第 3 回 『斬壺』の木下望太郎さん

はじめに(木下望太郎さん)

 今回ご紹介するのは、「斬壺」の木下望太郎さんです。


 木下さんは作品によってテイストがかなり変わるので、どれを代表作として挙げるかとても迷いました。

「斬壺」は木下さんの作品としては古い方なのですが、木下さんらしさが凝縮された作品だと思って挙げました。


 「斬壺」は、刀狩りを懲らしめるべく出掛けて行った八島払心流の宗家である八島剛佐衛門紘忠が、その刀狩りの真犯人である童にまるっきり刃が立たずにやられてしまうところから始まります。そして剛佐は自身の流派の秘太刀である「斬壺」で童に再び立ち向かいます。剛佐が勝った場合には、童が彼の門下に入ることを条件に。そして二人の試合の結果は――。


 木下望太郎さんの「斬壺」は、こちらからどうぞ。

https://kakuyomu.jp/works/16816700429059636654



 私は木下さんの作品群には 4 つの特長があると思っています。


特長 1: 文章のリズム。インタビューの中でも聞いていますが、木下さんの文章には独特のリズムがあります。私はいつも狂言っぽいなあ、と思って読んでいます。


特長 2: 技の探究をテーマにしている。斬壺の剛佐や仏議の黒田さんのようにひたすらに技(主に剣技)を極めようとする人物がよく出てきます。


特長 3: 有無を言わさずぶった斬る人が出てくる。「斬壺」では、圧倒的な技を持つ剣豪の童が出てきます。こういう人物に対して、特長 2 で紹介した極め系の人たちが追随しようと努力するモチーフがあります。木下さんの「剣聖リバーロ」とか、「メリークリスマス、カンパニェーロ」は、このぶった斬る系の人々が全面に出て、どしどし暴れまくっています。


特長 4: 精緻な戦いの描写。これは木下さんの一番得意とするところですね。足運びとか、身体の捻りとか、腕の伸ばし方とか、戦いの身体的な描写が詳細で、しかも美しいです。「斬壺」の五話と六話は鳥肌が立ちます。


 そして、この 4 つの特長をコンパクトに網羅しているのが「斬壺」です。


 ただ、「斬壺」を読んで、木下さんは池波正太郎とか藤沢周平みたいな作家さんなのかなと思うと良い意味で裏切られます。


 木下さんの「そして僕らは殺意を抱く」は、二人の高校生がいじめや虐待を受ける中でその鬱屈した気持のはけ口を殺人という行為に見出そうとする現代ドラマだし、逆に「空白の島と、ハザマダ ブンガク」は元恋人の死に向き合おうとする女性の気持ちを丁寧に追った、まさに文学作品です。


 木下さんは、今「かもす仏議の四天王 ~崇春坊退魔録~」というコメディを連載しているのですが、それも単純にコメディには収まらず、人の「ごう」を仏教から捉えた哲学的な展開もあって、「ちょっともう……みんな読んで!」と声を大にして言いたい作家さんです。


「そして僕らは殺意を抱く」

https://kakuyomu.jp/works/16816927861892981196


「空白の島と、ハザマダ ブンガク」

https://kakuyomu.jp/works/16817330653400355566


「かもす仏議の四天王 ~崇春坊退魔録~」

https://kakuyomu.jp/works/16816927860224664762



 今回、木下さんには大変濃いインタビューが出来て、私は大変楽しませていただきました。皆さんにも木下ワールドの片鱗を味わっていただけたらと思います。


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