59.瓶詰姫/尾八原ジュージ
作品名:瓶詰姫
作者名:尾八原ジュージ
性癖:一人称が「あたし」の倫理観がおかしい女の子
性癖:片方が死んでる百合
性癖:かわいいものをいじめたい
作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330658066550492
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一作目では「お題を貰ってその内容で性癖小説を書く」という他者から与えられた性癖を見事に昇華させて自身の性癖とした性癖小説を投稿され、二作目では「明らかに何かが起きているのに本人達は何も起きていないと認識している」という日常のまま異常になっている作品を投稿頂いた尾八原ジュージさんの三作目です。
最初に感じた感想は、やはり『一人称が「あたし」の倫理観がおかしい女の子』という性癖の力強さでしょう。
尾八原ジュージさんは洗脳系のホラーで商業デビューされている事もあり、一見はまともに日常を過ごしている様に見えるけれど実は何かが破綻している人物の描写がとても上手で、その破綻ぶりは今作でも最初からして発揮されています。
まずは飛び降り自殺した幽霊を捕まえるという少しおかしな始まりをするのですが、話が進むと飛び降りをした子は主人公を虐めてた子と判明し、クラスが変わったら逆に他の子から虐められていて自殺をしたという学校その物の陰湿さを現わしつつ、主人公と幽霊の子の複雑な関係を説明してくれています。
もうこの時点で気付くと思うのですが、登場人物が全員どこかおかしい精神状態になっているんですね。虐めをするまではよくある話でも、そこから元いじめっ子が死んだことで全員の何かが破綻してしまってます。特に主人公の子は自分を虐めていた子がいじめられる側に周った事で既に情緒がおかしくなりかけていたのに、自分が耐えれた事をいじめっ子がいじめに耐えれずに自殺した事で、自分の気持ちをどこにぶつけたらいいのか分からなくなって完全におかしくなってしまってます。普通の人は「幽霊を捕まえる」なんで事はしませんし、そこから『かわいいものをいじめたい』という性癖には目覚めないでしょう。素晴らしい感情の迷走ぶりと加速ぶりです。論理感がおかしい女の子を書くのが上手い!
更にはやりきれない気持ちと虐めをする楽しさを知った事で愛情にも目覚めてしまい、『片方が死んでいる百合』という言い峰的な関係になってしまっているのもとても良いですね。最初は元いじめっ子と元いじめられっ子の関係だったのに、上記の通りに「元いじめっ子がいじめで自殺した」事で『片方が死んでいる百合』に目覚めているんです。向け先の無い感情が爆発して執着心となり、普通ならありえない「幽霊を捕まえる」という方法が成功した事で逃がしたくないという独占欲が愛情に変わったのでしょう。好きな相手が死んだのではなく、死んだから好きな相手になったという部分も『一人称が「あたし」の倫理観がおかしい女の子』という性癖の強調となっていますね。流石ジュージさんですね。性癖の扱いが上手い。とてもそそる作品でした。
尾八原ジュージさんはほぼ毎回投稿上限数の三作を投稿頂いている方で、今回も同じ様に三作投稿頂き、三作とも「日常のままの異常」を主題にした作品でした。
昨年末に発行された商業作品の「みんなこわい話が大すき」も「日常のままの異常」がメインのお話となっており、関係無い人から見れば日常を送っている様に見え、本人達からすると毎日が異常なので異常が日常となってしまっています。尾八原ジュージさんの基本となる性癖の軸には「日常」と「異常」の二本の柱が両立しているのでしょう。そこからどちらを主にするかで「異常な日常」と「日常が異常」を上手く使い分け、日常に刺さる異常で脅威を、異常に挟まる日常で安堵を読者に与えて、読む人の感情を揺さぶっているのだと思います。又、その「読者の感情の揺さぶり」という部分も尾八原ジュージさんの性癖の一つではないかと思います。読者が驚いている様子とか、読者が喜んでいる様子が糧になるような、そういう物が糧となってその進捗のエネルギーを生み出しているのではないでしょうか。創作をする者としてとても良い性癖を持っていらっしゃると思います。
この様に作家としてだけではなく性癖表現者としての実力もお持ちの尾八原ジュージさんですが、一作目の『お題をもらうこと』の性癖を考えると、まだまだご自身の性癖を世に曝け出すのに抵抗を感じている様に思えます。何らかの理由があればどんどん性癖を世に出せる方だと思うので、上手い事その部分もご自身でコントロールで可能にし、より一層深みの増した性癖小説を作って頂けたらなと思います。
現在でも既に素晴らしい作品を投稿頂いていますが、尾八原ジュージさんならもっと高見をを目指せるのではないかと勝手に期待しています。ご参加いただきありがとうございました。
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