魔法少女達の食事会
「この馬鹿が、本当に失礼しました!」
怠い身体で待機室に入ると、楓さんが正座しているタラゴンさんの頭を掴み、床に叩きつけるのを目撃する。
「ヘぶし!」、とタラゴンさんが声を上げるが、楓さんは無視をしている。
(どういった状況なんですかねこれ?)
『多分だけど、戦闘中結構酷い事になってたでしょ? それじゃないかな?』
(やりすぎたから謝ってると?)
『大の大人が、子供相手にやるには過激だったからね』
デスマッチとは言え手足を合わせて5回吹き飛ばされたし、最後なんて脚吹き飛んだままだったもんなー。
戦ってる時はハイになってたけど、今思うとただのスプラッター劇だったもん。
「私が望んで戦ったので、大丈夫ですよ」
痛くて辛いのも確かにあったが、普段使えない魔法が使えたので割と満足している。
まあ、タラゴンさんとは二度と戦いたくないけど。
「この救いようのない馬鹿にはきつく言っておく。それよりも大丈夫か?」
「身体が重いですが、それ以外は大丈夫です。本当に
あくまで
タラゴンさん程の敵が来たとしても、理由が無いなら
しかしあそこまでやってタラゴンさんを倒せないのは悔しい。せめて相討ちに持ち込めたらこの疲れも、違って感じられただろうに。
ついでに神撃は天撃に格下げだ。
アクマとの
「今回の件は、この馬鹿が何かしらの形で補填します。良ければ連絡先を教えてもらえませんか?」
個人的には彼女達と仲良くする気はあまり無いんだが……。
(どうする?)
『
アクマがエゴサするために作った奴か。まあ、それなら良いか。
「ツナガッタ-のアカウントで良いですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。IDは……ありがとうございます。後で連絡を入れますね」
楓さんだけではなく、他の3人共アカウントを教え合い、やっと解放される。
これで当初の目的の大半は大体終わったな。
『リンド』を実際に見られたのは良かったが、その後が酷かった。触らぬ魔法少女に祟りなしだな。
「それでは失礼します」
ペコリと頭を下げて、シミュレーターを後にする。このまま帰っても良いが、折角だし何か食べて帰るかな。
(何かオススメの料理屋とかある?)
『ハルナが今行ける範囲だと、何も知らないんだよね。来る時に使ったテレポーターで一般商業区画に行けるから取り合えず行ってみない?』
何も知らないなら仕方ないか……。適当にぶらついて、目に付いた場所に入るのも乙だろう。
妖精界なんてファンタジーな場所の癖に、やけに機械的なテレポーターを使って一般商業区画に向かう。
ここは魔法少女や、関係者が買い物や飲食を出来る場所となっており、かなり広い範囲が割り振られている。
日本だけではなく、
言語も
テレポーターから出て、当てもなくブラブラとするが、ここで1つ問題が起きる。
『思っていた以上に見られてるねー』
フードを深く被ってる小柄な奴が歩いていれば、誰だって気になるだろう。
まあ、一番はこの白いローブのせいかもしれないがな。
そう言えば、
フードを被った程度では、目は隠れても口元や顔の輪郭を隠す事は普通出来ない。
こんな時はアクマに聞くのが一番だな。
(このフード被ってる時って俺の顔は見えないのか?)
『私の魔法でって言いたい所だけど、それはフードの能力みたいだね。元々変身中と変身前って魔力のせいで、変わって見えているから、それと似た感じかな』
(成程。フードを被ってる限りは、顔を見られる心配がないってのは分かった。仮にフードを取っても、この視線は変わらない気がするけどな)
仕方ないが、適当に食ってさっさと帰るか。
「イニーフリューリング?」
あっちらこっちら見ていると、どこかで聞いた事がある様な声がしたので振り返る。
そこには、何処かで見たような黒髪の少女が居た。
背筋がしっかりと伸びた姿勢は、大和撫子のように凛としている。こんな和風美少女はそうそう忘れないとは思うが……。
(誰だっけ?)
『結界で蜘蛛の魔物から助けた魔法少女だよ』
ああ、
「そうです。ご無沙汰しています」
アクマが居なければ思い出す事が出来なかったが、言わなければバレることはない。
「この前は助かったわ、本当にありがとうね。今日はどうしたのかしら?」
この時、俺は閃いた。道に迷ったら人に聞こう、と同じように。美味しい物を食べられる場所を聞けば良い。
「お茶会に呼ばれた帰りなのですが、何処か美味しい物が食べられる場所を知りませんか?」
「お茶会って、あのお茶会!」
黒髪の少女が驚きで大声を出し、見守る程度だった周りの人が聞き耳を立てるように近づき始める。
驚くのは分かるが、もう少し周りに聞こえない様に、してほしかった。
「あっ、ごめんなさいね。良い場所を知っているけど、良かったら奢らせてもらえないかしら? この前のお礼だと思ってね」
場所だけ教えてもらえれば良いのだが、う~ん。
『折角だし、一緒にご飯食べて上げれば? 普通の魔法少女を知る良い機会かも知れないよ?』
俺と関わりのあった魔法少女でまともなのって、楓さんとグリントさんとブレードさんだけだからな。
後は事故とはいえ俺を殺した2人と、魔物から助けたら邪魔されて、腕を犠牲にする事になった1人、結界内で蜘蛛の魔物から助けた
そして先程まで
最低でも四肢欠損レベルで酷い目に遭ってるんだよな~。
何で精神崩壊しないんでしょうね? 我ながら不思議だ。
とりあえず、この子が普通な事を祈ろう。
あっ、ちゃんと思いだしたぞ。この子は北関東支部の子だ。
「良いですよ。案内お願いします」
「ありがとうございます。 あっ、自己紹介がまだでしたね。私は北関東支部所属のマリンと申しますわ。人目も引いてますし、先ずはお店に向かいましょう」
俺の名前が出た辺りから「やっぱりあの子が」とか「あれが噂の」とか、騒がしくなり始めたからな。あっ、盗撮は止めなさい。それは犯罪だぞ!
集まり始めた人から逃げる様に歩き出すが、身長が低く、
『少女に手を引かれる26歳男性の構図。うける!』
(俺は泣きたくなってるよ)
何が悲しくて、少女に手を引かれなければ、ならんのだ。
男だった頃が懐かしい。どちらかと言えば、少女の手を引けば捕まる側だったが、今よりは悲しい気持ちにならなかったろう。
「ありがとうございます」
「良いのよ。あの時は私が世話になったんだから」
北関東支部の良心と言われているだけはあるな。
残りの2人は出来れば会いたくないが、この子は別に良い。
そのまま数分程歩くと、古風な喫茶店が見えてきた。古ぼけた看板には『沼沼』と書かれているが、パッと見は美味しそうな店には見えない。大丈夫だろうか?
「こんな見た目だけど、色々と食べられるし、美味しいのよ」
店の中は全て個室になっており、個人的にはありがたい。
空いてる場所に案内してもらい、席に座る。
『少女に手を引かれ個室に連れ込まれる
(気にするな。俺は気にしない)
あるいは諦めたとも言う。スーパーでの買い出しも、結構な確率で問題が起こるし、おちおち買い物も出来ないからな。その程度の誹謗中傷は痛くも痒くもない。
「やっと落ち着く事が出来たわね。そのフードは脱がないの?」
(どうする? ここなら他の眼もないし、食べるなら脱いでおきたい)
『ハルナが良いなら、別に良いよ? ここから出る時さえ、気を付ければ』
フードを取ると、お茶会の時のように驚いた顔で見られる。理由を聞きたいが、どう聞けば良いんだ?
「えっと、これメニューになるんだけど、なに食べる? オススメはこの『上毛三山セット』かな」
ふむふむ、なんともにっちな名前のセットだなー。
うどんとそばが半分と、丼ものを1つ選べるのか。自分が払うわけではないけど、リーズナブルな価格なのに、わりとボリュームがある。
「ではオススメで、丼は海鮮丼でお願いします」
「分かったわ。オススメ2つと、海鮮丼とソースカツ丼で……よし」
マリンは席に備え付けられているパネルを慣れた操作でタッチし、注文を終わらせる。
「そう言えば、1ヶ月程前に妙義山辺りで、氷の魔法で魔物討伐とかしなかったかしら?」
もしかして初めて魔物の討伐をしたときの事かな? あの時は魔法使ったら、勝手に消えると思ってたので、気にしてなかったんだよな……。
まさか、自分の意思でコントロールしないと、込めた魔力が無くなるまで消えないとは思わなかったよ。
仕様はちゃんと説明してほしかったよ……。いや、誰も説明してくれる人なんて、いないんだけどさ。
「恐らく私だと思います」
「やっぱり。咎める訳じゃないけど、気を付けなさいよ。最近あなたに魔物を横取りされたって、他の魔法少女が結構騒いでるから」
そこら辺はエゴサしてる、アクマから話を聞いてるからな。さっきの
「分かりました。忠告ありがとうございます」
「最近は変な子も増えてるからね。あなたなら大丈夫だと思うけど、何があるか分からないから」
流れ弾で
その後も、この歳の少女がしないような話を聞く。北関東支部の2人が戻って来てから、喧嘩はしなくなったものの、不調で困ってるとか。
(この子も苦労してるな)
『その原因の一部がハルナにもあるけどね』
まあ、助けなければ苦労することもなかったがな。
俺が魔法少女として活動を始めてからも、5人程魔物に殺されたとニュースで見た。その他にも、世間で公表されていないようなものもあるだろう。
だから助けたいとか、代わりになんて事を考えられるほど俺は善良ではない。先ずは自分が死なない事だ。死んだら
愚痴を聞いていたら、頼んだ『上毛三山セット』が届く。妖精界で海鮮丼はどうかと思ったが、新鮮でおいしい。うどんはコシがあるし、そばも良いのどごしだ。マリンが言ってた通り店の見た目は気になるが、とても美味しい。
「……あなた、食べるの遅いわね」
俺がやっと半分を食べ終えた位で、マリンは食後のお茶を飲んでいる。
黙々と食べ続けてやっと完食すると、お茶を飲んでいたマリンがこっちをジッと見ているのに気づき、首を傾げる。
「あなた、学校には通っているの?」
(あー、どうする?)
『見た目を考えれば、学校に通ってる見た目だもんね。それ関係で警察に声掛けられてたし。適当に答えても面倒だから正直に答えれば?』
まあ、首を横に振っとけば良いだろ。そして何でそんな悲しそうな顔をするのかね~?
あっ、お茶美味しい。
「そう。良かったら連絡先交換しない? 何かあったら相談に乗るわよ」
美味しいお店も教えて貰ったし、
マリンなら悪用とかもしないだろうし、何か困ったことがあったら相談することもできる。
楓さん達に気軽に連絡を取るのは憚られるし、マリンなら安心出来る。折角だし、これからは先輩とでも呼んでおこうかな?
「あなたの連絡先って
IDを教える時に見せた画面をチラ見したマリンが。悲しそうにボソッと呟く。
まだ魔法少女歴1カ月の新人で、野良で中身が男なんだから、知り合いが居るはずないんだよ。
そもそも増やす気も無いけど、そんな風に見られると精神的なダメージがある。
「さてと、ご飯も食べたし、私は帰るわね。何かあったらすぐ連絡入れるのよ?」
「分かりました先輩」
別れ際に折角なのでマリンを先輩呼びをすると、ダメージを受けたかのように胸を抑えた。
『これが天然のタラシか……』
(いや、本当になんでだよ)
そんな感じで別れ際も一波乱あったが、何とか家に帰ってくることが出来た。
飯も美味いし、あれだけ
(どうするかなー?)
『そんなあなたに裏技です!
あー、確かにあっちなら顔も割れてないし、力も人並み以上だから良いな。
(魔法少女としての登録はどうなるんだ? イニーフリューリングのままだと困るぞ)
『
行き帰りは第二形態で、シミュレーションする時は第一形態に戻れば問題無いと。
(とりあえず、沼沼に行きたくなったらまた考えよう)
次は沼田スペシャルってのを食べてみたいな。妙な群馬押しが気になる店であるが、味は本物だろう。
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