第3話

 京都のメイメイへ

 芹菜せりなお姉ちゃんは、仙台で楽しく大学院生をやっています。大学という所は、修業年限の二倍まで在学できると聞いたので、私は目一杯大学院生をしてやろうと思います。東北大学は理系が強いけれど、これからは文系の勉強もモリモリしていくつもり。司法試験や公認会計士にチャレンジしている学生もいるのね。

 メイメイは、いい加減、お父さんと楽しくお話できるようになったかしら。メイメイのお母さんとは、そうと知らずにお話していたみたいだからいいけれど。お姉さんは、ちょっと心配です。まあ、研究の話なんかしたって、そんなのは親子の会話にはならないから、ひとつ小説の話でもしてみたらいいわ。私も大学病院に入院していた頃、勉強の息抜きには小説を読んでいましたから。ただし、お父さんの本の趣味は独特です。あの人、人が死ぬようなお話ばかり好んで読むのよ。ちょっと、現役医師として、どうかと思うわよね。読むだけならともかく、入院患者の私におすすめしてくるあたり…。


 *


「小説…?」僕は、そこで、顔を上げた。「どうしよう。読んだことない…」

 理由は明白である。小説なんて読む暇があったら、勉強しろと、育ての親に言いつけられていたからである。

「僕なんか、小説も読まないで、勉強ばかりしてきたのに、いつも芹菜お姉ちゃんの後追いばかり…」

 目尻に涙が浮かんでくる。決めた。父に八つ当たりしよう。そうしよう。


 *


 メイメイ、近頃はあんまり可愛い格好はしなくなったのですってね。あなたのマブダチ、京終遥歌きょうばてはるかさんが嘆いていましたよ。まあ、京都でロリータなんて、どうかと思うけど。主に、気候の点で。お父さんから聞いたのだけれど、京都という所は、ゴールデンウィークあたりから十一月まで夏日のことがあるのでしょう。病弱な身には、恐ろしいことです。頼むから、お姉ちゃんをあなたの研究所に招聘しないでね。どうしてもと言うのなら、仙台に新しく研究所を開いて下さい。東北大学には、優秀な学生がたくさんいますよ。そして、何より、早朝の霧、欅の並木道が素晴らしいの。あなたもそんな所で、美少女の扮装をするくらいなら、仙台に来たほうがよろしいわ。仙台の人は、どことなく京都人っぽくて、京都に長く暮らしたあなたなら馴染めることでしょう。


 *


 そこで、首を傾げる。

「仙台の人って、京都の人っぽいのか…」

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幻想(ユメ)のあと 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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