第5話 繰り返す覚悟
意味が分からなかった。さっきまで僕は天使たちの仕事を見ていて、サエルとヘルエルと話していたはずだった。
ところが名前を言ったら元の場所に戻っていて、隣には血だらけのサエルがいた。
「おい‼︎大丈夫か⁉︎」
何かしないとまずい、だが止血しようにも服がない、身に纏ってる衣類のような物は切ったり取ったりする事ができない。
だがここで大河は考える。自分は既に人間ではないイレギュラーな存在。
それなら魔法の一つや二つ使えてもおかしくないのではないか?
必死に祈る、それしか出来ない自分に苛立ちを隠せないが、それでも大河は祈り続ける。
脳に声が届く、天使になるのか?お前はまたも同じ事を繰り返すのか?見返り何一つない、お礼すらも言われない、そんな自分の首を絞める行為を死んでも続けるのか?
俺だってやりたくない、だけど…それで人1人が助かるなら‼︎
「天使になってやるよ馬鹿野郎が‼︎」
その瞬間大河の背中に2つの羽が生えた、そして頭には輪ができた。天使になったのだ。
手をサエルの方に向けると光のようなものがでて、それを彼女を包んだ。
みるみる傷は消えていき、最初から傷なんてなかったかのように彼女の体は変化した。
「天使に…なったんですね。すみません。無理矢理ならせる形になってしまって。」
「もういいよ、ここでお前を見捨てて別の道を選べない時点で俺は天使にしかなれないんだよ。」
「それで?何があった、何をした」
大河は聞きたい事が山ほどあった。なぜか白くなった髪も黒色に戻っていた。
「貴方が天界のタブーを犯したのでなかった事にしたんです。」
「タブーだと?そんな事をした覚えはない。」
何かやってしまったのだろうか、ただ話していただけだが。
「これは私のミスです。なんせ、人間が天界に訪れるのは実に160年ぶりです。天界に人間が来た時、下界で使ってた名前を言うのはダメなんです。」
「それで、俺はどうなったんだ?」
「死にました。」
「だが俺は生きてるぞ?むしろお前が死にかけだったじゃないか。」
「その理由を説明するには、天使について詳しい話をしないといけませんね。」
どうやら俺が知らない天使の何かがあるらしい。だがその前に決めるべき事がある。
「その前に俺の名前を決めてくれ。」
これから先また名前を言って殺されるのはごめんだ。早く名前を決めなくては。
「そうですね、そうしたいのですが、天使の名前を授けれるのは天使の中で最も位の高いお方。セラフィム様にしかできません。」
セラフィム…聞いたことはある。上位3隊の1人だったか。だが、奴は神に反逆してルシファーになったのでは?そこはまた別の話なのか。
「セラフィム様にはどうやって会えるんだ?」
「分かりません。私も会ったのは一度だけです。まぁそういう事なので名前は授けれないです。これから名を聞かれた際は名前はないと言ってください。」
「分かった。それじゃあ天使についての話を聞かせてくれ。」
「分かりました。天使についてとあの時なぜ生き残れたのか話しますね。」
サエルの話をまとめるとこうだ。
•天使にもステータスが存在し、主に体力、聖力、魔力、精神力の4つがあるらしい。体力と魔力は人間とは比べ物にならないくらいにあるらしい。ただ、天使は戦わない事が多いのでほとんどステータスは飾りらしい。
•天使には序列があり、その中でサエルは中位くらいのポジションで俺は最底辺らしい。そのポジションは高ければ高いほど神直属の部下になれたり、一つの部署を担えるようになるらしい。て事はサエルはやっぱ凄いのか、やるなこいつ。
そしてこれが1番重要だった話だ。
「天使については分かったが、なぜ俺は生き残れた。」
「天使には恩寵が何かしら一つ授かります。私の場合は『戻すモノ』時を戻せます。」
ここでようやく理解した。あの時俺が死ななかったのはサエルが時を戻したからだった。
「時を戻したのになぜお前は怪我をしてたんだ?攻撃の対象外だったお前が怪我をしてるのはおかしいだろ。」
「そんな都合のいい恩寵なら今頃私は上位天使の一員でしょうね。私の恩寵は時を戻す際、戻さなかった場合に起きる事の被害を受け持つんです。私が死にかけだったのは本来貴方が死ぬ予定だったのを受け持ったからですね。」
「もし俺が天使にならずにお前を無視してたらお前は死んでたのか?」
「はい‼︎間違いなく死んでましたね。激痛も激痛、まったく、ヘルエルも手加減を知りませんね。」
こいつマジか。そんな賭けをするなんて。
「お前、頭おかしいよ。」
「貴方なら天使になってくれると言う勘があったので。女の勘を舐めたらいけませんよ」
何はどうであれこいつは俺を守ってくれたんだな。
「サエル」
「なんですか?」
「ありがとな。」
「どういたしまして。」
そう言って笑うサエルの顔はまさしく天使と呼ぶにふさわしい、可愛い笑顔だった。
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