転入生は魔法少女

 試験日から日が経ち、ようやく学園に転入する日となった。


 基本的にはタラゴンさんの家でだらける生活を送っていたが、タラゴンさんが居ない時に第二形態の確認を行った。


 なんと、第二形態は何も問題がなかった……と言いたいが、妙なざわめきを感じた。

 アクマには問題ないと言ってしまったが、原因が分からない以上、今は放っておくしかない。

 まあ、普通に魔物と戦う分には難があるが、最悪の場合の戦闘能力が確保できたのはありがたい。


 当分は魔物より魔法少女狩りの方をメインでやっていくかな……真面目な魔法少女が多ければ狩る必要もないのだが、情報は随時アクマが仕入れてくれるので、出番はあるだろう。


 このだらける日々で困ったことが2つあった。

 1つ目は何かと理由をつけてお姉…………タラゴンさんが俺を外に連れ出そうとするのだ。

 どちらかと言えばインドア派の俺としては家でダラダラとしていたかった。


 なので、1度「嫌です」と断ってみたのだが……。


「そう。イニーは私とは一緒に居たくないのね……」


 なんて台詞と共に泣かれそうになった。一応助けてもらった恩もあるので、俺は心を殺してタラゴンさんと何度か出掛けた。


『雑魚すぎワロス』


 そんなことをアクマが言っていたが、2人きりの時にクスグリの刑に処した。

 ついでに着ることはないだろう服が大量に増えた。たまにタラゴンさんがチラチラ見てくるが、基本はフード付きのジャージかパーカーを着ている。


 正直、変身を解いてる状態のタラゴンさんはお淑やか系なので、わりと心にダメージがあるが、俺の羞恥心の方が大事だ。


 2つ目の問題なのだが…………タラゴンさんね、お風呂に乱入してこようとするんですよ。俺がただの少女なら良いが、中身は男で26歳だ。

 女性と裸の付き合いなど出来ない……興味はあるけどさ。


 乱入しようとするタラゴンさんに対して、俺は瞬時に変身して、氷で扉を固めた。


 あの時にアクマからの助言がなければどうなっていたことか……。


 そんな生活からやっと解放される。学園が嫌だとか言ってたが、タラゴンさんと生活するよりはマシだろう。寮なら1人部屋だろうしな。


『ハルナ。一体誰に話しかけてるんだい? とうとう壊れちゃった?』


(内に宿るもう1人の妖精だよ)


 そんなもの居ないけどさ、どうやら少し疲れてしまってたみたいだな。

 ともかくだ、学園近くのテレポーターにやっと来られた。


 なるべく目立たないように学園に向かうが、通学ラッシュのせいでどうしても目立ってしまう。

 姿を消すような魔法も使えはするが、理由もなく一般区画で魔法を使うのは禁止されてるからな……。


 ひそひそ声を無視しながら歩いていると、やっとプリーアイズ……先生が見えた。


 正直あの人を先生呼びしたくないが、敬称はしっかりとつけないとな。

 元社会人としては失格だからな…………呼びたくないけど。


「イニーさーん! こちらですよー!」


 あんなんでも、俺より年上の28歳なんだよな……今の俺と見た目変わらないのに。


「お待たせしました」

「先ずは寮の方に案内しますね。荷物はタラゴンさんから受け取ってありますので、後で確認して下さい。それと、フードは取らないと駄目ですからね」


 前回フードを取った俺に悲鳴を上げた人が言うことかね? まあ、アクマからは許可はもらってるので、脱いでしまおう。

 

「ひぅ……コホン。それでは、付いて来て下さい」


 また悲鳴を上げるんかい……。まあ、周りの目もあるし、さっさと付いていこう。


 寮は学園内にある専用のテレポーターで行くことができ、場所的には学園の隣にある。

 ならば、そっちに集合で良いと思うのだが、テレポーターの説明の為に学園側に集合したみたいだ。


「部屋は105号室になります。軽く見ていただいて、問題なければ教室に案内しますね」


 プリーアイズ先生が105号室の扉を開き、中を確認する。

 部屋は2DKとなっており、1人で生活する事を考えれば結構広い。


 他にも食堂や大浴場などもあるが、部屋の中で完結できるなら行かなくてもいいだろう。

 1人が一番だ。


「寮の利用規則をまとめた冊子を部屋に置いてあるので、後で読んでくださいね。何か質問や問題点はありますか?」

「大丈夫です」

「そうですか。でしたら少し早いですが、教室に向かうとしましょう」


『ほうほう。なんと知っている魔法少女が3人居るね。これは面白くなりそうだよ!』


 3人? 若い魔法少女で知り合いなんて北関東支部しか思いつかないが、スターネイルとブルーコレットは普通の中学校に通ってたはずだしな~。


 仮にマリンが居たとしても、他は誰だ?


(答えって教えてもらえるのか?)


『直ぐに分かる事だから、内緒だよ』


 俺は無事に今日を生きこれるのだろうか……。

 そんなやり取りをしていると、とうとう教室の前に着いてしまった。


 今更だが、この学園は魔法少女として通っているため、制服などはない。俺の場合はいつも通りの白いローブ姿だ。

 おしゃれして魔法少女用の戦闘服以外を着ている奴も居るらしいが、俺はこのローブが気に入っているのでこのままだ。

 

「呼ぶまでは廊下で待っていてくださいね~」


 昔通っていた学校の様にガラガラと音はならず、滑るようにスライド式の扉を開けて、プリーアイズ先生が教室に入って行った。


「皆さんおはようございます。あっ! スイープさん! 教室で朝食を食べるのは止めなさいと言ってるでしょう。ほむらさんとあかつきさんも殴り合ってないで座りなさい!」


 物凄く不安になってきたんだけど、本当に大丈夫か?

 それから数分経ち、やっとプリーアイズ先生の怒声が止んだ。


「えー。急ですが、今日から新しい子が転入となります。どうぞお入り下さい」


 入りたくはないが、覚悟を決めて扉を開く。アクマが先程から笑いを堪えているが、入るしかないのだ。


 教室には生徒の魔法少女が9人居る。端から確認していき、アクマが言っていた3人を探す。ああ、俺が喧嘩の仲裁をした2人か。それと……。


「イニーフリューリング?」


 やっぱりマリンが居たか。前に会った時よりもやつれているが、大丈夫か? 折角俺が命を張って助けた命だ。簡単に魔物に殺されてはこま……。


 俺が内心で愚痴っていると、マリンのタックルからの抱擁で吹き飛び、背中がボードにぶつかり痛む。


「生きて、生きていたのね……」


 あの時M・D・Wも泣かれたが、女性に泣かれるのはなれないな。気の利いた言葉など、俺には言えん。だがまあ……。


「約束しましたからね。遅くなりましたが、帰ってきました」


 一応約束してたんだよな、帰ってくるって。

 ところでもうそろそろ泣き止んでくれませんかね?

 周りの目が刺さってるんです。それと、マリンって学園だと委員長って呼ばれてるのね。


「はっ! いっ、今のは忘れなさい! 良いわね!」


 やっと泣き止んだと思いきや、他のクラスメイトに脅しをかけるマリン。情緒不安定すぎないか?

 プリーアイズ先生も泣いてないで収拾をつけてくれませんか? もうそろそろ俺も怒りますよ。


「えー、今日から皆さんの仲間になるイニーフリューリングさんです。一応新人になりますので、皆さん仲良くしてください。グスン」


 楓さんの陰謀により、折角18位まで上げたのにまたやり直しになってしまった……。杖が戻るまではハードモードなので、完全に弱くてニューゲームである。

 おっと、挨拶しないとな。ほぼ全員に引かれてる気がするが、大人として挨拶はちゃんとしなければな。


「ご紹介に預かりましたイニーフリューリングと申します。イニーとお呼び下さい。年齢は11となります」


 …………あれ? 普通この後は拍手とかあるものじゃないのか?

 アクマはさっきからずっと笑って使い物にならないし、もうやだ…………。


「えー。はい。それでは席は……ヒッ! ま、マリンさんの隣に座ってください」


 このクラスのヒエラルキーが既に分かって来たな。生徒に睨まれて席を決めるのは先生としてどうなのだろうか? 先が不安だが、今は流れに身を任せよう。


「今日は新しい子も来たので、午前は魔物討伐の連携訓練と、先日のテストで赤点を取った方は午後から勉強となります。イニーさん以外は先にシミュレーターで準備をしてて下さい。イニーさんには授業の流れなどを説明します」


 名残惜しそうにマリンがこっちをチラチラ見ながら教室から出て行く。マリンとそんなに話した記憶は無いのだが、何かしてしまったのだろうか?

 プリーアイズ先生と俺だけになり、説明が始まる。


 魔法少女用の学校なだけあり、基本は魔物の討伐と、魔法の使い方についての授業が殆どとなる。

 異世界もののファンタジーな感じだな。戦わなければ生き残れない世界なのだから、戦いに重きを置くのは道理だ。


 だが、勉学の面もしっかりとしている。基本的に午前は訓練であり、午後は自習や所属魔法局での活動となるが、週1で行われる学力テストで赤点を取ったものは、先生直々の授業が待っている。

 因みにテストは年齢毎に違うものとなっている。


 一応午後の時間で先生に勉強を見てもらうことも出来るが、この新人クラスと呼ばれている中で赤点を取ってないのは3人しかいないみたいだ。

 1人目はマリンだ。あんな真面目そうな少女が赤点など取るわけない。2人目はルーステッド・カリステン・ジ・アリスエルと呼ばれる魔法少女だ。長いので皆はアリスやエルと呼んでいるらしい。


 最後の3人目はタケミカヅチと呼ばれる魔法少女だ。因みに3人共12歳らしい。

 他の赤点組についてはおいおい知っていくとしよう。そんなに沢山の名前を一度に覚える事は俺にはできない。


 一応年齢では1番下が10歳で上は14歳みたいだ。

 それとこの新人クラスは、魔法少女になって3年未満の者なら、誰でも通えるみたいだ。

 纏めれば、週1のテストさえ合格すれば、午前の実践訓練だけで済むという事だ。

 椅子に座って長々と授業を受けないで済むのは良いな。


「ここまでで質問はありますか? あっ、イニーさんはタラゴンさんの要望で、偶に特別授業が入るらしいので覚えておいて下さい」


 そうか……俺に平穏は訪れないのか……。

 そう言えばジャンヌさんから連絡がまだ来ないな。変なタイミングで来ないと良いが……。


『因みにタラゴンは長い休暇の代償に、1カ月程世界各地に飛ばされてるみたいだね』


(その内連絡寄こすだろうし、適当に返事しといてくれ)


『了解。ぐふふ』


「それでは他の生徒も待たせているので、シミュレーター室に向かいましょう」


 プリーアイズ先生は説明用に使っていたホログラムやボードの文字を消し、素早く準備を整える。

 俺の勘だが、この後のシミュレーションでは絶対に何かしら問題が起こると思っている。

 だからって向かわない訳にはいかないので、プリーアイズ先生の後を付いて行くが、プリーアイズ先生の翼がわさわさと動くのがずっと気になっている。


 女性の身体に触るのはセクハラになるが、翼ならセーフではないだろうか?


(そこのとこ、どう思いますか?)


『女性が女性を触る分ならセーフだから、触って良いんじゃない? ハルナの中身は男だけど』


 そうなんだよな~。見た目はセーフだが、中身はアウトだ。後で事故を装って触るとしよう。

 俺はプリーアイズ先生の後ろで何度か頷いて、その結論に至った。


 そんな馬鹿みたいな事を考えていると、シミュレータが有る部屋に着いてしまった。

 既に全員シミュレーション用のポットに入っており、部屋自体は静かだが、モニターに映る彼女らは中々に騒がしい。


 この中に合流しなければならないのは気が重いが、仕方ないか……。

 俺はポットの中に入り、シミュレーターを起動させたのであった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る