天使と悪魔〜人間のお悩み相談室〜

水野・J・タロー

第1話 悪魔と天使

「次の方どうぞ!」


先程の人間の資料をまとめながら優しく声をかける、そしてまた一人の人間がやってくる。ここは「選択の間」、悩める人間たちが天使と悪魔のいるこの場に集う。


「お名前、年齢、性別、悩みをお願いします。」


「柿沼光雄、23歳、男性、今勤めている会社を辞めようか悩んでいます。お二人の意見を頂戴しに来ました。」



猫背で縁の細いメガネとアイロンも掛けられていないスーツを着用している彼は、天使と悪魔が待ち構えていることに戸惑いを感じた。彼は自分の自己紹介を済ませると、天使と悪魔はまずは、更に詳細に彼の悩みを聞き出そうとした。


「ええっと…私は今勤めている会社は誰しもがいう“ブラック企業”で、初めは“会社ってこんな感じだよなぁ”って自分なりに割り切っていたのですが、日に日に増えていく残業と上司からの叱責、挙げ句の果てには増えない給料と、将来のことや生活のことを考えると、不安で…不安で…」



話していくに連れて段々と言葉が詰まっていく彼に対して、天使は考え、深呼吸を行い、彼のことを見つめながら提案した。



「柿沼さん、私はあなたに自分が思う最善の選択肢を提案します。あなたは今の仕事に不満を感じているようですね。その不満が将来的にも解消されないと思われるのであれば、新しい職場を探すことが必要です。しかし、すぐに辞める前に、新しい職場を見つけるための計画を立てることが大切です。転職活動をする前に、自分がやりたいことや興味があることを洗い出し、それに合わせて転職先を探すことが重要です。柿沼さんは何か興味があるものはありますか?」


「私は、シナリオを書きたい考えています。昔からアニメやゲームを見て、「「いつかみんなが楽しんでプレイするような設定や展開を書いてみたい」」と!」



話していくに連れて先程よりも逆に目を輝かせながら話してくる彼に、悪魔はため息を漏らしながら悪魔なりの選択を提案した。


「シナリオを書きたいというのは、素晴らしい夢だ。しかし、現実的に考えてみろよ!その夢を実現するためには多くの時間や労力が必要になる。残業なんて屁とも思わないかもな。また、シナリオライターとして成功するためには、競争が激しい世界で自分自身をアピールすることが必要になる。そんな環境でお前は生き残ることができるのか?そう思うと会社を辞めたいことなんて思わなくなるだろう?」


「ちょっといくらなんでも言い過ぎじゃない?」



悪魔が言葉を続ける前に、天使が彼に話を振り替える。



「柿沼さん、私たちはどちらもあなたの人生を応援しているつもりです。ただ、私が言うように、夢を追うことは決して簡単ではありません。でも、悪魔が言うように、現実を直視せずにいつまでも夢ばかり追っていても、その夢は実現しません。」



柿沼さんは天使の言葉に一理あったのか小さく頷いた。確かに、夢を追うことは簡単ではないし、会社を辞めたところで、シナリオライターとして成功する保証はない。



「で…でも、それでも私は夢を追いたいんです。自分が書いた作品が、誰かの心に残ることができたら、それだけで私は幸せだと思います。」



天使はにっこりと笑みを浮かべて、



「そうですね、それは素晴らしい夢です。でも、夢を追うと決めたら、そのために努力することも必要です。会社を辞めることが正しい選択かどうかは、あなた自身が決めることです。でも、後悔しないように、よく考えてから行動することが大切です。」



柿沼さんは天使の言葉に深く頷き、清々しい顔つきでその場を去っていった。



「あ〜あ、最後はお前が全部持っていきやがって…」



悪魔は不満そうに天使のことを見つめ、それに天使は微笑みながら、悪魔に向かって言葉を返した。



「あなたも、柿沼さんの選択を尊重するようにしないとね。彼が自分自身の人生を決めることは、彼自身の自由です。私たちは彼を助けることができますが、最終的な決断は彼に委ねられています。」



悪魔はため息をついて、天使に向き直りました。



「そうだな。私たちはあくまでもアドバイスをするだけで、決断は人間自身が下すものだ。でも、私たちが彼にできることは、彼が幸せになるための道を指し示すことだけだろう。」



天使はうなずきました。



「そうですね。彼が幸せになるためには、自分自身が望む選択をすることが大切です。私たちは、彼が自分自身と向き合い、自分自身の心の声を聴くことを望んでるのですから。」


「はぁ〜…とりあえず休もう?、お腹ペコペコ…」


悪魔は天使に見せるようにお腹に手をあてて、天使は微笑みながら悪魔に言いました。「そうですね、お腹が空いたので私たちも休憩しましょう。私が今日のランチを用意します。」


二人は一旦「選択の間」を後にして、天使が用意した美味しいランチを楽しみました。食後、天使は悪魔に向かって言いました。「あなたも本当は人間を幸せにしたいと思っているんじゃないですか?」


悪魔は軽く肩をすくめて言いました。「まあ、そんなに甘い話じゃないけどな。でも、人間が幸せになることは悪魔にとっても良いことかもしれないな。」


「そうですね。私たちの役割は、人間が自分自身を理解し、幸せに生きることを手助けすることです。」と天使は言いました。


悪魔は微笑みながら、天使とともに「選択の間」に戻り、次の人間の訪問を待ちました。


―完― はじめまして、作者です。

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