第3話
荷物の梱包が7割を超えたあたりで全然進まなくなった。段ボールと布団しかない部屋を見せて立入調査を乗り切ろうと思ったのに、全然無理だった。
あと、引っ越すのに食材を買ったりしてはいけないのだ。冷蔵庫の中は限りなくゼロにしなければいけない。じゃないと大変だ。
ということに遅ればせながら気づいて冷蔵庫内の食材の消費に努めていた。おかげで調理用の道具や調味料が梱包できない。
とうとう立入調査の日が来てしまった。不在時に勝手に入られるのは嫌なので、有休をとって対応する。
下の階から始まるんだろうと、ぼんやり待った。
開始予定時間を過ぎてから1~2時間。玄関のチャイムが鳴る。
執行官の人は二人でやってきた。年齢が上の方の人はじっとりとマスクが濡れていて、疲労困憊と言う顔をしていた。
大変そう~と思った。
執行官の人は腰が低くて、こちらが恐縮するほど丁寧に言葉を選んで喋っていた。トラブル避けに気を遣ってるんだと思う。
部屋の写真を何枚かと、キッチンスペースに向かって一枚、撮影。
部屋のサイズを何かの機器を使って計測。カメラ機能でサイズが測れるようになってるようだった。
部屋に不具合がないかを聞かれる。エアコンの故障を伝える。
有休は一日とっていたが、立入調査は短い時間で終わった。
後日、競売が開始されると郵便で届くという。その頃にはもちろん引っ越しが終わっているだろう。
引っ越しが終わって、生活が落ち着いた10月。
一連の出来事をまとめようとしたら、身内が亡くなってそれどころではなくなってしまった。
年が明けて3月。
すっかり忘れた頃に、競売開始のお知らせが転送で届いた。こんなに時間が経ってから行われるものなのかと思う。
期間入札の結果はインターネットで情報を提供すると書いてある。
見なくてもいいかなと思いつつ、結局気になって見た。
pdfをダウンロードする。
正直、専門用語とかが多くて完璧に理解したわけではない。そういうところは置いといて、読み取れる範囲でその資料を読んだ。
賃借権等目録。これには貸している部屋の賃料や敷金などが書かれていた。他の部屋の住人がいくらで借りているのかが、わかってしまった。
大体の部屋が私と同等の額の賃料を設定されているが、一部屋だけ妙にお高い。他の部屋が敷金など設定されていないのに、ここだけ設定されている。
きっと随分前から住んでいて更新を重ねて賃料が他より高くなってしまったのだろう。
たまにある滞納による差押え後の占有という表現が怖い。
空き部屋が多いな。この騒動で人がいなくなったのか、その前から借りてる人が少なくなって立ちいかなくなったのか。
私は引っ越しをする予定を告げたので、私が借りてた部屋は明渡猶予と書かれていた。ほかにも明渡猶予と書かれている部屋は多い。
関係人の陳述等。各部屋の聞き取り結果が書かれている。
エアコンの異常や故障を訴える人、IHヒーターの故障を訴える人、窓ガラスのひび割れとか、ベランダの仕切り板の割れを訴える人……支障なしと答える人と異常を訴える人とが半々くらいである。
調査の経過。事前に執行官の人がどう動いているのかが書いてあった。消防署に図面交付依頼したり、物件を実際に見に来たり、通知を投入したり、管理会社に知らせたり、区役所に居住状況を調査したり。
後、立入調査の日が無理な場合は他の日に調査も可能だったみたい。別日に調査されてる部屋があったらしい。
後、何部屋かは不在で技術者に解錠させて立入りしている。
そして、物件の写真。各部屋がどんな感じで生活しているのかが、わかってしまう。
大体はきれいなんだが、一部屋だけとんでもなくレベルの高い汚部屋があって直視できない。
一部屋、床に板を敷き詰めるという謎DIYを施してあって、その部屋だけ床がせり上がっている。
引っ越し準備を進めてる部屋や、シンプルライフをしてるのかというレベルで物がない部屋もある。
2部屋隣の住人、絶対汚部屋だろうと思ってたが、物が多いだけだった。
毎回雨が降る度に壊れた洗濯ばさみが流れてきて私の借りてた部屋のベランダ部分にある排水溝が詰まらされてベランダが水没してたのだ。
地味にイライラさせられていた。
自分の借りてた部屋。段ボールと詰め切れてない荷物とであふれていて、直視できない。
この物件が競売で無事に売れたかどうかは知らない。
不動産経営は難しいもんなんだなと言うことがわからされた気がする一件だった。
続裁判所からお手紙が届いた件 カフェ千世子 @chocolantan
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