第27話 シモダと僕が付きあっているとクラスで噂に‥
「ヨシダ、お前シモダと付き合ってんの??」
久しぶりに前に席が後ろ前だったミツルから来たメッセを見て、僕は冷や汗をかいてしまった。
それは、そう思われても仕方ないからだった。
「そんなことないよ」
と返信すると
「すげー噂になってる、クラスで」
ヤバいことになった。返信に困り、僕はスマホを伏せた。
最近のシモダは僕への思いは友情以外は断ち切ったと聞いたのに、前よりも更に僕にかまってきていた。
休み時間にはすぐに僕の方に向きを変えて、なにかにつけて話しかけてくる。
「うっす、元気?」「別に」「おおー元気だな」と頭をいきなりポンと叩いてきたり。
それで僕が不機嫌な顔をすると、笑みを浮かべながら指で僕の頬をつついてきたり。
昼休みに机で一緒にランチを食べていると割り込んでくる他生徒を本気で妨害したり。
こんなことが繰り返されているから、そんな噂が立っても仕方ない・・。
そして、その日がやってきてしまった。
「ヨシダ、手見せて!」
昼休みに、またシモダが後ろを向いて僕に話しかけてきた。僕の手のひらを見せてほしいらしい。とりあえず無言で差し出した。
すると、シモダは僕の手のひらに指で何かを書き始めた。手のひらを指で触れられるという経験がなかったからか、くすぐったくて声が出てしまった。
「あああ、なんかくすぐった・・」
「え、わかった?何書いたか、2文字だよ。もう一回」
シモダの指が重く感じるほどに、僕の何かを刺激してしまう。
「ああっ、なんか、やめて」
「え?何?そんな可愛い声出して、じゃあゆっくりやるね」
指はゆっくりと、そして僕の手を包みこんでもきた。ヤバい。
「いや、もういいよ」
「ほら、ほら、わかったかな」
最初はわからなかったけど、逆向きだけどわかってしまった。
それは平仮名2文字で「すき」だった。
「もう一回書くね」
「いや、もう、」
「わかるまでやるよ」
「ああ!」
すると
「お前ら何やってんの!?」
僕の声が大きすぎたからか、クラスの他のヤツが反応してしまった。
その叫びに教室は一気に静かになってしまった。僕とシモダに視線が集まるのも感じる。
「シモダとヨシダさ、いっつもイチャイチャしてるよな、ヨシダに触ったりしてるのもよく見るけど」
「ああ、ちょっとすげーよな、なんか」
「やっぱ付き合ってんだろ?オマエら」
「ホモかよ」
「ヤバい」
なんてみんなに囃し立てられている。どうしよう。「冷や汗をかく」という体験をうまれて初めてしてしまった気がした。
シモダの顔を見ると、なぜか真剣な目で奴らを睨みつけていた。どうしたんだろうと思っていたら、立ち上がって、指をさして叫びはじめた。
「お前らさ、、、、よく聞けよ、よく」
「あ?どうしたシモダ?」
「いいか?話すぞ」
シモダは一呼吸置いて、引き続き叫ぶように話す。
「オレとヨシダは付き合ってない!」
その発言に教室は静まり返った。
しかしシモダはおくせず続ける。
「なぜなら、オレは、男が好きじゃない。だから、、付き合うとかない!」
少しの沈黙のあとに、誰かが小さな声を出した。
「じゃあ、なんでいつもイチャイチャしてんの」
「それは、、」
シモダは意を決したように、また叫び始めた。
「オレは、、ヨシダが好きだなんだ!」
えっという反応が声はなくても教室に広がった。
「どういうこと?」という細やかな声が聞こえたのを弾くようにシモダは続けた。
「オレは、ぜんぜんホモじゃない!けど・・」
また呼吸をして
「オレはヨシダが好きだ!!大好きだ!悪いか!?お前ら!」
そのあまりの迫力に皆は圧倒されていた。
それは僕もだった。
しかし、沈黙を破ったものがいた。
「ヨシダはさ、どう思ってんの、シモダを」
という遠慮は無いけど、納得はできる質問ではあった。
僕は、素直に心のままに答えることにした。
「シモダくんと、付き合ってはない。けど、別にキラいとかは無い、です」
「そっか、よくわかんないけど、なんかわかったよ」
それも素直な反応だと思う。確かにその通りだ、と思ったのか収束ムードになってきた。
「まあ、仲良しってことだな」
という温かい一言も。
シモダはまだ力の入った様子で、どこかを見つめていた、かと思うと「ヨシダ、行くぞ」と僕を誘い出した。皆に見つからないようにそっと。
連れ出されたのは、あまり人のいない階段の踊り場だった。
「なんか、悪かったな」と背けた向きで話し出すシモダ。
「別に、大丈夫だよ」
「ああ、でもまあ、オレも気をつけるよ。あんま誤解されないようにしないとな」
それは僕があまりシモダへの反応が薄かったからかもしれない。もっと話を聞いてあげたりしないとなと気がついた。
「僕も、もっとシモダくんとちゃんと話さないと、と思った」
するとシモダは満面の笑みを浮かべた。
「よかった、うれしい。あ、我慢しないとな」
「え?」
「今また、抱きつきたくなっちゃった、人が見てなくても、良くないよな、我慢だ」
やっぱりリョウジみたいなことを言う。
「でもさ」
シモダは僕から離れて教室の方に向きを変えて話だした。
「もう、オマエに気軽に触ったりできないんだな、なんかな、ちょっとな、さみしい」
その顔は笑っているようで、悲しみも、どこかにあるような気がした。
シモダにはこんな思いばっかりさせているような気がする。申し訳なくて仕方ない。
「あ、気にすんな、ヨシダ、オレ戻るね」
僕の顔が曇ったのを悟ったのか、笑顔を見せるシモダ。
「じゃ、あ、そうだ」
「なに?」
少し恥ずかしそうにシモダがまた話す。
「さっきさ、オマエの手に書いた言葉わかった?」
「うん」
「言ってみて」
「・・・すき」
「ああ、そうだよ正解だよ」
「すき、ってオマエから聞けて嬉しい、じゃあな」
気のせいだろうか、笑うシモダの目から涙が出ているような気がした。
強い光が差し込む踊り場では、彼の表情を読み取ることは難しいけど。
でも、僕はそれだけのことをしてしまったんだ。だから僕はそう思ったんだ。
「すき」がこんなに重い言葉になるなんて。
僕はただただ光が眩しくて仕方なかった。そんな午後だった。
【BL】俺たち男だし、兄弟だし 泣水恋 @emica
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