ある提案、そして約束
春の最盛期になり、道端で菜の花やオオイヌノブグリなどの野花が咲き始めた。
晴天の日が徐々に多くなってきたようだ。外を歩くと、ポカポカとした空気が肌にやさしく触れるような季節である。
そのような時期なのか、コノハは
小高い
「そーいや兄さん……、コノハさんに相当メロメロだね!! 〈
突然、軽快に話し出した篤比古の言葉を聞いて、コノハは反応に困り、苦笑いするしかなかった。
……と、篤比古は再び、全く悪気の無い様子で、建比古の話を続けたようだ。
「あ〜、でも仕事とはいえ、コノハさんが僕と一緒に居る時間が多いことに、明らかに
「……あの、篤比古さま――」
口は緩んでいるように見えるのに、目が全く笑っていなかった白人は、遠回しに篤比古を注意をした。白人の滲み出ている怒りを感じた篤比古は我に返り、すぐに真剣な表情で白人に謝ったのだった。
まあ……、コノハも白人の冷やかな怒りには、少しだけ恐怖を感じていたようだ。
それから、最近は夜になっても、たまに吹く風が心地良く感じられるようになってきた。
ある日の夜。コノハは
もう一つの椅子に白人が座り、あと一つの椅子の上では、シマが丸くなってすやすやと寝ている。
彩女は先に自室に戻ったようだ。
建比古はコノハと目が合うと、手招きをした。建比古が自分たちの部屋に居るのが慣れない状況だったからか、コノハは少し緊張しながら、建比古の方に歩み寄った。
「
ちょっと癖が強いが、悪い奴では無いんだけどなぁ……」
「そうですね……。彩女さんのお父さんであるし、建比古さまをものすごく慕っていらっしゃる方のようですしね!」
「あと……、お前に聞きたいことがあってな――」
「コノハ、ここに座っていーよ。これから風呂に行ってくるから」
コノハが「はい……」と小さな声を出すと、白人は立ち上がって、爽やかにコノハに声をかけた。
白人にお礼を言うと、ゆっくりと椅子に腰かけた。少し肩に力が入ったコノハが座った後、建比古は言葉を続けた。
「父君がな……、中夏に避暑かでらの静養のために、
「……そ、それは、すっごく光栄なことですねっ! ありがとうございます、雪麻呂さまも大歓迎されると思います」
コノハは座ったまま、建比古にお
また、粗末な
建比古は「良かった……」と、ぽつりと
建比古の話にコノハは感嘆していたが、建比古がさらに別の用件も伝えたことが、コノハはウキウキした気持ちにさせた。
「あとな……。お前の休みに合わせて、俺も自由に動ける時間が明後日にできそうだから、一緒に
「え、あっ……。はいっ! 分かりました、楽しみにしていますね」
建比古が自分の寝室へ行くために、食台の前の椅子を動かして立ち上がると、ちょうど
コノハたちの部屋を出る建比古の姿を、コノハは
建比古は廊下に出ると、「お休み、な……」と言いながら、コノハを優しく抱き締めた。
「……お休みなさい、建比古さま」
照れていたコノハだったが、ゆっくりと自然に、自分の両手を建比古の腰の上部に回したのだった。
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