宮っちの場合

お嬢様と「第1話」

 僕には憧れの先輩がいるんだ。


 ちなみに僕には初めての恋だ。


 毎日、彼女を見かけるたびに、戸惑いと切なさばかり、抱えている。


 高校に入ってとりあえずのつもりで入った部活だった。


 文芸部で出会った先輩に一目惚れ、その日から彼女に片想いをしている。


「先輩ってほわほわしてるしけっこう天然ドジっ子なのに、いっつも身だしなみはバッチリしてますよね〜」

「えっ? え〜っと、天然ドジっ子かあ……。ははは、私ってそうなのかなあ」

絵茉えまは超がつくお嬢様だからねえ、おばあ様が身だしなみとか所作にはうるさいんだよね。ねっ?」

「ええ、おばあ様は私のしつけには厳しくはありますけれど。……でも、そんなに私はお嬢様でもないですぅ」

「はあ〜、おばあ様かあ〜。なんかすごそうっすね、迫力ありそう。……だから九条先輩っておしとやかなんですね。天然っぽいとは思ってましたけど」


 僕は九条絵茉先輩のおばあ様を想像していた。

 やっぱり普段から和服を着てたり?


「絵茉んちは有名な華道家の家系なんだよ。宮っちは、絵茉の『九条』って苗字で分からない?」

「えっ、そういや。……九条って、アクセサリーブランドも起ち上げてる、あの?」

「そうそう」

「もう、いいよ〜、私の家の話は……。恥ずかしいから」

「あのね、宮っち、絵茉はやめときなね。あたしらとは世界が違うんだから。絵茉って生まれた時から許嫁だっているんだから」

「い、い、許嫁〜!?」


 そこで学校の帰るよう促す放送の曲が鳴ってしまい、僕らは帰り支度を始める。


「やめときな、か」


 僕は勝手にため息が出た。


 手遅れですよ、三浦先輩。


 僕はもう、絵茉先輩のことが、……好きなんです。


 とうてい、叶いそうにもない恋。


 相手は超がつくお嬢様で許嫁がいる、めっちゃ美人で優しい先輩。

 絵茉先輩……。


 僕は、絵茉先輩をそっと見つめていた。


「二人とも帰ろっか?」


 絵茉先輩が振り返ると、緩やかなウエーブのかかった長い髪が、ふわっと揺れた。


 僕は絵茉先輩に、明らかに見惚れていた。

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叶いそうにもない恋ショートストーリー 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE

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