第 5 回 『毗沙門戦記』の虎の威を借る正覚坊さん

はじめに(虎の威を借る正覚坊さん)

 第 5 回の『カクヨム作家さんに聞いてみた』は、『毗沙門戦記』の「虎の威を借る正覚坊」さんです。


 『毗沙門戦記』は 2021 年 12 月に始まった、その名のとおり毘沙門天が主人公のインド神仏話ファンタジーです。インド神仏というだけでも「珍しいな」と思いますが、それだけではございません。毘沙門天による仏典の布教行脚を時系列を追いながらインド、中国、日本と渡っていくお話で、全体の構想、空間と時間のスケールがデカい! 2 年経った今も連載中です!

 本編はこちらからどうぞ!↓


https://kakuyomu.jp/works/16816700429574285854


 と、その前に、スケールのデカさを『毗沙門戦記』のあらすじからの抜粋でご感得ください↓。



 須弥山にて猛威を振るう仏の宗門、一方マンダラ山ではデーヴァの神々が婆羅門の宗派を建てて仏法と対立していた。やがて、仏法は劣勢に追いやられ、これに負けじと立ち上がった五智の諸如来があらぬ奇計を密かに企て始める。五大明王の火焔による神々デーヴァの一掃を、およそ二劫の歳月をかけて着々と成就を目指していたのだ。

 如来を鎮圧するには、仏法伝播をもって集められる「光明」が必要になる。このことを神々の中で唯一認知していた帝釈天は、当時異彩を放っていた毘沙門天と接触を果たし、この武神に光明の収集を命じる。かくして毘沙門天は、明王火焔に勝る武器を創り上げるべく、仏法の伝道活動を行いながらシルクロードの大海を渡っていく……。



 これだけ読むと「なんだか難しそう……」と思われるかもしれませんが、正覚坊さんの文章がそうはさせません。明瞭かつ柔らかく、ときに雄々しく、ときにコミカル、文字どおり流れるように進んでいきます。

 以下は第 55 話の『阿吽②』からの一節で、私が大好きなシーンです。



 するとその直後、山が噴火したかのごとくに大地が轟き揺れ始めた。途端に、毘沙門天の身体から、放射線を描く後光とともに、真っ赤な炎が龍のごとくに噴き上がる。

 その怒涛の炎は、やがて大地に天空にと、侵略の手を伸ばした。大地へ這った炎はまるで溶岩のようにのたうちまわり、天空へ巻き上がった炎はまるで生き物のように曲がりくねる。深林の豊かな緑は、瞬く間に華麗な朱の色となった。(中略)

 毘沙門天は、極まる忿怒の形相のもと爛々と燃える目を見開き、嵐のような火焔を放ちつつ魄鬼の群れに向かって前進を始めた。

 そして、銀に光る戟を、全霊の精力で大きく一振り二振りする。その度に、炎は竜巻きを起こし、一線上に並んだ魄鬼はくきたちを次々に飲み込んでいった。草木もまた、みるみるうちに黒焦げとなっていく。(中略)

 獨犍どっけんは、ようやく蜈蚣むかでけんを引き抜くと、その鋭い刃を父の広い背に向けて構えた。

 直後、獨犍の身体からは毘沙門天と同じように放射状の後光が放出したかと思うと、透き通った大量の水鞠みずまりが弾けるように飛び散った。これが刃を濡らすと同時に、獨犍は地面を強く蹴り出し、疾風のごとく突進する。

 そうして、飛び散った水鞠が地に落ちる頃には、獨犍の刃は、父の腹を見事に貫いていた。(中略)

 辺りに広がった炎は、少しずつ黒焦げの炭と化し、藻屑となって大地を覆う。終盤、毘沙門天の身体からは再び丸みを帯びた淡い後光が放たれた。

 やがてそれは、自らの火焔を消し去り、これをもって火の暴走は幕を閉じるのである。父の刃が、危うく哪吒なたの首に届く寸前であった。



 この迫力!! 当に軍神の面目躍如(?)で、亡我するほどにすべてを焼き尽くす様子が力強く描かれていると同時に、息子に自分の腹を貫かせて鎮火させるという発想が豪胆です。それに「透き通った大量の水鞠」という表現が良いと思いませんか? 映画の CG みたいに、獨犍の身体から透明の球状の水がぶわっと溢れて、それがスローモーションになる。ゆっくりと落下する水球が獨犍の持つ剣の刃を濡らし、獨犍も父に向かってゆっくりと疾走していく。そして水球が地面に落ちる頃に、また元のスピードに戻って剣が毘沙門の身体を「ずしゃぁあっ」と貫くという、「めっちゃかっこええ!」っと思わせる描写です。

 かと思うと、毘沙門様の奥様である吉祥天との恋の駆け引きがロマンチックな文章で書かれていたり、亡者と一緒にひょうたんに入って酒盛りする様子がが茶目っ気たっぷりに書かれていたり、いやもうすげえな、正覚坊さん何者?って感じなんですよ……。


 今回は、この「虎の威を借る正覚坊」さんにじっくりお話を伺いました。皆のもの、正座して読むが良いぞ!

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