スクールカースト

梅田 乙矢

『女王』

「あの子は、とても明るく振る舞ってたけ

 ど、実は悩みを抱えてて…相談にのって

 たんです」


女生徒が学校の屋上から飛び降り自殺を

した。

どうしてそのような経緯にいたったのか

クラスメイト達に話を聞いている最中さいちゅうだ。

仲良くしていた生徒達からは

「明るくしていたけど、悩んでいた」

みな同じことを口にしたが、

特別仲良くしていなかった生徒は

「なんで、あんなことしたのかこっちが聞

 きたいです」

と怯えた表情で語っていた。

それもそうだろう。

みんなが見ている目の前で自殺した

のだから。



 その日は、気持ちのいい晴天で新緑しんりょく

匂いが風にのって漂ってくる5月の初旬

だった。

生徒達は、騒ぎながら屋上へ続く階段を登っていた。

ドアを開けると初夏を思わせる美しい青空

が広がっている。

その景色にさらににぎやかさは増す。

今日は卒業アルバムの撮影日だ。

この学校ではクラス替えがないため一年ごとに集合写真を撮ることになっている。

最初は、

「なんで毎年毎年撮るの?

 卒業するときだけでよくない?

 マジだるいんだけど」

などと言っていたが、いつもと違う場所

での行事は言葉とは裏腹に楽しいよう

だった。

みんながそれぞれ屋上からの景色を物珍しげに見ながら

「こんなふうに見えるんだぁ」

「見て!すごく高い!

 下があんなにちっちゃく見える」

とあちこちで はしゃいでいる。

普段は屋上へ上がることを禁止されている為、みんな楽しそうだ。

そのうちクラスでも一番目立つ生徒達が

石で出来た手すりへ座り始めた。

冗談で落とす真似をしては

「お前、マジでやめろよー!

 めっちゃビビる」

と笑いながら遊んでいる。

そんなにぎやかな雰囲気の中でそれは

起こった。

クラスでもリーダー格の女生徒がある生徒の手を引っ張り手すりの方へと引きずっていく。

手を引っ張られている生徒は、眼鏡をかけていて黒く長いストレートヘアをポニーテールにしてまとめていた。


「あんたも手すりに座りなよ。

 高いところ好きって言ってたじゃん」


周りの人間は“またか”という表情でその

様子を見ていたが、中にはクスクス笑いながら次に何が起こるのか好奇の目で友達

同士と眺めている。


「…私、高い所…苦手だから」


「え〜?なにー?

 聞こえなーい」


馬鹿にしたように相手へ耳をかたける仕草をしてあおり続けている。


「っていうかさ、座るんじゃなくて手す

 りの上に立ってみたら?」


リーダー格の取り巻きの一人が提案する。


「それメッチャイイじゃん!

 ほら、早くしなよ」


ポニーテールの少女はうつむきながら

一歩一歩前へ進み手すりの前で止まる。


「ねぇ、何してんの?

 相変わらずグズだね。

 早くしろってさっき言ったじゃん」


女生徒がイラつきながらせかしている。

少女は、言われるがまま手すりへのぼったが、小刻こきざみに震えている。

その様子を見て生徒達は大爆笑しながら

「超面白いんだけど!

 えっ、もしかして泣いてる?」

などと言って恐怖に震えている少女を

馬鹿にしていた。


…………………………………………………


 「話しづらいと思うんだけど、その時

 の状況を教えてもらえるかい?」


学校の接待室には警察官と校長が茶色の

ソファに座っており、テーブルをはさみ

目の前の女生徒に話しかけている。

女生徒はしっかり前を向き淡々と喋りはじめた。


「自殺してしまった彼女は、手すりに座っ

 て友達と仲良く喋っていました。

 いつもと変わらない感じだったから別に

 気にもとめてなくて…。

 でも、気がついたら周りがざわつき

 はじめて…

 それで…その後に…地面に何か叩きつけ

 られる音がしました…

 彼女の友達が

『突然、笑顔でバイバイって言ったの!』

 と半泣きで騒いでいたので、もしかして

 自分から落ちたのかなって…」


「そうか。

 みんな、その時の状況を話してくれな

 くてね。困ってたんだ。

 分かった。

 辛い中、ありがとう」


「いえ、とんでもないです」


ポニーテールの少女はそう言った。


…………………………………………………


 ひとしきり少女をイジメて満足したのか

リーダー格の女生徒は、先程の出来事が

なかったかのように取り巻き連中と騒いでいた。

そのうち手すりに座って遊んでいた男子

生徒の所へ行き一緒に座りじゃれ合って

いる。

クラスで一番目立つ男子と女子の組み

合わせ。

そのほかの生徒は、何人かずつでグループに

なりお喋りしている。

いつもの光景だった。

そのはずだった。

突然、手すりに座っていた女生徒が後ろへ

倒れ地上へと落下していったのだ。

しばらくみんな声も出せずそのままの

状態で呆然ぼうぜんとしていた。

何が起こったのか…。

視線を移すと、そこにはポニーテールの

少女が立っている。

顔には笑みが浮かんでいた。

もしかして…お前が…押したのか?

みんな声には出さずとも顔がそう問いかけていた。

少女は、くるりと向きをかえ 固まっているクラスメイト達に言い放った。


「私をイジメるから突き落としたの。

 さっきも見たでしょ?

 私が震えて泣いてると思った?

 馬鹿ね。

 いかりで震えていたのよ。

 ていうかあんた達も同罪よ。

 アイツが私をイジメてるとこ見て

 笑ってたでしょ?

 さて、次は誰にしようかな」


獲物を探すようにギラリとした目が周りを

見渡す。

みんな怯えて視線をそらすが、標的が決まったようだ。

向かっていこうとした瞬間、地上で救急車を呼ぶよう指示している教師の声が聞こ

えた。

彼女は悔しげな顔をしたが、その表情を

すっと引っ込めていつも通りの弱々しい

顔へと戻っていった。


別にみんなで口裏を合わせようと話し合ったわけではない。

でも、なぜか全員が“彼女は自殺した”と

証言したのだ。

警察と学校側もそれを鵜呑うのみにして事件にはならなかった。

恐らく、真実を話せば今度は自分が消されるかもしれないと思ったのだろう。

そう、あの時、彼女が女生徒を突き落したその瞬間にこのクラスの新しい“女王”が誕生したのだ。

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スクールカースト 梅田 乙矢 @otoya_umeda

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