第2話

坂木さかきさんとちゃん、相変わらず、仲良しだねえ」

 幼子を胸に抱く、京終遥歌きょうばてはるか

「あのね、坂木さんは私のあしながおじさんなの。あ、もちろん、結婚はしないからね」

「いや、うん。それは、解っているから」

 苦笑する。

「えっとね、坂木さんの恋人があの世に里帰り出産したまま帰って来ないの。だから、私は坂木さんの子供の代わりなの」

 京終遥歌の顔が青くなる。

「ま、彼女を送ってやったのは、私なのだがね」

 二人して、笑う。もちろん、京終遥歌はドン引きである。

「君はちゃんと愛する男の子供を産めたのだね」

 母の胸で眠る、京終逸歌きょうばていつか。菜ノ葉が、笑顔になる。

「遥歌ちゃん、本当にありがとう。弟を産んでくれて」

 京終逸歌は、京終蜜きょうばてみつの弟である。


「えっ、ちょっと待って。遥歌ちゃんって、あおさんにホの字なの?」

 ホノジとは、一体何のことだろう。黄檗おうばく家の台所で、ひとり呆けていた。

「そうかあ。普通なら、蜜くんに行きそうなものだけど…」

「いや、それはありません。私、子供の頃から京終先生のファンなので。それで、結婚したいとかいう発想にはなりませんよ」

「おおう…」

 思わず後退る小町こまちさん。

「えっ、何。いけそう? いけそうなの?」

 今度は、すぐ近くに寄ってくる。

「お膝で寝ても、そのままにして、頭などなでてくるのですよ」

 言っていて、顔が熱くなる。

「いけます! それは、もうゴーサインです!」

 拳を握り締めて、興奮している。なにゆえ。

「とりあえず、ねっ。お茶でも飲んで、落ち着きましょうか」

 そうして、小町さんは黄檗先生にプロポーズした時の話をしてくれた。

「ねっ、これでは、私どこからどう見てもただのクソ女でしょう。だから、蒼さんには是非後家さんが必要だと思うのよね。主に、私の罪滅ぼしのために!」

 それで、私…。まあ、いいか。

「でも、それだけグズグズしていたのに、あいつが生まれたのですね…」

 あいつ…。少しだけ遠い目をする。

「まあ、結婚はねすぐ出来たのよ。義理の母がほらサインしろ。私が役所に出してくるからって」

 そこで、頬に手を当て、溜息をひとつ。

「遥歌ちゃん。あなた、既成事実を作りなさい」

 横目でじろりと縫い止められる。

「は、い…?」

 赤面する。爆発しそう。

「インテリ男子なんてね、押し倒してこう言ってやればいいのよ。お前の子供を産んでやるとね」

 なんて男前なのだろう。口をパクパクさせる。

「そのために、義母から教わった古武術を教えてあげましょう。遥歌ちゃんが蜜くんの義母になるのならば、半分、黄檗家の嫁みたいなものですからね」

「あっ、そうか!」素っ頓狂な声を出す。「私、京終先生のお母さんに…」

 想像して、身悶える。いい。すごくいい。蒼さんが夫で、京終先生が息子とな!


「そして、逸歌くん誕生! 古武術、すごい!」

 はしゃぐ菜ノ葉ちゃん。坂木さんが帰ったあとで、あれやこれやを話して聞かせた。さすがに、坂木さんの前では、気恥ずかしい。

「でもね、未だに悔しいのよ…。あいつの目は、蒼いのにうちの子は黒い! 髪も黒い!」

 嫌がらせなのかなんなのか、私が京終家に入ってから、黄檗英人おうばくえいとは、私に会うと裸眼になる。

「んー、まあ、結局組み合わせの問題だからねえ…」

 それは、理解している。

「でもね、四葉よつば君は蒼さんそっくりでしょう。モジャモジャ頭につり目で。うちの子、それも違うのよ! だから、世間の人から、京終先生の子供だと勘違いされがちなの。いや、わざとそう思わせているのだけれど」

 だんだん鼻息が荒くなってきた。

 まず、私は、京終先生の秘書見習いとして蒼さんに出逢い、弟子入りした。実のところ、ふわふわした息子のことが心配でならなかったらしい。それは、私も同意見である。そして、なんだかんだと意気投合。私は蒼さんから好かれている自信はあったが、何せ親子ほどの年の差である。小町さんの言うとおり、私からアタックしなければならなかった。

 だから、まずは理詰めで口説き落とした。お金のことなら、京終先生が稼いでくれるから大丈夫。そして、そのお金の管理は私がする。表向きには、もちろん、京終先生と私が夫婦のように思われるでしょう。だから、世間体も大丈夫。最後には、納得してくれた。

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