魔法少女はアクマと契約する
突っ込んでくる魔物をカウンターで斬り裂く。
残り20体となった辺りで、
(やっとここまで来たな……)
『うん。後少しだよ……ほら、頑張って』
爪を振るって攻撃をしてくる人型の魔物の攻撃を、前に倒れるようにして躱し、すれ違いざまに両断する。
態勢を崩した所に飛んでくる魔法を、転がって避ける。
残り19体……。
転がった勢いを利用して飛び跳ね、魔物から距離を取る。
最初の頃、雑魚相手に無双してた頃が懐かしい。
適当に魔法を使えば魔物なんてほとんど倒せてたからな。
まあ、万全だったとしても、S級相手に無双は出来ないだろうけどな。
後少し……後少しだ。俺が死ぬのが先か、俺が殺すのが先か……。
最も近い魔物に踏み込み、魔物のコアを貫く。攻撃が俺の身体を掠め、塵になる前に撃たれる魔法を障壁でギリギリ逸らし、次に向かう。
一撃もらったとしても、確実に1体ずつ殺していく……。
残り15体。
後方の魔法は完全に避けるのを諦め、爆発系ならその爆発を利用して移動し、氷や岩はそらせるだけそらす。
残り5体!
「糞ったれがー!」
声を出して気合を入れるが、自分から出る高い声には、未だに慣れない。さっさと男に戻る予定だったのだが、ままならないものだ……。
『ラストだよハルナ! そいつを倒せば、残りはM・D・W本体だけだよ!』
(ああ! 分かってるさ!)
アクマの声援を受けて、ほんの少しだけ気が緩んでしまったのだろう。
首を刎ねて魔物を倒すも、カウンターで腹を貫かれてしまった。
(まだ大物が残ってるっていうのに……)
腹から、口から血が流れる。唯でさえ出血多量だというのに……我ながら意識を保ててるのが凄い。
大丈夫だ、まだ俺の心は折れていない……まだ……。
『ハルナ! しっかりして! ここで倒れたら、君の頑張りが無駄になっちゃう!』
おっと、考え事をしてたら、そのまま意識をもってかれそうになってしまった。全く、頼れる相棒だ。
(大丈夫だ。そんな叫ばなくっても聞こえてるよ。結局生きて帰れそうにないが、
マリンやアクマには生きて帰ろうなんて言ってたが、結局はこの有り様だ。
M・D・Wを倒すための魔法は思いついた。
理論上は破壊できるはずだし、もう邪魔をしてくる魔法も魔物もいない。
意識を切り替えて
既に痛みなど殆ど感じないが、今の俺よりもゾンビの方が綺麗な姿をしているだろうな……。
杖を支えにして、ゆっくりとM・D・Wに近づいて行く。
一歩一歩が重く苦しいが、後少しの辛抱だ。
「
M・D・Wに向かう時に使ったのとは全く違う、みすぼらしい翼を生やして、ノロノロと空を昇っていく。
感覚で分かるが、とっくに使える魔力も魂も尽きている。なぜ生きていられるのかなんてのは、自分でも分からないし、この魔法すら発動したのが不思議だ。
ああ、こんな糞ったれな世界に生まれなければ、俺は幸せになれたのだろうか?
あの時アクマに助けてもらわなければ、苦しむ必要なかったのか……。
俺はただの一般人として普通に生きて死ねれば、それで良かったんだがな……。
強いて言うなら、知りたかっただけだ。こんな世の中になった理由を。こんな世界が続いてる理由を。
魔法少女なんてファンタジーが溢れ、魔物なんて敵が世界を破壊し。それに足掻く人類……。
(なあ、アクマ。たった1カ月の付き合いだったが、楽しかったかい?)
『勿論さ……。日常生活はガサツな癖に、人前では一端に決めたり、天然な反応で人を誑し込んだり、見てて飽きなかったよ』
(それは良かった。なら……後は俺1人でやるから、お前は逃げてくれ)
最後まで一緒なんて言ったが、やはり救える命があるなら救っておきたい。
俺は1面のステージでゲームオーバーだが、後はアクマが続けてくれるだろう。
後少しでM・D・Wの頂上に着く。逃がすなら今しかない。
『……ねえハルナ。もしもだよ。これからもこんな苦しい戦いが待ってるとして、ハルナは生きたいと思う?』
こんな……か。既に死に体だし、こんな苦しんでまで生きたいとは思えないな。
俺は普通に社会人をしてたんだぜ? ちょっとばかし世界を呪うような事はあったが、それだけだ。
今の状態はあくまでも
契約ってのは守るためにある。例えそれが死への旅路だとしてもだ。
しかし……なんだ。アクマと2人でならそれも悪くないかもしれんな。
26年間の人生の内殆ど1人だった俺が、1カ月も一緒に居た相手など、両親以外では初めてだった。
姉も居たが……いや、思い出すのは止めておこう。
あいつはもう居ないしな。
(
『ハルナ?』
アクマが何をしたいのかは分からない。
しかしだ、アクマが何故俺を魔法少女にしたかは分からないが、1カ月で別れるのは少々寂しい。
戦いの途中、少しだけアクマが言っていた”番号”について考えていた。
考えの中で1つ、思い出した事がある。タロットカードに
タロットカードは正位置と逆位置で全く異なる意味を持つ。
正位置は悪魔そのものの意味を持つが、逆位置は、結構面白い意味を持つ。
回復や新たな出会い。出直しや転生。
なあ、アクマ。お前は一体何所から来たんだ?
何を見て、何を知り、俺なんかを魔法少女にしようなんて考えた?
その理由を俺は
(俺を死なせたくないんだろ? なら
『……分かったよ。なら本物の
(良いぜ
これまでの口約束とは違う、確かな契約を結ぶ。
感覚が薄くなった身体に、少しだけ暖かい何かが流れた気がした。
まあここから生きて帰るすべがあるのかは分からないが、今はアクマを信じるとしよう。
『今は予定通り、M・D・Wを破壊して。後の事は私が何とかするから』
何とも似合わない真面目な声音だ。アクマには、ニヤニヤケラケラした声の方が似合う。
とりあえず、最後の仕上げといこう。
滴る血で滑りそうになる杖を強く握る。もうまともに目が見えてないが、下方に居るM・D・Wの咆哮のような、機械の駆動音の様なもので、位置は大体分かる。
魔力は無くなった、魂もあるのかどうか、分からない位すり減っている。だが、後1つだけ力として使えるものがある。
「融界……虚構術式……展開」
自分の身体を筒状の魔方陣で包む。
杖を眼前に浮かべ、先の尖ってる方を自分に向け、そのまま腹に突き刺す。
幸い痛みを感じることは、ほとんどなかった。
杖に血が染み渡っていき、俺という存在を喰らってもらう。
こんな事思いつくなど、我ながら馬鹿だと思うが、こんな事さえ可能にするのが魔法なのだ。
「我は求める」
また一瞬だけ意識が飛び、体勢を崩す。
「罪過の代償を。咎の贖罪を」
俺を包んでいた魔法陣と杖が球となり、空を昇っていく。
「我は訴える」
下方に佇むM・D・Wから咆哮の様なものが聞こえる。
「魔力を。魂を。存在を……。不可逆の対価とし。滅びの糧とならん」
結界の空を埋め尽くす様に、魔法陣が描かれていく。恐らくタラゴンさん達からでも、これは見えるだろう。きっと、俺がやり遂げた事は伝わったはずだ。
後始末は先輩に任せるのが、社会人というものだ。
新人は出せる全力をもって物事に当たる。それで十分ではないか。
「我の名はイニーフリューリング。始まりを告げ、春をもたらす者なり」
飛ぶだけの気力も無くなり、俺は落下を始める……。
今回の魔法は特別製だ。M・D・Wよ、俺と一緒に死んでくれ。
「
……
魔法陣から放たれた光が、俺と共にM・D・Wを呑み込む。
M・D・Wは崩壊していき、魔法陣に匹敵するような光が逆流してくるのを、薄っすらと感じた。
俺の意識はそこで途絶えた……。
『事象番号第15番”アクマ”が逆位置をもって改定する。新たな出会いを、転生を……』
………………
…………
……
「聞いて史郎! 私魔法少女になれたの!」
それは古い、昔の記憶だ。
魔物や魔法少女が居ても、一般人にとっては関係なかった。
両親が居て、姉が居て。たまに避難する事があったりしたが、不自由しないで暮らしていた。
なあ姉よ……。俺は一体どうすれば良かったんだろうな。
お前を否定していた俺が、お前と同じように魔法少女として、命を落とす事になるなんてな。
どうせ姉ちゃんは地獄に落ちたのだろう?
今から俺も行くから、待っててくれよ……。
『事象番号第15番”アクマ”ノ介入ヲ確認。終末ノ日ノ再演算ヲ開始シマス…………演算終了。結果ヲ反映シマス…………成功。
『やっぱりバレちゃったか…………はぁ、”今回”は回避できると良いな~』
魔法少女名:イニーフリューリング
(日本)ランキング:18位(最終)
年齢:11歳
武器:杖
能力:魔法+回復(結界内に侵入出来る能力有り)
討伐数
SS以上;準SS級1(単独撃破)
S:334(非公式)
A:668(非公式)
B:56
C:586
D:1850
E以下:3657
備考
M・D・Wの特異種との戦闘にて単独討伐を果たすも、生死不明となっている。
状況判断にて死亡扱いとする。
短い活動期間ではあったが、並みの魔法少女100人分程の討伐数を記録。
将来のランカー候補として期待されていたので一部では惜しまれている。
また、タラゴンとの模擬戦の動画があるのではないかと、魔法少女界隈で噂されている。
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