覗きは止めろっ!!
梅が咲く季節が過ぎ、皇国に春がやって来た。時より風はまだ冷たいが、温かい日光のおかげで、空気は心地良いぐらいポカポカとしている。
木々の近くに行くと、「ホーホケキョ……」と軽やかに鳴く
大雨、もしくは春らしい強風が吹かない限り、コノハは必ず弓の訓練場に向かっている。業務を終えると、コノハは弓の訓練場まで行き、鍛錬に励んでいるようだ。
まあ、コノハの神懸かり的な腕前もあるが、長年に渡って
晴天が続いていたある日、夕方にコノハが弓の訓練場に居る時、建比古がまた彼女の鍛練を見に来たようだ。
コノハが的に刺さった矢を抜いて、休憩用の
「相変わらず鍛練に精が出ているな。ほぼ毎日だから、すごく感心している」
「ありがとうございます」
「そうだった、これから休憩するんだな? 立ちっぱなしにして悪かった。……座ってくれ」
コノハが長椅子に腰かけると、建比古も彼女の横に座った。……と、建比古が自分の髪をじっと見つめていることに、コノハは気が付いた。
「……今日は何か、髪型が違うな??」
「ちょっと遅く起きてしまって……。
コノハは苦笑いをしながら、麻紐で後ろ髪をひとつ結びにした経由を話したい。
そして、今度はコノハの顔面に建比古は顔を近づけてきたようだ。あっという間に、建比古の顔が移動していたことに、コノハは驚いた。
すると、互いの鼻がくっつきそうな距離まで来た時、建比古は自分の顔を動かすの止めた。それは――
「おい、見てみろ。あの〈
「てかっ、奥さん……結構カワイイじゃんっ!! 十歳以上……、年下の子を捕えるなんて、さすがは猛獣の
「だ〜よ〜なぁ〜。って、お前の妄想と違って、大人しそうな子だな。
「ま〜ね……、予想外だったぁー。それにしても
「ゴラァ! 貴様らっ!!」
訓練場の外、
コノハから渋々離れた後、建比古は大股で急いで訓練場の出入り口に行った。出入り口の引き戸を勢いよく開けると、若い近衛兵たちの方に体を向けた。建比古は完全に怒りに満ちていた。
「……覗きとは、いー度胸だな……? 『鬼教官』って言ったのは、魚成……か??」
「いやっ……。あ……、それ、は――」
『魚成』と呼ばれた小柄で細身の青年は、ものすごくビクッとして、思わず言葉を
そして、建比古は彼らに追い打ちをかけるように声を張り上げて、こう言った。
「貴様ら全員っ、今から即行で特訓をして来いっ!! 腹筋を六十回、背筋を五十回、さらに腕立て伏せを八十回っ! その後は、
通例通り、拒否権は無しだ。分かったかっ!?」
「「「はいいぃぃぃ!!」」」
建比古は通路で仁王立ちで両腕を組み、
鬼の
(……うん、あーゆー雰囲気やったから、めっちゃ恥ずかしかったけど……。けど同情しちゃうなぁー。本当にご
弓の鍛錬を終えた後、コノハは一旦自室には戻らず、そのまま建比古の執務室で夕食を食べる予定になった。
建比古の執務室に行く前、コノハは衛士府の
と、コノハが
「よしっ、あと一周だっ!!」
開けた場所に立っていた建比古に促されて、近衛兵たちはヘロヘロになりながら、何とか走りを続けようとしていたようだ。
そんな彼らの懸命な姿を見て、コノハは切ない気持ちにもなったが、姉のような優しい顔を彼らに向けていたのだった。
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