せる。
「最近若手も少なくてねー。ほうらチョコレートですよー」
そこには先程まで強者の風格を放っていたセントハウルは存在せず、子供をあやす保母さんが居た。
フード越しに俺の頭をなで、チョコレートを渡してくる。
見た目はチビだし軽いからって、これは無いと思うんですよ……中身は男ですよ?
『クッ……ブフ!』
アクマも耐え切れずに笑ってるし、周りの視線が異物を見るような視線から、憐れむような視線に変わっている。
「セントハウルさんは変わらぬのう……」
「ミカちゃんも今日は頑張るのよ。最近は何かと物騒だし、本当なら私が付いて行きたいんだけど……はぁ」
人手が足りないのは何処も一緒だからな。
特に高ランカーとなると、代えが利かない。
有事の際には直ぐに動けるように、待機しておく必要がある。
「ミカちゃんの事をよろしくお願いするわね、イニーフリューリングちゃん」
「イニーで良いですよ」
「ふふ。分かったわイニーちゃん」
分かったなら撫でるのは止めてくれませんかね?
それから数分すると、端末が鳴る。
どうやら時間のようだな。
ミカちゃんが連絡をしてきたオペレーターに返事を返し、真面目な表情をする。
「来たみたいね。気を付けて行ってらっしゃい」
「うむ。ありがとうなのじゃ」
席を立ち、併設されているテレポーターに向かう。
「場所はどこですか?」
「おっと。伝え忘れておったの。場所は青森の
どこだよ……。青森はわかるが老部なんて知らんぞ?
(そういう訳で、どこですか?)
『青森の北東の方だね。昔とある魔法少女が一部海に沈めちゃったけど』
(あー、あの事件の場所ね。大体分かった)
「分かりました。それでは行きましょう」
「うむ。よろしく頼むのじゃ」
2人でテレポーターに入り、指定された座標に跳ぶ。
一応テレポーターを使わないでテレポートもできるが、魔力バッテリーが必要になる。
魔力バッテリーは魔物の核から魔力を抽出し、それを汎用的に使えるようにしたものだ。
これが中々にお高いので、急ぎの用がないなら備え付けのテレポーターを使う。
帰りはミカちゃんが東北支部から支給されている、簡易テレポーターで帰る流れとなっている。
視界がテレポーターから老部と思わしき場所に変わる。
今となっては珍しくもない草の生えた車や、半壊している家が見える。
「うむ。分かったのじゃ」
再びオペレーターと話を終えたミカちゃんが、こちらを振り向く。
「後数分でここら辺に現れる見たいじゃ。何もないと思うが、よろしく頼むのじゃ」
ミカちゃんがC級を倒せれば、俺の出番は無い。
問題が起きない限り手出しはしないし、多少の怪我は魔法少女として、仕方ない。
討伐が終わればミカちゃんは通常勤務に戻り、俺は適当に魔物を狩る旅に出る。
念の為気を抜かずに辺りを警戒しておくか……。
既にミカちゃんは武器を構えている。
C級を1人で倒せれば、新人としてはかなり良い方だ。
自分やマリンのせいで、強さの基準が少しおかしくなってしまっているが、普通B級等を倒せる方がおかしいのだ。
『20メートル先の物陰に魔物の反応あり~』
アクマの感知に魔物が引っかかったみたいだし、お手並み拝見といこう。
まあ、本当に俺は見てるだけだがな。
ミカちゃんが足を止めて、俺に静止を掛ける。
どうやら魔物の反応を捉えたのかな?
「行ってくるのじゃ。もしもの場合は頼むのじゃ」
「ご武運を」
ミカちゃんが雷を纏い走り出す。
俺も邪魔にならないように、空から見ているかな。
「
M・D・Wの最後に使った物よりはマシだが、小さい翼を生やして空を飛ぶ。
さてさて、様子はどうかな?
魔物は大きい蟷螂型か……武器の相性は分からないが、今の所問題なさそうだ。
ミカちゃんは蟷螂の鎌の射程内に入らないように雷の魔法で牽制し、隙を見てはチャクラムで斬りつけている。
焦らず、確実に一撃を当てていき、直ぐに離れる。
俺の魔法でボコボコにされたおかげで、度胸が付いているみたいでなによりだ。
「月閃天駆!」
雷を身体に纏い、蟷螂の頭上に跳んでからチャクラムを振るう。
傷だらけだった蟷螂はその一撃で首を落とされ、塵に変わる。
ふと思ったが、これも動画に撮られているのだから、俺の姿も映るのか?
何もしてないから問題ないが、今度は何を噂されるやら……。
魔物を討伐出来て喜んでいるミカちゃんの元に、ゆっくりと降りていく。
そして、俺はまた気を抜いてしまった。
これまで何回も繰り返してきたのに、またやってしまったのだ……。
俺がミカちゃんの隣に降り立つと共に景色が塗り変わっていく。
「なっ、 なんなのじゃ!」
(魔物か!)
『これは……この前の
先日ジャンヌさんを襲った魔法少女ロックヴェルトか……。
もしかして、ロックヴェルトがミカちゃんを狙っているのか?
「東北支部! 応答してくれなのじゃ! 誰か!」
ミカちゃんが端末を取り出して連絡を取ろうとするが、それが繋がる事は無い。
ロックヴェルトの結界は妖精の技術とは違う形態で張られてるせいで、通信は繋がらないし、逃げるのは難しい。
アクマの能力で逃げる前に近づかれて終了だ。
「イ、イニー」
涙目になったミカちゃんが俺に縋ってくるが……前衛はミカちゃんにお願いするしかないんだよな。
「大丈夫ですよ、敵が誰だか分かってます。1度勝っているので安心してください」
「うむ……これってわらわの命を狙って者の仕業なのかえ?」
「……恐らくは」
何でわらわがーと泣くミカちゃんをあやしながら、アクマには索敵をお願いする。
奴相手に先手を取られるのはまずい。
最悪は第二形態になって戦う必要があるだろう。
今回はミカちゃんとの
だから、必ず守り通して見せる。
「ミカちゃん。泣いてないで、戦いの準備をお願いします。敵は空間系の魔法と剣を使う魔法少女です」
「ずびび。すまぬのじゃ。……よし! わらわに任せるのじゃ」
泣き止んでくれたのは良いが、俺のローブで鼻をかむのは止めてほしかったな……。
『正確じゃないけど、反応が徐々に近づいて来てるよ』
今回は障害物が殆ど無い草原だ。多少木も立っているが、遮蔽物としては使えないだろう。
「前衛は任せまます。基本は防ぐか、避けて下さい」
「分かったのじゃ」
ミカちゃんがやる気を出してくれたのは良いが、どうなることやら……。
その時、空間に裂け目が入る。
灰色と黒の髪を揺らし、レオタードにマントを羽織った魔法少女。
ロックヴェルトが現れた。
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