魔法少女は自爆する
マリン達新人クラスの生徒達は、各自シミュレーション内の設定を弄り、訓練に励んで…………いなかった。
マリンは先程のイニーとのやり取りを、同じクラスのスイープと呼ばれる魔法少女と茨姫と呼ばれる魔法少女から問い詰められていた。
「それで~? 委員長さんはどうしてあんなに泣いてたのかな~? 最近はやつれて暗かったけど、奴に会ってから急に元気になったじゃん?」
「そうですわね。そう言えば、マリンさんの動画の1つに結界内で助けられたものが御座いましたわね。確か相手方の魔法少女の名前は……そう! イニーフリューリングでしたわ!」
わきゃわきゃと2人は盛り上がり、間に挟まれたマリンは羞恥で顔を赤くする。
マリンは何故、私はあんなことをしてしまったのかと、今更ながら悔いている。
マリンはM・D・W討伐作戦の時の発表でイニーが死んだと聞いて以降、ずっと不調であった。
1度だけではなく2度も命を助けられ、何も返せないまま別れた彼女の事を想うと、どうしてもナイーブになってしまっていた。
そんな彼女が急にマリンの前に現れたのだ。あまりの喜びに我を失ってしまうのは仕方のない事だろう。
「彼女は、その、私を助けてくれた恩人で……」
「それで~? つい会えて喜んだ結果泣いてしまったと? あのお堅い委員長さんが!」
「M・D・W発表で彼女は死んだことになってましたわね。こう聞くのは失礼かもしれませんが、何で生きているのでしょうか?」
そう、そうなのだ。何故死んだとされているイニーがひょっこりと現れたのかが、マリンは気になっている。
マリンはM・D・Wが倒された後のタラゴンの後ろ姿を覚えている。
両腕が爛れ、呆然と立ち尽くしていたあの姿を……。
だからこそ、イニーは死んだものだと思っていた……なのに……。
「それは本人に聞いてみましょう。考えたところで分からないわ」
「聞くのは良いんだけどさー。あの眼やばくない? 絶対何人か殺ってるっしょ!」
「スイープさんに賛同するつもりはありませんが、あの眼は普通の人が出来るものではありませんわ」
2人の言い分に言い返したいマリンだが、自分もあの眼を初めて見た時は取り乱してしまったので、下手なことは言えない。
だが、せめてイニーが優しくて強い子だとは反論したいが、そんな時にプリーアイズとイニーが、シミュレーション内に入ってきた。
マリンはイニーを見た時に、M・D・W討伐の際に見たボロボロの姿を幻視するが、それを首を振って追い払う。
大丈夫、彼女はちゃんと生きていると、自分に言い聞かせる。
「皆さん揃いましたので、今日は予定通り連携の訓練をしたいと思います。何か質問がある方はいますか~?」
スッとスイープが手を上げる。その顔は少しにやついており、マリンに不安を感じさせる。
周りの視線がスイープに集まる中、プリーアイズはスイープに発言の許可を出す。
「連携の前にイニーさんの強さを知らないと、連携も出来ないと思うんですけどー?」
もっともらしい事を言うスイープだが、要は新人いびりだ。
お前は何ができるんだ、と挑発している。
「それもそうですね……でしたらまずはイニーさんに単独で戦ってもらっても良いですか?」
イニーは頷いて答え、スイープや他の生徒にどよめきが起こる。
マリンを含め何人かの生徒は、イニーのM・D・Wでの戦闘動画や、他の魔法少女の動画に映っていた姿を知っているので、その強さは如何程のものかと期待が高まり。
何も知らないスイープや他の面々は、新しい生徒であるイニーが醜態を晒さないかと、期待に胸を膨らませる。
「先日はD級でしたか、今回はどうしますか?」
D級を既に倒せるのか? とざわつく。
マリンという例外は居るが、新人なら
「ねえねぇ。委員長。イニーってどれ位強いの?」
「あなた、何も知らないで挑発したの? 一応だけど、準SS級を討伐した実績があるわ」
噓でしょ! と、スイープが驚きの声を上げる。幸い端末の操作をしているプリーアイズには聞こえておらず、怒られなくてすんだ。
この新人クラスの生徒の強さはばらけており、一番強いのがマリンであり、単独でB級。まだ安定はしないが、強化フォームならA級も倒せる。
逆に一番弱いのはE級に苦戦する程度だ。
そんな中でいきなり準とは言え、SS級を討伐してますと言われれば、驚かない方がおかしい。
子犬の群れの中に、成体の狼が紛れ込んだ様なものだ。
来る場所を、間違えている。
「何でそんな奴が
スイープはひそひそと怒鳴るが、マリンもそうなのよねー、と返す。
確かに新人ではあるし、学園に来るのはおかしくないのだが、
そんな生徒達を他所に、イニーの相手となる魔物が決まる。
プリーアイズとイニーの密談の結果、D級5体となった。
それでも新人としては過剰だが、弱すぎるとつまらないので、イニーが首を縦に振らなかった。
「それでは開始しますので、戦闘フィールドには入らないで下さいね」
今回相手となる魔物は獣型2体と飛行型2体。大型の人型1体となる。
「
魔物の出現と共に、炎の渦を敵の眼前に出し、飛行型の魔物の牽制をする。
イニーはその場を動かず、傍から見れば突っ立っているだけである。
「
魔法名とは裏腹に、土の槍は魔物を覆うように地面から生えていく。炎の渦が消える頃には、全ての魔物は土の壁に囲まれてしまった。
しかし飛行型には土の壁など、何の障害にもならない。だが……。
「舞い上がりし焔よ。不変を焼き尽くす
空に散ったはずの炎が再び集まりだし、紅い球を形成し、そこから紅く細いビームが土の壁の中心に発射される。
一瞬の静寂の後、空気が割れんばかりの轟音が鳴り響く。
あまりの音に、プリーアイズは翼を大きく広げてしまい、丁度隣にいたスイープの顔に当ててしまう。
スイープは突然の衝撃にひっくり返り、もんどりを打つ。
見学していた他の生徒も個性豊かな驚き方をしているが、魔法を使ったイニーは、魔法の衝撃により吹き飛んでいた。
魔物は1匹残らず消し飛んでいたが、イニーも吹き飛んでいたのだ。
戦闘用のフィールドと見学している場所は隔てられているので、音だけは響いたが、衝撃は戦闘フィールド内で収まっていた。
「イニーさーん! 大丈夫ですかー」
シミュレーションは訓練用の設定の為、痛みはそこまでないはずなのだが、吹き飛んでうつぶせのままのイニーが心配なプリーアイズは駆け出す。
隣でもんどりを打つスイープを放置したまま。
何故かイニーはうつ伏せから動こうとせず、左腕をゆっくりと上にあげていく。
(あの子は一体何がしたいのかしら?)
向かってくるプリーアイズに親指を立て、そのまま動かなくなる。そんなイニーフリューリングを、プリーアイズは起こして様子を見る。
自分の翼をわさわさと触られている事に気づかないで……。
「ああ、大丈夫そうですね。皆さんこんな感じになってしまいましたが、分かりましたでしょうか?」
何を分かれば良かったのでしょうか、と皆の心が一致した。
どう考えても新人としては規格外になるので、生徒と先生との話し合いの結果、イニーはマリンと組むことになった。
それ以外の生徒では明らかに強さが違うので、マリンしか組める相手が居なかった。
話し合いの間、スイープは恨めしそうにプリーアイズを睨んでいたのは、別の話である。
各々が3~2名で組み、それぞれの訓練を開始する。
それは魔物を相手に戦う者もいれば、お互いに魔法について話し合う者も居る。
サボって居る者も居るが、その生徒達はプリーアイズに怒られている。
「ねえイニー?」
「何でしょうか?」
「杖はどうしたの? 何時も持っていたと思うんだけど……」
マリンは何時も持っているはずの杖を使わずに戦っていた事に疑問を持っていた。
先ほども戦ってる時間は短かったが、手元が寂びしそうにしてたのを、マリンは見逃さなかった。
「杖は無くなってしまいました……」
無表情と濁った目のコンボを喰らい、マリンは少し罪悪感を覚えるが、何かがおかしい事に気づく。
魔法少女はその特性から、何かしらの武器や道具を所持している。マリンなら刀と弓になり、これが無ければ戦えない。
スターネイルなら銃を持っており、魔法を使う際の媒体にもなっている。銃が無くなれば、魔法は使えないし、魔物と戦う術もなくなる。
そう。普通武器が無ければ魔物とは戦えないはずなのだ。
なのに目の前の少女は普通に魔物と戦い、倒してしまっている。
「杖が無いと困る事はあるのかしら?」
「強い魔法が使えません。後は魔力量に対して、威力が減衰してます」
強い……魔法? 先程イニーが使った魔法は、マリンが昔見た
普通の魔法少女なら、B級を1人で討伐出来れば一人前だ。
新人になりたてなら、D級を倒せれば期待の新人と言って良いだろう。
先程イニーが使った
威力を見るからにC級やB級を倒せる威力はあったと、マリンは見ている。
きっとこの子は常識がないんだと、マリンは悲しげに思うのだった。
「そう……なのね。とりあえず、連携は私が前衛でイニーが後衛で良いかしら?」
「大丈夫です先輩」
マリンは2度目の先輩呼びに、胸が高鳴った。
自分の先輩に当たるのがスターネイルとブルーコレットになるので、先輩の呼称は好きではなかったのだが、いざ自分が呼ばれると少し嬉しく感じた。
それが眼を除けば美少女であるイニーが呼んでくれるのだ、嬉しくないわけがない。
「よし、連携の訓練はC級5体でやりましょう。魔物はランダム設定で……。行くわよ!」
イニーは頷いて答えるが、刀を構えるマリンとは違い、武器となる杖が無いので立っているだけである。
出来ればフードを被ってしまいたくなるイニーだが、被るとプリーアイズに怒られるので我慢する。
マリンが端末の操作を終え、戦闘用のフィールドに移動すると魔物が現れる。
5体全てが人型であった。
最初にマリンが刀を構えて突っ込む。
「円月!」
身体を翻しながら刀が振られ、2体の魔物の腕が斬り落とされる。
少しだけ出来るマリンの隙を埋める様に、イニーが氷槍の魔法で援護する。
マリンはイニーの援護に内心で喝采を送り、地面に刺さっている氷槍を足場に、一番奥に居る魔物に跳ぶ。
「一ノ太刀・月閃」
魔物に刀が振り下ろされ、両断する。煌めく刃は、まるで三日月の様に見えた。
その振り下ろし刀をマリンは納刀し、背中の弓を構える。
その頃にはイニーが2体仕留めており、残りは腕が斬られている2体だけとなっていた。
魔力を矢の形に変え、矢を弓につがえる。その時イニーと目が合い、マリンはにやりと笑う。
「ロック、シュート!」
「
お互いが放った矢は魔物の頭に刺さり、魔物は消滅した。
2人は危なげなく、魔物の討伐を終えたのだった。
「うわー。マジやばくないあの2人? C級5体を無傷で倒してるよ」
「凄いですわね……。委員長さんは既にB級を単独で倒せるのは知ってましたが……」
「私、準SS級倒したってのはガセだと思ってたけど、もしかしてマジ?」
2人の戦いを見ていたスイープと茨姫は2人の強さに驚いていた。
この2人もD級を1人で倒せる程度の強さはあるが、先程の戦闘を見た後では気が引けてしまっていた。
突っ込んで牽制するマリンに対して、的確に氷槍で援護を行うイニー。
その後も一番奥に居る魔物を倒すために、跳んだマリンが狙われない様に、イニーは援護していた。
そして最後は示し合わせたようなタイミングで、同時に魔物を討伐した。
危なげのない戦いに、2人は感動していた。
「私達も負けてられないじゃん?」
「そうですわね。私達も頑張りますわ」
マリンとイニーの強さに嫉妬することなく、2人は強くなるために、訓練を再開するのであった。
この後も各自訓練をするのだが、マリンとイニーペアを見ていたプリーアイズは、2人の場違い感に不安を感じていた。
因みにマリンは先日のM・D・Wの際の功績によりランキング30位に上がっていた。
イニーが自爆により吹き飛んだこと以外は問題なく、訓練の時間は過ぎていく。
こうして、転入1日目は終わったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます