魔法少女の決意

 アクマからのオーダー契約通り、人を助けながら魔物を倒すこと30回。漸くタラゴンさんを見つけることが出来た。

 

 道中色々とあったが、案の定無傷とはいかなかった。

 瓦礫に足を挟まれて潰されたり、スターネイルのポカのせいで魔物にタックルしたりと、色々あった。


 折角のフードも、魔物のビームみたいな攻撃で消し飛ばされてしまい、途中からは素顔を晒したままだ。

 何故か素顔になってからは周りの反応が悪くなった。


(本当にここまで長かった……。今なら途中でポカしたスターネイルをゆる……せないな)


 『気持ちは分かるけど、手を出さないだけ偉いと思うよ』


 狼型とエルフ型の魔物を倒して、少ししてから目覚めたスターネイルは酷いものだった。


 やれブルーコレットはどこだの、あなたなんかの指図は受けないのだの、私1人でどうにかするだのと、喚き散らした。


 最終的に警官のおっさんと一緒にお話脅しした。

 まあ、俺がやったのは土の槍をスターネイルの周りに、大量に生やしただけだが。


 後は途中で、お守り護衛を頼んでいたはずなのに、無理に魔物を倒そうとして、一般人に犠牲が出そうになったのでその時に追加でお灸を据えといた。


 俺が泥だらけ且つ血まみれになったが、犠牲を出すことなく、ここまで来れた。ついでに、今は裸足である。靴は俺の足と一緒にどこかに埋もれてるだろう。


 痛みには慣れないが、死なない限り治療ができてしまうので、感覚が麻痺してきてる気がする。


 死なない為に、魔法少女になったはずなのに死にそうな目に遭うのは何でだろうか?


(それよりも、タラゴンさんの様子が変じゃないか?)


 『ハルナを悠々と爆破してた時と比べると、様子が変だね』


 感知能力の低い俺でも分かるが、ここが親玉の居る結界だろうと分かる異様さがある。

 万全の状態とは言えないが、戦えないほどでもない。

 

「イニーフリューリング。ちょっと良いかしら」


 周囲の確認や、自分を奮い立たせるために言い訳をしていると、タラゴンさんに声を掛けられる。

 

 何時にも増して真面目なタラゴンさんに呼ばれ、集団から少し離れる。一体なんだろう。


「あなたはM・D・Wって知ってるかしら?」


(M・D・W?)


 『あー。成程ね。タラゴンが真面目な理由が分かったよ』


 どういうこっちゃ?


「知らなさそうね。時間がないから簡潔に説明するわ」


 M・D・W。正式名称はマザー・ディザスター・ウォール。

 魔物とは名ばかりの、真正の化け物だ。


 遠目に見えるM・D・Wの元にたどり着くまでには、大量の遠距離魔法や砲撃を避ける必要があり。懐に入ってからも召喚される大量の魔物を捌きながら、本体を倒さなければならない。


 オマケに、倒した際には自爆をする。敵のサイズを考えると、4位グリントさんや9位が相手するような敵だと思うんだがな~。


 遠目に見えるM・D・Wはファンタジー魔物ではなくSFロボットだ。


 そしてタラゴンさんの様子が変だった理由も分かった。


(倒すためには、誰かを見捨てなければならない……か)


 タラゴンさんが1人で倒す場合は、タラゴンさん以外の全員が犠牲になる。そのため、あれだけ焦燥した顔をしていたのだろう。

 そんな時にそれなりの能力がある、俺が現れたのだ。


 俺を犠牲にすれば、その他全員を救う事が出来る。だが、恐らく俺は爆発に巻き込まれ……。


 わざわざ離れて話す訳だ。こんな事を一般人に聞かせることは出来ない。


 中身は兎も角、見た目がちんまい少女に死んで来いと言うのは、どんな気持ちなんだろうな?


(俺が生き残る道はあるかい?)


『ここで逃げる手もあるけど。倒した後の、自爆までの時間次第では、結界から逃げられる可能性もあるよ』


 敵の規模からして、勝てるかどうかも分からないけどな。それに、倒した後に転移をする余力があるかも分からない。


 自分だけの事を考えるなら、ここで逃げてしまうのが、安全策となるのだろうな。


 確かに痛いの嫌だし、死ぬなんてもっての他だ。

 タラゴンさんが最も最善の手として、選んだのも分かる。

 それが苦渋の決断と呼べるものだとしてもだ。

 

 タラゴンさんの拳からは、強く握りしめているせいで血が滴っている。

 

 そんな泣きそうな顔をしないでくれ。あなたが選んだ答えは、魔法少女としては正解だよ。


「分かりました。私がやります」


 上手くいけば死なない可能性もある。それが極僅かだとしてもだ。それに、屑な魔法少女達とは違い、本物の魔法少女タラゴンさんの願いを蹴るのは、大人として出来ない。


「本当に良いのね?」


 結局タラゴンさんは、涙を我慢できていない。成功すれば、俺1つの命で魔法少女3人と、30人あまりの人間を救う事ができる。

 俺を心配して流す涙なのだろうが、涙を流す程の事かね~?

 

「それが仕事ならば、私はやるだけです。後ろの事は任せます」


 俺が前で戦っている間は、タラゴンさんと他の3人が防衛しなければならない。

 そして、M・D・Wが倒された際には、タラゴンさんが全員を守る必要がある。


 俺も大変だが、タラゴンさんにはタラゴンさんの仕事がある。


 なので、急に抱き着くのは止めてくれませんかね?


「ごめんね。私が不甲斐ないばかりに……」


(こんな時はどう反応すれば良いんだろうな?)


 『私には分からないな。でも、本当に良いの? 自殺しに行く様なもんだよ?』


 この事を頼んで来たのが、スターネイルやブルーコレットだったら殺してやるが。相手は俺なんかの為に、涙を流してくれるタラゴンさんだ。


 何時の時代も、男は女の涙には弱いのだ。


(アクマが居てくれれば、案外いけそうな気もするんだ。無理そうなら俺を置いて逃げてくれ)


『そこはがあるからね。ハルナが決めたなら、最後まで付き合うさ』


(そうか。せいぜい死なない様に頑張るとしよう)


 何気なく、タラゴンさんの背中を優しく叩く。出来れば早く泣き止んでほしい。

 

「ごめんなさいね。もう大丈夫よ。他の3人も入れて作戦会議をするから、一旦戻るわよ」


 俺に抱き着いて、声を出さない様に泣いていたタラゴンさんは漸く落ち着き、何時もの雰囲気に戻る。


 他3名と一般人が居る場所に戻ると、まだ結界の中だというのに、浮ついた空気が流れていた。

 この異様な空気が分からないのだろうか? そもそも、まだ結界の中だと言うことを忘れているのか?


 マリンは周りを警戒しているが、他の2人は一般人と変わらない様に見える。

 俺の知ったことではないが、隣に居るタラゴンさんから怒気を感じる。


「今から作戦会議を行うので、一般人の方はそちらの廃墟ビルの中へお願いします。魔法少女達は此方へ」


 多少騒がしくなるが、全員指示には従い、指定された場所に移動する。まあランカーに逆らう事なんて出来ないわな。


「先ずは今回の魔物について説明をするわ」


 タラゴンさんは俺にした説明を、更に詳しくしたものを話す。特に最後の自爆による被害予想や、前回の教訓辺りを聞けたのは良かった。


 作戦の第一段階は、タラゴンさんが俺を背負い、M・D・Wに近づく。その間、M・D・Wからの迎撃を北関東支部の3人が対処して、一般人を守る。タラゴンさんが俺を運ぶ理由は、俺の魔力消費を抑えるのと、タラゴンさんが運んだ方が速いからだ。


 第二段階として、タラゴンさんは途中で離脱して後方に下がり、俺単身でM・D・Wに接敵後、迎撃に現れる魔物を倒す。


 ここでの問題点は、俺がM・D・Wを素早く倒せたとしても、倒してはいけないのだ。


 相手のスペック的に、倒すよりは倒される可能性の方が高いが、そこは置いておこう。

 最低限タラゴンさんが後方に戻って、爆発に対応するための時間を、稼がなければならない。


 そして最終段階。俺1人による推定特S級魔物M・D・Wの討伐。


 勝率はタラゴンさんの試算で3割。だが、これはタラゴンさんが、昔戦った奴だった場合だ。

 今回の相手は恐らく変異種突然変異


 上位B級以上ではなく、イレギュラーSS級~測定不能に片足を突っ込んでても、可笑しくない。


 俺1人であれは、勝率が1割あれば良い方だろうが、俺以外が助かる道は、これしかない。


 タラゴンさんが前に出れば、誰も守れない。

 俺の敗北は、タラゴンさん以外全員の死を意味する。


 1割未満の勝率を掴んだとしても、M・D・Wを倒した際には、大規模な爆発が待っているがな。

 

 一応だが、ここまでがタラゴンさんが考えた作戦だ。


「それは……彼女は助かるんですか?」

 

 タラゴンさんの説明が終わるまで黙っていたマリンが震える声で、タラゴンさんに問いかける。

 それを、握り締めた拳が答えだというように、タラゴンさんは無言で返す。


「私では駄目なんですか? これでもB級位は、1人で倒せます!」


 心配してくれるのは分かるが、相手が悪すぎる。迎撃用で現れる魔物がB級やA級以上で、その数は数えるのも馬鹿らしくなるそうだ。

 俺も、タラゴンさんもそうだが、他人を気にして戦える相手ではない。まだ1人の方が戦いやすいだろう。


 

「彼女はシミュレーションとは言え、私に重傷を負わせる程の実力があるわ。あなたもそうだけど、他の2人ではM・D・Wを倒すのは不可能よ」


 マリンは悔しがるように俯くが、他の2人は、自分達が助かるのならばとか、ぼそぼそと相談をしている。

 今回に限ってはそれ位図々しい方が、個人的には嬉しんだけどな。


(マリンとタラゴンさんの雰囲気がかなり悪いんだが、どうしましょう?)


『マリン的には命の恩人を~とかあるんだろうけど、タラゴン側にも魔法少女としての、秩序とか色々あるからね~。ここはハルナが収めるしかないよ』

 

(使えない妖精だな~)


 ここは社会人人生で培った話術の出番だな。

 

「これは私が与えられた仕事任務です。仕事位はしっかりとこなして見せます」


『う~ん。大人としては良い答えだけど、今のハルナは少女なんだよな~』


(あっ)


 マリンから、タックルみたいな抱擁をされ、そのまま泣かれてしまった。

 俺だって死ぬ気はないけどさ? 一生の別れのような反応をされると困る。


「私なら大丈夫です。あなたはあなたの仕事をお願いします」


 何とかマリンを引っぺがして、落ち着かせる。俺が頑張ってM・D・Wを倒しても、他の3人が一般人を守れなかったら意味がない。

 他の2人は信用ならんがマリンには頑張ってもらい、仕事をしっかりとこなして欲しい。


「作戦開始は30分後よ。それまでは各自、周囲警戒をしながら休みなさい」

 

 30分か……。相手の事を考えると微妙だが、流石に休みなしで戦うよりはマシだな。


 そこら辺の瓦礫に、横になって休むか。


 作戦会議した場所から少しだけ離れた場所に、丁度良い瓦礫が有ったので、杖を枕代わりにして横になる。


(蜘蛛と戦い、タラゴンさんと戦い。今度はマザーM・ディザスターD・・ウォールWか……前も言ったけど、俺新人魔法少女なんだけどな)


『アクマ的には面白いから良いけど、今回のはちょっと洒落にならないからね。私も出来る限りはサポートするよ』


 何か良い魔法が思いつけば良いけど、あれだけの大きさの敵となると、先ずは時間が必要だからな~。何はともあれ、アクマが居てくれるのは、少しだけだがありがたい。

 

(それは嬉しいね。最後になるかもしれないから聞くけど、アクマって名前には意味があるのか?)


『う~ん意味はあるけど、内緒かな。ヒントは番号かな』


 番号? パッと出てくるのは6とか13だとかだけど、何か違う気がするな……。少しだけ気になってただけだし、考えるのは止めておこう。


 休んでるついでに、現状を確認しておこう。

 

 魔力残量は体感で6割程。これまでの戦闘もそうだが、自分や他人の治療で結構使ってしまった。

 ローブはかなりぼろぼろだ。白というよりは、の方が目立っている。ついでに靴もない。


 今回の作戦は大雑把に纏めると、タラゴンさんによる超高速輸送で運ばれ、途中でミサイルが如く発射。迎撃用の魔物を倒しながら、本体を破壊。最後の爆発は自力で解決する。


 纏めればシンプルだが、問題が多い。俺単身になった後の接敵方法や、大量の魔物の討伐方法。最後にM・D・Wの破壊方法と爆発の防御方法。


 正直魔力が持つとは思えない。今の100倍位魔力があれば、爆発に爆発をぶつけて、対消滅を狙えるかもしれないが、今の状態では無理だろう。


 こんな時こそ覚醒や強化等が有れば良いが、現実は常に非情だ。も、欲しい時には無いのだ。


 軽く世の中の非情さを愚痴っていると、足音が近づいてくる。


 薄目を開けて横を見ると、そこには魔法少女マリンが立って居た。

 先ほど泣いていたせいか、目元は腫れており、今にもまた泣き出しそうだ。

 そんなマリンが、俺に聞いてくる。


「あなたはこれで良いの?」

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