魔法少女補導される

(こちらハルナ。応援を求む)


『こちらアクマ。無理だ、あきらメロン』


 メロンは嫌いなんだよな……。


 平日の昼間に体力作りの為、ランニングをしてたのが恐らく、今回のミスだろう。

 いや、最初の1週間は問題なくやれていたので、気が抜けていたのかもしれない。


「君。学校は? 親御さんは近くに居ないのかな?」


 何時もより長めに走り、自販機で飲み物を買って飲んでたら、警官に捕まるとは思わなかったよ……。


 職務質問職質なら何度かあるけどさ~。

 兎に角、このままでは補導されてしまう。


『魔法少女やってるって言えば大体どうにかなるけど、身分証明させられるから駄目だよー』


「学校は行ってないです。家は……無いです」


 とりあえず、時間を稼ごう。逃げ出すテレポート出来る隙が出来れば、何とかなる。


 警官は困ったように頭をかき、連絡用の端末を取り出す。このままでは戸籍が無いことがバレてしまう。


(アクマさん? に戻してもらえませんか?)


『契約履行以外での対応はお断りしています。ハルナが男に戻るなら、貴方を殺して私も死にます』


 姿が見えずとも、アクマが笑顔でサムズアップしてる姿が浮かんでくる。本当に、こいつは何時でも楽しそうだな……。


 一旦捕まって、トイレとかから逃げるしかないかな。

 諦めて、爽やかな風が吹く空を見上げると、警報が周囲に鳴り響く。

 目の前で連絡を入れてた警官も、警報の意味を理解しているのか、キリッとした真面目な顔になる。


 妖精界から提供された技術の1つ。対魔物災害緊急速報魔物速報


 これがなければ、魔物の事前対策が出来ないので、人類の復興はかなり遅れていただろう。


 だが、何時もなら魔物速報より先にアクマが知らせてくれるのだが、今回はどうしたんだ?


『あっ、今はオフだし、エゴサしてて、気付かなかった』


 最初は意味ありげな強キャラポジだと思ってたけど、こいつ結構ポンコツだな。


「君! 避難するから付いてきなさい!」


 連絡を終えた警官が、焦ったように俺の手を掴み、パトカーに連れていく。まあ、しゃあないか。魔物にはただの警官では、役に立たないからな。


『ここで悪いお知らせです。出現予定の魔物のランクはS級となり、本日の待機ランカー上位魔法少女はタラゴンとなります』


 ハリー! 警官のおっさん! 早く俺を連れてってくれ!


 あれ模擬戦から2日しか経ってないのに、フラグの回収が早すぎる。


 あの後、タラゴンさんとの戦いの動画を見たが、自分の事ながら吐きそうになってしまった。

 やはり、冷静に分析出来る状態と、ハイになってる状態では、感じ方が違った。

 腕とか足が爆散するのって、結構インパクトがあったよ……。

 

 パトカーの後部座席に座り、早くシェルター避難所に着くのを祈る。

 ながく景色に安堵していると、世界が塗り変わるように形を変えていく。


『ここで更に悪いお知らせです。魔物は特殊個体で結界を扱うみたいだね。北関東支部の魔法少女3人と、タラゴンと私達を含めた一般人数十名が、結界に閉じ込められたね』


「本部! 本部応答してくれ! 糞! 何が起きてるんだ!」


 魔物が展開した結界も、妖精の結界と同じく、電波が届かないみたいだな。急に景色が変わって連絡も取れなくなれば慌ててしまう。


 運が悪いことに、魔物の結界の中は荒れ果てており、パトカーを走らせようにも瓦礫が邪魔で、走らせることが出来なくなってしまった。


 警官と共に外に出て周りを見るが、今のところ戦闘音等はない。

 

「君、何があっても私が守るから安心してくれ」


 警官は青白い顔で俺を励ましてくれるが、先ずは落ち着けと言いたい。

 警官なら、魔物の知識も一般人以上にはあるのだろう。ここが結界の中だと分かってしまったからこその、絶望感があるのだろうか?


 一般人が結界に巻き込まれたら、相当運が良くないと生きて帰れないからな。

 

(どうすっかねー? タラゴンさん1人じゃないから、広範囲攻撃はないだろうけど、万が一があるからな)


『私の方の怠慢もあるし、最悪は変身しても良いよ?』


 魔法少女がやられるのは致し方無い事でもあるが、一般人を巻き込むのはいただけない。

 魔法少女は世界に必要だ。だが、一般人も必要だ。


 陳腐な正義を振りかざすつもりは無いが、助けられるなら、助けるのが道理だろう。まあ、負けそうになったら逃げるけど。


(周囲はどうなってる?)


『結界自体が結構広いのと、魔物の結界を覆うように妖精側の結界が展開されてるせいで、感知の精度が悪いね。解析してるから暫しお待ちを』


 このままタラゴンさん辺りがってくれれば助かるのだが、俺の糞運だと、何かしら問題が起きるんだろうな。


 忙しなく周囲を警戒してる警官を尻目に、パトカーに背を預けて座る。

 晴れてた空も淀んでしまい、先が思いやられる。


 何で俺、魔法少女やってんだろ……ああ、魔法少女に殺されかけたからだったな。実質殺されたけど。


 こんな時は珈琲でも飲んで……。

 

 周囲に魔力の歪みを感じると、パトカーに何かがぶつかり、その何かと共にパトカーが吹き飛んだ。

 パトカーに寄っかかっていた俺は、地面に倒れてしまったせいで、地味に背中が痛い。

 

『今の歪みで分かったけど、この結界は多重結界だね。周りに反応はあるのに、音や熱源を感じないから可笑しいと思ったよ』


(つまりどういう事だ?)


『最低、結界の数と同じ量の魔物が居るし、結界のせいで逃げるに逃げれない。しかも大本を倒すだけだと、大変なことになるね』


 纏めると、S級のみを倒せば、魔物の結界は無くなるが、妖精の結界が残るため、大量の魔物を一般人を守りながら戦わないといけなくなると。


 時間制限はタラゴンさんがS級を倒すまでに、俺や他の3人がS級の眷属みたいな奴らを倒さないといけないってことか?



(無理ゲー過ぎない?)


『ついでに、さっき吹き飛んできたのは魔法少女みたいだね。魔物もその歪みからもう直ぐ現れるよ』


 既に1人倒されてるとは、本当に運がないな。


 警官が震える手で拳銃を構え、歪みからゆっくりと姿を現す魔物に発砲する。

 

「早く逃げなさい! 俺が少しでも時間を稼ぐから!」


 そんな決意をした目で俺を見ないでくれよ。今の俺は少女かも知れないが、今の時代はその少女の方が強かったりするもんだ。

  

(仕方ないが、いっちょ頑張るかな)


 拳銃を射ち終え、リロードしている警官の前に立つ。警官は前に出てきた俺に驚いているが、俺だって逆の立場なら驚くだろう。


「先程吹き飛んできた魔法少女を助けといて下さい。魔物は私が対処します」

 

『良いね~。不都合もあるけど、こんな展開は嫌いじゃないよ』


(馬鹿言ってないで、さっさとやるぞ)


『初めての人前での変身だし、派手にやりましょうか! さあ、の魔法少女よ。覚悟は良いかい?』


「(そんなもの、俺には無いさ。)変身」


 風が舞い、光に包まれると同時に、白いローブ姿に変わる。勿論フードを被るのは忘れない。

 眼前に出現する杖を右手で掴み、くるりと回してから地面に突き刺す。

 魔法少女イニーフリューリング。ただいま推参ってな。


 後10秒もすれば、魔物は完全に此方に来るだろう。下手に歪みごと葬ると、何が起こるか分からないし、今は待つしかない。だが、準備は出来る。

 

「さあ、向こうはお願いします」


「君は……。分かった、この場は任せるから、魔法少女向こうは任せてくれ」


 直ぐに警官は駆け出していき、一息付く。


(今回のオーダー契約は?)


『全一般人の生存。並びにS級討伐がされる前に、前哨戦を全て終わらせること。魔物はA級12体以上と、B級以下も多数居ると思っといてね』


 毎度無茶を言ってくれるが、多少やる気が出てくる。

 派手であり、範囲の広くない魔法か……。

 

土よ。柱となれアースピラー


 魔物が殆ど出かかっている歪みを、6本の柱で囲みそれを起点として、六芒星魔法陣を描く。そして魔物が完全に出てくると同時に、派手にブチかます。


 前回と同じく、この六芒星魔法陣は、被害防止と魔法の補助用である。

 

焔光よ。サン眼前の敵を滅ぼせ・レイ


 上空から、少々煩い音と共に熱線が降り注ぎ、魔物を焼き尽くす。相手は再生型っぽいので、丁度いい魔法となった。

 熱は六芒星によりカット出来たが、結構な風が吹いてくる。


『地面が融解しちゃってるねー』


 魔物はオーバーキル確キルが一番だからな。今回はまだまだ敵も居るし、速度重視だ。


 魔物を倒した事により、周りが廃墟から草原に変わる。倒せば次のステージへ。負ければゲームオーバーとは、楽しい世界だな。


「あの魔物を一撃とは……凄いものだな」


 俺としては、あんな化け物魔物に、一般人でありながら挑んだ、警官の方が凄いと思うけどな。それが、ただの意地だったとしても。


「その子をこちらへ」


 警官が背負ってきた、魔法少女を治すために、降ろしてもらう。だが、その姿を見ると、どうしても黒い感情が渦巻いてしまう。


 俺を殺した魔法少女の片割れ、魔法少女スターネイル。

 復讐をしたいとかではないが、見ているだけで不愉快になる。


『ステイ! ステイだよハルナ。感情が高まると大変だよ』


(分かってるさ。優先順位を間違える気は無い)

 

 今は1人でも多い手が必要なので、涙を吞んで我慢しよう。


 怪我は腕の骨折位で、出血を伴う怪我はなさそうだな。


さっさと治れヒール


 全く、回復魔法が使えて良かった。なかったら、全てを俺1人でやらなければ、ならなかっただろう。

 骨折も無事に治ったし、起きるまでは警官に任せよう。


「移動しますので、その子を背負って付いて来て下さい」

 

 これからは時間との勝負だ。タラゴンさんと残りの2人がどうなってるかも分からないし、一般人も早く助けなければならない。


 警官は頷くだけで、何も言わずに魔法少女を背負う。

 下手に反論しないで、察してくれるのはありがたい。

 ここに留まる意味もないし、風景が変わったことの意味が分かってるのだろう。


「どこに向かうんだ?」


(どっち行けばいいの?)


『折角かっこよかったのに、締まらないな~。そのまま真っすぐで良いよ。此処の反応は魔物が2匹と、恐らく人が2人かな』


「真っすぐ進みます。此処には魔物と人が、居るみたいです」


 索敵はアクマに任せるのが一番だからな。俺が索敵したくても、索敵は補助魔法になるので、威力が弱まってしまう。


 

 広い草原とはいえ、それなりの木が立っているので、視界が良いとは言えない。俺1人で動くことができれば良いのだが、警官を1人にする事はできない。


『レーダーに感有り。1キロ先に人が居るね。幸い魔物には、襲われてないみたいだよ』


(それなら良かった。念のため、少し急ぐとするか)


『待ってハルナ! 目の前に魔力の歪みが!』


 何で少しでも気を抜くと、問題が起こるのかなー!

 人を囮に、魔法少女が来るのを待ってたのかな!?

 

「離れて下さい! 魔物です」


「くっ! 分かった!」


 警官は直ぐに離れてくれたが、俺の方は準備が出来ていない。

 先程みたいに、準備はさせてはくれなそうだ。


『A級が2体。片方は魔法が効き辛いから注意だよ』


(了解だ!)


 威勢よく返事をしたが、先手を取られてしまう。

 魔物の片方は狼型で見たまんまの接近タイプ。

 もう片方はエルフっぽい感じの人型で、魔法を使う遠距離タイプ。


 しかも無駄にコンビネーションが良い……。

 時間をかければ、競り勝つ事が出来るだろうが、時間が惜しい。


 魔法には魔法で反撃し、狼の爪や嚙みつきは気合で避ける。

 一発でも食らえば、その時点でかなり劣勢になってしまう。


『力はつかないけど、体力は多少ついてて良かったね』


(本当にな! ああ、こいつら息が合いすぎだろ!)


 反撃のタイミングを掴みたいが、中々上手くいかない。

 それどころか、体力的にこっちが不利になってしまう。


 こちらが魔法を唱えればエルフが魔法を唱えるし、大技を準備したくても狼が邪魔をする。

 

 最悪の場合、弱めの始まりを告げる音ビッグバンで自爆だが、その前に何時もの絡め手だ。


 反撃。避けて、往なして……おりゃ!。


 往なすために使っていた杖を、嚙みつく為に口を開けた狼に突き刺し、距離を取る。

 杖がないと魔法の威力が弱くなるが、手札はちゃんとある。


 兎に角、怯んでいる今が勝負所だ。


飛び出ろ魔力クエイクショット


 エルフの足元を物質化した魔力で弾き、体勢を崩させる。

 その隙に狼に突き刺さってる杖に手を当てる。


砕け散れブレイク!」 


 杖に魔力を込めて、狼を爆発させる。杖が固くなかったら噛み砕かれていたが、何とかなって良かった。


 残りは邪魔くさいエルフだけだが、タイマンの魔法勝負で俺が負けるはずがない。


砕け。吹き飛べ。アイスデッド凍えて眠れトルネード


 エルフは抵抗を見せるも、瞬く間に塵に変わる。

 A級と呼ばれる程の強さを感じないが、何かあるのか?

 

『反応は確かにA級なのに、何か変だね?』


 スターネイルを倒した魔物も正直、妙な感じがあったが、これはキナ臭くなってきたな。

 気になることはあるが、今は人命救助が先だ。ここはどうにかなったが、他がどうなるかは分からない。


『傷は浅いけど、結構あるから、合流する前に回復しといてね』


ホイホイリジェネ


 念のため、魔力消費が少ない奴で回復しておこう。先は長いからな。


 さてと、オーダー契約の為に頑張るか。

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