魔法少女達の食事会パート2

 午前はマリンと連携しながら魔物を倒しまくり、午後は寮に帰って熟睡していたが、夕方頃に目が覚め、お腹が鳴る。

 

「……飯だな」


『起きたかいハルナ。夕飯はどうするの?』


(そうだな……)

 

 今日の夕飯は沼沼に行こう。そう思い、部屋を出た。

 そうしたら、同じクラスの奴に会ってしまった……。

 

「おや? そちはイニーじゃったかの? どこか行くのかえ?」


 よく分からない口調でしゃべる魔法少女。その名は魔法少女タケミカヅチ。

 紫陽花の様な紫色の髪と金色の目が印象的だが、それよりも、俺が業火とならんエンシェント・ノヴァで吹き飛んだ際に爆笑していた事を覚えている。


「夕飯を食べに行くところです」

「なるほどの……良かったら一緒にどうかの? 親睦を深めるのも悪くなかろう」


 悪いか悪くないなら、正直悪いんだよなー。

 出来れば1人で静かに、誰の邪魔もなく飯を食べたいが、仕方ないか……。


「沼沼って知ってますか?」

「うむ。マリンに連れてってもらったことがあるのう。それと、堅苦しい喋り方はしなくてもよいぞ?」


 下手に崩そうとするとボロが出そうなんだよ。


「こちらの方が話しやすいので気にしないで下さい」

「そうか。しかし、フードを被ってると顔が見えんとは、珍妙なものだの~。まことに不思議よ」


 その話し方の方が不思議な気もするが、気にしないで置こう。そもそも魔法少女自体が不思議の塊だ。

 とにかく、腹も減ったし沼沼に向かとしよう。


 沼沼までは寮にあるテレポーターから一般商業区画に跳び、そこからは徒歩だ。

 初めてきた時より視線は感じないが、ジロジロと見てくるのがチラホラ居る。


 沼沼の古ぼけた看板と、見た目はあの時と変わっておらず、何も知らなかったら絶対に入ろうとは思わなかっただろう。


 タケミカヅチと沼沼に入り、案内の妖精に個室へ案内してもらい、一息吐く。


「もう2人寮に住んでる者がおるが、今日は支部の方で夕餉ゆうげを済ますと言っておったからの。ちと寂しいが仕方なかろう」


 そう言えば新人クラスだと俺を除いて3人寮に住んでるんだよな。

 目の前に居るタケミカヅチと……1度名前を確認したはずたが、思い出せないな。


 知らなくても問題ないし、良いか……。

 先ずは何を食べるか決めよう。


「イニーは、ここにはよく来るのかえ?」

「まだ2度目ですね。魔法少女になって1ヶ月ちょっとなので、妖精界にはあまり来てませんので」


 そう、まだ1ヶ月ちょっとしか経ってないはずなのに色々とありすぎた。なんだよM・D・Wって。

 あの時は一面ボスがどうだとか言ってたが、あれはラスボスだろう。


 あれで俺の糞運が使い果たされたと思いたい。


「うっ、うむ。そうじゃったのか。マリンと息の合った連携を見てたせいで、ちと忘れておったの」


 最低限他人と息を合わせたり、カバーをするのは社会人の基本だからな。あの程度なら問題なく合わせられた。

 マリンは大体の魔物を一太刀で切り伏せてたから、こちらは合間の隙を潰すために魔法を使ってただけだ。


 高威力の魔法でスッキリは出来ないが、弱い魔法を連発するのも悪くなかった。

 まあ、今は杖が無いせいで、そんな高威力の魔法は使えないが……。


 「私は沼田スペシャルを頼む予定ですが、タケミカヅチさんは決まってますか?」


 前回来た時から頼もうと思っていた、沼田スペシャル。

 個人的にこれと言って何も無い沼田の、なにがスペシャルとして出てくるのかが気になる。

 メニューの画像は隠されていて、何が出てくるのか分からなくなっている。


「わらわは小沼セットじゃな。デザートのプリンが格別での~」


 可愛らしい笑顔なのだが、こやつは俺より身長があるんだよな……少し悔しい。

 

 デザートか……たまには甘い物も良いが、どちらかと言えば珈琲とかで精神を落ち着かせたい。

 疲れより、アクマの笑い声によるストレスの方がある。


 パネルから注文をして、後は届くのを待つだけだ。

 

「イニーはどこか支部に所属はいてるのかの?」

「私は野良ですね。今の所所属する気はありません。タケミカヅチさんは?」

「わらわは一応東北支部じゃの。まだ下積み中じゃがの。それと、わらわの事はミカちゃんと呼ぶがよい」

 

 嫌です…………いや、呼ぶけどさ。他人をちゃん付けで呼ぶのは妙に恥ずかしい。

 

「学園はどうだったかの? 初日から笑わしてもらったが、馴染めそうかえ?」


 正直学園に居る理由はタラゴンさんから逃げるのと、杖がどうにかなるまでの繋ぎなので、長居するつもりはない。

 中身が男の俺が、仲良しこよしなどしていられん。

 杖がなければ、ランカーなど夢のまた夢だ。

 

「そうですね、問題ないと思います」

「うむ。そうか。中には馬鹿と阿呆と間抜けもおるからの。何があったら、わらわか委員長を頼るがよい」


 そう言えば、なぜマリンは委員長と呼ばれてるのだろうか? 折角だし聞いておくかな。


『あっその件は、単純にマリンが一番強いのと、一番真面目だからそう呼ばれるようになったみたいだよ』


(折角見つけた話題を無くさないでくれませんかね?)


 ただでさえ何を話せばいいか分からないというのに……。

 微妙な無言が続いた時の気まずさが、お前に分かるか?

 控えめに言って、地獄だぞ。

 

 だが、丁度よく頼んでいた料理が来てくれた。


 タケ…………ミカちゃんが頼んだ小沼セットはワンプレートのハンバーグ定食だ。

 なんというか……お子様ランチ的なものだな。黙っておこう。


 俺が頼んだ沼田スペシャルは、ヒレカツ定食に兎カットのリンゴが2つと、焼きまんじゅうが付いている。


 何が沼田スペシャルなのかは分からないが、美味しそうだし、気にしないでおこう。


 うむ、美味い。

 だが……結構量が多い。

 ついつい元の身体で食べられる量を計算してしまうんだよな……まあ、残さず食べることは出来そうだ。


「うむ。やはりプリンはおいしいの~……のお、イニーよ」

「むぐ。なんでしょうか?」

「流石に食べるの遅くないかの?」


 それはマリンにも言われたな。

 確かに男だった頃に比べると遅い気もするが、そんなにか?

 

(俺ってそんなに食べるの遅いか?)


『正直、糞遅いね。ナマケモノみたいだね』


 そうですか、ナマケモノクラスで遅いですか……。

 これも少女になった弊害かな?


 ミカちゃんから遅れること10分。やっと食べ終えることができた。


「ここは見た目のわりに、美味い飯が食べられるからいいのう。さて、イニーよ。ちとお願いがあるのじゃが?」

「なんでしょうか?」

「来週なのじゃが、わらわの初となるC級討伐があっての、良かったら見守ってくれんかえ?」


 見守るのは構わないが、何故俺なんだ? 東北支部の先輩とかいるんじゃないのか?


『えーと。なるほどね。東北支部はランキング争いが激化していて、新人の蹴落としが激しいみたいだね』


(蹴落としって、つまりそういう事か?)


『事故は起こるさ! ってやつだね! 若しくはバレなければ合法?』


 魔法少女が悪いのか、魔法局が悪いのか……。

 今の俺は魔物に対しては戦力不足だが、魔法少女相手なら問題なく戦えるはずだ。


 魔法少女そのものは嫌いだが、助けを求められたら応えるのが、大人というものだろう。


「私で良ければいいですよ」

「うむうむ! ありがとうのう。わらわもまだ新人故、初めては怖いのじゃ。野良なら他の支部からのやっかみも無いから安心じゃ」


 一番は何も起きないことだが、アクマの反応からすると、ろくでもないことが起きそうだな……。

 最悪はこの手で……いや、その時になればわかることだ。気にしないでおこう。


「ついでじゃ。食後の運動に訓練でもどうじゃ?」

「良いですが、シミュレーションで?」

「わらわ的にはシミュレーションではなく、実戦形式の方が良いのう。来週のこともあるのでのう」


 ふぬ。ならば俺が魔法で攻撃して、ミカちゃんに防いだり避けてもらうのがいいだろう。

 

 ミカちゃんは巨大なチャクラムを武器として使い、補助として雷を使う。最近ではまだ魔法少女らしい魔法少女……なのか?


 正直魔法少女の定義とは何ぞやと言いたくなるのが新人クラスにも居たからな……。

 

 まあいい、ミカちゃんの問題点は武器となる巨大なチャクラムを、うまく扱えないことらしい。

 

 なのでどうすれば上手く扱えるかを、日夜考えているみたいだ。

 なるほど。ならば話は早い。


「私が魔法を撃つので、死ぬ気で防ぐか、避けて下さい」


 沼沼で夕飯を済ませた後、学園の敷地内にあるシミュレーターではなく、実際に訓練できる場所に移動した。

 プリーアイズ先生に許可は取ってあるので、無断使用とかではない。


 念のため地面が草原の場所を選ばせてもらったが、どれ位ボロボロになることやら……。

 まあ、ここでなら魔法を使っても問題ないし、最悪怪我しても俺が治せる。

 人のいない区画を選んだので、いくら声を出されても問題ない。


「うむ。頼んだのはわらわだからの。どんとこいなのじゃ!」


水よ。弾となれアクアショット


 適当な軌道を描く水球をミカちゃんに向かって撃つ。

 なんか驚いているが、当たっても濡れるだけだから大丈夫だろう。


「ふっ! ぬっ! そりゃ! 円壁!」


 最初は頑張って回避していたが、最後はチャクラムを回し、壁の様にして水球を防ぐ。


 まずは問題なく防がれたので、こちらもレベルを上げる。


四元素よエレメント良い感じに球となれショット


 四属性の球がランダムにミカちゃんを襲い、ちょいちょい被弾する。

 

「すっ、ストップ! ストップなのじゃ!」


 大体10分程頑張っていたミカちゃんだか、焦げたり濡れたり汚れたりとなり、休憩を請われた。


「見た感じですが、身体の大きさと武器の大きさが合っていない感じがしますね」


 ギクシャクというか、動きにムラを感じた。

 もっと身体の柔軟をするか、チャクラムを振り回すことのできる腕力があれば良い感じになりそうだ。


「その前に、わらわを見て言うことはないのかえ?」

綺麗になーれヒール・ピュリファイ


 ミカちゃんを淡い緑色の光が包み、あっという間に怪我を治し、綺麗になる。


「おお! イニーは回復もできるのか! これは来週の事を頼んで正解だったのう!」


「それでは続きといきましょう。私の魔法をしっかりと防げれば、その分生存率は上がるはずです」

 

「う、うむ。わらわはまだ大丈夫じゃ!」


 マリンといいミカちゃんといい。

 良い魔法少女はいいが、一部の魔法少女と魔法局にはまだまだ屑が多い……。


 この子の様な魔法少女が増えてくれれば、俺も嬉しいのだが、良い魔法少女ほど命を落とす。

 それは魔物との戦闘の結果かもしれないし、それ以外かも知れない。


 この日は休憩を挟みながら1時間ほど訓練をして解散した。

 いや、疲れて動けないミカちゃんを放置して、俺は先に帰った。

 

 帰り際魔法少女専用SNSツナガッターのIDを教えろと駄々をこねられたので仕方なく教えた。

 

 ついでに、頑張ってミカちゃんを運ぼうとしたのだが……後でアクマは泣かす!


 後は風呂に入って寝れば今日も終りと言いたいが、アクマが面白い情報を拾ってきた。


(それは本当か?)


『ネットの情報で写真付きだから、恐らく本当だね。戦いが終わる前に行かない?』


 魔法少女同士の争い。場所は福島か……。

 何とも良いタイミングというか、悪いタイミングというか……。

 来週に向けての、敵情視察兼お仕事と行くかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る