60.ファム・ファタールごっこ/狐

作品名:ファム・ファタールごっこ

作者名:狐

性癖:童貞文学

性癖:女性優位

性癖:生活感のある自撮り

性癖:不均衡な関係性

性癖:倫理観がやや危うい女

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330658082729562


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 第一回と第二回では新しい物と古い物と変わっていく物についてのSF作品を投稿頂き、第三回で「恋人ではない憧れの異性」について作品を投稿頂いた狐さんです。

 今回もまた「恋人ではない憧れの異性」に対しての悶々とした感情をぶつける作品を投稿頂いたのですが、どうやらこの作品を投稿されたあたりから何かに吹っ切れ、自身が童貞である事を武器として作品に活用し始めたみたいです。その前向きな思考は憧れませんが素晴らしいですね。正に一皮むけたと言えるでしょう。


 今作の内容は一言で言ってしまえば「年上の女性に純情を弄ばれている年下の男性との関係」というものであり、意中の相手にぞんざいに扱われた先輩の女性が感情の捌け口として後輩の男性をおもちゃにしている内容を後輩視点から見た物です。

 しかし、これは性癖小説選手権に投稿された性癖小説です。そんな単純な話では無いのでしょう。狐さんの過去の作品の事を踏まえて読む事で、今作はかなり複雑な思いと性癖を詰め込んだ実験的な作品なのではないかと自分は感じました。


 まず、自分が気になったのは題名の「ファム・ファタールごっこ」という部分です。

 作中でも語られているのですが、先輩も後輩もどちらも互いにファムファタールの関係性を目指したがってはいるんです。しかし、先輩側はえっちな自撮りを送ったり思わせぶりな事を言って後輩の反応を見たりしますが肉体関係を結ぶ誘いはしませんし、後輩側は後輩側で勝手に自分は先輩の恋愛対象に含まれていない存在のままだと思い込んで前に進もうとしていません。お互いに前にも後ろにもいかない関係性で落ち着いてしまっていて、ファムファタールな関係を目指すのならば先輩側が消極的すぎるのです。

 恐らく先輩はとても臆病な人間なのでしょう。臆病かつ社会人になってから自分の居場所を落ち着かせることが出来ない為、後輩に対して「自分は物事を知っている先輩である」とアピールする事で安心感を得ている様に読め、何も無い自分にとって唯一出来るえっちな自撮りを送る事で「憧れの先輩でいる自分」という立ち位置を確固たるものにし、後輩とは言え男性相手に『女性優位』な関係を築く事で自分自身を保っている感じがしました。

 一見は後輩が先輩に甘えている様に見えますが、実は先輩が後輩に甘えている『不均衡な関係性』なんですね。先輩が先輩でいる為に『生活感のある自撮り』という自分をコンテンツにして切り売りしている様は正に『倫理観がやや危うい女』です。先輩が臆病でなく楽な方へ踏み出す勇気を持っていた場合、二人は肉体関係を持ち、「ごっこ」では済まないファムファタールな関係になっていたのでしょう。


 後輩も後輩で一歩を踏み出す勇気を持っておらず、先輩相手に強く欲望を求めることが出来ないのでお互いに肉欲に溺れる事が出来ずにいます。

 この先輩の事ですから、いっそ後輩から襲って貰えば罪悪感が無くなって楽になるんじゃないでしょうか。もしかすると後輩にそうさせてしまうのが怖くて直接会わないやりとり済ませているんですかね。えっちな自撮りを送る関係なのに直接会わないのは卑怯ですし甘えですし臆病だと思います。成程、このもやもや感こそが『童貞文学』なのでしょうか。『童貞文学』、奥が深いです。


 狐さんに今回投稿頂いた作品は、一見はただの「年上の女性に純情を弄ばれている年下の男性との関係」に見えて、実は「年上の女性が先輩であるという威厳を保つために敢えて純情を弄ばれてあげている年下の男性の関係」という、歪で、共依存ほどは深くない甘えと許しの関係で、そして童貞臭さを感じる作品でした。後輩は童貞と自称しているんですが先輩も童貞ですね。やってしまえば解決する話なのにいつまでもうだうだと続ける事自体が童貞臭さを感じるのでしょう。童貞は男だけの特権では無いんです。

 辿り着かない状態で辿り着く事を夢見るというのはジュブナイル物に近いのかもしれないと思ったのですが、そこまで爽やかな物では無いので、やはり『童貞文学』というジャンルが相応しいと思います。


 又、冒頭で狐さんは過去にSFを投稿頂いていたと書いたのですが、その時から狐さんは「ゴールへ辿り着かない事」自体を根底にされている様な感じがしました。

 SFでは人の可能性をいつまでも追及し続け、恋愛では付き合う事はせずに淡い関係性のままずっと続けるという様な、「至らない」ということを輝きとし、停滞はせずに前に進もうという意思は持ちつつも「至らない」こと自体を目的とする感じです。

 思えば「ニーハイソックス」や「えっちな自撮り」も「至らない」事その物ですね。100%になり得ないまま完成している作品という事なので、名前を付けるとするならば【至らずの狐ネオテニー】とでもしましょうか。今作は先輩も後輩も【至らずの狐ネオテニー】ぶりが発揮されていて性癖小説としてとても良かったです。


 狐さんはご自身の童貞性(実際に童貞かどうかは別)を文章に乗せる事を堂々とするようになったそうですので、今後の『童貞文学』に期待しています。女性側視点の『童貞文学』とか良いのではないでしょうか。狐さんの【至らずの狐ネオテニー】ぶりが発揮できると思います。

 個人的にはSF作品を書いて欲しいのですが、本人が性癖に従って恋愛を描きたいというのならばそれを止める事は致しません。存分に『童貞文学』という性癖を極めて頂ければと思います。ご参加ありがとうございました。

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第五回性癖小説選手権講評置き場 @dekai3

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