お話を伺って(如月芳美さん)
私は『いち癇』の一番素敵なところは、読み手を引き込んでその気にさせるところだと思っています。「なんだ YO」効果でみんな一緒に「神崎ィィ!(怒)」と思ったり、「花子! 後ろ後ろー!」って思ったりしている。コンサートでみんな一緒にコーラス歌ってるような感じになっているのがコメントでわかりますよね。これはすごい才能です。
私は、こんな風に読み手を引き込む、如月さんの小説の特長は 2 点に集約できると思っています。一つはリズム感で、もう一つは「物事の本質をさっと掴んで活かす能力」です。
「リズム感」の方は、御本人がパーカッションとクラッシックの音楽が好きでいらっしゃるので、言葉のリズムや韻を踏む音に敏感なんだと想像しています。インタビューでも如月さんがさらっと披露していらっしゃいましたが、「周富徳のシュート見とく」とか、御本人は無意識にそういう韻を踏む言葉やリズムを常にスキャンしてるんじゃないでしょうか。で、御本人が「書こう」と思うと、脳内スイッチが入って無意識に貯めてあるデータベースからさっと出てくる。
小説の第 118 話に、神崎さんがベートーヴェンの『交響曲第5番・運命』を引用して、クラッシックの曲で主題がどのように使われるのかを次のように説明する下りがあります。
「ええ、設計と一緒です。クラシックも分析すると同じテーマを別の形で繰り返したり、さっきのメロディを今は伴奏に使っていたり、リズムや拍子を変えてリサイクルしたりしてるんですよ」
「神崎さんって、何でも共通点を見つけて効率化するの、天才的だね」
「見つけるのが楽しくてね」
多分、これは如月さんが常にしていることなんだと思います。同じ「テーマ」としているところを「パターン」としてみると、よりはっきりすると思います。同じパターンの音やリズムを見つけて文字にしているんじゃないかな、と想像します。それがノリの良い文体に繋がっている気がします。
二つ目の「物事の本質を掴んで活かす」というのは、神崎さんのキャラクターから受けた印象です。神崎さんは、とにかく博識で何でもできる。それも、小説の中で単純に「神崎さんは何でもできる」って記述しているだけじゃなくて、「旋回駆動ユニットの限界値を超える可能性があります(1 話)」とか、「デモンストレーションの際には、現行機種との違い、乗り心地の良し悪し、性能の比較、操作性、画面コントロールの操作方法を頭に叩き込んでおかなくてはならない(49 話)」とか、ハンバーグの作り方(137 話)やタオルの干し方(21 話)が効率的だとか、万能っぷりが具体的に書いてあります。
こういうオールラウンド振りが書けるのは、やっぱり如月さんご自身の知識がオールラウンドだからだし、建設機械にしたって御本人は建設機械のお仕事に携わったことがなくても、「機械を扱う」という視点に立って、こんなことは考えなくちゃいけないだろうとか、本質的な視点からあれこれ想像できる能力をお持ちなんだと思います。
私はこれも如月さんのパターン認識・検出能力に由来するんじゃないかと思っています。多分、日々に触れる情報の中から自然とパターンを拾えるから、「これとこれは同じパターン、じゃあこれが元になっているんだ」と本質的なところを掴むのがお上手なんじゃないかな、と思います。
この能力に加えて、広い興味をお持ちなところ、上記のリズム感の良い文体と相まって、様々なテーマを読みやすく読者に届けることができるのではないでしょうか。
今回、如月さんのインタビューをさせていただく際には、本当に小説のいろいろな面を考えながら進めさせていただきました。そのため、ご都合の難しい時期だったにも関わらず、結構お時間も頂いてしまったのですが、気軽にお答えいただいて本当に助かりました。ここではご紹介できなかったのですが、裏話や貴重なゲラのお写真なども見せていただいて大変充実したインタビューができました。
ここで改めてお礼を申し上げたいと思います。如月さん、今回はインタビューにお答えいただき本当にありがとうございました!
(2023 年 11 月 3 日)
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